MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2178 見直される遺族年金

2022年06月11日 | 社会・経済

 「遺族年金」は、一家の働き手や年金を受け取っている人などが事故や病気などで亡くなった場合に、その人の収入によって生計を維持していた家族に給付される年金をまとめて指す言葉です。亡くなられた人の年金の加入状況(国民年金か厚生年金か)などによって、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」のいずれか、または両方の年金が給付され、(多くの場合)一家の大黒柱を失った遺族の生活を支えています。

 国民年金加入者の遺族が対象となる遺族基礎年金は、死亡した人の収入で生計を維持していた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができます。因みにその金額は、妻(もしくは夫)と子供が二人の場合、777,800円+子の加算額223,800円×2人=1,225,400円。1年間で120万円ちょっとでは、これだけで生活をしていくのはなかなか難しい支給水準と言えるでしょう。

 一方、遺族厚生年金は、同じく死亡した人の収入で生計を維持していた「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」または「祖父母」などが(子どもが遺族にいなくても)受け取ることができる年金です。 

 こちらの計算はちょっと複雑なので割愛しますが、報酬比例部分だけで平均標準報酬月額が50万円の場合で年額約61万円、60万円の場合で年額約74万円。そこに基礎年金相当額と(残された妻には)寡婦加算額583,400円などが加わり、200万円を超える年金が支給されるケースなども多いようです。

 遺族年金は、もともと「寡婦(夫と死別した未亡人)」を救済する制度だったこともあり基本的に全額非課税で、年金制度の中では特別有利な扱いを受けている制度の一つです。

 加えて、受給者が自身の老齢年金を受け取れる年齢になっても、有利な方の年金を選択することができるため、夫を亡くした高齢の女性が高額の年金を受給し続けているという状況も見受けられることから、これを不公と指摘する向きもあるようです。

 さらに言えば、遺族年金に関しては男女間での取り扱いの違いが大きく、これを「時代に合わない制度」と批判する声も聴きます。夫は妻が死亡しても遺族基礎年金の対象外であり、稼ぎのよい妻が亡くなり困る夫も救済されることはありません。

 遺族厚生年金では、(たとえ共働きであっても)ほとんどの妻(未亡人)が受給対象となるのに対し、55歳未満の夫は生計維持要件を満たしていても支給の対象とはならず、55歳になっても年金を受け取れるのは60歳から。それも年収要件を満たす場合に限られるという厳しさです。

 普段はあまり知られることのないこうした遺族年金の男女間の取り扱いの違いについて、改正に向け厚生労働省が(ようやく)その重い腰を上げたとの報道が5月9日の時事通信にありました、

 厚生年金加入者の遺族が受け取る「遺族厚生年金」について、厚生労働省は今夏から受給要件の見直しに向けた検討を開始することとなったと記事は記しています。

 現行制度では、配偶者が死亡した際の受給対象年齢を妻で30歳以上、夫で55歳以上と規定しているが、共働き世帯が増える中、男女間の要件の差を解消する方向で議論する。2024年末までに新たな基準をまとめた上で、2025年中の関連法改正を目指すということです。

 現状の遺族年金制度は遺族基礎年金と遺族厚生年金で構成され、男女別に加え、18歳未満の子どもの有無に応じて仕組みが異なっている。遺族厚生年金の場合、夫を亡くした妻が30歳以上だった場合は生涯支給される上、40歳からは特別加算もある。しかし、妻を亡くした夫の場合は55歳未満の場合は対象とはならず、55歳以上で死別した場合でも60歳に達するまでは支給されないと記事は説明しています。

 現行制度は男性が家計の担い手だった1960年代に制定されたもの。男性が大黒柱として家計を支え、女性は専業主婦として夫に依存している状況を前提としたものだったということです。

 しかし、その後、社会の様子は大きく変化している。全体の約7割が共働き世帯となり女性が主な稼ぎ手になるケースも出ていることから、見直しを求める声が上がっていたと記事はしています。今後の議論では、18歳未満の子どもがいる場合は子どもに遺族厚生年金が支給されているため、子どもがいない世帯が議論の対象となる見通しだということです。

 記事によれば、さらに有識者の中には、「妻側の生涯支給を見直し、期間を限定すべきだ」との意見もあり、妻側の支給要件が議論される可能性もあるようです。

 人生100年時代と言われて久しい昨今ですが、実際、20~40代の日本人のうち90歳まで生きている割合は、男性で約4割、女性では約7割とされています。また、女性の約20%、5人に1人は100歳まで生きる可能性が高ということです。

 そうした中、平等で持続可能な社会保障制度の見直しは、時代の要請ということなのでしょう。特に年金制度に関しては、多くの日本人の(これから先の)人生設計にかかわることだけに、この際、クールで幅広な議論をお願いしたいと改めて感じているところです。

 



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