MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯487 日本の公務員は多すぎるのか

2016年03月02日 | 社会・経済


 国家公務員の給与と賞与を引き上げる改正給与法が1月20日の参院本会議で可決、成立したことで、国家公務員に準ずるとされる地方公務員も合わせ、公務員給与は平均0.36%引き上げられることになりました。

 今回の公務員給与の改定は昨年8月の人事院勧告を受けたもので、昨年4月にさかのぼって適用され、公務員それぞれに対し追加で引き上げ分が支給されることになります。

 しかし一方で、国の借金が800兆円近くに膨れ上がり、消費税を10%にしなければやっていけないような財政状況を考えれば、公務員の給料を上げるという政府の判断自体を理解できないという意見も多く聴かれます。

 参議院本会議にける採決で反対票を投じた「日本を元気にする会」代表の松田公太参院議員は、低所得高齢者への1人3万円の臨時給付金など選挙対策の不要不急なバラマキが行われている中での公務員給与の引き上げには、到底同意できないと自身のツイッターで政府を批判しています。

 現政権が決めた臨時給付金が「けしからん」からと言って、公務員給与の給料を上げるべきでないというのもやや理不尽な気がしますが、いずれにしても「数が多すぎる」「働かない」「給料が高すぎる」といった公務員批判は、常にメディアの格好の標的になりがちです。

 給料に見合った仕事をしている公務員ばかりとは言いませんが、特に経済や雇用の情勢が悪化した際に、いわゆる「バッシング」の対象として人々のストレスの捌け口になっている窓口職員などには、私も(ある意味)同情を禁じ得ません。

 一方で、自分の子供に就いてほしい職業のアンケート調査では、公務員は常に上位にランクされています。例えば、2014年にランドセル素材などを製造・販売するクラレが行った小・中学校新1年生の親を対象とした調査では、男女いずれも公務員がトップを独占しています。

 「親方日の丸」という言葉がありますが、日本における公務員は、そう言う意味では依然「安定」と「信用」を体現する存在として、国民の間でそれなりに認識されていると言えるのかもしれません。

 さて、このように様々な形で話題となる「公務員」ではありますが、そもそもの問題として我が国における公務員は多いのか、少ないのか。公務セクターの人件費は諸外国と比べて高いのか、それとも安いのか。今回は少しその辺を掘り下げてみたいと思います。

 ひと口に「公務員」と言っても、戦後の憲法改正などにより政府及び独立行政法人に属する「国家公務員」と地方公共団体に属する「地方公務員」は別の身分とされ、ぞれぞれ国家公務員法、地方公務員法などの関係法令の定めるところにより職務を遂行する者として位置づけられています。

 つまり、日本における「公務員」は法理上も「職業」や「職種」を厳密に指すような言葉ではなく、例えば「会社員」のような民間セクターの業務に従事する(一般の)国民とは異なる身分として、職務とは別に公の責務と権限に基づき定められている地位であると言うことができるでしょう。

 人事院の資料によると、平成25年度現在、公務員と呼ばれる身分を有する人の数は約340万8千人とされており、国家公務員が63万9千人で18.8%、地方公務員が276万9千人で81.2%を占めています。

 公務員と言えば、役所の事務机に張り付いて窓口業務や事務仕事をこなしている人を思い浮かべがちですが、一概に公務員と言っても(実態としては)様々な職種があるのも事実です。

 例えば約64万人の国家公務員の中には、約26万人の自衛官が含まれています。また、地方公務員の概ね4割(約102万人)は公立学校の教員であり、約1割(28万6千人)は警察官です。さらに、約6%(16万人)を占める消防職員、約13%(約36万人)を占める上下水道や公立病院などの公営企業従事者などを除くと、都道府県庁や市役所などでの事務を担う一般行政職員は地方公務員全体の約3分の1、概ね90万人に満たないことが判ります。(2015総務省調べ)

 一方、公務員の総数については、平成12年度の公表数値では国家公務員約113万人、地方公務員約322万人の計435万人とされていましたので、この10年余りの間に約50万人近く減少していることが判ります。

 このように公務員の絶対数が最近減少している背景には、いわゆる行政改革により定員削減が進んだことに加え、国立大学の法人化や日本郵政公社の民営化などにより公務員から民間の身分に移った者が相当数いることが挙げらます。

 こうした数字からざっと計算すると、日本の公務員数は人口1,000人あたり約30人で、先進主要国の中でも最低レベルにあることがわかります。

 人事院の調査(2015)によれば、人口1000人当たりの公的部門における職員の数は、フランスが88.7人、イギリスが74.8人、アメリカが66.5人、ドイツが59.1人となっており、同じ条件で算定した日本の36.4人という数字は、日本における公的業務に従事する職員の規模が人口に比して(極端に)小さいことを意味しています。

 また、日本の公的セクターにおける人件費は対GDP比にして6.3%(2011)とOECD参加国中で最も低く、OECD諸国の平均である11.0%の半分にも及んでいないことが特徴です。首位はデンマークの18.5%、次いでアイスランドの14.5%となっており、高福祉で知られるその他の北欧諸国も上位につけているということです。

 日本の公務員の数は何故少ないのか。東京大学准教授の前田健太郎氏は、第37回サントリー学芸賞を受賞した「市民を雇わない国」(東京大学出版会)においてその理由に触れています。

 氏によれば、実は1950年頃まで、日本の公務員数は世界的に見ても経済規模の割に多かったということです。しかし、経済の高度成長期を経る中その割合は1970年頃までに一転し、世界的に見ても公務員が少ない国になったとしています。

 氏はその原因を、公務員の給与が民間の給与水準に基づいて決まる「人事院勧告制度」に求めています。

 当時は官公労の力が強かったこともあり、高度成長により民間の給与水準が上がれば、勧告に従い政府は公務員の給与を上げざるを得なかったと氏は言います。しかし、財政的な制約から公務員人件費の総額の抑制を求められた政府は、その解決策として(ある意味)極端とも言える公務員数の抑制を選択せざるを得なかったのではないかという指摘です。

 そして、そうした手法の行き着いた先が、1969年に施行された行政機関の職員数を国会において法律で規定するという「総定員法」の成立だったのではないかと前田氏は説明しています。

 さて、近年の日本のジャーナリズムや国民世論においては、公務員の勤務条件の引き下げ、員数の削減、倫理意識及び服務規律の強化を求める意見が支配的であると言えるかもしれません。

 公務員による不祥事や不作為に起因する事件が発覚するたびメディアなどから厳しい追及の声が上がるのはいたしかたないとしても、公務員の人権や負担、待遇などに関する本格的に踏み込んだ議論は、国会などにおいても意外なほど行われて来ていません。

 公務員の数や待遇などに関しては(当然)一般の国民との公平感に基づく議論も必要ですが、一方で、公的サービスを担う公務員の質の確保も当然必要です。

 公務員をある種の特権を持った「記号」として感情的に捉えるばかりでなく、サービスを享受する納税者としてのメリットを基本に据えた冷静な態度も時には必要ではないかと、こうした数字から私も改めて考えさせられたところです。



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