MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1571 格差社会と大統領選挙

2020年03月20日 | 国際・政治


 11月3日に予定されている米大統領選挙に向けた野党・民主党の候補指名争いはいよいよ佳境に入り、穏健派のジョー・バイデン前副大統領(77)と急進左派バーニー・サンダース上院議員(78)の一騎打ちとなった観があります。

 3月3日の「スーパーチューズデー」の2日前、(民主党の)注目候補だったピート・ブティジェッジ氏(38)が選挙戦から離脱し、中道派票の多くがジョー・バイデン氏(77)に流れたとされています。

 これにより、これまで優位だとされていた左派のバーニー・サンダース氏(78)との指名争いはさらに拮抗し、先の読めない展開を迎えたと言えるでしょう。

 とは言え、73歳の現職大統領に挑むのが77歳のバイデン氏か78歳のサンダース氏というのですから、自由の国アメリカもいささか薹が立った印象は否めません。

 台風の眼として注目された大富豪ブルームバーグ氏もあっさりと撤退し、「バーニーではトランプに勝てない」との思いでまとまった中道派により(オバマ政権の副大統領としての実績のある)バイデン氏がやや優勢と報じられています。

 国民皆保険や奨学金の返済免除など大きな政府への転換を掲げ若者層に人気のサンダース氏ですが、たとえ大統領になってそうした大改革を進めるにしても、制度をまとめるにはかなりの時間を要するでしょう。

 一方、対する共和党では、高齢で急進派のサンダース氏の方が相手としては与しやすいと見て、トランプ氏を先頭に「民主党候補をバーニーに」とのキャンペーンを展開するという(冗談のような)動きも伝えられています。

 中学校の生徒会選挙でも行われないような、こうした相手候補の足を引っ張る子供じみた行為やあからさまな誹謗中傷に、アメリカの民主主義もここまで落ちたかと残念に感じている向きも多いかもしれません。

 いずれにしても、前回、そして今回の大統領選挙を大きく動かしているのが米国に広がる「所得格差」にあるというのは、多くの識者から指摘されているところです。

 それは、選挙戦が貧しい地方部と豊かな都市部の戦いとなっていることからも見て取れます。「オールド・エコノミー」を代表する中西部や南部などの保守的な住民と、「ニュー・エコノミー」を代表する西海岸や東海岸などのリベラルな住民の利害は分断され、一致点を見出すことはもはや難しい状況といえるでしょう。

 米大統領選挙に絡むこうした状況を受け、3月12日の日本経済新聞に、「米国の格差社会化と大統領選挙」と題するコラムが掲載されていました。

  資本主義の総本山といえる米国で、「民主社会主義者」を標榜するサンダース候補が(前回に続き)今回の予備選挙でも有力候補となっていることには驚きを禁じ得ないと、筆者はこのコラムに綴っています。

 そして、自由競争の国アメリカに(こうして)社会主義への期待が高まっている背景にあるのは、(何を置いても)米国の「格差社会化」ではないかというのが筆者の見解です。

 世の中が格差社会になって弊害が目立つようになると出てくるのが社会主義だと筆者は言います。

 マルクスと並んで近代的な社会主義の祖といわれるエンゲルスは、22歳で父親の経営する英マンチェスターの工場で働き始め、過酷な労働者階級の生活を目のあたりにした。そして、その悲惨さの背景に、「第2次産業革命」が英国にもたらした激しい格差社会の存在を見たということです。

 同時に、1831年のロンドンでは真性コレラによる死者が数千人に達していたという事実もあって、何か、最近の新型コロナウイルス騒ぎを思わせるような事態が、格差社会化を背景に起こっていたと筆者はこのコラムに綴っています。

 さて、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や人工知能(AI)の活用による第4次産業革命に突入している現在、そこで問題になっているのがやはり格差社会化で、それが最も激しいのが米国だというのが筆者の認識です。

 もちろん、その原因は、第4次産業革命をけん引しているのが米国だから。第2次産業革命をけん引した英国で格差社会化が最も激しかったのと同様に、格差社会化の最も激しい米国で社会主義が賛同を得るようになってきているということです。

 ただし、かつてエンゲルスやマルクスが主張した社会主義と、今日サンダース氏が主張している社会主義とでは、大きく異なる点があるというのが筆者の指摘するところです。

 前者がプロレタリアート独裁を主張して民主主義を否定したのに対して、後者は米国の民主主義の枠内で主張されている。とすれば、それが米国の有権者に受け入れられる可能性は十分にあると筆者は言います。

 確かに、サンダース氏が主張する国民皆保険制度は(日本をはじめとした)多くの先進国で既に導入されており、年金制度や高等教育の教育費の無償化なども世界一の経済大国アメリカ合衆国で実現不可能なものとは思えません。

 相反する利害や極端な議論の中で、米国の世論は何を選択しどこへ向かうのか。格差社会化はもはや世界中の問題であり、大統領選から目が離せない状態が続きそうだと結ばれたこのコラムの指摘を、私も(この時期)大変興味深く読んだところです。



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