国立がん研究センターの「がん登録・統計」によれば、2013年に国内で新たにがんに罹患した人は862,452例(男性498,720例、女性363,732例)、人口10万人当たり男性で805.6人、女性で556.3人に上っています。
現在でも日本人の2人に1人は死ぬまでに1度はがんに罹るとされており、高齢化が進む日本では、がんは既に非常にポピュラーな病気と言えるでしょう。
一方、がんは1981年から常に日本人の死因のトップであり続け、2015年に国内でがんで死亡した人は370,346人(男性219,508人、女性150,838人)で、全死因の28%、病死の約3分の1を占めています。
また、医療技術や検診技術の進歩により、がんに罹患した人の年齢調整死亡率(高齢化などを考慮し年齢で補正をした死亡率)は年々減少傾向にあるとされるものの、その死亡数は年々増加しており、10万人あたりの死亡者数は米国の約1・7倍に及ぶとのデータもあります。
こうしたことから、日本のがん対策についてはOECDの「Health at a Glance 2015」でも「強化する余地がある」と見られており、がん治療の質と成果を定期的にモニタリングする取組と検診を更に促進する必要を指摘されているところです。
このように現在の日本の医療において喫緊かつ最大の課題となっている「がん対策」の現状と課題について、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏がJR系の総合情報サイトの「Wedge」にわかりやすくまとめている(「日本のがん対策の現状」2017.10.19)ので、備忘の意味でここにその内容を整理しておきたいと思います。
2006年に制定された「がん対策基本法」において、がん対策の要の一つとして位置付けられているのが「がん検診」で、がんによる死亡率を下げるためのコアな対策として積極的に推進されてきたと勝俣氏はこの論評で説明しています。
さて、このがん検診について、WHOが推奨しているのは、乳がん、大腸がん、子宮頸がんの3つで、日本ではこれに(日本人の罹患率が高い)胃がん、肺がんを加えて受診の促進対策が進められてきたということです。
氏によれば、がん検診は受診率が50%を超えないと死亡率を低下させられないとされており、2007年に策定された国の基本計画でも「5年以内に50%以上」を目標にしてきたということです。しかし現実は、最新のデータの2013年になっても(多くの部位で)4割台にとどまるなど、7割を超えている欧米などと比して先進国最低クラスにあると勝俣氏は説明しています。
その理由について勝俣氏は、英国や豪州では国をあげて検診推進・精度管理に取り組んでいるのに対し、日本では検診の管理は市区町村にまかせきりにしてしまっているところにあるとしています。規模も財政力も様々な市町村で、一定のレベルでがん検診の受診管理・精度管理を行うのは難しいということです。
さらに、受診率を上げていく際には「検診による過剰診断・過剰治療」について十分考慮していかなくてはならないと勝俣氏は指摘しています。
がんは、単に早期発見すればよいというものではないと勝俣氏は言います。前述の5つのがんについては、検診は(一定程度)有効性が確認されているが、中には「検診に向かないがん」もあるということです。
それは増殖スピードが極めて速いがんやまたは増殖スピードが極めて遅いがんであり、検診で見つかるような段階ではすでに手遅れであったり、見つけても治療の必要性が判断し辛い(従って過剰に治療されてしまう)がんも多いと氏はしています。
増殖スピードが極めて速いがんの代表は、血液腫瘍に代表される白血病などであり、増殖スピードが極めて遅いがんの代表は、甲状腺がんや前立腺がんなどがある。検診に際しては、部位によって(このような)メリット、デメリットがあることをよく理解して推進していくことが必要だというのが、がん検診の現状に関する勝俣氏の認識です。
実際、このようながん検診に対する評価(の不安定さ)は、多くのがん専門家の間でもはや「常識」として認識されているようです。
7月16日のPRESIDENT on lineでは、国立がん研究センター検診研究部長の斎藤博氏が、検査の精度が高く発見率が高くても、必ずしも死亡率が下げられるわけではないと改めて指摘しています。
例えば、前立腺がんのスクリーニング検査として広く行われている「PSA検査」(タンパク質の一種PSAの血中値を調べる)。採血による簡単な検査でがん発見率が高いために一般には「いい検診法」と見られているが、効果はあるとしても小さく不利益の方が大きいと斎藤氏は説明しています。
また、肺がん検診として広く用いられている胸部X線検査は、映像を読み取る医師のスキル確保や精度管理が難しく、早期がんの見逃しリスクが高いということです。
さらに、乳がん検診のマンモグラフィについても、乳がん発症のピークが60代にある米国では50~74歳の検診を推奨しており、40代は不利益が上回るとして推奨はされていないということです。
その理由は、マンモグラフィは乳腺濃度が高い「若い乳房」においては小さいがんを見逃してしまうリスクが高いということ。乳腺組織の白い影にがん塊の影が紛れてしまうためエコー検査との併用が求められるが、検査技術的には未だ確立されていないということです。
こうして見ていくと、やはりがん検診は単純に「受ければよい」「見つかればよい」というものでもないようです。
一般的に、早期発見できればそれだけ生存率が高いとの信憑があるがん検診ですが、そこにも「検診の効果に対する(受ける側の)理解」や「検診の質」確保といった様々な課題がある事を、私もこうした指摘から改めて認識した次第です。
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