MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2059 小選挙区と比例代表

2022年01月08日 | 国際・政治


 日本の衆議院議員選挙は、有権者は小選挙区選(定数289)と比例選(定数176)にそれぞれ1票を投じる「小選挙区比例代表並立制」が採用されています。中でも、政党を選ぶ比例選では、全国11ブロックに分け、それぞれのブロック(定数6~28)ごとに各党の得票数を集計し、各党が作成した候補者名簿に従って「ドント式」と呼ばれる方法で議席が配分されていきます。

 もちろん名簿登載順位は各党の裁量で決められるので、候補者調整で選挙区から出馬ができなかった人を名簿上位で処遇することが多いようです。また、多くの小選挙区候補者は小選挙区で落選した際の安全弁として、比例選にも重複立候補し名簿に(同じ順位で)並べて登載されるケースが増えています。この場合、選挙区で敗退した候補者のうち、惜敗率(当選者との票数の差の割合)が高い順から復活当選することになります。

 一方、重複立候補の候補者が名簿上位に登載されたような場合、選挙区で惨敗しても比例復活できることがあるほか、選挙区で10万票以上の得票を集めても比例復活できない候補がいるなど、不公平感が指摘されているところでもあります。素人ではなかなかわかりにくい選挙のこうしたテクニカルな問題について、12月18日本経済新聞のコラム「風見鶏」に、「もうひとつの1票の格差 比例代表が生む「ゆがみ」」と題する興味深い記事が掲載されていました。

 国会議員は地域の民意を国政に届ける代表であり、人口差が広がれば声の届きやすさの差も大きくなってしまう。人口の違いによる「1票の格差」が最大2倍以内に収まるよう調整する衆院選の小選挙区の区割り見直し作業が、年明けから本格的に始まると筆者はこの論考に綴っています。

 しかし、各地域がなるべく平等に代表を出すには、(いわゆる)区割りだけを見直せば良いものなのか。実際、衆院選は小選挙区だけでなく、全国11ブロックの比例代表を組み合わせた小選挙区比例代表並立制をとっている。小選挙区の政党候補者は比例代表にも重複して立候補できるので、小選挙区で落選しても比例で所属政党が得た当選枠内に入れば復活当選が可能だと筆者は説明しています。

 この仕組みが導入されたのは四半世紀前の1996年の衆院選から。当時から制度を巡る問題を指摘する声があったが制度自体は見直されておらず、今年10月の衆院選の比例代表での復活当選は130人及んでいるというのが氏の指摘するところです。これは、比例定数176の4分の3に迫る規模で、1996年から全9回の衆院選で最も多い人数となった。結局、3人の候補者が国政の舞台に進んだ小選挙区は奈良1区や徳島1区など8つを数え、佐賀県は比例代表を含めれば2つの小選挙区の4候補全員が当選したということです。

 加えて、徳島、佐賀両県の小選挙区からは、選挙区数の2倍の衆議院議員を送り出した計算になる。対照的に群馬や山口など10県では全小選挙区で1人も比例復活した候補者がいないことからも、人口の違いとは別の格差が生じている実態があると筆者は言います。過去9回の選挙を都道府県別に分析したところ、沖縄県は小選挙区数の1.62倍の当選者が生まれている。2014年は全4選挙区の全9人が議席を獲得する一方で、山口県は1.08倍、群馬は1.16倍にすぎないということです。

 政党は比例代表名簿の同じ順位に複数の重複立候補を並べられる。その場合は小選挙区の得票トップにどれだけ肉薄したかを示す惜敗率が高い人から当選するため、接戦が多い地域は多くの議員を生みやすい構造があると筆者は指摘しています。今回の衆院選では、自民党と立憲民主党に加えて日本維新の会の三つどもえ立候補が多かった兵庫県には、現行制度で最も多い23人の議員が誕生した。そのほか、佐賀、京都、大分、山梨、愛知など、選挙区数に比して当選者数が多い府県には、与野党が競り合う選挙区が多いということです。

 そうなると、同じ比例代表ブロックの「その他の地域」は(もちろん)その分当選者が少なくなる。こうして比例代表の並立が、結果として地域への議席配分に「ゆがみ」を生じさせているというのが筆者の認識です。比例代表の当選者はブロック単位の政党の得票で決まる。人口数十万人単位の小選挙区の代表とは、本来は違った性質を持つ(はずだ)と筆者は話しています。

 にもかかわらず、実際は特定の小選挙区に続けて出馬し、その代表として活動する比例復活の議員も少なくない。人口動態だけでなく、選挙制度が別の「1票の格差」を引き起こしている実態を踏まえ、制度自体を再検討する時がきているというのがこの論考における筆者の見解です。

 さて、考えようによっては、「比例代表」はもともと(小選挙区の「地域代表」とは)異なる枠組みのものなので、地域間の格差を意識する必要はないのかもしれません。しかし、その運用が、地域代表としての小選挙区候補者のリスクヘッジの受け皿になっているとしたら、そちらの方が大きな問題とも考えられます。

 新たな制度を検討するにしても、(結局のところ)どのような人に国民の代表として国政を任せたいのか。(少なくとも有権者は)そうした視点に改めて立ち返る必要があるのではないかと、私も改めて感じたところです。


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