人類が文明というものを手にして以来、フロンティア拡大の歴史は経済規模の拡大の歴史そのものでした。古くは四大河文明からローマ帝国、モンゴル帝国、オスマン・トルコ、十字軍の遠征など、軍事力を背景とした様々な帝国による版図の拡大は、人々に文物の交流による経済的な豊かさをもたらしてきました。
そして15世紀に始まる大航海時代。スペインやポルトガルの船団がアジアや新大陸などへの新たな航路を切り開いて以降、ヨーロッパの経済圏は南北アメリカ大陸、アフリカ、インド、東アジアなどへと飛躍的に拡大していきます。
当初はこれらの地域へのいわゆる略奪経済が主流でしたが、後に東インド会社を中心とした通商貿易、いわゆる重商主義が進むこととなり、主役の座もオランダ、イギリスに移りました。
そして18世紀の後半、いち早く産業革命を果たし、自国の製品の市場を海外の植民地に求めたイギリスを筆頭に、工業化により生産力が増大した欧米諸国は武力による海外市場の獲得競争、いわゆる帝国主義の時代に一気に突き進んでいくことになります。
資本主義経済は、基本的に「投資」した資金を上回る売り上げを「利益」として「市場から回収する」…この繰り返しによって発展するという、拡大を宿命づけられた経済システムと言うことができます。このため、このシステムを効率的に回すためには、市場をいかにして獲得していくかということが非常に重要なファクターとなります。
資本主義国家とフロンティアは、このような切っても切れない関係の中でフロント・ラインを全世界に伸ばしてきました。
20世紀に入り、新大陸のフロンティアを使い切ったアメリカも次第にアジアに手を伸ばすようになりました。一方で、計画経済により経済循環を確保するという新しい経済システムを採用する国家も現れます。さらに市場を巡る各国の利害は各地で摩擦を生むこととなり、世界は二度にわたる大戦を経験するに至りました。
戦後、破壊し尽くされた西ヨーロッパは、自由主義社会各国の新たなフロンティアとなりました。一方東ヨーロッパは、ソビエト連邦を中心とした経済圏に新たに組み入れられ、社会主義経済の発展の土台となりました。
そして日本も、アメリカの庇護のもと、戦後復興と技術革新により急速な経済成長を遂げることができました。そしてアメリカは成長に必要な資金を各国に供給し、圧倒的な富と繁栄を手にしてきたと言えます。
しかし、地政学に見る限り、フロンティアは「有限」の資産です。人口の大幅な減少を控えた日本国内には、もうそういう意味でのフロンティアはありません。
東アジア諸国の台頭により、東南アジアやインドなどにおける競合も激化しています。ドイツは東ドイツを併合することにより何とか新たなフロンティアを獲得しましたが、現在はEUという枠組みの中でずいぶんを苦労しています。
そして中国。13億以上の人口を抱えるこの市場は、ここ20年に渡って世界経済を牽引してきました。しかし、昨今の急激な経済成長を反映して、フロンティアとしての地位を急速に失いつつあると言うことができるでしょう。
市場の争奪戦は、いよいよその激しさを増しています。世界からフロンティアが失われる…。私たちはそうした転換の時代に遭遇しているのかもしれません。
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