MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2526 日本の医療を巡る構造的な問題

2024年01月08日 | 医療

 財務省と日本医師会の間で様々な議論が繰り返されていた2024年度の診療報酬を巡る問題。(鈴木俊一財務相と武見敬三厚生労働相の閣僚折衝を経て)医療従事者の人件費などに充てられる「本体」を0.88%引き上げる一方で医薬品の公定価格の「薬価」を引き下げ、全体で0.12%のマイナス改定で決着を見たようです。

 引き上げの内訳は、医療従事者の賃上げに0.89%程度、医療の質の向上などに0.18%、さらに入院患者の食費の引き上げに0.06%をあてる一方で、生活習慣病への加算を見直すなど報酬の適正化で0.25%引き下げるとのこと。賃上げについては、看護師などの「コメディカル」にほか、40歳未満の勤務医なども対象となるとされています。

 結果、5%以上の引き下げ余地があるとして議論に望んだ財務省に対し、医師会側がその政治力で一方的に寄り切る形で終りましたが、積みあがる医療費と国民の保険料負担を考えれば、診療報酬の在り方自体「これでよかった」とはなかなか言えない現状も見えてきます。

 12月21日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」に、南日本ヘルスリサーチラボ代表で医師の森田洋之氏が、『やっぱり日本の医療は「儲けすぎ」である…現役医師が「医療はもっと身を切る改革に挑むべき」というワケ』と題する(結構)ストレートな内容の論考を寄せていたので、参考までに一部を小欄に残しておきたいと思います。

 「儲けすぎ」などと揶揄されることの多い医療だが、実はほとんどの医療行為の対価(診療報酬)は医療機関が自由に決めることが出来ない。それは、それぞれの医療行為ごとに一定の診療報酬価格が国で定められているからだと、森田氏はこの論考の冒頭に記しています。

 その診療報酬は2年に一度改定されることになっており、来年がその改定時期なのだが、今回はなんと(医療機関は儲けすぎだとして)財務省が5.5%もの引き下げを要請した。勿論、これを受けて医師会や医療業界は猛反発。「コロナ診療で踏ん張ってきた医療業界にムチを打つのか?」「現在でも医療機関は限界。つぶれる病院も出てくる」など、批判が相次いだということです。

 一方、(皆が知るように)国の医療費はうなぎ上り。それを支えるのは国民が負担する社会保険料や税金なのだが、当然ながらそちらも増額の一途をたどっている。しかしそれでも、個人としては、少なくとも診療報酬改定にはそんなに大きな意味はないと考えていると氏はこの論考で話しています。

 あまり知られていないが、日本は人口あたりの病床数も、病院受診数も世界のトップである。日本人は、人口あたりアメリカ人の5倍入院し、3倍外来受診している。簡単に言えば、入院でも外来でも、日本人は先進国の数倍、すなわち「世界一の量」の医療を受けていると氏は言います。

 勿論、日本人はそんなに大量の医療に頼らなければならないほど不健康なのかと言えば、そんなことがあるはずもない。日本人は肥満率も低いし、食事も健康的。平均寿命も世界トップレベルを維持し続けているが、それにもかかわらず必要以上の医療を受けているのが現実だということです。

 それでは、なぜこんな事になっているのか?そこには医療の世界ならではの2つの理由があると氏は説明しています。

 入院や外来受診頻度の決定権は多くの場合「医師の側」にある。つまり、医療というサービス商品は、どれだけ売るか、を「売る側」が決めている商品だというのが氏の認識です。

 一般的な商品であれば、そこで経済的要因がブレーキになる。いくら売り手にすすめられても、価格が高ければ消費者側は躊躇するのが普通だが、医療の世界ではその機能はほぼ役に立たないと氏は言います。

 なぜならそこには、「健康保険」という大きな補助があるから。特に高齢者の場合、自己負担は(たったの)1割しかない。例えて言うなら、これは5000円のフランス料理を500円で食べられるようなもの。しかも、そのフランス料理を食べる頻度は、あろうことかフランス料理店が決めているようなものだということです。

 特に、今の日本で行われている医療の大半は、高齢者を対象とした「慢性期医療」によって占められている。血圧・糖尿・コレステロールの管理が本当にそこまで必要なのか疑問だが、現状、多くの患者がこれを理由に毎月受診するよう指示されていると氏は話しています。言うなれば、これぞまさに「サブスク医療」そのもの。そこでは「売りたい放題」の世界観が蔓延しているというのが氏の指摘するところです。

 世界から見ると、日本人の外来受診数と入院数は異常なほどに多い。あまりに多すぎて、OECDの統計担当がにわかには信じられず、一時OECDの統計から外されたほどの「異常値」だと氏は話しています。

 これほどまでにガラパゴス化してしまった日本の医療の実態があるのに、日本人のほとんどがそれを認識していない。日本人は病院が経営のために広告まで使って患者を集めることに何の違和感も感じていないが、それは世界標準ではありえない話だということです。

 留置場を満員にしないと経営が成り立たないから…と言って犯罪者を作り出す警察があったら恐ろしい話だが、医療では同じようなことが何の疑問もなく続けられている。それも(あたかも)市民のためと言わんばかりの善人面で行われていると、氏は厳しく指摘しています。

 必要なのは、このガラパゴスの実態を知り、国民全体で問題意識を共有すること。診療報酬の上下や、それに対する医師会などの各業界団体の反応といった、表面的なニュースが世間をにぎわしているが、こうした医療システムの根本的課題をしっかり捉えてゆくことこそが、本当の課題解決に向かう道だと話す森田氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。



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