MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2214 面倒な上司ほど出世していくのは何故か

2022年07月24日 | 社会・経済

 明治安田生命保険が毎年2月に公表している「理想の上司」ランキング。2022年春の新入社員を対象に実施した今年の調査の結果、男性上司の1位は多くのバラエティ番組で司会を務める「内村光良」さん、女性上司は人気アナウンサーの「水卜麻美」さんで、それぞれ6年連続でトッに輝いています。

 それにしても、移り変わりが激しい芸能界・スポーツ界などで6年間も連続して1位の座をキープしているというのは、並大抵のことではありません。確かに、内村さんも水卜さんも幅広い世代に人気があり、ともに「優しく」「穏やか」で「親しみやすい」イメージが共感を呼んだことは想像に難くありません。お二人とも、何があっても性格的に破綻することなどなく、ましてや部下に怒鳴り散らすようなパワハラなどとは無縁な、安定感を感じさせる存在と言えるでしょう。

 因みに、理想の男性上司の2年連続の2位は、アイドルグループ嵐のリーダーで報道番組のキャスターなどとしても活躍している櫻井翔さんで、女性上司は、(こちらも)6年連続で女優の「天海祐希」さんがランクインしています。お二人の知性的でスマートな印象は、まさに世界をまたにかけたビジネスシーンで活躍する「理想のビジネスパーソン」というイメージにぴったりと言えるかもしれません。

 さて、そうは言っても理想は理想。現実の世界では、日ごろ接する職場の上司がそんな素晴らしい存在であるわけがありません。人それぞれに良いところがあり、当然のように悪いところもある。特に、(部下から見て)自分本位の嫌な上司ほど(上に引き立てられて)どんどん偉くなって、自由気ままに部下に迷惑をかけたり、顰蹙を買ったりしているケースというのは(案外)よくある話なのでしょう。

 では、なぜそのような残念な状況が、「よくある話」になってしまうのか。6月10日の総合経済情報サイト「東洋経済ONLINE」に、ヘッドハンティングの仲介などを事業とする世界最大級のコンサルティング会社「コーン・フェリー」の日本代表を務めた妹尾輝男(せのお・てるお)氏が、「上司にしたくない人ほど出世しがちな残念理由」と題する興味深い論考を寄せています。

 あなたは自分の上司になる人物に、どんな素養を期待するか?…そう尋ねられた時、多くの人は①順序だてて物事をキチンと考えられる、②段取りをつけ計画通り実行する、③周囲を当惑させないよう常に配慮を怠らない、④冷静沈着で部下から尊敬される人格者…など、部下のお手本になるような「優等生」タイプを(理想的なリーダーとして)想像するに違いないと、妹尾氏はこの論考に記しています。

 確かに、2000年代より以前の組織であれば、このようなリーダーを期待するのは至極まっとうな感覚だった。なぜなら、当時はこのような「優等生」タイプのリーダーこそが、ビジネスを正しく導ける時代だったから。これは日本に限った話ではなく、グローバルに求められるリーダー像でもあったというのが、ヘッドハンターとして名を馳せてきた妹尾氏の認識です。

 しかし、時代の変化とともに、求められるリーダー像も大きく変わってきた。先にあげた「優等生」タイプのリーダー像は賞味期限が切れたかのように、ヘッドハンティングの世界では需要が低下していると、氏はこの論考に綴っています。

 実際、大手グローバル企業に上記のような「優等生」タイプを提案しても、今ではまず採用されないと氏は言います。それは、現在、企業が求めているのは、常識のない「悪ガキ」とも呼ぶべきタイプのリーダーだから。

 ①脈絡なく、突拍子のない言動をする、②最終イメージが先行して、途中のことはあまり考えない、③自分のやりたいことを理路整然と説明できない、④時と状況によって、方針がコロコロ変わり、首尾一貫していない、④周囲の人をびっくりさせるのが大好き、⑤落ち着きがない…などと言った特徴を備えた「変わり者」と呼ばれるような人材の需要が、世界中で急上昇しているということです。

 アップルの創業者・スティーブ・ジョブスは勿論のこと、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、イーロン・マスク。日本で言うなら孫正義氏、堀江貴文氏、柳井正氏、前澤友作氏など、「成功者」と呼ばれるような経営者の多くが、優等生タイプから見るとかなり「目障り」に映ったことだろうと氏は言います。

 彼らは服装や髪型には無頓着で、周りから変人多使いされてもまったく意に介さない。自分が好きなことを好き勝手に追求し、そのために時として周囲の迷惑も顧みず、場合によってはルールをねじ曲げてでも自分の夢の実現に邁進する…そんなイメージがあるということです。

 一方、こういう「悪ガキ」タイプのリーダーに対しては、「振り回されるだけなので、このタイプの人の下で働くなんてまっぴらごめん」と拒絶反応を示す人が多いのが日本の実情だと氏は言います。

 かくして、こうしたタイプの人物は、日本で「上司にしたくない人」の典型となる。しかしその一方で、ヘッドハンティングのクライアントがほしがり、実際にビジネスの世界で結果を出しているのは、こういった「悪ガキ」タイプのリーダーだというのが(その道のプロとしての)妹尾氏の見解です。

 氏がここで言いたいのは、「求められる人材像」が以前とは大きく変わってしまい、世界の国々では常識になりつつあるのに、日本人のほとんどはこの激変に気がついていないという現実があるということ。この状況を放置すると、日本の数少ない資産である優秀な人材の活用が進まず、結果としてただでさえ低下しつつある日本の国力が、ますます他国から引き離されてしまいかねないというのが氏の強く懸念するところです。

 同調圧力が強い日本企業のなかでは、せっかくの資質を持った「悪ガキ」タイプの人材も、自分の才能を殺してしまいかねない。現状のままでは、自分を殺せなかった人は組織のなかで脇に追いやられ、中枢には残れないだろうということです。

 「激変の時代」においては、周囲の目を気にしたり、従来のやり方にとらわれたりするリーダーでは、とても変化の速度に対応できないと氏は断言しています。つねに変化を先取りし、強烈なパッションに基づいて素早く決断し、行動する。そういった、ある意味での「空気の読めなさ」が、これからのリーダーには必要不可欠だというのがこの論考における氏の指摘するところです。

 チームを上手く引っ張っていくのが良い上司、上司は自分を育ててくれるものだなどと甘えていたら大間違い。これから訪れる「さらなる激変の時代」では、(この日本でも)悪ガキタイプが想像以上に「のさばってくる」だろうと、氏はこの論考の最後に予言しています。

 ある日突然、悪ガキタイプのリーダーが上司になったり、M&Aでトップ全員が悪ガキタイプに入れ替わったりすることも珍しくなくなる。なので、そういう事態が起きても慌てないように、悪ガキタイプのリーダーの思考・行動パターンを理解しておくことは、そうでない人にとっても極めて重要なスキルになると氏は言います。

 上司となった彼らを上手にフォローし、彼らの能力をさらに引き出す。つまり、自らを「悪ガキ」タイプだと思うあなたにとっても、そうでないあなたにとっても、「悪ガキ」の特性を理解することは、この激変の時代を生き抜くために不可欠だとこの論考を結ぶ妹尾氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿