近年、「子どもの貧困」の問題とともに、メディアなどでしばしば耳にするようになった「こども食堂」という言葉。貧困家庭や食事を一人で取らざるを得ない事情を持つ子どもが誰でも利用できるよう、地域住民のボランティアや自治体が中心となって無料、または安価で食事や団らんを提供する場を指しています。
名称は「こども食堂」としていても、最近では親や地域の人々など、誰でも利用できる食堂も増えているとのこと。「食堂」であると同時に、地域に開かれた住民相互のコミュニケーションの場としての役割を担っている場合も多いと聞きます。
認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が、全国の自治体や関連団体の協力を得て実施した2022年度の「子ども食堂全国箇所数調査」によれば、国内のこうした「子ども食堂」の数は、2021年より1349カ所増え7363カ所を数えるまでに増加。コロナ禍以降で最高の増加数となっているとされています。
「むすびえ」では、「子ども食堂が全国のどこにでもあり、みんなが安心して行ける場所となるよう環境を整える」ことをミッションとしており、そのためにも当面の目標として、2025年までに全国の小学校区(1万8851校)に対して1つ以上の子ども食堂がある状態を目指すということです。
そうした中、先日、テレビのバラエティ番組(「月曜から夜更かし」(日本テレビ))を見るともなく見ていて驚いたのは、「物価高に対抗するあなたの節約法」というインタビューにおいて、多くの若者たちが「食事を抜く」と答えていたこと。中には何日もまともな食事をしていないと答える(見た目ごく普通の)若者などもいて驚かされたところです。
大人たちは、「若いんだから、何を置いても飯は食うだろう」と考えがちですが、人間、本当にお金が無くなれば「まず飯を抜く」というのが手っ取り早い方法に感じるのかもしれません。
言われてみれば私自身も、貧乏学生として上京したてのころなどは、財布が軽くなる月末には(まともに)食事をとっていなかったような気がします。まあ、それでも「ひもじい」とか「つらい」とかはあまり感じなかったのは、「若さ」ゆえというものか。空腹といっても、慣れてしまえばそれまでのこと。実家にほとんど足が向かなかったのも、1人暮らしの自由さに(それに)勝るものがあったからかもしれません。
さて、そうはいっても、食事は命をつなぐためにはどうしても欠かせません。いくらお金がないからと言って、「節約」のために健康を害しては元も子もないというものです。
「飽食」と言われる現代日本に暮らす若者たちの、「食」の実態は果たしてどうなっているのか。2月15日の総合情報サイト「Newsweek (日本版)」に教育社会学者の舞田敏彦氏が「食事をしない若者が増えている、その深刻な背景」と題する論考を寄せていたので、参考までにその内容を小欄に残しておきたいと思います。
2月9日の日経新聞には、日本人のタンパク質の摂取量が1950年代と同水準になっていると記されている。2019年の1日の摂取量平均は70グラムほどにまで減少し、戦後初期の頃と同じくらい。国の推奨値は超えているものの、良好な健康状態を維持するのに必要な目標値には届いていないと氏はこの論考に綴っています。
物価高に見舞われている2023年現在では、たんぱく質の摂取量はもっと落ちているかもしれない。肉や魚は値上がりし、安価な米や麺類でお腹を満たす人が増えているのではないか。炭水化物の摂り過ぎは肥満につながるので、栄養の偏りによる健康不良も懸念されるというのが氏の見解です。
偏食を通り越して欠食、すなわち食事をしないという人もいる。2011年の総務省『社会生活基本調査』によると、調査対象の平日に食事をした国民(15歳以上)の割合は99.4%。裏返すと、0.6%の人は1日中何も食べなかったことになる。この数値は2016年では0.7%、2021年では1.8%と上がってきていて、コロナ禍の下、近年の伸び幅は広がりつつあるということです。
中でも、1日1度も食事をしない人の割合は、若年層ほど高いと氏は話しています。お金がなかったり、減量志向が強かったりするからだろうか。15~24歳を見ると、2016年の0.6%から2021年の4.0%まで跳ね上がっていて、25人に1人が「1日ゼロ食」というのは衝撃的なデータだということです。
ここで、コロナ禍の影響を推測するのは容易いこと。国民全体に生活困窮が広がっているが、とりわけ若年層では1日ゼロ食の者が無視できない数字になってきていると氏は改めて指摘しています。
最近、風呂なしの物件が若者の間で人気と聞くが、シンプル志向の強まりといった肯定的なトーンで語るべきではない。貧困化により生活の基盤の「住」や、生きるための「食」をも切り詰めなければならない。まぎれもない社会問題だというのが氏の認識です。
1日ゼロ食はさすがにレアケースだとしても、1日2食ないしは1食となると、パーセンテージはぐっと上がるはずだと氏は言います。実際、(2021年現在のデータでは)25~34歳の約4割が朝食を食べておらず、45歳未満でも3割ほどが昼食を抜いていることが明らかにされているということです。
在宅勤務が多くなっているためかもしれないが、節約のために昼食を抜いて1日2食にする人が増えていることも考えられる。節約で多くの人がまず真っ先に切り詰めるのは食費だろうと氏はしています。
物価高の影響で、生きるための根幹の「食」を疎かにする(せざるを得ない)人が増えている。これは貧困化の問題で、政策による解決が望まれる。「食」は健康に生きるために欠かせないもので、この部分を公的に保障しないと、最終的には「医療費の増加」や「困窮型の犯罪の増加」となって社会に跳ね返ってくるというのが氏の懸念するところです。
「生命」や「生活」を維持していくために、余りにも基本的なことであるだけに、「食事」「ねぐら」の確保は政治にとっておろそかにされがちです。普通に暮らす人々のために電気代やガス代に(莫大な額の)国の補助が入るようになっているが、「住」や「食」への支援の強化についても、もはや喫緊の課題となっていると考えるこの論考における舞田氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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