
新型コロナウイルスの影響で売上高が半減した中小企業等に最大200万円を支給するという政府肝いりの持続化給付金事業について、(全ての業務を民間に委託するという)事業の執行方法にミソが付いています。
経済産業省は、競争入札によって「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」への業務委託(769億円)を決めました。すると、当のサービスデザイン推進協議会は大手広告代理店の電通にこれを749億円で再委託。これが、国会において(いわゆる)「ピンハネ」ではないかとして問題になりました。
野党やメディアが調査を進めていく過程で、電通がその事業を子会社5社に再々委託し、さらにこれらの子会社が作業を人材派遣会社のパソナやコールセンター業務大手のトランス・コスモス、大日本印刷などに外注していたことも判明。700億円という事業規模とも相まった)大がかりな利権構造の様相に、追及の声が上がっています。
今回、一般競争入札により事業を受注したサービスデザイン推進協議会は、中小企業庁の補助金交付事業を受注するため2016年に前述の電通とパソナ、トランス・コスモスの3社によって設立された、職員数は役員を含め14人という(ある意味、事業者としては「実体」のない)寄せ集めの団体だとされています。
国会審議における「丸投げ」の指摘に対し、経済産業省は差額の20億円について、約150万件分の給付金の振込手数料や事業管理に充てられると説明していますが、その積算額や最終的に法人が得る利益(一般管理費)等については明らかにされていません。
さらに6月18日の週刊文春は、持続化給付金事業を所管している中小企業庁長官の前田泰宏中氏が、同協議会を実質的に取り仕切っていた平川健司業務執行理事とともにアメリカ・テキサス州へ視察旅行を行っていたと報じています。
今回、サービスデザイン推進協議会から事業を請けた電通は、取材等に対し(責任をもって)「統合的な管理・運営」を行うとしているようですが、世間一般の常識的として考えれば
① 経済産業省はこの給付事業をなぜ丸々民間に委託するのか
② 「サービスデザイン推進協議会」という小さな法人が、なぜ700億円余りの巨額な事業を受注できたのか、
③ 経産省と電通、電通と孫請け企業との関係はどうなのか、
などの疑問は拭いきれません。
政府から企業へ給付するという作業をなぜ民間企業に(相当の)お金を払ってやってもらわなければならないのか、不思議さを覚える人も多いことでしょう。
6月15日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」では、(霞が関では普通に見られる)こうした事情に詳しい元経産省職員の高辻成彦氏(いちよし経済研究所シニアアナリスト)が「霞が関が"丸投げ委託"を続ける根本原因」と題するレポートを掲載しているので、その内容を整理しておきたいと思います。
そもそも、国から交付金が支給されると聞けば、私たちの多くが(一人10万円の特別定額給付金のように)「市役所などに申請に行く」姿を思い浮かべることと思います。しかし、今回問題となった「持続化給付金事務事業」は何故、民間への委託事業の形をとったのか。
高辻氏はこのレポートで、国が資金を配るための事業手法には、大きく分けて①直轄事業、②独立行政法人が実施、③地方自治体が実施、④補助金事業、⑤委託事業の5つのやり方があると説明しています。
第1は、国が直轄で事業を扱うケース。持続化給付金事務事業であれば、中小企業庁が直接受付を行うか、各地域の地方経済産業局が取りまとめて行う方法です。
しかし、この手法については、日本全国の売上減少の中小企業が対象になり得るという対象の広さを考えれば、人員上の制約からとても経産省内部の人員では捌ききれないというのが氏の見解です。
第2は、省庁の外郭団体である独立行政法人が実施するケースです。持続化給付金の場合は「中小企業基盤整備機構」あたりが行うやり方だと氏はいます。
しかし、中小企業経営力強化支援ファンドの立ち上げなど、中小企業基盤整備機構自身が新型コロナウイルス対策の本務として扱わなければならない事務も多く、業務を受けることが難しかったのではないかということです。
第3は、地方自治体が国の事業を実施するケース。国が本来、行うべき事務を地方自治体に任せるやり方で、例えば、市区町村の商工担当課が担っている制度融資の認定事務などがこれに当たるということです。
しかし今回の場合、市区町村では制度融資の認定事務などに加え、定額給付金の支給作業が新たに加わったため、持続化給付金事務事業を依頼することは不可能だったと氏は見ています。
そして第4は、(ちょっと解りにくいのですが)補助金事業というもの。これは、例えば都道府県や地方自治体が補助事業を行った場合に、国が重ねて補助する(または財源の一部を負担する)というやり方です。
しかし、今回はそもそも支給対象者である中小企業に補助すべき事業が存在しないので、制度としてそぐわないというのが氏の認識です。
こうして、以上の4つの手法を候補から落としていくと、持続化給付金の実務に迫られた経産省に残された選択肢は、第5の「委託事業」しかなかったはずだというのが氏の指摘するところです。
委託事業のであれば、委託先となる企業などと契約を結べば良いだけ。めんどうなルール作りや作業は受託企業がやってくれるので、経済産業省の負担は軽くなります。
契約先を決める方法としては「入札」による方式と「随意契約」とする方式とがあるのですが、今回の場合は(金額が金額なだけに)随意契約は特定の先と契約できることから批判の的になりやすいため入札方式を選んだのだろうと氏はしています。
しかし、それでも批判を浴びているのは、委託金額769億円という金額の大きさと、その後の電通への再委託が749億円と直接の受託先が行う事務がほとんどない(つまり「丸投げ」に見える)ことにあるのは報道されているとおりです。
結局のところその原因は、受注した「サービスデザイン推進協議会」なる存在の(庶民には判らない何となく胡散臭い)不透明さへの不信感と、経産省の認識の甘さにあるのは(多分)間違いありません。
入札に際して再委託に関する制約を設けず、その一方で、経済産業省側に大きな裁量があったことが(「出来レース」だったのでは…と非難される)この問題の背景にあると指摘するこのレポートにおける高辻氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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