MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2060 今こそ地域の診療所の力を示すとき

2022年01月09日 | 社会・経済


 1月8日、国内では新たに8480人の新型コロナウイルス感染者が確認されました。1日当たりの新規感染者が8000人を上回るのは昨年の9月11日以来で、10000人の大台もはっきりと見えてきている状況です。新規感染者は東京で1224人と千人を超え、大阪でも891人、愛知では398人、神奈川、埼玉でも300人を超えています。東京の新規感染者数は前週土曜日から1週間で約15倍に達しており、新しく置き換わったオミクロン株の感染力の強さが判ります。

 昨年夏から秋にかけての第5波において、崩壊の危機の晒された日本の医療体制ですが、(想定にたがわず)およそ4か月間の猶予期間を経て訪れた新たな局面に私たちはどのように対応していくのか。1月7日の日本経済新聞(online版)に同紙編集委員の柳瀬和央(やなせ・かずお)氏が、「医療の耐久力、診療所が左右 コロナ第6波へ備え急務」と題する興味深い論考を寄せています。

 感染第6波の到来がほぼ確実になった日本の新型コロナ感染症。急激な感染拡大が進む状況を目の当たりにして、デルタ型よりも感染力が強い変異ウイルスのオミクロン型に果たして医療体制は持ちこたえることができるのかと、氏はこの論考で強い懸念を表しています。軽症者が大半という海外の傾向が日本にも当てはまるなら、医療が機能不全に陥るのを防ぐためにより重要なカギは、入院患者を受け入れる病院よりも、住民に身近な診療所が握っているというのが、この論考における氏の認識です。

 年の瀬の昨年12月28日、後藤茂之厚生労働相は日本医師会、日本薬剤師会、日本看護協会の各代表と会談し、オミクロン型の感染拡大にえた協力を要請した。氏によれば、そこで政府が訴えたのは、従来のような入院病床の確保ではなく、健康観察、往診、オンライン診療、訪問看護、薬の提供といった自宅療養者をケアする体制づくりへの協力だったということです。

 第5波到来時に自治体の運営する保健所が新規患者の対応に言われ機能不全に陥った反省から、厚労省は特に患者を最初に診断・検査した医療機関に対し、検査で終わらせず、陽性が判明して自宅療養する患者を引き続き診療・健康観察するよう求めた。第5波において、地域医療を担う一部の診療所が(自治体と連携して)自宅療養者への往診で奮闘したものの、大半の診療所は往診に参加することはなかった。発熱患者を診断・検査した多くの診療所が、(陽性判定が出た後は)新型コロナが指定感染症であるという建前から患者を保健所任せにしていたということです。

 厚労相が新年を待たずに日医会長らに自宅療養者のケアを強く訴えた背景には、こうした患者放置の事態が再び起きることへの強い危機感があるのは間違いありません。欧米でのオミクロン型の感染拡大ぶりを考えれば、日本の自宅療養者数も第5波をはるかに上回る可能性があるからだと、氏はこの論考で指摘しています。

 厚労省は第6波への備えとして、入院患者の受け入れ能力を第5波当時の1.3倍にあたる3.7万人分に高める計画を進めてきており、実際に多くの大病院、中規模病院がその要請に応える準備を進めている。しかし、オミクロン型の感染力はその想定を凌ぐ恐れがあり、実際、仮に重症化率が低くても分母となる感染者が第5波をはるかに上回れば、病床が不足する可能性は十分にあるというのが氏の見解です。

 政府の計画では「2倍」を超える強力な感染力をもったウイルスが現れて医療が逼迫した場合には、(1)強い行動制限を機動的に国民に求める(2)通常医療を制限し、緊急的な病床等を確保するための具体的な措置を講じる…こととしている。実際、オミクロン型の拡大でこのような局面に入ることが現実味を帯びつつあるが、「緊急的な病床」を確保するための準備が現実に進んでいるようには見えないと氏はしています。

 中等症や重症のコロナ患者に対応できる医師や看護師が限られる中でさらに病床を増やすには、最小限の医療人材で多くの患者に対応する大規模な臨時医療施設をつくるのが効果的なはず。ところが喉元過ぎれば何とやら、第5波が下火になって以降、こうした動きはほとんど止まってしまっているということです。

 そんな中、無症状者も軽症者も、誰彼構わず入院させていては臨床現場が持ちようはずがない。病床がパンクする限界点は、自宅療養の軽症者を地域の診療所がどれだけ受け止めるかによっても変わりうると氏は言います。自宅療養者が再び放置される事態になれば、容体が悪化して中等症・重症になる患者が増え、病床逼迫に一段と拍車がかかることになる。逆に診療所が自宅療養者をきちんとケアできる体制ができれば、(今後は飲み薬という武器もあるだけに)重症化する患者を減らし、入院をなるべく抑える道がみえてくるかもしれないというのが氏の見解です。

 (重症化率が低いとされる)オミクロン型の拡大で、コロナとの闘いの戦線は、急性期病院から身近な診療所へと本格的に広がる可能性が高いと氏は話しています。新型コロナの症例も増え治療や対策のノウハウの蓄積が進む中、いよいよ、地域医療を支える市井のお使者さんたちの出番がやってきたということでしょう。

 地域の医療機関や医師会の先生たちには、爆発的感染拡大(いわゆるパンデミック)を前提に、一致協力して準備を進めてほしい。今こそ、開業医を束ねる各地の医師会がリーダーシップを発揮し、地域の医療従事者による総力戦を展開できるかどうかが問われる局面だとこの論考を結ぶ柳瀬氏の指摘を、私も期待をもって受け止めたところです。


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