MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2366 少子化対策に必要な視点

2023年02月19日 | 社会・経済

 岸田文雄首相は1月23日、衆参両院の本会議で施政方針演説を行い、急激な少子化に危機感を訴え「次元の異なる対策」を実現すると決意表明を行いました。

 昨年(2022年)に国内で生まれた子どもの数は、統計開始以来最も少ない80万人を下回ることが確実視されており、わずか7年の間に概ね2割もの減少を見ています。こうした現状に対し、岸田首相は施政方針演説で「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」と危機感を訴え、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と話しています。

 もっとも、この日本における少子化の動きは、昨日今日に始まった話ではありません。日本の15歳未満の「年少人口数」は1982年から2022年までの41年間連続して減少しており、全人口に占める比率(年少人口比率)に至っては1975年から実に48年間低下し続けています。

 もちろん、歴代政権も法律や計画を整えてきましたが事態は一向に改善されることなく、むしろ悪化し続けてきたと言っても過言ではないでしょう。

 実際、若い世代の結婚や出産への意欲が大きく低下している現実は、様々な調査からも明らかです。国立社会保障・人口問題研究所の2021年「出生動向基本調査」によると、未婚の男女(18~34歳)のうち「いずれ結婚するつもり」という人は、男性で81.4%、女性が84.3%と、過去最低。結婚意向のある女性が希望する子ども数の平均も、15年の前回から0.23人も減少し、1.79人と初めて2を割り込んでいます(因みに男性では1.82人)。

 「希望出生数」ですら(人口の維持に必要とされる)2.07を下回っているのですから、「2030~40年頃に出生率が2.07まで回復し、人口減少に歯止めがかかる」とする政府目標が達成される見込みはほとんどありません。

 家族を持つかどうかはもちろん個人の選択ですが、若者を後ろ向きにさせる環境要因があるとすれば、それを取り除くのはやはり政府の役割と言えるでしょう。もとより、そうした中で打ち出された「異次元の少子化対策」について、政府は(本当に)「後がない」覚悟で臨む必要があるでしょう。

 こうした状況を受け、1月24日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、『少子化対策を異次元にするには』と題する一文が掲載されていたので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 年頭に、岸田文雄首相と小池百合子都知事が共に少子化対策を打ち出した。その背景には、出生数が1973年の209万人から減少を続け、政府の想定から11年も早く、22年に77万人台になったとの推計があると筆者はこのコラムに記しています。

 なぜ、少子化傾向がここまで進んでしまったのか。その答えは2022年11月22日の本紙記事「縮小ニッポン 私たちの本音」にあると筆者はしています。

 記事によれば、「子供はいた方がよいと思いますか」との問いに、「そう思う」と答えた20代女性は実に全体の20%以下。「子供が減っている理由は何だと思いますか」との問いには、「家計に余裕がない」「出産・育児の負担」「仕事と育児の両立難」といった答えが上位を占めたということです。

 岸田政権の「異次元の少子化対策」では、(1)児童手当などの経済的支援の強化、(2)学童保育や病児保育・産後ケアなどの支援拡充、(3)働き方改革の推進…の3本柱を用意している。だが、この対策は「既婚家庭」のみに焦点を当てており、その層だけに財政支援をするようにみえるというのが筆者の認識です。

 一方、同(11月22日の)記事では、「結婚はした方がよいと思いますか」との問いに対し、30代女性のわずか9%しか「そう思う」と回答していないと筆者は言います。そもそも若い女性の多くが結婚生活に魅力やメリットを感じていない。さらに、「結婚が減っている理由」では、「若年層の低賃金」「将来の賃上げ期待がない」「出会いがない」などが上位を占めているということです。

 2020年5月29日に閣議決定された「少子化社会対策大綱」は、「国民が結婚、妊娠・出産、子育てに希望を見いだせるとともに…希望できる時期に結婚でき、かつ、希望するタイミングで希望する数の子供を持てる社会をつくる」とし、政府として結婚も含めた対策を講じることを示している。低出生率の原因は、既婚者が子供を持つのを躊躇することだけにあるわけではないのだから、若者が新しい家庭を持つことに前向きになれる環境づくりが(併せて)必要だと筆者は考えています。

 結婚に踏み切ろうとする若者の背中を押すには、まずは(非正規労働に従事する若者も含め)将来の生活への安心感を取り戻すことが必要となる。また、20代、30代の若い世代の、結婚観や嫡出子のあり方を含む家族制度に関する意識変化を踏まえることも欠かせないというのが、このコラムで筆者の指摘するところです。

 パートナーとの新しい暮らしに踏み切るためには、(子どもも含めた)家族との生活を楽しめる環境になっているか、子供のいる楽しい暮らしがイメージできるかどうかがカギを握っているということでしょうか。

 筆者によれば、前述の「縮小ニッポン」では、「親世代に比べて経済的に豊かになれる(なった)と思いますか」との問いに、20代、30代の「そう思う」との回答は僅かに5%以下だったということです。

 自分たちの未来に対し悲観的な目を持つそうした世代に、私たちは将来設計への夢を与えることができるか。それが、岸田政権の少子化対策が本当に「異次元」のものになるかの試金石となるとこのコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も重く受け止めたところです。



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