MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2179 地球温暖化と食料生産

2022年06月12日 | 環境

 「人類のほぼ半数が危険水域で暮らしており、多くの生態系は後戻りできないところへ来ている」…国連のグテレス事務総長は今年の3月末、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が新たな報告書を公表した際の声明で、世界が迎えている危機的な現状をこう訴えたとされています。

 世界各国は現在、2015年の「国連気候変動枠組条約締約国会議」(いわゆるCOP)で合意された「パリ協定」に基づき、平均気温の上昇幅を産業革命前に比べ1.5度未満に抑えるための努力を続けてきました。しかし、この報告書では「地球温暖化は短期のうちに1.5度に達しつつある」との認識を示し、温室効果ガスのさらなる削減努力の必要性を求めています。

 報告書は、現在、世界の33億~36億人が気候変動による影響に対応しきれず、高温や水害に見舞われやすい状況にあると説明。動植物についても数万種のうち最大14%が非常に高い絶滅リスクに直面していると指摘しています。農業をはじめ食料生産への打撃も大きく、豪雨や干ばつなどの異常気象によって生産効率が低下し、アジアやアフリカ、中南米を中心に数百万人が深刻な食料不足に苦しみ、最大30億人が慢性的な水不足に見舞われているということです。

 気候変動を巡るこうした状況を踏まえ、地球温暖化が農業生産にもたらす影響に関し、4月7日の日本経済新聞の連載コラム「やさしい経済学」に早稲田大学准教授の下川哲氏が「気候変動で地域格差が拡大」と題する論考を掲載しているので、参考までに概要を紹介しておきたいと思います

 食料生産は自然条件に大きく左右される。そこで気になるのは、近年なにかと話題になる気候変動の食料生産への影響だろうと、下川氏はこの論考に記しています。

 もちろん、そのような影響を考える際には、気候の変動だけではなく経済学的な視点も重要になる。また、単純な「気候の変動」だけでなく、地球温暖化に起因する降水量の変化や海水温の上昇、自然災害の増加なども含む大きな環境の変化を考える必要があるということです。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)という国際的な機関の予測によると、平均2度までの気温上昇なら食料生産への影響は限定的で、むしろ気温上昇によって収穫量は増えると氏は解説しています。

 しかし、気温上昇が平均2度を超えると、異常気象や病害虫などによるマイナスの影響が大きくなり、収穫量が減り始める。そして、平均で3度を超える上昇となると、利用可能な水も不足し始め、収穫量がさらに減少するということです。

 地球規模の長期予測に基づけば、結果として、2100年までには、世界の大半の地域が、気候変動の影響によって食料の収穫量が減少するというリスクを抱えることになる。しかし、そのリスクの度合いには、(想像以上に)地域差が大きいというのが氏の見解です。

 その要因は、気候変動に地理的な地域差があるのに加え、地域によって実行される気候変動対策に差が出るため。「影響の地域差」に「対策の地域差」が加わり、気候変動リスクの地域差がより大きくなる懸念があると氏は指摘しています。

 それは、実際どういうことなのか。先進国など経済的に豊かで技術力のある国や地域は、気候変動に適応した農業技術開発やインフラ整備などの対策ができ、リスクを最小限に抑えることができると氏は言います。しかしその一方で、途上国など経済的な余力や技術力がない国や地域は自力で対策をとることが難しく、気候変動による負の影響を無防備な状態で受けることになるということです。

 つまり、気候変動によって、食料を輸出するような先進国と、食料不足に苦しむ途上国の格差は、今後さらに拡大していく可能性があるということ。環境の変化、時代の変化によって傷つくのは、常に弱い立場にある人たちだということでしょう。

 いずれにしても、気候変動がもたらす生産量の変化や偏りは、国際的な食料の取引量が増加する可能性を示唆している。途上国にとっては、(地球温暖化によって)国際食料市場の重要性が一段と高まることが考えられると、氏はこの論考の結びに記しています。

 国民の生命と生活を維持していくための食糧を確保することが、途上国にとってさらに最優先の課題となる。次の時代にはそんな厳しい状況が訪れようとしているのかと、氏の論考を読んで私も改めて考えさせられたところです。



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