MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2106 「ふるさと納税」はやっぱりおかしい

2022年03月07日 | 社会・経済


 今年も確定申告の時期を迎え、ふるさと納税を活用して各地からおいしいものなどをお取り寄せした人たちの中には、ぼちぼち申告手続きを始めた人などもいるかもしれません。

 ふるさと納税は、住んでいる自治体以外に寄付すると、税金の還付や控除が受けられる仕組みです。総務省のホームページには「ふるさと納税は、自分の選んだ自治体に寄附(ふるさと納税)を行った場合に、寄附額のうち2,000円を越える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です。」と説明されています。

 ふるさと納税の利用は、その「お得感」から制度創設以来増加傾向が続いており、総務省のまとめでは2020年度の実績は約6725億円に及び、コロナ下の自粛生活の影響もあって前年度比1.4倍に上っているとされています。コロナで旅行にも行けないし、外でおいしい食事もできない。ならばここは一番、普段は買えないような牛肉やカニでも「ふるさと納税」で取り寄せようか…といったところでしょうか。

 思い返せば安倍晋三総理大臣の下、総務大臣、官房長官などとして辣腕を振るった菅義偉氏が、「自らの政策」として特に力を入れたのがこの「ふるさと納税」でした。総務省を中心とした官僚たちの強い反対の声を押し切って、制度導入が決定されてからもうすぐ15年。「ふるさと納税」は既に「そこにある制度」として、人々の間に(何の疑問もなく)受け入れられている観があります。
 一方、私自身は同制度について、小欄でも幾度となく(「#1225 ふるさと納税の欺瞞」「#1232 ふるさと納税の過ち」など)その問題点を指摘してきました。しかし、国民の間にこれだけ定着してしまっては、もはや誰も疑問に思わなくなっているのではないかと感じていたところ、2月26日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に「ふるさと納税は非効率な錯覚」と題する一文が掲載されているのを見て、改めて意を強くしたところです。

 個人が選んだ自治体に一定額を寄付すると、2千円の負担だけで、寄付した分だけ居住地の住民税や所得税が免除され、寄付額の最大3割に当たる返礼品がもらえるというふるさと納税制度も、発足から14年が過ぎ、国民に定着した感があると筆者ははこのコラムに綴っています。

 しかし、よく考えてみてほしい。たとえば、東京都民が1万円をどこかに寄付すれば、市価3千円の高級牛肉を受け取れるが、代わりに都が都民に提供する公共サービスは1万円分減ってしまうことになる。それはとりもなおさず、都が財政資金から1万円を出してたった3千円相当の高級牛肉をどこかの自治体から買い、都民に配るのと同じこと。こんな政策なら都民は大反対するだろうというのが、筆者の指摘するところです。

 こんな(ごまかしのような)政策でも、個人が行えばなぜか得に思える。その理由は、公共サービスが持つ「共有地の悲劇」と呼ばれる特質に由来すると、氏はこのコラムで説明しています。その人1人が都民税の納付を1万円減らしても公共サービスが目立って減ることはなく、その一方で牛肉は確実に(その人の)手に入る。しかし、皆がこれを行えば、公共サービスは実際に1人1万円分減ってしまうということです。

 ふるさと納税の本来の趣旨は、豊かな都会の税収を財源の乏しい地方に振り向け、活動を応援するというもの。都会の住民がそれに共鳴し、自分が受ける公共サービスを減らしてでも応援したいというなら、納得がいくと筆者は話しています。

 それならば、選択基準は各地方の提示する使い道の中身のはずだが、現実には、返礼品の中身で選ばれている。もちろん「返礼品の配布は消費刺激につながる」という見方もあるが、(高級牛肉をいつも買うわけではなくても)日ごろの牛肉購入はその分減るので、需要増加分は牛肉の質の差分だけ。その他、人気返礼品の上位にはティッシュ、トイレットペーパー、米など日用品まで並んでいるが、これなら、地元のスーパーで買う分がそっくり返礼品に置き換わるだけなので、需要増加には繋がらないというのが筆者の見解です。

 個人が本当に地方を応援したいなら、返礼品や税控除などは期待せず、純粋に寄付すればよい。また、政府が大局的な視点から地方への再分配を増やしたいなら、所得税や法人税、消費税など国税を引き上げ、地方交付税による分配金を増やせばよいと筆者は話しています。

 そうすれば、集めた金額を返礼品分の減額なしにそのまま地方に回すことができる。結局、ふるさと納税とは、政府が本来の趣旨説明を避け、国民に得だと「錯覚」させて効率の悪い再分配をする(ごまかしの)制度なのだと厳しく指摘するこのコラムの主張を、私も(ある意味)気持ちよく読ませてもらったところです。



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