MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2067 「オミクロン株」にどう対峙すべきか

2022年01月18日 | 社会・経済


 「第6波」と称される急激な感染拡大期を迎え、世界の新型コロナウイルスのほとんどが「オミクロン株」と呼ばれる(感染力の強い変異種に)置き換わった様子です。こうして頻繁に姿を変える新型コロナウイルスに、我々はこの先どのように対峙していくべきなのか。1月14日の日本経済新聞(Online版)に、同紙編集員の矢野寿彦(やの・ひさひこ)氏が「対オミクロン、『2類相当』で大丈夫か」と題する論考記事を掲載しているので、参考までに小欄で紹介しておきたいと思います。

 感染者が倍々の勢いで増えていくオミクロン株の流入に伴い、新型コロナも毎冬流行する季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げるべきだとの議論がかまびすしいと氏は言います。それでは、(2類から5類に)分類を変更すると、一体何が変わるというのか。

 「5類」への移行は、(端的に言えば)社会としてウイルスのまん延を容認し、感染を抑え込まず成り行きに任せていくことを意味すると矢野氏はこの論考に綴っています。まず、できるだけ多くの感染者を見つけたり、クラスター対策と称しウイルスの居場所探しに注力したりする必要がなくなる。保健所や行政の負担は一気に軽くなるが、(もちろん)その結果として感染状況の実態を把握しづらくなるというのが氏の示唆するところです。

 これにより、対策の主役は保健所を中心とした「公衆衛生」から、診療所やクリニック、病院が担う「医療」に代わると氏は言います。熱がある、咳がひどいといったいわゆる「風邪」の症状が出た人は、まず近くのかかりつけ医に行って診断してもらう。新型コロナの疑いがあればPCR検査を実施して医師が診断を下すが、(感染が分かっても)入院を勧めるのは肺炎などの重い症状を併発している場合に限られるようになるということです。

 さらに「5類相当」となれば、(新たな特例措置などを考えない限り)、コロナ医療費は現状のように全額無料というわけにはいかなくなると氏はしています。PCR検査も自己負担。ようやく誓えるようになった海外製の飲み薬の薬代はおよそ8万円で、3割負担としても検査費用も含めて相当な治療費を患者一人一人が支払わなければならなくなるということです。

 今のところ、オミクロン株はその強い感染性とは対照的に重症化を引き起こす病原性は低いとみられている。だとすれば、病原性を考慮した感染症法の分類は、「2類ではおかしい」というのも理にかなっていると氏は話しています。しかし、科学的観点からオミクロン型の病原性の度合いに決着をつけるには、もうしばらく時間がかかるだろう。社会としての重症化リスクは「感染者数」と「重症化率」の積で導かれるため、感染者のオーバーシュートの黙認は、政策変更としては相当なリスクを覚悟しなければならないというのが氏の認識です。

 さて、昨年9月末に緊急事態宣言が解除されてから3カ月。この間、日本は不思議なほど感染が収まっていた。思えばこの時期、なぜ政治も行政も専門家も「2類か5類かの問題」についてきちんと議論しておかなかったのかと、氏はここで疑問を呈しています。流行真っただ中で対策の根幹を変えるのは、「ゴールポスト」を動かすようなもので、新たな混乱を招くため現実性には乏しい。そうした中で今、私たちは現実的にどのような体制がとれるのか。

 まずは保健所の負担を減らすため、積極的疫学調査や濃厚接触者の洗い出しをやめてはどうか。市中感染があたり前の現況では、他の対策の目詰まりになってしまうだけだと氏はこの論考で提案しています。そして、無症状や軽症者は自宅療養へと変更したのだから、(保健所が中心となって)こうした人たちへの健康観察に注力する。症状が急変すれば、地域の診療所の医師などが必要な医療を届ける。これから先は、日本の保健・医療では苦手とされる保健所と診療所との「保診連携」が試される局面だというのが氏の見解です。

 オミクロン型の猛威が、まもなく2年となるパンデミックの「終わりの始まり」かどうかはまだ見通せない。しかし、いずれ新型コロナはインフルエンザのようなエンデミック(一定期間で繰り返される流行)へ移行していくというのが、多くの専門家の見立てだと氏は言います。日本のコロナ対策も「感染抑制」から抜け出し「早期発見・早期治療」へと移行する時期が迫っているのは間違いない。で、あれば、今は「2類」か「5類」かのルールに縛られている場合ではないというのが氏の指摘するところです。

 確かに、感染症の「枠組み」はコロナ以前の社会において整理されたものであり、アンダーコロナ、ポストコロナの社会では(それに縛られず)もっと自由な仕組みや対応を、一から構築していく必要があるのでしょう。(疫学調査や濃厚接触者の確認の要・不要は別にしても)まずは、社会的、経済的機能へのダメージを最小限に抑えつつ、救える命を1人でも多く助けることが大切なのは言うまでもありません。

 2類、5類という従来の枠組みにとらわれず、必要な対応を合理的に選択できるようにすればよいのではないか。(今こそ)海外での先行事例や最新の科学的知見を活用し、感染力の強いオミクロン型に応じた対応にシフトする必要があるとこの論考を結ぶ矢野氏の指摘を、私も共感をもって受け止めたところです。


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