MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2472 高齢になると薬の量が増えるワケ

2023年09月27日 | 医療

 厚生労働省のデータによると、令和2年度の国民医療費は42兆9,665億円、国民一人当たりに直すと34万600円とのことです。前年度の国民医療費44兆3,895億円に比べ1兆4,230億円の減少、一人当たりでは35万1,800円に比べ1万1,200円減ったとされています。

 減少率は3.2%で、統計開始の1954年度以来最大とのこと。実はこの数字、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大による受診控えが影響しているとされ、厚労省は2021年度は受診控えの反動もあって大幅に増えると予想しています。

 医療費の状況を年代別に見ると、65歳以上が26兆4315億円で全体の61.5%を占め、1人当たりに直すと73万3700円になる計算です。さらにこの金額は75歳以上では90万2,000円に跳ね上がり、高齢者になればなるほどかかる医療費も高くなる状況が見て取れます。

 そう言えば、齢90歳を超え未だ矍鑠(かくしゃく)としている私の母も、定期的に通院するクリニックで処方される薬の量には毎回辟易としている様子。胃腸薬や湿布薬、血圧のクスリから睡眠薬、目薬に至るまで、これだけでお腹一杯になってしまうのではないかという量を(ほぼ毎食後)服用させられている様子です。

 本人も主治医には「いつお迎えが来ても…」と言っているようですが、主治医としても患者から「あそこが痛い」「なかなか眠れない」などといわれれば、症状を緩和するための薬を(何か)処方しないわけにはいかないのでしょう。

 そして、そうした結果、国民医療費はどんどん増えてく。「団塊の世代」(1947~1949年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となる2025年には、国民の実に5人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎える日本で、積みあがる医療費の削減は待ったなしの課題と言えるでしょう。

 そんなことを考えていた折、8月28日の「PRESIDENT Online」が、医師で作家の和田秀樹氏の近著『65歳から始める和田式心の若返り』(幻冬舎)の一部を紹介していたので、参考までに小欄にもその概要を残しておきたいと思います。(「この質問をしないと病院で薬漬けにされる…和田秀樹「患者が医師に聞くべき"キラークエスチョン"」2023.8.28)

 65歳を過ぎると、誰だって調子の悪いところが1つ2つと増えてくる。それが「老いる」ということであり、生きている証だと和田氏はこの著書に綴っています。

 ところが、医療では病気を薬の力で抑え込もうとする。オーストラリアでの調査では、全入院患者の3%前後が薬の服用に起因した入院で、高年の患者ではその比率がさらに高くなり15~20%に達していると氏は言います。つまり、いわゆる「薬の飲みすぎ」で、(入院を要す)重篤な状態になる人がこんなにもいるということです。

 薬を処方しすぎる薬大国・日本では、その比率はもっと(はるかに)高いと見て間違いないというのが氏の見解です。実際、それによって患者さんの健康を害することが起こっている。薬の数が増えれば、必然的に副作用も多くなるのは当然のこと。ちなみに高年者の場合、薬の数が6種類以上になると副作用が増えるということです。

 「最近、頭がボーッとするし、寝込むことが多い」と思っていたら、多剤服用による副作用だったケースも珍しくないと氏は言います。認知症と間違われたり、足元がふらついて転倒し、寝たきりになったりすることも(しばしば)起こっているということです。

 では、なぜ、日本の医師は薬を多く出しすぎるのか。その最大の理由は、「医療の専門分化」にあると氏はここで指摘しています。

 日本の医療界では、ある時期から医学教育の専門化が急激に進んだ。たとえば、現在の大学病院には内科という診療科はなく、呼吸器内科、内分泌器内科、消化器内科、循環器内科というように、臓器別の診療科が並んでいると氏は言います。

 日本の医学教育には、オールマイティに患者さんを診られる総合医を育てる教育システムがほとんどなく、専門医はほかの領域に関して詳しい知識がほぼないと言ってよい。このため、大学病院などの大きな病院を受診すると、1つ調子が悪いところが現れると、各診療科でそれぞれ薬が処方されるというのが氏の認識です。

 調子の悪い箇所が1つ、2つと増えていけば、そのたびに新たな薬が追加されていく。このため、大病院にかかると、高年者は薬漬けになりやすいということです。

 では、開業医のところに行けば「多剤服用」の問題は避けられるのか。例えば内科クリニックの医師の場合も、もともとは大学病院や大きな病院で特定の臓器だけを診てきた医師がほとんどだと、氏は内情を話しています。

 医学部で基本的な知識は学んでいるため、(普通の医師であれば)専門外の患者さんを診ることはできる。ただし、こうした医師は専門外の疾患に対して、医療マニュアルに頼らざるを得ないと氏はしています。

 標準治療を示すマニュアルには、1つの疾患に対して2~3種類の薬が推奨されている。そのため、薬についてしっかりと勉強していない医師を受診すると、不調の数とともに、薬の数も増えやすくなるということです。

 「毒を以(も)って毒を制す」…これは薬の本質を示す言葉だと氏は話しています。薬物治療とは、病気という毒を、薬という名の毒を使って抑え込むもの。もちろん薬は、(毒であるがゆえに)病気以外の場所にも作用すると氏は言います。たとえ1つの病気を抑えられても作用は他所にも及び、意図する反応とは異なる症状を生み出す。これが「副作用」だということです。

 なので、自分が何か薬を飲むとしたら、必ず副作用を確認しておきたいと氏はしています。薬が処方される際、効能の話はあっても、副作用の説明はされないことが大半だろう。その場合は、患者自身が(自分の身を守るため)「この薬にはどんな副作用がありますか?」と尋ねる必要があるということです。

 患者が尋ねれば、信頼に足る医師ならきちんと答えてくれるはず。無論、薬を飲み始めて体調が悪くなったと感じたときには、頑張って飲み続ける必要はないと氏は言います。

 (自分の体のことなのだから)すぐに体調の悪化を医師に相談して、服用をいったんやめればいい。一般的な薬だって、自分の体に合う・合わないは当然ある。医師としっかり相談して、(必要に応じ)別の薬に替えることが自身の健康のために必要だと話す現役臨床医としての和田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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