ランチタイムのオフィス街を歩くと、吉野家や松屋、富士そばや小諸そばなどの立ち食いそばチェーン店などにサラリーマンの行列ができているのが目につきます。
こうした列は年々長くなっているようにも感じられますが、冬のさなか、寒風の中でポケットに手を突っ込んだまま働き盛りの男たちが立ち並ぶ様子は、(ある意味)日本のサラリーマンの悲哀を感じさせる光景と言えるでしょう。
世界銀行は、国際貧困ラインを1日1.90ドルとしていて、2015年には貧困率(国際貧困ライン以下で生活している人の割合)が初めて10%を下回ったと推計しています。
しかし、こうして(並んでまでも)一回の食事を2~300円以下(2ドル前後)で済ませたいと感じる日本人がこれだけ多いことは、スーツを着て働き普通の生活を行っている人たちの間でも、常に貧困は身近な存在であることを新ためて感じさせます。
総務省が行っている「家計調査」によれば、日本の二人以上の世帯の可処分所得(実収入から直接税や社会保険料など非消費支出を除いた所得)は、1997年の月額47万9302円をピークに減少に転じ、直近の2015年では40万8649円まで落ち込んでいます。
この額はおよそ30年前の1985年の41万3835円よりも低い水準にあり、国民の厳しい生活状況に依然改善の動きが窺えないことが見て取れます。
さて、そうした中、12月5日の日本経済新聞に掲載されていた、「納税義務者、国民の半分」と題する記事が目に留まりました。日経グローカル副編集長の磯道真(いそみち・まこと)氏による、国民の義務とされる「納税」を行っている日本人は実は国民の半数に過ぎないという、ある意味ショッキングなレポートです。
格差の拡大や若者の貧困化が話題に上ることの多い昨今ですが、この機会に具体的な状況を、もう少し詳しく見てみたいと思います
日本では、2900万人超が所得税や住民税を一切納めておらず、控除の対象ともなっていない。脱税をしているわけではなく、ただ単純に所得が低いため納税の義務を免除されている人たちだと磯道氏はレポートの冒頭記しています。
総務省の「市町村税課税状況等の調べ」によると、2015年度に住民税の納付義務があったのは6034万人で、日本の総人口1億2823万人の半分以下、47%に過ぎません。ということは、過半の53%には所得税や住民税が課税されていないということであり、成人人口で見ても、43%に当たる4535万人が非課税となる「低所得者」であると磯道氏は指摘しています。
所得税の課税最低限は単身者で年収103万円。住民税はそれよりも低く、東京23区などでは100万円が境になるということです。
無論、これら「納税していない人」には主婦や学生なども含まれています。そこで、サラリーマンの扶養控除の対象となっている(そうした)人々などを除いたところ、それでも2908万人(成人人口の約3割)がいずれにも該当しない人(純粋な低所者)だったと磯道氏は記しています。
その中の7.5%に当たる概ね217万人は生活保護受給者であることが判っていますので、残りの2691万人は、(少なくとも把握されている所得として)年間100万円以下で暮らしている人々ということになります。
この人たちは一体どこに住んでいて、どんな暮らしをしているのか。
磯道氏が総務省に情報公開請求したところでは、住所では(これはイメージ通りなのですが)87万4600人の大阪市が断トツに多いことがわかったということです。また、人口に占める割合では鹿児島県伊仙町の57%が最も高く、同じく鹿児島県の天城町で54%など、なんと人口の半分以上が税金(所得税)を納めていない自治体が国内に7町村もあったということです。
因みに(伊仙町、天城町の)両町とも奄美群島の徳之島にあり、サトウキビなどを栽培する小規模農家が多い環境にあると氏は説明しています。島では、基本的にみな顔見知りで、住民間でのプライドもあり、暮らしが厳しくても生活保護を求める人は多くないということです。
生活保護を除いた(非課税者が)全国の2691万人という数字は、国が市町村税が課税されていない低所得者を対象に実施した「簡素な給付措置」(臨時福祉給付金)の支給者が2200万人であったことを考えれば、概ね妥当な規模感ではないかと磯道氏は見ています。
2000万人から2500万人いると見られる非納税者が全員厳しい生活をしているかどうかは誰も確認していませんが、給付金を所管した厚生労働省では、客観的・機械的に対象者を抽出できる基準として適切と考えているようです。
さて、こうした状況に関し磯道氏は、日本で非納税者が(特に高齢者に)多いのは、高齢者が制度的に優遇されていることの影響もあると見ています。
65歳以上の年金受給者の課税最低限度は155万円と勤労者よりも高く、たとえ多額の預貯金などの資産があっても、収入が基準以下なら所得税などの税金はかからない。夫に先立たれた老妻の遺族年金にも税金はかからず、給付金も給されるといった状況です。
政府は現在、配偶者控除の上限引き上げについて議論していますが、こうした状況を見れば、公的年金等控除をどうするかを議論する方が先ではないかと磯道氏は指摘しています。
給料から税が源泉徴収されているサラリーマンたちが、所得税などを収めていない人が(人口割合で53%、成人の43%、被扶養者を除いても28%など)これほど多いと知ったら一体どう思うのか。
所得の把握については、以前からク・ロ・ヨン(サラリーマン9割、自営業主6割・農家4割)とか、トー・ゴー・サン(同じく10割、5割、3割)などと言われてきましたが、状況を見る限り、高齢化の進展で国民の課税格差はさらに広がっていると言えるのかもしれません。
納税は国民の三大義務のひとつとされていますが、1年を100万円かそこらで暮らしている貧困状態にある人々が、国民の3分の1を占めているというのも(よく考えれば)あまり現実的ではありません。
社会保障費の増大によりひっ迫する財政状況が喧伝されていますが、政府が何よりまず考えなければいけないのは、国民の納税意識を担保する公平性の確保ではないかと、記事の指摘から私も改めて感じたところです。
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