MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2644 シニア頼みの人手不足対策

2024年09月28日 | 社会・経済

 戦後の第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代(1947年~1949年生)が50歳代後半を迎えていた今から20年ほど前、金融危機などで経済が大きく低迷する中、各企業の人事担当者は従業員の高齢化対策に追われていました。

 当時、いわゆる「中年」に差し掛かり始めていた自分から見ても、職場に「氷河期」と呼ばれた若者の姿はなく、見渡せば(一応、「管理職」の肩書を持った)定年間際のオジサンだらけ。「窓際族」などといった寂しい言葉が流行ったのもこの頃だったと記憶しています。

 (朝からバタバタしている我々を尻目に)仕事もせずに新聞を読んで、一日をゆったり過ごし給料だけは部長並みという先輩諸氏の姿を見ながら、自分も早く歳を取って「ああいう生活がしたいな」と羨ましく思ったのを今では懐かしく思い出します。

 しかし、いざ自分たちがその歳になってみると、55歳で早くも役職定年となり、給料はそれ以前の3分の2。晴れて60歳で定年を迎えても、退職金が1000万円近く目減りする一方で年金の支給は65歳からで、それまではかつての部下の下で「嘱託」として非常勤で喰いつなげというのでは、「なんか話が違う…」と感じている人もきっと多いことでしょう。

 60歳を過ぎても仕事があるのは悪いことではないけれど、長年尽くした会社とはいえ、こうして「都合良く」使われるのは(正直)面白い話ではありません。「メンバーシッブ型」から「ジョブ型」への雇用の端境期に当たる現在、シニア世代の雇用環境は、一体どうあるべきなのか。

 そんなことを考えていた折、8月18日の産経新聞に「シニア社員活用の動き拡大、生産年齢人口減少で 役職定年廃止や定年延長、人生設計変更も」と題する記事が掲載されていたので、参考までに概要小欄にを残しておきたいと思います。

 記事によれば、少子高齢化が進み、2070年には生産年齢(15~64歳)人口が現在の約52%まで減少すると予想される中、大企業を中心にシニア世代を活用する動きが広がっている由。中でも、一定の年齢に到達すると管理職などの役職から外す「役職定年制度」の廃止や、定年退職の年齢引き上げの動きが目立つようになっていると記事はその冒頭に記しています。

 年齢を重ねても働く意欲を持つ人は多く、企業にも経験豊富なシニアの登用はメリットがある。しかし同時に、人件費高騰や働く側の人生設計変更などの課題も大きいと記事はしています。

 厚生労働省によると、国内の人口は2020年の1億2615万人から、70年には8700万人にまで減少。一方、65歳以上の人口割合は一貫して上昇し、20年の28.6%から70年には38.7%に達するとのこと。1990年代には70%台に迫った生産年齢人口割合も、2070年には52.1まで下がるということです。

 こうした中、現行の高年齢者雇用安定法は65歳までの雇用確保を企業に義務付けるが、実際、定年を法律上の最低年齢の60歳としているケースが多く、一般にその場合は、新たに雇用契約する「再雇用」やそのまま働く「勤務延長」などが採用されているとのこと。令和3年の改正法で70歳までの就業機会の確保が努力義務とされる中、シニア自身も「働けるだけ働く」「働かざるを得ない」とする傾向が高まっていると記事は指摘しています。

 一方、シニアの勤労意欲の方も、リクルートが昨年全国の60~74歳の6千人を対象にした調査では、7割超が「70代以上まで働きたい」と回答。働く理由(複数回答)については「生計の維持」が最多の41.9%で、「健康維持」(38.0%)、「小遣い確保」(34.7%)、「社会とのつながりを得る」(32.5%)と続いたということです。

 会社員の〝生涯現役〟の傾向が強まれば、当然その人生設計にも影響がある。例えば、かつて住宅ローンは若い頃に借り入れて返済していき、最終的に残額を退職金で支払うといったイメージだったが、(記事によれば)今では年齢が比較的高い人でも住宅ローンを利用する動きが始まっている。「現役」時代が長くなる兆候は、既に様々な場面に表れ始めていると記事は言います。

 一方、意欲はあっても若い社員と同じようには働けないケースも当然出て来る。65歳以上の再雇用正社員に対しては労働時間に応じた給与体系を適用するなど、状況に即して柔軟な対応をとる企業などもみられるようになったということです。

 もとより、こうして役職定年制度を廃止したり定年を延長(廃止)したりする企業が増えている背景には、人手不足や優秀な人材の確保が難しくなっていることがあると記事は説明しています。

 そうした中、企業がシニア人材を活用するメリットとしては、人手が確保できることのほかに、採用や育成にかかるコストを削減できることが挙げられる。しかしその一方で、①賃金の高い社員を雇い続けることになるため人件費が高騰していくこと、②組織自体の高齢化により(時代に合った)柔軟な対応が難しくなること、③人事の硬直化により若手社員のモチベーションの低下が懸念されること…などのデメリットもあるということです。

 改正法により、来年4月から65歳までの雇用確保が義務化されることが既に決まっている。そうした環境を受け入れる企業と、何より当事者であるシニア社員は、新制度のメリットとデメリットをよく理解して対応する必要があると記事はその結びに記しています。

 時代に合わせ先行する制度に雇用者である企業が追随する。こうした現状を踏まえ、私たちはそろそろ自分事として(これまでの)仕組みを大きく組み立てなおす必要があるのかもしれません。

 そもそも、「定年退職」という制度は終身雇用を前提としたもの。ジョブ型雇用が浸透している欧米などでは、年齢による一律退職の雇用条件を従業員に課することは、年齢差別として法律で禁じられている例も多いと聞きます。

 「一律」が公平とされ、卒業年齢になるとみんな黙って「花束」を受け入れてきた日本のサラリーマン。しかしそうした仕組みにもそろそろ限界がきているのだろうなと、記事を読んで改めて感じたところです。



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