MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1570 続く少年法改正の議論

2020年03月19日 | 社会・経済


 政府は、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満へと引き下げる同法改正案について、今国会への提出を見送る方針を固めたと1月27日の大手新聞各紙が伝えています。

 報道によれば、これは引き下げの是非をめぐり法制審議会の意見集約のめどが立っていないため。少年法の対象外となる18、19歳の更生面に悪影響が生じるなどとして日弁連を中心に根強い異論があり、専門家の間でも賛否が大きく割れているということです。

 そもそも少年法の適用年齢引き下げは、2015年に自民党の特命委員会が「満18歳未満に引き下げるのが適当」として法相に提出した提言書がきっかけです。

 この年、川崎市で中1男子が殺害された事件のリーダーが18歳だったことなどから議論が始まり、自民は選挙権年齢や民法の成人年齢とそろえる「国法上の統一性や分かりやすさ」を重視したものとされています。

 その後、政府は民法の成人年齢を18歳にする2022年に合わせた少年法の年齢引き下げを視野に2017年2月に法制審に諮問していましたが、与党内でも公明党の強い反発にあい、与党間協議も年末の段階で事実上打ち切りになっていたということです。

 学校におけるいじめ事件や暴力事件の報道は後を絶たず、若い親たちによる乳幼児の虐待や未成年の特殊詐欺事件への関与なども伝えられる昨今、「少年にも厳罰を持って臨むべき」とする犯罪被害者らの声も判らないではありません。

 しかし、子供の数の減少と共に(少なくとも統計上は)少年犯罪自体が沈静化しているとされる昨今、このタイミングで少年法引き下げを議論する意味はどこにあるのか。

 2月23日の日本経済新聞では、「迷走する少年法改正議論、年齢引き下げに大義はあるか」と題する記事を掲載し、少年法適用年齢の引き下げ問題を取り上げています。

 少年による犯罪は凶悪化し一向に減らない…確かに(いわゆる)「居酒屋談義」などではこんな言葉がよく聞かれる。実際、5年前の内閣府の世論調査でも、8割近い人が「少年による重大事件は増えた」と答えたと、記事はその冒頭に記しています。

 しかし、実態はそのまったく逆で、2018年に刑法などに触れる罪で摘発された少年は2万3489人で戦後最少を記録した。15年連続して前年を下回り10年間で4分の1になったばかりか、殺人などの凶悪犯罪も半数以下に減っているというのが記事の指摘するところです。

 「少年法は少年を甘やかしている」という人も多い。しかし、これも正しいとは言えないというのが記事の認識です。

 罪を犯した少年は(基本的に全員が)家庭裁判所に送られる。ここで一人ひとりの成育環境や犯行の背景などが詳細に調査され、少年院送致や保護観察といった保護処分が決められることになる。

 こうした丁寧な手続きがあるからこそ、少年院を出た人は、刑務所を出た人よりも再入所する率は低いと記事はしています。

 もちろん、故意で人を死なせたような場合は家裁から送り返され、検察官の判断で成人と同じ裁判を受け刑事処分が下ることになる。18歳以上であれば死刑判決もありうるということです。

 さて、このような中で選挙年齢が18歳以上に引き下げられ、民法の成人年齢も同様に引き下げが決まった。だから「少年法も同じように」…という自民党の提言をきっかけに、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満へと引き下げようという議論が始まったと記事は経緯を説明しています。

 当然だが、法制審議会は冒頭の「居酒屋談議」とは違う。専門家の間では、処罰より更生を重視する現行少年法が機能していることは共通認識といっていいというのが記事の見解です。

 年齢を引き下げて18、19歳を少年法の対象から単純に外せば、成人と同じ刑事手続きに移る。そうすると成人のように全体の6割ほどが起訴猶予や不起訴となり、年間数千人が刑事責任も問われず教育もされないまま社会に戻ることになるということです。

 その手当てをどうするのか、3年を経ても議論はまとまらなかったこの問題に対し、法務省は昨年末、「18、19歳は少年法の対象から外すが、外した後もすべて家裁に送致する」という現行制度と似た案を選択肢として提示したと記事はしています。

 こうなると何のために引き下げるのかよく分からず、「改正するための改正」の感は否めない。そもそも、投票可能な年齢と非行少年の処遇を比べても意味がないのは、確かに誰にでもわかる事ではないかと記事は言います。

 引き下げありきの議論は、少年の更生に向き合う各地の職員やボランティアたちの誇りや、やる気を傷つけてはいまいか。法務省の「身内」であるはずの元少年院の院長や、家裁の元調査官らから異例の反対声明が相次いだのも無理からぬことに思えるということです。

 少年の育成は社会の責任との立場に立つ少年法は、あくまで未熟な少年の保護更生を一義的な目的とした法律であり、少年が犯罪を行った原因や背景を汲み取ることを重視しています。

 そして、事件の状況や子供の発達状況に合わせて扱いを変え、その子供を罰することよりも、その子が反省して立ち直るための配慮や手続きを規定している法律と言えるでしょう。

 加害少年の多くは虐待経験など成育環境に問題を抱えていると、筆者は記事の最後に記しています。そうしたことを考えれば、賛否の対立を引きずったまま立ち直りに重点を置く対象をあえて狭めることに「大義」はあるだろうかとこの論考を結ぶ記事の指摘を、私もしっかり受け止める必要があると感じたところです。



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