MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯988 「顔を刷る」

2018年02月07日 | 社会・経済


 中国の小売店に無人化の波が押し寄せているとの報道が、12月27日の日本経済新聞にありました。

 中国ではスマートフォンによる決済の普及を背景に、大都市域などを中心に店員のいないコンビニエンスストアが相次いで開業。大手資本などが参入し、爆発的に広がる兆しを見せているということです。

 人件費の高騰やネット通販の台頭で苦戦が予想される小売販売業界ですが、こうした無人化の動きが巻き返しにつながるとの期待される半面で、利便性の確保や技術的な欠陥の解消など(少なくとも日本国内における)普及に関しては、未だ課題も大きいと言わざるを得ません。

 記事によれば、中国における「無人化」の広がりの背景には、リアルの小売店が(ネット販売などに押されて)顧客減に直面している現実があるということです。

 家賃や人件費の高騰で収益率が下がる中、省スペースなうえ人件費が抑えられる無人の小売店については、顧客がレジに並ぶストレスも少なく偽札をつかむリスクも少ないなどのメリットが注目されているとされています。

 特に中国では、もともと小売店のサービスの質が高くないこともあって、消費者は買い物に「利便性」や「合理性」を求める傾向が強いと記事はしています。既にネット決済への意識的なハードルは低く、今後、日本や欧米以上のスピードでこうした無人店舗が増殖していくことは(恐らく)間違いないだろうということです。

 中国の調査会社の試算では、2017年における中国の無人小売店の市場規模は概ね100億元(1700億円)とされていますが、今後、いくつかの技術的課題が(一定程度)解決されれば、5年後の2022年には約100倍の9500億元まで成長すると予想されているということです。

 調査によれば、(中国の)無人コンビニの利用者の7割が「満足している」と回答しているということですが、不満と答えた人はその理由として「商品数が少ない(83%)」、「商品の破損や品質の悪さ(22%)」などを挙げているとしています。

 一方、特に経営サイドからの課題としては、万引きや異物混入などの違法行為違法行為への対策が挙げられるのは言うまでもありません。当然、各店舗には防犯カメラなどは設置されていますが、万全の対策というにはまだまだ心もとない状況にあることも事実のようです。

 そうした中、12月20日の同紙には、(こうした問題に関する)上海支局の記者による興味深いレポートが掲載されています。

 記事によれば、上海支局の近くにも、新たに無人のコンビニができたということです。レジはなく、来店客は自分のスマホで商品のバーコードを読み取り、電子決済して店を出るスタイルだということです。

 (善意の)利用者としては便利なことは便利だけれど、商品が盗まれる心配はないのかと記者が尋ねたところ、返ってきたのは「顔を刷っているから大丈夫」との返事だったと記事はしています。

 何でも、この「顔を刷る(打印一张脸)」というのは中国の都市部で最近用いられるようになった新語で、監視カメラの映像を「顔認証」しているという意味とのこと。

 顔を中心とした監視カメラの画像が公安当局に送られ、ビッグデーターから特定された窃盗犯は直ちにスマホ決済などのサービスを絶たれるから大丈夫との解説だったということです。

 確かに、今の中国ではスマホが無いと生きてはいけないと記者は言います。つまり、(スマホを止められることの)恐怖が犯罪の抑制に有効に作用しているしているということになりますが、本当に正式な捜査の手続も経ずにスマホの決済サービスが(当局の任意で)止められるとすれば、それはそれで怖いものがあるのも事実です。

 実際、顔認証技術の進む中国では、カードやスマホすらなくても「顔認証」だけで支払ができる決済サービスや、入り口のドアを開場できる(まさに「顔パス」の)セキュリティシステムなどが開発されつつあるということです。

 さらに、中国当局は現在、国を挙げて全人民約13億8000万人の社会的・経済的な信用度を評価する「ソーシャル・クレジット・システム(社会的信用システム)」の構築に取り組んでいるとの話も聞きます。

 計画では、3年後の2020年までに軽微な交通違反を含む全人民の全個人情報をデータベースで管理するシステムを完成させるということですが、これが「顔認証」と紐づけされれば、監視カメラに顔を写されただけで、個人の行動や情報の全てが当局に明らかにされてしまう社会が現実のものになります。

 例えば貴州省の貴陽市では、全市民の顔写真をデータベース化しており辻々に設置された監視カメラにより市民の一人一人が今どこで何をしているかが特定できる、徹底した監視活動が(既に)可能になっているという報道もありました。

 こうして考えれば、このようなシステムが現実のものとなった中国では、もはや店舗が無人であろうがなかろうが、(お面でもかぶっていない限り)犯罪も含めた反社会的行動をとること自体が不可能になると言えるかもしれません。

 それが国民にとって幸せなことかどうかは判りませんが、中国において、(当局による)絶対的な管理社会の構築に向けた壮大な実験が今まさに始まろうとしていることだけは、(どうやら)紛れもない事実のようです。




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