65~74歳の前期高齢者の医療費について、現役の会社員らが負担する納付金の算定方法を見直す方向で厚生労働省が検討に入ったと10月12日の朝日新聞が報じています。(「大企業の健保組合、社員負担増検討」2022.10.12朝刊)
示されている見直し案は、「加入者数」に基づき健保組合ごとに決定している負担額を「賃金」に応じた仕組みに変えるというもの。結果、高収入の大企業の会社員らが入る健康保険組合の負担を増やすことで、中小企業の協会けんぽや健保組合などの負担を軽くすることが目的だということです。
今回の見直しは、財政的に余裕のある健保組合により多く負担してもらいながら、財政の厳しい中小健保組合の破綻を防ぎ、医療制度の維持をねらいとするもの。しかし、負担増となる健保組合に入る大企業の会社員にとっては社会保険料の引き上げに直接つながりかねず、財界の反発なども予想されるところです。
厚労省は近く、審議会での議論を経て年内には具体策をまとめ、来年の通常国会への法案提出を目指すとしていますが、健保組合の半数超が赤字決算となっている現状を踏まえれば今後の紆余曲折は免れないことでしょう。
厚生労働省によれば、働く人1人当たりの今年8月の現金給与の総額は27万9388円で、前の年の同じ月を1.7%上回ったとのこと。しかし、物価の変動を反映した「実質賃金」は前の年の同じ月を1.7%下回り、5か月連続で減少しているのが現実です。
給与は増加傾向にあるものの、物価の上昇に賃金が追い付いていない状況に加え、社会保険料の負担は(現在でも)サラリーマンの生活に大きくのしかかっています。 高齢化の伸展とともに現役世代の負担は増え続けるばかり。こうした状況に10月6日の日本経済新聞は、「社会保険負担、格差見直し急務」と題する記事を掲載し警鐘を鳴らしています。
人口の高齢化が進んで医療費が膨らみ、健康保険組合による保険料の引き上げが相次ぐ。現在の日本の社会保障制度は、恩恵が高齢者に偏るばかりだと、記事はその冒頭で指摘しています。会社員らの現役世代による社会保険の負担は膨らみ続けている。実際、健康保険組合の加入者が労使折半で負担する保険料は2021年度に1人あたり年49.9万円と、08年度比で(実に)約11万円増えているということです。
政府が掲げる「全世代型社会保障」の実現には、高齢者にも一定の負担を求め、医療費などの給付を抑える改革が欠かせないと記事は言います。(個人単位で見れば)40歳になると介護保険の保険料も支払わなくてはいけない。健康保険の料率に介護保険の平均料率である1.77%と、厚生年金の18.3%を加えると29.3%となり、収入の3割近くが公的な保険料に回っているということです。
背景には、国全体で見た医療費の伸びがある。厚生労働省が9月に公表した21年度の概算の医療費は44.2兆円で、前年度から4.6%増えた。健保組合全体の保険給付費は4.2兆円と、8.7%増えたと記事はしています。健保組合の加入者は現役世代だが、その中でも平均年齢が少しずつ上がり、必要な医療費は増えている。高額な薬剤や治療法の登場といった医療の高度化も医療費の増加につながり、保険料が上がる原因にもなっているということです。
一方、現役世代の人口が減っているうえ収入も伸び悩み、給付費の元手となる保険料は大きな伸びは見込めない。保険料算定の基準となる標準報酬月額は21年度の平均で約37.7万円と、前年度比0.3%増にとどまっていると記事は言います。
もちろん、医療費や高齢者医療への拠出金の伸びに見合うだけの保険料が入らなければ、健保組合は料率を上げざるを得ない。平均料率はすでに9.23%と、中小企業の従業員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の10%前後に近いということです。
そこで、(もしも)健保組合が赤字に耐えられず解散すれば、加入者は協会けんぽに移ることになる。協会けんぽには現在でも1兆円規模の国費が投入されており、加入者が増えれば国費負担も増し、(結局)将来世代に負担のつけ回しが起きると記事はしています。
10月からは一定の所得がある後期高齢者の窓口負担が2割に上がったが、現役世代の保険料などを抑制する効果は25年度で830億円にとどまる。こうした現実を受け止めれば、負担の世代間格差の是正は急務であり、(後期高齢者の保険料引き上げなどの)反発が予想される大胆な改革案にも踏み込む必要があるというのが記事の指摘するところです。
いくら給料が上がっても、社会保険料の増加がそれを相殺し手取りの額は変わらないというのは、サラリーマンのお父さんたちからもよく聞く愚痴話。団塊の世代の多くが後期高齢者となり医療費が必要な現状はよくわかりますが、(マイナンバーの活用も含め)所得や資産の状況をしっかり把握し、公平な負担を求めることが今求められるのではないかと、記事の指摘から私も改めて感じたところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます