MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1650 「丸投げ」批判はなぜ起こる?(その2)

2020年06月18日 | 社会・経済


 新型コロナウイルスの影響で売上高が半減した中小企業等に最大200万円を支給する経済産業省の「持続化給付金事業」について、競争入札によって769億円でこの事務を受託した「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」が、大手広告代理店の電通にこれを749億円で再委託したことが問題になっています。

 そもそもこの事業を受注したサービスデザイン推進協議会は、中小企業庁の補助金交付事業を受注するため2016年に電通などの出資によって設立された社団法人です。

 野党やメディアは、(たとえ競争入札とは言え)発注者と関係の深い団体が受注していることや、さらに業務が(そのまま)電通に再委託されていることなどを問題視し 「丸投げ」「ピンハネ」との批判を強めています。

 実際、同協議会の「下請け」となった電通は業務をいくつかに分割し、子会社に5社に丸ごと「孫請け」させていることが分かっています。さらに、再委託された電通の子会社は、(電通とともにサービスデザイン推進協議会を構成している)人材派遣会社やコンサルタントなどに「ひ孫請け」させているという複雑さも見えてきました。

 もとより、誰と何をどうやっているのかが判りにくいのが経済産業省の常ですが、それにしても700億円を超える多額の給付金を扱うのであれば(タックスペイヤーに向けて)それなりの透明性が求められるのは言うまでもありません。

 なぜこのようなややこしい事態が生まれているのか。元経産省職員の高辻成彦氏(いちよし経済研究所シニアアナリスト)が6月15日の「PRESIDENT Online」に、「霞が関が"丸投げ委託"を続ける根本原因」と題するレポートを寄せているので引き続き追ってみたいと思います。

 氏は、このレポートに、経済産業省には「サービスデザイン推進協議会」の実績作りが必要だった可能性があると記しています。

 委託事業の場合、単年度で事業が終わってしまう。その年度に委託事業があったとしても翌年度に同じ事業が実施されるかどうかがはっきりしない中、委託先として協議会を起ち上げた以上、協議会自体を持続化させる必要があるということです。

 2016年の設立時にどんないきさつがあったのかは定かではありませんが、(少なくとも)歴史の浅いサービスデザイン推進協議会が経済産業省の事業を立て続けに受託してきた背景に、経済産業省側の何らかの意図が働いていた可能性は容易に想像できると氏は言います。

 安倍政権の新型コロナウイルス対策の目玉政策として経済産業省から景気対策を打ち出すとすれば、過去最大級の超大型新規事業として打ち出す必要があり、現実問題としてそうした規模の事務を請け負える企業は極めて限られているという実態もあったでしょう。

 さて(それはそれとして)、こうした疑念を持たれるような不透明な委託事業をなくし、国民に理解を得られるようにするためにはどうしたらよいか。

 経済産業省はすでに「外部有識者による検査実施」を打ち出し透明性をアピールしています。しかし、サービスデザイン推進協議会の業務執行理事と中小企業庁長官の関係性が週刊文春で報じられている現在、これだけでは国民の疑念を晴らすのは難しいだろうと高辻氏はこのレポートで指摘しています。

 最大の問題は、国における委託事業の取り扱いに全く制限がかかっていないところにある。そこにメスを入れなければ、この問題は再び繰り返されることになるだろうということです。

 委託事業の問題は、持続化給付金事務事業だけでの問題ではなく、経済産業省だけの問題でもないというのがこのレポートにおける高辻氏の見解です。

 国全体で再委託制限の統一ルールを設け資金使途をある程度は制限できるようにすること。さらに、委託事業のこまめな報告制度の導入なども必要だろうと高辻氏は言います。

 さらに、入札で受注者を決める場合でも、基準は示されても「どこを採択するか」は行政上層部の意向が働きやすい。そう考えれば、特定の上層部の恣意的判断を避けるため、外部の有識者による審査会制度を義務化することなども、恣意的な判断を避けるために必要な措置だということです。

 折しも6月16日の共同通信は、マイナンバーカードを使った「ポイント還元事業」を巡り、総務省から事務を受託した(電通やトランス・コスモスなど、「サービスデザイン推進協議会」のメンバー企業も名を連ねる)「一般社団法人環境共創イニシアチブ」が業務の大半を電通に再委託していたことが分かったと報じています。

 ポイント還元事業は、マイナンバーカードとキャッシュレス決済の普及促進を目的に、今年9月から来年3月にかけて最大2万円までの決済利用や入金につき25%に当たる5千円分の「マイナポイント」を付与するというものです。

 総務省は「再委託も含め、事業の実施体制に問題はない」としていますが、約140億円の事業規模が予想される同事業の発注にあたり、昨年12月の公募に応じたのは「環境共創イニシアチブ」だけだったということです。

 政府主導の下、全国規模でのこれまでにない規模の財政投入を伴うコロナ対策が今後も続くと考えられます。

 納税者の間に同じ疑念が生まれぬよう、大規模事務委託事業の透明性をいかに確保していくかが、これからの大きな課題になってくるだろうと、私も氏のレポートから改めて感じたところです。
 


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