MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯252 地方創生で人口は増加するか

2014年11月11日 | 社会・経済


 11月5日、政府が重点政策と位置付ける「まち・ひと・しごと創生法」を中心とした地方創生関連法案が衆議院を通過し、参議院に送られました。

 この創生法案は、地域における就業機会を創出するなど、政府として東京一極集中を是正するなど対策を講ずるともに、我が国の人口減少に歯止めをかけるために今後取り組むべき施策の目的や理念を定めたものです。政府は、同法案に基づき年内にも総合戦略を策定するとともに、地方がこうした他施策に取り組むために必要な財源の手当てを行っていく方針を示しています。

 また、同時に上程されている「地域再生法」の改正法案では、国の支援策を自治体側から提案できる制度を設けており、自治体が策定した再生計画が認定されれば、それに関連する各省庁所管の計画も同時に認可される仕組みも盛り込まれているということです。

 本年5月、増田寛也元総務大臣を座長とする民間の有識者会議である「日本創成会議」が発表した報告書では、女性が5割以上減少することにより、2040年までの間に全国の375から523に及ぶ市町村が消滅していく可能性があると指摘されました。そして、特に消滅危険性が高いとされた地方部の危機感が、政府与党によるこの地方創生政策の発端となったのは記憶に新しいところです。

 この報告書では、こうした人口減少の主な原因を、東京への一極集中にあるとしています。

 東京は若者をブラックホールのように吸い寄せているが、一方で、人口過密により住居や子育て環境が地方部に比べて劣っている。そのため東京都の合計特殊出生率は1.13で、全国(全国平均1.41)と比較して飛びぬけて低いレベルにある。なので、若者が東京に流入していけばいくほど、日本の人口減少が加速する…こうした理屈です。

 安倍首相は8月の有識者懇談会などにおいて、このような状況に対応するため、政府として「東京への人口一極集中に歯止めをかけ、個性と魅力のあるふるさとを作っていきたい」と政策の方針を示しています。

 それでは実際、東京への人口集中を是正することで本当に日本の人口減少を食い止めることができるのか。10月29日の日本経済新聞「真相深層」では、同紙編集委員の瀬能 繁(せのう・しげる)氏が、こうした政府の今回の「地方創生」政策の手法にひとつの疑問を投げかけています。

 地方から東京への人口流入が少子化に拍車をかけるという見方の根拠は、実は曖昧なものに過ぎないというのが瀬能氏の認識です。

 確かにアメリカや日本のデータを見る限り、人口密度と出生率の間には負の相関がうかがえるが、その理由は突き止められていない。一方、最近のヨーロッパの傾向(EU統計局地域別データ)からは、人口密度が高い地域ほど出生率が高いという相関が見受けられると、氏は指摘しています。

 パリ、ベルリン、ロンドンなどの例をみる限り、「大都市への人口流入=出生率の低下」という理屈は通じないというのが瀬能氏の基本的な見解です。記事によれば、経済企画庁経済研究所長などを歴任した法政大学の小峰隆夫教授など、むしろ「都市部で少子化対策をやる方が効果的」ではないかと指摘する研究者も多いということです。

 国立社会保障・人口問題研究所の鈴木透人口構造研究部長もそのひとりであり、「人口学の世界で、都市に人が集まると出生率が下がるという話は聞いたことがない。」としているということです。併せて鈴木氏は、出生率の上昇を目的とするならば、まずは「子育て向けの現物給付、現金給付に政策を集中させるべきだ」と説いていると記事はしています。

 こうして見てみると、この「地方創生」を、統一地方選挙を来春に控え、地方選出議員が地元にアピールしやすい「交付金の創設」や「税制優遇」といった地方支援策に目配せしたものではないかとする瀬能氏の指摘も、あながち穿った見方とは言えないかもしれません。

 氏によれば、安倍総理を本部長とする「まち・ひと・しごと創生本部」がまとめた地方創生の論点において真っ先に掲げられたのは、他でもない「地方への新しい人の流れを作る」であって、(3番目に挙げられた)「若い世代の結婚、出産、子育ての希望をかなえる」ではなかったということです。

 さて、国の規制を緩和し、それぞれの創意工夫により地域を活性化させていくことは、地域の人口減少対策として確かに重要なことであると考えられます。また、人口減少や人口構造の急激な高齢化を見越して、地方部において暮らしやすいコンパクトな生活環境を再構築していくことも緊急性の高い施策であるでしょう。

 しかし、記事にもあるように、今後、若者の「田舎暮らし」が人口問題を解消するような規模の「メガ・トレンド」になるとは常識的に考えにくいというのも、ある意味頷ける指摘です。そもそも、若者は雇用や自己実現の機会を求めて大都市東京に向かうのであり、東京が子育てをしようとする人々が集まって来る場所でないのは明らかです。

 また、これまでの約40年間、我が国では地方部のインフラ整備などに継続して重点投資がなされてきましたが、それでも地方の人口や出生率は一貫して下がり続けているという現実も、改めて考慮してみる必要があるではないでしょうか。

 今回の地方創生が、これまでの地方政策とどのように違うのか。人口減少対策は、交付金など地方に「お金」を回すことで片がつく問題なのか。

 政府が人口減少を本気で止めようとしているならば、大都市への流入を止める前に今大都市にいる若者に向け、出産や子育て支援を充実させるのが先ではないかとする瀬能氏の見解を読むにつれ、私も、大都市圏の出生率の上昇を、「まず」考えていくことが順序ではないかとの思いを改めて強くしたところです。



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