帝国データバンクが行っている「全国企業『後継者不在率』動向調査」によれば、2022年時点で国内の全業種約27万社の後継者不在率は57.2%と、半数を超えているとのこと。21年の不在率61.5%から4.3pt低下したとはいうものの、中小企業を中心に依然として多くの企業が事業承継に苦労している状況が見て取れます。
一方、一部のサラリーマンの間では、こうした後継者のいない企業を買い取り、または起業して事業の一部を承継するなどして、晴れて社長として第二の人生を始める強者も増えているという話を耳にするようになりました。
実際、サラリーマンというのは何かと不自由なもの。いくら頑張っても給料が増えるわけではなく、職場の人間関係も煩わしい。行動の制約が多いうえに、税金も社会保険料も取られ放題という残念さもあるところです。
そうした中、一般にサラリーマンが会社を設立するメリットと言えば、(例えば税法上のものだけでも)①本人や家族への役員報酬で節税できること、②事業の必要額を経費として計上することで節税できること、③赤字の繰越期間が長くなることで節税できること、④消費税の納税義務が免除されることで節税できること…などが挙げられます。
そのほかにも、⑤「勤務時間」から解放されること、⑥自分のペース(ややり方)で仕事ができること、そして何より⑦一国一城の主、「社長」として組織から独立できること…などが大きな魅力と言えるでしょう。
しかしその一方で、会社の買収や安定経営には一定の資金が欠かせないのもまた事実。経営資金を調達するため金融機関から融資を受けるという「リスク」を背負うことに、二の足を踏むサラリーマンも多いかもしれません。
サスペンスドラマなどでしばしば描かれる、まっとうに生きてきた零細企業の社長が、資金繰りから借金を重ねたうえ自分の工場などで首を吊るシーン。昭和の時代から変わらない「ステレオタイプ」というか、随分な描かれ方だとは思いますが、(「借金」と聞いて)こうした姿をつい思い浮かべてしまう人もそれなりにいるのではないかと思います。
さてそこで、7月26日の経済情報サイト「現代ビジネス」に、近著『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』で話題の作家 三戸政和氏が「会社が倒産したら自宅も土地も貯金もすべて処分して借金返済!? それって本当なのか」と題する一文を掲載していたので、参考までにその一部を紹介しておきたいと思います。
サラリーマンが後継者を見つけられない中小企業を買い取って経営する…夢物語のように聞こえるかもしれないが、国がそれを後押ししているのをご存じか。サラリーマンが会社を買うなら「いま」がチャンス。企業買収のための条件が大きく整ったと氏はこの論考に綴っています
理由の一つは、「経営者保証」が明確に外せるようになったことにあると氏は言います。経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人になること。返済が滞ったり倒産した場合などに、経営者が個人の土地や家などを処分して返済に充てなくてはならないというものです。
以前は当たり前だったこの(借り入れの際の)経営者保証。しかし、今ではそれをつけなくてよいものになっていると、氏はこの論考で指摘しています。かつて中小企業の借り入れは、株主であるオーナー社長の私的な資金利用と明確に分離しておらず、外からは見分けがつきにくかった。そのため、銀行としては貸し付けたお金が社長に個人的に流用されることを懸念し、慣例としてオーナー社長個人にも保証を要求してきたということです。
しかし、私的な資金利用がないことが明らかであれば、個人が連帯保証をする理由はありません。実際、(オーナー企業を除く)大企業では経営陣が雇われている立場で株主と切り離されており、企業として借り入れた資金を経営陣が私的に流用することは難しいので、個人保証をすることはないと氏は説明しています。
そもそも、会社経営をしたことがない人の中には、「借り入れ」をあまりよくないことのように思う人も多いが、企業が設備投資や原材料を買うために借り入れをするのは、正常な経済活動の一環に過ぎない。もとより企業は、手持ちの資金をやりくりして事業を進めるようなものではなく、新たな雇用を生むこともできないので社会的に見てプラスにならないというのが氏の見解です。
また、従来から行われてきた経営者保証の慣習は、日本経済にとっても大きなマイナスにつながると氏は続けます。企業は外部資金を活用して投資をしなければなかなか大きくならないし、事業から出る利益だけを投資に回して大きくなっていくには長い時間がかかるもの。投資のための積極的な借り入れは、むしろ社会にとって成長の重要な要素となると氏は話しています。
さらに言えば、現在、日本の中小企業の多くが悩まされている後継者の問題。この後継者問題のもっとも大きな原因の一つは、経営者保証だと氏はこの論考で断じています。
子どもや従業員が会社を継ぎたがらない理由は、経営者保証を引き継ぎたくない、引き継がせたくなかったから。例えば、社長である父親が過剰な債務を抱えているような場合、息子は大きなリスクを抱えての事業承継を恐れ(たとえ黒字であっても)廃業を決断するケースなども多かったということです。
このような状況を踏まえ2022年12月、金融庁が経済産業省・財務省と連携し、金融機関が経営者保証を求める場合にはかなり厳しい条件が課されることとなった。 金融機関から経営者保証を要求された場合には、その明確な理由を求めることができ、その理由が正当だと思えない場合には、金融庁に2023年4月に新設された経営者保証専用相談窓口に相談することができるようになったと氏はしています。
そして、これはすなわち、前社長が経営者保証をしてお金を借り入れている会社を買収する場合でも、その経営者保証を外すことができるということ。金融機関が理由を付けてどうしても経営者保証を外すのを拒むとしたら、よほど財務状態がよくない会社である可能性が高いので、その会社を買うのをやめればいいだけだということです。
つまり、これからのスモールM&Aでは、経営者保証は不要というのが基本ということ。サラリーマンが会社経営に乗り出したら借金まみれになるという心配は、経営者保証をそのまま引き継ぐことを前提とした古い考えに基づくものだというのが氏の説明するところです。
責任は投資の範囲内。常識として、万一経営に失敗したとしても自分が出したお金以上に損をすることはないと話すこの論考における三戸氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます