MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2538 人生の最期をどこで迎えるか

2024年02月04日 | 医療

 2020年の1年間に国内で亡くなった人のうち、自宅で最期を迎えた(いわゆる)「在宅死」の割合は15.7%とのこと。死亡者全体の約7割が病院のベッドの上で亡くなっており、在宅死はだいたい7人に1人程度と、思いのほか少ないことが判ります。

 一方、厚生労働省が2017年に実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、「あなたが末期がんの患者であると仮定して、どこで最期を迎えることを希望しますか?」との質問に対し、回答者の約7割(69.2%)が「自宅」と回答しています。

 その理由は、「住み慣れた場所で最期を迎えたいから」が71.9%、「最期まで自分らしく好きなように過ごしたいから」が62.5%、「家族等との時間を多くしたいから」が50.7%とのこと。多くの人が住み慣れた場所で自分らしく最期を迎えたいと考えている現実がある一方で、理想と現実との間には少なからぬギャップがあることも見て取れます。

 とは言え、見送る側の立場に立てば、(例え配偶者や親兄弟とはいえ)寝たきりになった人や認知症の人などの介護はそんなに甘いものではないのも事実です。どんな状態で、いつまで続けなければいけないのか。まるで「出口の見えないトンネル」の中にいるようだという話も、しばしば耳にするところです。

 高齢化社会の進展とともに、顕在化する介護の問題。12月21日の情報サイト『日刊ゲンダイDIGITAL』に、医師で作家の和田秀樹氏が『「在宅死」を勧める政府にダマされない 介護施設の選択が決して悪くないと言える理由』と題する論考を寄せているので、参考までに概要を残しておきたいと思います。

 介護が必要で自宅で世話をし切れないケースについては、1990年代半ばまでは入院が当たり前。「社会的入院」などと呼ばれたように、それほど重い病気がなくても(当時位は)亡くなるまでの入院が可能で、実質的な介護は病院が担ってくれていたと和田氏はこの論考に綴っています。

 しかし、そんな状況に、①高齢化の進展や②医療財政の逼迫、③不要な治療で高齢者を食い物にする悪徳病院の摘発…等々が重なって、社会的入院は医療費の無駄遣いと非難の対象になった。長期入院は保険点数が削減され、入院はなるべく短期化。さらに、「介護療養型医療施設」と呼ばれた従来型の老人病院なども、今年度末には完全廃止が決まっているということです。

 一般に、高齢者を介護施設で介護するより自宅での介護の方が医療費や介護費用は安くて済むため、公的な財政の負担は軽くなる。そこで政府は、在宅介護と在宅看取りを混同させるような「在宅死」という(曖昧な)言葉を生み出し、財政負担の軽い在宅介護の流れをつくっているというのが、現在の状況に対する氏の認識です。

 実際、そんな思惑もあって、自宅での看取りを望む人は近年の調査では約8割に上っている。そして一部では、親を介護施設に預けることが悪いことのようなムードすら醸し出されているということです。

 しかし、本当にそれでよいのか。育ててもらったことへの責任感や義理で介護を引き受けて在宅介護に向かうことは、避けるべきだと氏はここで指摘しています。

 認知症などの症状が軽いうちは何とかなっても、重症化すると責任感や感情では親を支え切れないことが多い。親の介護は、子どもひとりで抱え込めるほど甘くなく、介護離職や介護うつ、虐待、ときには殺人という最悪の結末さえも生む要因となっているということです。

 一般論で言えば、介護が大好きで、なおかつ兄弟や姉妹もいて、介護の負担を分散できるケースならまだしも、そうでなければ介護施設を利用することは決して悪くない選択だと氏はこの論考に記しています。

 配偶者や子どもを含め、家族でしっかりと話し合った上で、終の棲家としての介護施設の利用を検討すること。そしてそれが決まったら、なるべく元気なうちに、認知症なら症状が軽いうちに情報収集を丁寧に行い、体験入居をしておくことが大切だと氏はしています。

 一口に介護施設といっても、運営主体や入居条件、介護の中身、そして費用など全て異なるもの。病院で最期を迎えるのが嫌で施設を選択したのに、その中には入居者の状態が悪くなるとほぼ問答無用に精神科病院に送るケースもある。これでは本末転倒、介護施設は玉石混交なので、入所前に入念なチェックが不可欠だということです。

 本人だって、家族に迷惑をかけたり気を使ったりする位なら、プロに身を任せ、設備の整った施設で暮らす方が(どれほどか)気が休まろうというもの。現代社会における「在宅死」「自宅で看取り」は、よほど恵まれた人でなければ望みえないものと考える和田氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。



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