MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯724 治療歴の一元化

2017年02月06日 | 社会・経済


 少し前の話題になりますが、10月20日の新聞各紙は、厚生労働省が、医療機関等における治療歴や健診結果など国民の医療や保健に関するさまざまな情報を統合し、病院や介護などの現場で活用できるデータベースを2020年までに創設する構想を明らかにしたと伝えています。

 同省は、データベースの運用により国民一人一人に最適な医療や保健サービスの提供を目指すとともに、投薬や検査の重複を防ぐことで医療費の節約にもつなげたいとしています。

 一方、記事によれば、情報提供への同意の取得や個人情報の取り扱いなど、データベースの実現には高いハードルも想定されるということです。

 現在、個人の治療情報や予防接種記録、健康診断のデータなどは、病院や自治体、健康保険組合等の保健者や職場などが別々に保有しています。厚生労働省では、そうした国民の医療、保健、介護に関するバラバラな情報について国が主導してデータの規格を統一し、統合して管理することによって医療や介護の効率化を図るデータベースを作りたい考えです。

 同省では、データベースを「PeOPLe(ピープル)」(仮称)と名付け、対象者に医療用の個人番号を割り振って、全国の医療機関や介護施設などの情報をつなぐとしています。

 患者の健康状態や過去に受けた治療や処方薬、アレルギーや副作用などの情報を臨床医らが活用できるようにするとともに、救急搬送時や災害時に普段と違う医療機関を受診する場合や発作などで本人が意識を失っている場合でも、過去の受診歴などから最適な治療が受けられるようにするということです。

 また、こうしたデータベース化が進めば、集まったデータを匿名化して(ビッグデータとして)分析することにより、病気の原因解明や医薬品の安全対策、効率的な医療の実現などにも役立てることができるという指摘もあります。

 それだけ聞くと、良いこと尽くめの様な気がしますが、一方で、病気や健診の情報は特に慎重な扱いが求められる個人情報であるため、集めたデータの保護の徹底や、万が一流出した場合の対策などが求められると同20日付の毎日新聞は解説しています。また、民間の病院や機関が保有する情報を提供する際には「本人の同意」が必要となるほか、情報を使える人の範囲を限定する仕組み作りなども今後検討されるということです。

 国民皆保険制度を採用している日本では、現在でも健康保険証番号によってレセプトデータベースをたどり、その人の受診記録を集めることは可能です。実際、各保険者が加入者の受診記録を分析し、糖尿病の重症化予防など健康増進に向けた働きかけを行っている例なども多いということです。

 しかし、健康保険証番号はあくまで医療費の保険者負担分を間違いなく支払うためのものであり、就職・退職をしたり、結婚して配偶者の被扶養者になったり、75歳の後期高齢者になる等によって加入する健康保険の保険者が変われば、新しい保険者によって番号が振りなおされることになります。

 当然その都度過去の受診歴が途切れることとなることから、生涯で受ける医療等サービスを一元管理するためには、保険者が変わっても受診歴を追うことができるIDが必要だということになります。

 さて一方で今年の1月、我が国ではご存知の通り、初期費用だけで2700億円という巨額の税金を投入したマイナンバー制度の運用が始まっています。国民一人一人に「マイナンバー」という名のIDが付され、システムの維持だけで300億円を要する国内でも最大規模のデータベースが(あまり活用されないまま)既に動き出しているのは周知の事実です。

 しかし今回、厚生労働省では、国民のプライバシー保護の観点からこのマイナンバーを利用せず、国民全員にマイナンバーとは異なる「医療等ID(仮称)」を付し、(巨額の資金と手間をかけて)全く新たなデータベースシステムを構築するとしています。

 現在、40兆円を超えて伸び続ける国民医療費は、当然のように健康保険の保険料で賄うことはできず、15兆円近い公費が投入されています。それを考えれば、医療費の管理という立場から国が個人の医療に一定の関与を行うことも、(ある意味)やむを得ないことの様な気もします。

 欧米などの先進諸国では(いわゆる)「社会保障番号」を個人のIDとして活用し、身分証明などに用いている例なども多く見られます。

 高齢化に伴う国民医療費の増大が懸念される中、今回、厚労省が目指している治療歴などの情報の一元化が、医療コストの適正化に大きく貢献するだろうことは言うまでもありません。

 そう考えれば、今すぐ、そして安く活用できるマイナンバーなどの既存のシステムの活用が、(リスクとコスト、コストとベネフィットの観点から)当然工夫されるべきと考えるのですが、果たしてどうなることでしょうか。



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