何がトランプ圧勝をもたらしたのか?
トランプ氏の勝利は、アメリカの右傾化や排外主義の浸透などといった話ではなく、シンプルに大衆の間に満ちていた「格差への怒り」によって下された選択に過ぎない。その怒りを直視せず、高学歴都市住民のほうばかりを向いていたハリス氏と民主党は、(ある意味当然の結末として)米国民からそっぽを向かれたのだと、評論家の東浩紀(あずま・ひろき)氏は「週刊ポスト」の11月29日号に綴っています。
当たり前だが、多くのアメリカ国民はトランプ氏の言動に問題があることは(もちろん)理解している。だが、それでもハリス氏を選べないほど民主党は敬遠されたと氏は話しています。
トランプ氏に投票した人々を馬鹿にし、理解しようとすらしない自称「リベラル」たち。しかし、トランプ支持者らが「民主主義を壊してしまった」「騙されている」といった考えの下では、“なぜ民主党が嫌われたのか”という本来、向き合うべき問いが隠れてしまうというのが氏の指摘するところです。
そして、もしかしたらこれは、米民主党やカマラ・ハリス氏を支持した東海岸や西海岸のインテリばかりの話ではないかもしれません。11月16日の日本経済新聞のコラム「大機小機」に『大統領選で浮かんだ米国の闇』と題する一文が掲載されていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。
米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領に敗れた民主党のハリス副大統領は、「敗北の弁」で公民権運動の黒人指導者キング牧師の「暗闇が深いほど星は輝く」という言葉を引用したと、筆者はコラムの冒頭で指摘しています。
ハリス氏は、「多くの人が暗黒の時代に突入したと感じていることは知っている。もしそうだとしても、無数の輝く星で空を満たそう」と訴えたとのこと。しかし、(ハリス氏の)このスピーチを聞いて、筆者は「分かってないな」と感じた。だからハリス氏は、いや、民主党は敗れるべくして敗れたのだと納得したということです。
一体、どういうことなのか?
米国は近年、めざましい経済成長を謳歌してきた。新型コロナウイルス禍も乗り越え主要株価指数は最高値を更新し続けている。しかし、そうした経済的繁栄の光が輝きを増す一方、光が届かない所の闇は一層深くなっていたと筆者は言います。
トランプ氏が米大統領に返り咲くことで「暗黒の時代」が始まるのではない。すでに深い暗闇は存在している。成長から取り残された多くの人々は闇の中にずっと前から取り残されていたのであり、その闇の中で見つけた「星」がトランプ氏だったというのが筆者の指摘するところです。
今回の選挙では、所得が低くなればなるほど、前回と比べて民主党から共和党に投票先を切り替えた人が増えたと筆者は話しています。米国の成長と繁栄を主導しその恩恵にあずかってきたのは一部のエリートとビジネスの成功者だけで、その陰には大多数の「負け組」がいる。票の数では圧倒的に負け組の方が多いのだから、そちらにフォーカスした者が勝つのは自明だということです。
民主政治の「ど真ん中」を突いたトランプ氏のような人物が米国のリーダーに選ばれたことに、改めて世界は民主主義の盲点を突かれた気がしたのではないか。しかし、問題は「衆愚政治」でも「民主主義の機能不全」でもない。米国の経済格差とその帰結でしての分断だと筆者は厳しく断じています。
しかし、(敢えて言えば)低所得者の暮らしが厳しいのは民主党の失政のせいではなく、トランプ氏と共和党が改善できるわけでもない。結果、トランプ氏の虚勢はすぐに見破られるのではないかと筆者は予測しています。
早ければ2年後の中間選挙で失望は投票行動に表れ、共和党は多くの議席を失うだろう。しかし、それは決して民主党が信任を得るということではない。行き場のない不満は解消されないというのが筆者の見解です。
右から左へ、そしてまた左から右へ、振り子の針が振れるだけのこと。(それはそれで仕方のないことかもしれないが)その巨大な振れ幅に「世界」が翻弄される…これこそが真の問題だと話す筆者の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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