人事コンサルティングのパーソル総合研究所が2019年に行った「APAC就業実態・成長意識調査」によると、アジア太平洋地域(APAC)の14カ国・地域の中で、「管理職になりたいと感じる」と答えた割合は日本がダントツで最下位だったとのこと。1位のインドは86.2%、7位のマレーシアでは69.0%、13位のニュージーランドでも41.2%という中、日本は僅かに21.4%と聞けば、いくら奥ゆかしい日本の控えめなZ世代とはいえ余りの欲のなさにおどろかされるばかりです。
一般雇用者の「働き方改革」が進み、「管理職は罰ゲーム」という話もしばしば耳にする昨今、一人のプレーヤーから見れば、組織のマネージメントほど面倒くさそうに見える仕事はないのでしょう。
職場で(下手に)目立って中間管理職に抜擢されても、給料はそんなに上がるわけではありません。「管理職」としての責任が増すばかりで、さらには「プレイングマネージャー」などとおだてられ組織としての成果も期待されるとあっては、昇進を避けたくなる気持ちもわからないではありません。
それにしても、なぜ若い世代は管理職への昇進を拒むのか?…最近しばしば指摘されるこうした疑問に応える形で、6月11日の経済情報サイト「東洋経済ONLINE」が、作家で経営コンサルタントの横山信弘氏近著『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』の一部を紹介していたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。(「部長、どうか私を管理職にしないでください。 出世したくない会社員が激増する3つの理由」2024.6.11)
2022年10月に実施された調査(ビズヒッツ)で、管理職になりたくない理由として最も多く挙げられたのが「責任が重い」というもの。「仕事・残業が増える」「割に合わないと感じる」「残業代が出ない」「人間関係で悩みそう」といった理由が、(男女ともに)上位に並んだと横山氏はこの著書に綴っています。
つまり、簡単に言うと管理職は「割に合わない」ということ。出世すると負担が増える。負担が増える割には給料も増えないし、やりがいも減る。それなら今のままのほうがいい、という考え方だということです。
同調査によれば、昇進を打診されたら「断る」と答えた人は60%以上に達し、「条件次第では引き受ける」の18.8%を大きく上回っている由。衝撃的としか言いようがないと横山氏は話しています。
さて、前述したとおり、「割に合わない」ことが出世を断る大きな理由であるとすれば、若者たちはなぜそのように「割に合わない」と受け止めるようになったのでしょうか?
ここで我が身を振り返れば、私などが若手としてこき使われていた時代。課長や部長といったオジサンたちは、朝はゆっくり出勤して新聞などを広げ、総務の女性社員とゴルフの話などに興じている(ある意味毒にも薬にもならない)存在でした。年を取って管理職になれば(ああやって)日がなゆったりできるのかと思えば、今頑張るのも悪くないと思ったりしたものです。
翻って今の管理職を見れば、残業代も出ないのにやたら働かされるうえ、目標の管理をうるさく言われる一方で(出来の悪い)部下の面倒も見なければならない。これでは、「割に合わない(→なりたくない)」と思うのも当然かもしれません。
一方、この著書において横山氏は、そもそも管理者(以下「マネジャー」で統一)の役割についての理解が不足していることが(若者に「割に合わない」と思わせる)一番の原因ではないかと指摘しています。
多くの企業においてマネジャーの定義は曖昧のまま。具体的な職務内容が明確にされていないことが多い。このため、上司や部下、本人に至るまで様々な誤解が生じているということです。
具体的に、企業におけるマネジメントとは一体何をすることなのか? それは、目標を達成させるためにリソースを効果効率的に配分することであり、それこそがマネジメントの基本だと氏は話しています。
単なるマネジメントに「組織」や「部下育成」は含まれない。セルフマネジメント(自己管理)、タイムマネジメント(時間管理)、リソースマネジメント(資源管理)、プロダクションマネジメント(生産管理)、ヘルスマネジメント(体調管理)…ほとんどのマネジメントは個人でできるし、新入社員にも求められるもの。ここはとても重要なので繰り返すが、マネジメントは「リソースを効果効率的に配分すること」で、課長や部長だけの仕事ではないというのが氏の強調するところです。
マネジメントは組織メンバー全員がやるべきこと。つまり、こうだ。なぜ出世すると負担が増えると思い込むのかと言えば、本人だけでなく、メンバーも全員がマネジャーの仕事を拡大解釈しているからだというのが氏の見解です。やらなくてもいい仕事まで背負い込み、自分の本来やるべきことができなくなる→結果、多くの人が「割に合わない」」と思い込んでしまうということです。
では、(組織として)どう対応したらよいのか? 氏は、問題解決のために意識すべきこととして、以下①から③までの3つを挙げています。
- マネジャーの定義をハッキリさせること
- 部下育成の責任範囲を明確にすること
- 若者へしっかり啓蒙すること
特に①のマネジャーの定義をハッキリさせることに関し、メンバーシップ型雇用が馴染んだ日本企業は、(これまで)下位マネジャーにいろいろな仕事を押し付ける傾向が強かったと厳しく指摘しています。
たとえば部下というリソースに不足分があるのは、果たしてマネジャーの責任と言えるのか。本人の責任かもしれないし、採用部門の責任かもしれない。こうした部分についてマネジャー職の役割を定義して周知徹底させたことにより、マネジャー以外のメンバーの意識が劇的に変化した企業の例などもあるということです。
何でもかんでもマネジャーの仕事ではないし、職人仕事ならともかく、そうでなければ自分自身で勉強して成長するのは基本中の基本。責任範囲をしっかりと明確にすることで、マネジャーの心の負担は確実に軽減されると氏は言います。
そのためには、まずは若者たちに、しっかりと当事者意識を持たせること。このような啓蒙は個々のマネジャーに任せるのではなく、必要に応じ外部の専門講師などに頼んで定期的に啓蒙するべきだということです。
「子離れ」が必要な親と同じように、マネジャーも「部下離れ」が必要だと横山氏はこの論考の最後に記しています。決して、「私がいないと、部下は何もできない」などと思い込まないこと。背負い込めば背負い込むほど、次世代のマネジャーのなり手がいなくなると話す氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます