MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1370 日本にスーパーリッチが少ないワケ

2019年05月29日 | 社会・経済


 役員報酬を過少申告していた容疑で逮捕された日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏。

 広く報じられているように、東京地検は2011年3月期から2015年3月期の各連結会計年度におけるゴーンの金銭報酬が合計約99億9800万円であったにもかかわらず、合計約49億8700万円と記載した有価証券報告書を提出した容疑を中心に捜査を続けています。

 100億円という報酬金額が氏の功績に対して妥当なものかどうかは(あまりに桁が大きすぎて)サラリーマンの感覚だとよくわかりませんが、果たして世の経営者たちはどのくらいの報酬を手にしているのでしょう。

 東京商工リサーチの調べでは、日本国内で2018年3月期に1億円以上の報酬を得た会社役員の数は538人にのぼるとされています。

 そのうち、上位30を見ると、ソニーのCEOを退任した平井一夫氏の27億1300万円を筆頭に上位10人の報酬は10億円を超えており、その多くを外国人経営者たちが占めていることがわかります。

 話題のカルロス・ゴーン氏は18位(もちろん申告額)に過ぎず、2位はソフトバンク・グループのR・フィッシャー副会長の20億1500万円、3位は日本調剤社長の三津原博氏の8億2千万円と続いています。

 しかし、(いわゆる)グローバルスタンダードはそのレベルではなく、例えば2016年の高額役員報酬の世界ランキングを見ていくと、グーグルCEOのサンダー・ピチャイ氏の210億円を筆頭に、ディスカバリーCEOのデイビット・ザスラフ氏が165億円、ソフトバンク・グループの副社長に就任したニケシュ・アローラ氏が同じく165億円、リバティ・グローバルCEOのマイク・フライズ氏が118億円など、軒並み100億円超えのスーパーリッチが並んでいます。

 もっとも上には上があって、妻との離婚騒動で話題となった米インターネット通販大手アマゾン・コム創業者でCEOのジェフ・ベゾス氏の資産は、財産分与後でも約1100億ドル(約12兆円)と、2位の米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏を上回り世界一のお金持ちの座を維持し続けるということです。

 日本においても社会の格差が広がっていると言われますが、そのように考えれば、日本の富裕層が得ている所得などはまだまだ可愛いものといえるかもしれません。

 その辺の事情について、3月28日のダイヤモンド・オンラインに東短リサーチ代表取締役社長の加藤 出(かとう・いずる)氏が「日本は世界と比べて『スーパーリッチ』が少ない理由」と題する論考を寄せているので紹介しておきたいと思います。

 日本には「そこそこの富裕層」は、海外諸国と比べてもかなり多く存在するが、本当の意味での「スーパーリッチ」は非常に少ないと氏はこの論考に記しています。

 不動産コンサルティング会社の英ナイトフランクが世界の富裕層の状況を分析した「ウェルス・レポート2019年」によれば、保有資産100万ドル(1億1千万円)以上の人は日本人は約230万人で全人口の概ね1.91%に当たります。

 人口100万人当たり1.9万人が(世界的に見て)どのくらいの水準かといえば、他国では米国1.8万人、カナダ1.2万人、英国1.3万人、ドイツ1.9万人、フランス0.9万人、台湾0.6万人、韓国0.4万人、中国0.1万人。つまり、この割合は(豊かな小国として知られる)スイス3.9万人、スウェーデン2.1万人、シンガポール3.0万人にはかなわないけれど、人口2000万人以上の国で見れば日本はトップに近いということです。

 しかしその一方で、資産10億ドル以上のビリオネアとなると、日本はわずか35人にすぎないと氏はこの論考に記しています。

 100万人当たり0.3人という数字は、主な先進国の中ではいかにも少ない。米国では1.8人、カナダでも1.2人、ドイツでは1.5人、英0.8人、仏0.6人、台湾1.5人、韓国ですら財閥などの力もあって0.9人と日本の3倍の割合だということです。

 特に超富裕層が多いと言われるシンガポールでは、ビリオネアは100万人当たり5.7人と日本の21倍。また、経済的には新興国ともいえる中国は0.3人で日本と同水準だが、(同国の1人当たり名目GDPが日本の4分の1以下であることを考慮すれば)すさまじい格差社会であることは間違いないという指摘もあります。

 こうして資産分布ピラミッドの頂点が低い、または頂点付近の面積が小さいといった日本の状況は、海外諸国に比べれば不平等の度合いが少ない穏やかな社会であることを証明している。しかし、それは見方を変えれば(例えば)IT時代の新たな“大富豪”などがなかなか増えてこない社会であることの証左でもあると加藤氏は言います。

 それではなぜに、この日本ではスーパーリッチが現れにくいのか。高齢化に伴って活力が弱まっているのか、あるいは“出る杭”は打たれる風潮が相変わらず強いためなのか?

 税制による再分配が強過ぎると思う人もいるだろう。しかし、高福祉国家故に重税で資産形成が難しそうに思えるスウェーデンですら、ビリオネアは100万人当たり3.2人と日本の12倍もいると氏はここで説明しています。

 加藤氏によれば、日本のお金持ちの特徴は彼らの消費が海外に比べて質素な点にあるということです。確かに、プール付き家の豪邸は高級住宅地でもあまり見かけませんし、日常生活をために使用人を雇っている人も(それほど)多くはないでしょう。

 例えば、イオンのお客さま感謝デーに出かけると、駐車場にはベンツやBMW、アウディ、ポルシェ、ジャガーなどの1000万から2000万円級の高級車がずらりと並んでいるということです。

 もちろん、持ち主たちは購入品目によっては高級店に行くのだろうが、日常は合理的な判断で節約している。これは、日本では富裕層間の「格差」が小さいことが影響しているのだろうというのが、日本の(そこそこの)富裕層の生活感覚に対する加藤氏の認識です。

 氏によれば、米国などでは「かなりの富裕層」や「スーパーリッチ」の支出を目の当たりにした「そこそこの富裕層」が、背伸びをして見えを張りたがる傾向が顕著に存在するということです。

 そういう意味では、そんな必要がない、「足るを知る」奥ゆかしさを持つ日本人は素晴らしいとも言えるかもしれません。しかし、そのこと自体が「そこそこの富裕層」が世界有数の多さの割に消費が伸びないという悩ましさにもつながっているのではないかと結ばれたこの論考における加藤氏の指摘には、確かになかなか興味深いものがありました。



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