気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 22

2022-07-02 23:00:00 | ストーリー
beautiful world  22




照れくさそうな表情で僕に差し出した綺麗にラッピングされた箱を僕は両手で丁寧に受け取った

彼女からのバレンタインチョコレートなんて何年ぶりだろう


「ありがとう(笑)」

パッケージには“GODIVA”と書いてある

これってめちゃ高いやつじゃ…


さっきまで奈生は落ち込んでいたけれど

今は初めて本命チョコを渡せたと嬉しそうに笑顔を見せてくれた

奈生の手料理を一緒に食べ
ひと段落してチョコレートの箱を開いた

「美味そうだ(笑)」

チョコレートを摘んで奈生の口に入れた

「う〜ん♡美味し〜い♡」

「そうか(笑)」
その幸せそうな表情に癒される

「あっ!私が陽太さんにプレゼントしたのに!」
焦っているその顔がまた愛らしい(笑)

「全然構わないよ(笑)」

ん?
でもなんか…

冬だからいつも厚みのある服だったから?
最近肌を見ていないから?

痩せたように感じる...




「奈生、痩せた?」

「ダイエットしてて…(苦笑)」


ダイエットって…




前からぽっちゃりしていることをずっと気にしてたのは知ってたけどそれが奈生の魅力のひとつだと僕は思っていたんだけど…

すると奈生はモジモジし始めた
「実はもうひとつあるんです…プレゼント」

「?? これで十分嬉しいのにまだあるの?」

ん?
なんだ?

目が泳いでる…

すると奈生はチラチラと僕の顔色を伺いながら座ったまま服を脱ぎ始めた




「えっ!?何どうした!?」


最近全く奈生の肌を見てなかったからか胸が高鳴ってきた



綺麗な刺繍の入った白い大人っぽい下着を着けていた


おおっ!!

「これ…なんですが…」

想像もしなかった奈生の色っぽい姿に言葉も出ず目が釘付けになった

白く滑らかな肌に純白の下着
光沢のあるキャミソール
シルク…なのかな

胸の部分には美しい白の花の刺繍が付いている


ーー なんか豪華…!!


「どっ、どう、ですかね…」


凄く良い!!!
天使みたいだ!!!

でも想像以上に痩せてる…

しかも見たことのない綺麗な下着を着けたその姿がなんだか奈生じゃないみたいで戸惑った

「私にはやっぱりこういう大人っぽい下着、似合わないですよね…(苦笑)」

恥ずかしいのかまた服を着ようとして僕はハッとした

「あっ!ちょっ、待って!」
慌てて奈生の手を握って止めた

「もっとちゃんと見たいよ。」

服を掴む奈生の手を降ろした

「似合って…ますかね…」

「色々びっくりして… うん、凄く似合ってるよ(笑)」

痩せてはいるが
本当に似合ってる

今 目の前にいる痩せた奈生も
変わらず綺麗だ…

ドキドキしながら
まじまじと観察した

中に着けているブラも白い刺繍の花が透けて見えている

この透けている感じがいろんな想像を掻き立てるな


なんか腰に紐が…

「これ…」

えっ!?
ひ、紐パン!?

初めて生で見た紐パンに驚いた
興味津々で背中側を覗き込んだ

「んっっ!?」

紐パンの後ろは総レースになっていて
完全に尻が透けて見える

じゃ、じゃあ、、
前は一体どうなって…

「あのっっ!!」

突然の奈生の大きな声に驚いた
「はっ、はい!?」

「そんなにマジマジと観察されると超恥ずかしいんですけどっ、、」

奈生の顔が真っ赤になっていた

「あっ、、ごめっ、はははは…(苦笑)」

ずっと心臓がドクドクと打ち付けている

なんだこの感じ…
上手く言葉が出て来ない

「…凄く、いい、、」

うっ…

ずっとこの美しい奈生を眺めていたいような
でも脱がせたい想いも当然あるから

ガチガチに硬くなり早く奈生の中に入りたくて興奮している下半身は本能に正直だとつくづく感じる

「奈生が僕へのプレゼントってことで良いんだよな…?」

「はい…その…最近してなかったし…私も…」

小さな声で恥ずかしそうにそう呟いた


その言葉は
僕の理性のスイッチを切った 



ーーー


ーー 翌朝

魅惑的な奈生の残像が
まだしっかりと頭に残ってる

またあの下着着けて来てくれないかな

僕は下着とかシチュエーションとかで燃える男なんだと知った


いかん!

朝っぱらからこんな事を考えてたら直ぐに時間が経ってしまう

リュックの中を確認しているとまだ開封していない中林の手紙が目に入った

ーー 完全に忘れてた

“手紙… 読んでくれましたか…”
“早見先生 酷い!!”

読まずにそのまま返した方が良いだろうか



放課後

柔道部の部員はランニングを終えて道場で準備運動をしていた
予選会に向けての強化練習のため
終了はいつもより30分遅くしている

「よし!終了だ!」

「はい!!」

号令に部員達らは掃除を始めた

ルーティング通りの片付けと掃除が終わり
主将の号令で集まり最後の挨拶をし生徒は帰り始めた

前回 東京代表になった選手を排出した強豪校には
今回も優勝候補者の一宮という二年の生徒が有名だ

道場に鍵をかけ
その鍵を持って職員室のキーボックスの所定の位置に掛け
机の上に置いてある書類に目を通してからフォイルに閉じ

ノートパソコンをリュックに入れた

「では、お先に失礼します。」
残っていた他の先生に挨拶をして学校を出た

僕自身、あと何回大会に出られるだろう

「早見先生!」

駅を通り過ぎた自宅近くの公園で声をかけてきたのは中林だった


「こんな所で何やってる。」

薄暗い公園
もう夜9時を回っている

まだ寒い二月
今日の気温は3℃程度しかない

まさかずっとこんな所で待ってたのか?

「…中林。手紙は読んでいないんだ。」

「昨夜あの彼女が一緒だったからですか。あんな…あんな普通の女のどこが良いんですか!?」

中林…

お前のその感情は一時のものだ


「お前の気持ちには応えてやれない。」

「お願いします!私の事も考えて欲し、」

「無理だ。」

僕のスマホが上着のポケットの中でマナーモード着信が鳴っている

時間的に多分奈生からだろう

「お前はもう直ぐ卒業して進学する。これから沢山の出会いがある。だから、」

「卒業しちゃうからです!三年間ずっと先生のこと好きだった…だから私は…」

バレンタインデーにチョコを欠かさずくれたのは中林だけだった

授業の質問を一番熱心に聞いてきていたのも中林で

それも全て僕に気があったからなのか?


「じゃあ私が卒業してもう先生の生徒じゃなくなったら可能性はありますよね!?」

「何年経とうが成人してようが、お前のことを恋愛対象として見ることはない。」


傷つくのはわかっている

それでも教師の僕が生徒の中林にできることは突き放すことしかできない


「…諦めたら本当に終わってしまう… 」


確かに
全てにおいて諦めたら終わりだ

僕もそれを理解しているからこそ
諦めさせないといけないこの状況に胸が締め付けられる


「好きになってくれたことは嬉しい。だが、気持ちには応えられない。」

「そんな言葉 聞きたくない!」


こんな時どうすれば…

「とにかく遅い時間なんだ。もう帰るんだ。」
肩に手を置き促した

「なら…せめて想い出をください。」

思い詰めた表情で僕を見上げた


「思い出って、」

顔を引き寄せられ
唇が重なった


――は?


ハッとして中林を引き離した

「お前、」

「こんなことで諦めなんかつかないけど!私が本気だったこと!絶対に忘れないでください!」

中林…

「私のファーストキスだったんです…それが早見先生で良かった。」

気丈に笑顔を作ってみせ
背を向け駅の方向に向かっていく中林のその後ろ姿に


教師としてではなく
男として心が痛んだ


「…なんでだよ」

僕とはさほど接点なんて無かったじゃないか

ファーストキスはもっと大切に取っとくもんだろう…


不本意な不意打ちキスを食らってしまった情けなさと

教師としての対応の未熟さを痛感しながら

冷たく突き離し生徒を傷つけた胸の痛みも感じながら

家路に向かって歩きだした


「はぁ… 」

溜め息が白い…

雪でも降りそうだな


中林の手も唇も

…氷のように冷えていた


こんな寒い中ずっと僕を待っていたんだな…

短くも大切な高校生という青春時代に
僕を想ってくれたんだな…

中林のその想いは

無下にしてはいけないし
忘れてはいけないと思ったーー



スマホを開いた

多分奈生だろうと思っていた着信は未登録の番号からだった

この番号は

また“舞”からだ…



「はぁ…」



また溜め息が出た


12月のクリスマス頃にも舞から着信が入っていた

もう終わっている
電話をする関係じゃない

何故 今更電話をしてくるんだろうか
知ったところで何かが変わる訳でもない

でも

その理由を知りたい気もするーー





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beautiful world 21

2022-06-04 11:53:00 | ストーリー
beautiful  world  21




今日2月1日は奈生の26歳の誕生日

奈生へのプレゼントは
キーケースに僕の部屋の合鍵をつけて渡した

いつでも訪ねてくれて良いからと言葉を添えると
奈生は小躍りでもしそうなほど思った以上の喜びようで
僕はそんな奈生にまた幸せをもらった気がした



鍵を渡したことで今後は僕が帰るまでに奈生が部屋で待ってくれている事もあるかもしれない

暗い部屋に明かりが灯っていることを想像するだけでワクワクした

早く一緒に暮らしたい気持ちが
より一層増してくる



ーーー

そして今日は2月14日

恋人達には特別な日のひとつ
バレンタインデーだ

登校すると女子生徒達はなんとなく浮ついていた

毎年バレンタインデーの日はこんな感じだ

職員室に向かっていると
鈴木先生はもう女子生徒達からチョコを貰っていた

嬉しそうでもあるし、困っているようにも見える
鈴木先生、いつも大変そうだ


「おはようございますっ!」

振り向くと一人の女子生徒が挨拶をしてきた
「あぁ、おはよう(笑)」

「これ、早見先生に、、」
小さな箱に入ったチョコと手紙を僕に差し出した

箱入りのチョコレートだ...
「ありがとう(笑)」

「いえ、、」

照れくさそうに
そそくさと教室に向かっていった

手紙まである
もしかしてこれって本気の...

いやいや
それはないか(笑)
 
いつもは下校時に余り物を渡すように気安く手渡される小袋に入っていた義理チョコをもらう程度の僕だが...

今年の僕は今までとは違うぞ!

今夜 僕は大本命(奈生)から貰えるんだからなっ!!

ウキウキしながら職員室に入り
「おはようございます!(笑)」と挨拶をして席についた

「あら早見先生、なにか良いことありました?(笑)」

向かい席の先輩女性教諭がニコニコしながら話しかけてきた

いかん、浮かれた顔してたか…


「早見先生〜♡どうぞ♡」

隣の女性教員の西村先生からチョコを貰った

「えっ、あ、ありがとうございます(苦笑)」

西村先生はちょっと距離感が近いから正直苦手だ


リュックからノートパソコンを取り出しているとさっき貰ったチョコが一緒に飛び出てしまった


「それ生徒からですか?」

西村先生が身を乗り出してチョコの箱を覗き込んできた


「なんか今年は朝イチで生徒から貰いまして(笑) 例年通りの義理ですけどね、ははっ(笑)」


「あら?それ、義理じゃないですよ?」

反対隣の先生も覗き込んできた


へ?
チョコの箱をよく見たけれど...

「確かにそれは本命チョコですね。全く、誰からですっ!?」

西村先生がムッとしていた


どこをどう見て本命だと思ったんだろう

確かに手紙も添えてはくれたけれど…

「どうしてこれが本命だとわかるんですか?」

「それ、人気のチョコ専門店の物で、その店で買ったチョコを意中の本命に渡すと恋が成就するって、生徒同士が話してましたから。」

「その話、私も生徒から直接聞きましたよ。」

「へぇ… そう、なんですか…」
そそくさとチョコをリュックに入れた

もし本当に本命チョコならあの手紙はラブレターということになる

それなら学校では読めないな
こういうことは初めてで戸惑う…


あの生徒は3年1組の中林

時々 数学を質問してくる生徒の一人

学年トップクラスに入る成績
確か去年はクラス委員もしていたな

他は特に突出した印象はない
僕はクラス担任じゃないからな


その日の
中林のクラスの授業では淡々と授業はしたけれど妙に意識してしまった

そして柔道部顧問の仕事を終え
帰り支度を済ませスマホを開くと奈生からのメッセージが届いていた

“私の方が早かったらお部屋で待ってますね。”

そのメッセージに自然と顔がほころんだ


鈴木先生が小声で話しかけてきた
「(田中からですか?)」

「ええ(笑)」


鈴木先生と一緒に学校を出た

「鈴木先生のそれ、凄いですよね(笑)」

紙袋に入った大量のチョコレートの箱
今年も凄いなー

「聞きましたよぉ?早見先生、生徒から本命貰ったみたいですね(笑)」

「本命かどうかわかりませんけど(苦笑)」

「幾ら沢山貰っても、本命を貰っても、僕ら教師は生徒とリアルな恋人関係に発展することはありませんからねぇ(苦笑)」

奈生が以前
“(チョコを渡さなかったから) 今のこの関係がある”

そんな感じの事を言ったな…


「でもチョコの数は人気指数みたいなものですよ?(笑)」

「早見先生こそ今から本命と会うんでしょ?そっちの方が良いじゃないですか(笑)」

「はははっ!お楽しみにしています(笑)」


「どういうことですか?」
突然僕らに話しかけてきた


中林だった

「早見先生には彼女がいたんですか?」

真剣なその表情に鈴木先生は何かを察したように中林をいなそうとした

「下校時間はとっくに過ぎてるんだ。早く帰りなさい!」

キツい口調で中林を叱責した


「鈴木先生、、」
そんなに厳しい口調で言わなくても


「中林。駅まで一緒に行こう。」

僕がそう促すと
鈴木先生がすかさず

「中林は今直ぐ帰りなさい。」

中林は何も言わず駅に向かって走り去った

その後ろ姿を見ながら
「早見先生〜。あれはダメですよ。軽率です。」

「軽率?」
その理由がわからない

「あの感じの生徒には十分気を付けないと。もしかして、本命チョコを渡してきたのってあの中林なんじゃないんですか?」

「本命かどうかは…でも中林からはもらいました。」

「思春期にはたまにあるんです。恋愛感情が強すぎて思い詰めてプライベートにまで踏み込んで来そうな生徒とか、妄想の世界と現実がわからなくなる生徒が。」

「中林がそうだと?」

「わかりませんけど…思い詰めている生徒には要注意です。恋愛感情を抱いていたら尚更 毅然と突き放してくださいね。」

「そこまで思ってないと思いますけどねぇ(笑) でも、気に留めておきますね。」

生徒から本気の恋愛感情を向けられたことも ぶつけられたこともない

正直、ピンとこない…


「早見先生は優しいですからねぇ。生徒とは 一定の距離を置いておかないと身を滅ぼし兼ねませんよ。」

鈴木先生はきちんと距離を置いているのだろう
しかし凄くモテている

一体どうやって距離を置いているんだ??


駅に着き
鈴木先生と挨拶を交わした

ポケットからスマホを取り出し
奈生に電話をかけた

何か買って帰る物があるかな…


「あっ、陽太さん!」

あれ?奈生
「お買い物してたら思ったより遅くなっちゃいました〜(笑)」

「いいよ、ちょうど良かったしね(笑) 帰ろうか(笑)」
奈生が買い物した袋を持つと視線を感じた


ーー 中林だった

“思い詰めている生徒には要注意です。恋愛感情を抱いていたら尚更 毅然と突き放してくださいね”

さっき聞いたばかりの鈴木先生の忠告が頭をよぎった


「まだこんな所にいたのか。早く帰りなさい。」

戒めるような僕の厳しい口調に
中林は表情が強ばった

「その人が早見先生の彼女なんですか?」

奈生は顔面蒼白になっていた
こういう状況を奈生は恐れていたのか


「ああ。そうだ。」

すると中林は泣きそうな表情に変わっていった

「その人と同棲してるんですか…」

「そんなこと お前には関係のない事だ。」

冷酷な言い方だろうか
だが…

「手紙… 読んでくれましたか…」

チョコに添えてあった手紙のことだな

「読んでいない。」

すると中林は悔しそうに表情を歪め涙をこぼした

「早見先生 酷い!!」

「中林、」

中林は駅の中に走っていった


ーー こういうのは正直 苦手だ


「…ついに…生徒さんに見つかってしまいました…私が軽率でした…あの子を泣かせてしまいました…物凄く傷ついたんですよ…」

酷く落ちこむ奈生に
「奈生が悪い訳じゃない。僕らが悪いことをしている訳でもないんだから、そんなに落ち込まなくても(苦笑) さ、帰ろう?」と背中に手を添えた

「あの子の気持ち、とてもわかります…」

奈生も中林のように
高校生の時から密かに僕に想いを寄せてくれていたから…か


その後も奈生は自宅に帰るまで沈んでいた



自宅が学校に近すぎたからか

奈生のためにも引っ越そうと初めて思った






ーーーーーーーーーー

beautiful world 20

2022-05-27 21:30:00 | ストーリー
beautiful world  20





来月の奈生の誕生日
何を贈ろう

ブランドモノや今の流行りとか
僕には全くわからない

スマホで検索してもさっぱり...
なので仕事帰り書店に立ち寄った

こんなにも沢山ファッション誌が出版されているのか

とりあえず一冊手に取ってみた



「あれ?陽太?」


声をかけてきたのは
同じ道場に通っている女性、七海だった

一瞬誰なのかわからなかった

いつもすっぴんで道着以外の服装はトレーナーにジャージの七海が女性らしく化粧してスカートなんか履いていた

「なに?その変な顔は。」
怪訝そうな目で見てきた

「変な顔ってなんだよ(苦笑)」

道場に通っている女性の中でずば抜けた実力を持っていてかなり強い女


七海は積まれた女性ファッション誌に視線を移し
「こんなとこで何やってるの?」

あーそうか
一応 七海も女だしな

七海に聞いてみるか


七海に勧めてもらったファッション誌を購入し書店を出た

「陽太が彼女へのプレゼントで悩んでるなんてね、クククッ(笑)」

「何故笑う。」

「道場での勇ましい姿と彼女への贈り物で悩んでる姿とのギャップが、、クククッ(笑)」

「それなら、、」
そんなオシャレOLみたいな格好してる七海の方がずっと違和感があるぞ!と言いたかったが飲み込んだ 

「ほんとありがとうな、助かったよ(笑)」

「え?お礼は言葉だけ?」




七海に晩飯を奢ることにした

書店近くの小さなイタリアンのお店に入った

二人だけで食事をするのは初めてだ

まぁ…
こう見ると七海でも一応女性に見えるもんなんだな
化粧と服の力の凄さを知った

窓の外は雨が降りそうな雲行きになっていた
食事も終えたしそろそろ…

「陽太に彼女ができたって聞いた時は驚いたわ(笑)」

「何故驚く。そんなに意外か?」

「しばらく彼女いなかったじゃん。もう彼女作らないのかなって思ってた。ちなみに彼女、陽太のファンの子?」

「ファンってなんだよ。」

「陽太の練習や試合を見に来てる女の子集団よ。その子の中の誰かとか?」

「んな訳ない。」

過去に応援してくれていた女性のひとりに相思相愛だと勘違いされて困った事があった

それからは誤解させる言動にならぬよう気をつけていた

「あの子、顔 可愛かったけどね〜(笑)」

「そうだったか?忘れたよ。」

本当は覚えている
確かに可愛い顔立ちの若い子だった

今の奈生と同じぐらいの年頃だった

でも魅力を感じることは無かった

「えー!覚えてない?可愛いかったよ。読モだったらしいし。で?今の彼女は?可愛いの?」

「可愛い。」

「わ!即答!」

奈生の僕に向けた満面の笑みが浮かぶ

「本当に可愛いからね。」

「私、結婚するなら多分陽太かもって思ってたんだけどなぁ(笑)」

「は!?なんで。」

「約束したじゃん。お互い35を越えてもパートナーが居なかったら結婚しようって。」

そんな約束したか...?


…あ、したな

「あ〜あれな!七海がふざけて言ったやつな(笑)」

「えっ…」

七海の表情が消えた

えっ
まさかあの冗談って本気だったのか?

だってあれは七海がふざけて言っただけだろう?

「あー、、すまない、、本気だと思ってなくて。」

「はは(苦笑)冗談だよー」

え?

「あんなの冗談に決まってるじゃん。」

「ったく!なんだよっ!(苦笑)」

「はははっ(笑)」


店を出ると雨が落ち始めていた

「傘は?」

「私持ってない。」

んー
仕方ないな

駅までは100メートルほど

「んじゃ!走るか!」

走りながら七海は何か言って笑った

「なんだって!?」

「なんでもない!(笑)」


駅に着いた

まだ小雨でその内 止みそうだし
家まで遠くないから傘を買うほどでもない

「寒っ!」

七海は足元やスカートが雨に濡れていていた

リュックの中から持っていたタオルを七海に使えと差し出した

「汗臭くない?」

「使ってないしちゃんと洗ってるわ!(笑)」

「あはは(笑)ありがと!」
タオルを受け取り髪を拭いた

「うっ、、なんか臭う!」
苦い顔をした

「えっ!?」

「ウッソ~(笑) 臭くないわよ(笑)」

「なんだよ!(苦笑)」

「タオル、次の練習日には洗って返すから。」

「いつでもいいよ。とにかく風邪ひかないようにな。」

「ありがとうね。ご馳走さまでしたぁ(笑)じゃあね(笑)」

七海が改札に入って行くのを見送っていると
突然振り返った

「見送りなんて良いから!(苦笑)」

「あ、あぁ、うん(苦笑)じゃあな!」

七海に促され僕は小雨の中を走った



ーーー


見送られるのは嬉しいけど困る

陽太のそういう自然に出てる優しさって妙に期待をさせるんだよ

なんだぁ〜
やっぱり忘れてたんだ…

あの約束をした時には
もう彼とは別れてた
 
35でお互い結婚相手がいなかったら結婚しようなんて

冗談めかして言うしかなかったよ

だって真剣に言うと
超真面目な陽太なら断るだろうなってわかってたから

彼女ができた陽太はますます強く逞しくなった
まさに愛の力ってやつ?(苦笑)

可愛い彼女…かぁ

電車の窓に映る自分の姿を見ても可愛い女性とはほど遠い

柔道で鍛えた自分の硬い腕が
こんな時はちょっと恨めしい

ーー “可愛い”

彼女のことをそう即答で答えたあの時の陽太は
私が見たことのない恋人を想う顔になってた

あんな顔するんだって
胸が痛かった

今日会えて嬉しかった
でも会わなきゃ良かったな…


このタオル
少し陽太の匂いがする

好きな匂い…

めちゃくちゃオッサン臭ければ良かったのに(苦笑)




―――


雨で濡れ寒くて
直ぐに風呂に入り

今夜はルーティンのジョギングは休むことにした

七海に勧められ購入したファッション誌をめくってみると

うーん…

贈る物 贈る物…
それとも何か喜ぶ事をした方が嬉しかったりする…のか?

だとしたら旅行とか?
旅行だったら部屋に温泉とか大きな風呂がある所が良いな

二人でしっぽりと混浴なんかして...

最近奈生とゆっくり会えてないし
抱いてない

考えるだけで抱きたくてなってきた

「あーもう、会いたいなぁ!」


いやいや真面目に考えろ
またファッション誌に目を落とした

次のページをめくった瞬間

あっ
これにしよう!

多分、いや!きっと喜んでくれるはず




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beautiful world 19

2022-03-12 21:34:00 | ストーリー
beautiful world  19



 
 

コートのポケットにもう一つ
僕の想いを込めた誓いの証を入れている


「奈生。もう一つ、君に受け取ってもらいたいものがあるんだ。」

「うん…?」


小さい箱をポケットから取り出し
奈生に差し出した

それを受け取り
リボンを解いていく

僕の心臓の鼓動は早くなってくる


どう、だろう …

奈生はどんな反応をするだろう

受け取ってくれるだろうか


「…これって」


慣れないジュエリー店を何件も廻って
奈生のイメージに合う指輪を見つけた

可憐な君に似合う指輪

気に入ってくれるだろうか…


「可愛い…」
そう呟いて表情がほころんだ

「これからの人生は奈生と生きていきたい。結婚して夫婦になりたいと僕は願ってる。」

奈生の目がみるみる涙が溢れてきた

「奈生を愛しています。これからもずっと誠実でいることを約束します。だから、」

「うん、結婚しよう(笑)」

ーー奈生

奈生の方から
結婚しようと言ってくれた


指輪をケースから外し
冷たくなった指にはめると

びったりだと君は笑った

僕の隣で寝ている君に起こさないようこっそりと苦戦しながら指輪のサイズを計ったんだと話すと笑った


「ありがとうございます…」

そのキラキラした笑顔にまた胸が熱くなった

奈生も僕と同じ想いだったことが心から嬉しい

幸せを噛み締めた


一年前はこんな幸せなにクリスマスになるとは思っていなかった



ーーー


大晦日の夜 父の待つ静岡の実家に顔を出した

母は僕が中学の頃に他界し
父だけがこの家に住んでいる

弟は仕事の関係で神奈川で独り暮らしをしていて先に帰省していた



僕は父に結婚したい女性がいるとことを話した

過去もそうたが
僕は付き合っている人の話を父に話したことがなかった

だから今回の結婚の報告に父は驚きなからもホッとした表情をした

“もしかして陽太はゲイなのかも…” と内心心配をしていたと初めて聞かされ それを聞いていた弟の海斗は爆笑した


海斗は興味津々で身を乗りだした
「で!アニキの彼女が見たいんだけど、(画像)持ってるんだろ?(笑)」


付き合っている女性を初めて見せることに
気恥ずかしくはあったけれど

スマホを取り出してテーブルの上に置いた

二人はスマホを覗きこんだ

「未…成年?」

その言葉に父も
「うむ。若いな…」と呟いた


なんだよ、二人して!
“可愛い”とかそういう感想はないのか!?


「25。ちゃんと成人してるから。」

「25!?そうは見えないぞ?それでも…アニキより9つも下か。」

海斗は32歳
僕は34歳

海斗でも奈生は7つも下になるのか
歳の差なんて気にはしていなかった

なのに若いしか言わない二人に奈生の可愛さを認めさせたくて

「それより!可愛いだろう!?」

半ば言わせるように強引に聞いた


「え~?(笑)普通じゃ… (あっ!) やっぱよく見ると可愛い!めっちゃ可愛い!なっ!?オヤジ!(苦笑)」

お調子者の海斗は空気を読んでごまかしたが父は嬉しそうに僕の顔を見つめた

「ん(笑)朗らかそうな可愛い子じゃないか(笑)」

嬉しそうに微笑む父

少しは親孝行になるのだろうか


「そうなんだ(笑) 誠実で温かい人だよ。今度連れて来る。その前に彼女との結婚の...父さんの許可が欲しいんだ。」


父は一呼吸置いて穏やかに話しはじめた

「お前が決めた女性(ひと)なんだ。反対はしないよ。会えるのが楽しみだ(笑)」

「アニキが結婚か~(笑) そっかそっか(笑)」


ほんとに良かった…
反対されるとは思っていなかったけれど

心から安堵した


「で??彼女の親の方は?おっさん(のアニキ)が愛娘に手を出した事に反対するんじゃないの?(笑)」

「...反対?」

そんなこと…

奈生の両親に反対されるなんてこと
全く考えていなかった

「海斗。」
父さんが海斗を軽く戒めた


そうか…
そうだな

よくよく考えればあり得る話だ

僕の勤務先は奈生の母校
奈生がまだ高一の時に僕はこの学校に異動した

僕が高校生の奈生に不埒にも手を出していたと誤解されてもおかしくはない

いいや、事実は違う
誤解されたとしてもきちんと話し合えば、、


「いやいや、ちょっ、、マジになんなよ(苦笑) 冗談だってぇ(苦笑)」

「陽太。」

「はい…」

「お前は子供の頃から決めた事には努力を続けられる男だった。それに今も赤帯を目指して頑張ってるんだろう?そういう実直なお前の良い所が伝われば何も案ずる事はないさ(笑)」

――父さん…

「わかってもらえるよう、きちんと僕の考えや想いを御両親に伝えるよ。」



――昔の僕の部屋

柔道の大会で優勝したトロフィーや
昔読んでいた漫画の単行本や参考書もそのままにしてある

押し入れから布団を持ってきて敷き
奈生に通話をかけた

ビデオ通話で大会で優勝した時のトロフィーの数々を奈生に見せると奈生は“陽太さんってやっぱり強い人だったんだ(笑)”と目をキラキラさせた
  

そして一緒に歳が明ける瞬間を確認した

来年は一緒に年を越そうと話をしながら
父に奈生の事を話したことを伝えると
どんな反応だったのかと奈生は心配そうな表情をした

「こっちは心配ないよ(笑) それより…さ。」

奈生の御両親が承諾してくれるのか
それが少し気がかりだと伝えると奈生は複雑な表情に変わった 

『父は会って話すまではなんとも言えん、と…』

やっぱりそうか…

「それは僕が奈生の母校の教員だから、とか?」

『うーん、元々よく喋るタイプではないので(苦笑)』

口数の少ないお義父さんなのか
手強そうだ…


「そうか。でも話せばわかっていただけると思ってる(笑)」

『ですね!陽太さんを気に入らないはずないです(笑)』

さっきの父さんの言葉を思い出した
「ありがとう、頑張るよ(笑)」

こうして奈生の顔を視てると…
「あぁ~ 奈生に会いたくなったな。」

『三日に会えますよっ♡』

いつも思うけど…
「奈生から会いたいと言ってくれないね。」

『私だって会いたいですよっ!?でも陽太さん何かと予定が詰まってるからワガママ言えません。』
困った表情をした

「でもワガママの内に入らないよ(苦笑) あ~早く柔らかい奈生を抱きしめたいなぁ…」

『だから痩せたいんですって(苦笑)』

「電車で奈生を支えてる時、初めて“女性は柔らかい方が良いなぁ”って事に気付いた、うん。」

『ほんともう忘れて…』
顔を真っ赤にしてもっと困った顔をした

そういう顔されるとキュンとくるんだよなぁ(笑)

「明日奈生に会いに帰ろっかな(笑)」

『そんな!せっかくお父さまの顔を見に帰ったのにダメですよっ!あ!そう言えば今日はユウちゃん…えっ、と、真鍋さんと吉野さんと会ってたんですよ(笑) 覚えてます?』

真鍋…
吉野…?

あぁ!思い出した!
担任はしていなかったが授業担当はした生徒だ

「思い出した。あいつらと仲が良かったのか?」

『中学から同じだったから家も同じ方向で一緒に帰ることも多かったんです(笑)』

あぁ、なるほどね

『二人には今 私が陽太さんとお付き合いしてることをまだ内緒にしているんです。話したらきっと驚くと思います(笑)』

そうか…
あいつらもその内 僕と奈生のことを知ることになるのか

『二人から、早見先生のことまだ好きなの?って聞かれました(笑)』

「で?」

『もちろん!って答えたら“あり得ない”と呆れられました(苦笑)』

「どうして??」

『片想い拗らせすぎでしょ!って。そんなんじゃいつまで経ってもカレシできないじゃん!って(苦笑)』

あぁ… 
まぁ確かに普通そう言うか…(苦笑)

『早見先生は彼氏だよって言いたかった(苦笑)』

“早見先生”か…

「奈生に“早見先生”と言われるとなんだかムズ痒い(苦笑)」

『そうなんですか? “早見先生”♡(笑)』


―― ん? あれ?
今…頭の中に映像が浮かんだ


そうだ
卒業式の日だ…

僕に声をかけてきた奈生の顔を思い出した


「…思い出した」

『何をです?』

「卒業式の日…奈生が僕に話しかけてきた時の事… 後ろから声をかけてきて、写真を一緒に撮ってくれないか、と…」

『そう…!そうです!!』

「あの時、担任していなかった生徒が何故僕に写真を求めてきたんだろうと思ったんだった…」

『あ~ … やっぱりそう思ったんですね(苦笑)』

「時々 柔道部の練習を見に来てなかった?」

『気付いてたんですか!?』

「きっと好きな男子生徒がいるんだろうなと思った記憶がある。」

『早見先生を見てたんですっ!』

「はははっ(笑)その割りには視線は合わなかったと思うけど。」

「視線を外したんです!だって恥ずかしいもの…(苦笑) そう言えば、早見先生が柔道してるとこはまだ見たことないですけど?」

あ、そうか。
「だったら柔道の練習、見学しに来る?」

『良いんですか?てっきりダメなのかと思ってました(苦笑)』

「そうなのか?全然構わないのに。」

『だって柔道の話、全然してくれないから。てっきりダメなのかなと。見学が構わないなら写真撮りまくります!』

「それはダメ。恥ずかしいから(苦笑)」

『撮られるのは慣れてないんですか?(笑)』

「そう(苦笑)」

そんな他愛もない会話をしながら
ほっこりした気持ちで新しい一年が始まった



―――


正月休みが終わり
いつもの日常が始まった

柔道部の部活が終わり生徒全員が下校した事を確認し
職員室で残務を終えて帰り支度をしていると鈴木先生から久しぶりに一杯行きませんか?と声をかけられた


いつもの焼き鳥屋でビールを呑んだ

「で?田中とはどうなんです?」

そうだった
鈴木先生は僕と奈生の仲のことを知っている唯一の人だった

「結婚したいと思ってます。」

「えっ!そうなんですか!そっかぁ…良かった(笑)」

安堵した表情


「実は僕のせいで二人の仲が拗れてたら、と気になってたんです(苦笑)」

奈生が内緒にしている事を鈴木先生は知らず先に僕に伝えてしまったことをずっと気にしていたようだった


「田中は良い子でしたからねぇ(笑) おっちょこちょいの天然でちょっと抜けてる所もありましたけど、まぁそこが可愛らしい所でしたよ(笑)」

高校生だった頃の奈生の事は全然知らない僕にとって
鈴木先生から聞く奈生の話はとても新鮮だった

「学力も中間で、運動もそこそこ平均的。なにか突出したものを持っていた生徒ではなかったんですけど、あの子は今でも印象に残ってるんですよね。」

鈴木先生は懐かしむように奈生の話を始めた

学校の花壇が荒らされていた事があった
それは僕も覚えている

放課後
奈生は用務員と一緒に花壇の花を植え直していた

それから毎日朝早く登校し
水やりをして花の世話をしていた

鈴木先生はそう、懐かしそうに話す

「“元気に育ってね”って花に声をかけてたんですよ、ははっ(笑) なんかそういう田中の純粋さに、ほっこりしましたよ(笑)」

奈生らしいな(笑)

「ほら、今どきの高校生は何かと問題が起きるじゃないですか。ちょうどその頃、僕が受け持ってたクラスの生徒で妊娠騒動があって。そんな時だったからか余計にね。田中の高校生らしいというか、純粋さに僕はホッとしたんです(苦笑)」


なるほどな…(笑)

今もその頃とそう変わってないんじゃないか?(笑)

「そういやありましたねぇ。妊娠騒動(苦笑)」

鈴木先生はその時の苦労を思い出したのか
その頃の苦労話を始めた


「それで。今でも田中は純粋なんですかね?」

「年齢の割りにはかなり純粋ですよ(笑) そこが良い所です(笑)」

「そうですか。田中なら良い嫁さんになりますよ(笑)」


僕もそう思ってます(笑)



ーーー


鈴木先生と駅で別れ
スマホを確認すると奈生からメールが届いていた

“お仕事お疲れさまです。”
“お忙しくてまだお仕事終わってないんでしょうか?”

それが一時間前のメールだった

奈生に電話をかけたけれど電話には出なかった

“鈴木先生と呑んでいて、今帰宅中だよ。”
そうメール返信をし家路に向かった


そういえば…
僕が奈生にプロポーズをしたあのクリスマスイブの夜

電話帳未登録の電話番号の着信が入っていた



あれは元彼女の舞からだった

電話帳からは消しているのに
記憶は思うように消えてくれない

なぜ今更 過去の男の僕に電話をかけてきたのか
意味深にもイブの夜に…

舞は好きな仕事に就き海外を飛び回っているはず

今は違うのか…?

あいつは常に自分の意志や感情には素直で
ブレることもない芯の強い女だった

自由に 自分らしく生き生きとしていて
いつも前だけを見ている女だった

硬い公務員職の僕には
そんな自由な彼女が羨ましくもあり眩しく輝いて見えた

舞は僕のような平凡な男はつまらないと
きっといつかは僕の元から去って行く ――

その時の僕は
いずれ来る“別れ”の予感を感じていた

そして
実際そうなった


過去は振り返らないそんな舞が
何故過去の男の僕に電話をかけてきたのか


僕は舞に未練がある訳じゃないけれど

あの夜の着信をきっかけに
頭の片隅に舞が引っ掛かっていた――




――――――――――――





beautiful world 18

2021-12-26 00:45:00 | ストーリー
beautiful world  18





12月に入り予測通り私は多忙極まっていたけれど
ようやく落ち着いた今日は会社の忘年会

「仕事収めまであと2営業日!皆さん頑張りましょう!取りあえず今日はお疲れさまでした!では!カンパーイ!!」

皆で乾杯をした
やっと乗り越えた…

来週は残務処理と会社の大掃除でやっと年末年始の休みに入る

周りのみんなは談笑しながら実家の帰省話をしている
私は逆に陽太さんとの同棲のために家を出ることを両親に話さないといけないと考えていると

正面に座っている葉山さんが話しかけてきた

「お疲れ。」

「お疲れさまでした(笑) 葉山さんはご実家暮らしなんですか?」

「実家は鎌倉。」

「近いですね!ならいつでも帰れますね(笑)」

「…まぁ。正月の年イチしか帰らないけど。」

近いのにそんなに帰らないのは家庭に事情でもあるのかな

でもそこは触れないでおこう…

隣の席の先輩の関さんが
「田中ちゃんは?」と聞いてきた

「ウチは元々実家暮らしなので(笑)」

「違う違う(笑) 今日イブじゃん?この後デートでしょ?」

「え!?ど、どうしてですか!?」

「とぼけちゃってぇ(笑) 彼氏できてるんでしょ~?最近かなり綺麗になっちゃって(笑)」と私の頬を軽くつついた

あ…
チラッと葉山さんを横目で見た

葉山さんは聞こえていないように知らん顔で料理をお皿に取っていた

「あはは… まぁ、そうですね(苦笑)」

「ほらぁやっぱり!だと思ってたんだよねぇ!(笑)」

関さん、ちょっと声が大きすぎますっ
でも周囲の人達は騒がしく雑談していて聞こえていない様子だった

「ねぇねぇ、」
私に耳打ちしてきた

「(まさかだけど相手は葉山じゃないわよね?)」

「違いますっ!」
私も大きな声が出てしまった

「もしかしてそうかもってちょっと思ってた(笑)」
全力否定した私に関さんが笑った

「なんだぁ?なにが違うんだー??」と遠い席から少し酔った課長が聞いてきた

「なんでもないでーす(笑)」
関さんが応えてくれた

「で?で!?どんな彼氏なの?どこで出会ったの?そういう話聞くの私大好きなの♡」

「あ〜、えーっとぉ…」

「おい。田中さん困ってんだろ。もういいじゃん。」

向かいの葉山さんが話を切ろうとした

「何?ヤキモチ?ダッサ!(笑)」
関さんがニヤニヤ顔で返事をした

「はぁ!?ちげぇわっ。」
葉山さんがムッとした表情になった

「ほんっと、あんたってなんでいつもそんなに感じ悪い物言いするの?」
関さんもムッとしてビールを飲み干した

あぁぁっ… 
気まずい…!!

「あー… えっと、、関さんビールのお代わり頼みますね(苦笑)」

田中ちゃんありがと♡あんた(葉山)に田中ちゃんはもったいないからね。」

「は!?」
葉山さんが眉間にシワを寄せた

ちょっとちょっと、ほんとやめてくださいよぉ!
これじゃ本気の喧嘩になっちゃう!


「だってあんたやたら田中ちゃんに当たりキツイじゃん。」

「んなことねぇよっ!」
声を荒げた

ほんともうやめてー!!(泣)
「あっ、あの、ほんとそんなことないですからっ!(苦笑)」

周辺の先輩方が一斉にこっちを向いた
「またあの二人やり合ってんのかぁ?誰だぁ?あそこくっつけたのは!」

「まぁまぁ(笑)」
関さんの隣の先輩がなだめに入ってくれた

なに!?
こんな小競り合い、頻繁にあることなの!?

嘘でしょ…

そういや二人が会話してるとこ見たことない…



―――


忘年会も終わり
店を出ても二人は何やらブツブツと言い合っていた

あの二人があんなに仲が悪いなんて知らなかった…

まさかあんな言い合いになるなんて思いもしなかった

一人っ子だから喧嘩とかしたことない見慣れてないし

恐いよ、ほんと…

あぁ 疲れた…
「はぁ~」

他のみんなは気にする様子もなく駅まで談笑しながら歩いている



そろそろ陽太さんに忘年会が終わった報告の連絡をしなくちゃ

私はスマホを取り出した時

誰かが私の肩をポン触れた
振り返ると


「えっ!!陽… 」

「シッ!(笑)」


陽太さんだった
腕を引かれ細い横路に入っていった

他のみんなは私に気づかず
そのまま駅まで歩いていった


「え?えっ!?なんで...」

陽太さんは早足で歩きながら振り返り
突然消えた私を誰かが気づき探しに来ていないことを確認し足を止めた


「迎えに行くからって言っただろう?店の場所も聞いてたし(笑)」

「でも、ここは遠いから来なくていいって、、」

「今日は特別な日だからね(笑)」

今夜は二人で迎える初めてのクリスマスイブ

「ずっとこの寒い中待っててくれてたの?」

「寒かったけど今はこうして奈生がいるから温かい(笑)」
私の手を握った

そういう彼の手は凄く冷たく冷えきっていた

一体いつから待ってたの?


「もう、嘘つきですね!こんなに冷たくなってるじゃないですか(苦笑)」

「そんなことはないぞ?心はメチャクチャ温かいんだ(笑)」


満面の笑みで私に笑いかけた


ーー キュンとした…

背伸びして陽太さんにキスをしたら
眉尻を下げて彼は嬉しそうに微笑んだ

「わっ(笑) 早速奈生からクリスマスプレゼントをもらってしまった!(笑)」 

「違いますよぉ〜プレゼントはちゃんと別にありますからね?(笑)」

「ほんとに?今のがプレゼントだろう?」
と微笑んでまた手を繋いで歩きだした

「そんな訳ないですよ(笑)」

「じゃあまだ他にもあるの!?今年はのクリスマスはなんて贅沢なんだろう!(笑)」
大袈裟に言いながら嬉しそうに笑った

「こうして奈生とクリスマスを過ごせるだけでも贅沢なのに(笑)」

気づくと彼の手は本当に温かくなっていた…



ーーー


駅にはもう社員の姿は見えない

お泊まりの準備物が入ったバッグを駅のコインロッカーから出すと

陽太さんが当たり前のように自然に持ってくれた

そして一緒に電車に乗り彼の家に向かった




電車を降りといつものように手を離そうとしたら私の手を強く握った

「もう離さなくていいんだ。」

心がふと軽くなった…



ーーー


彼の部屋に到着して荷物を置いた

「ケーキ買ってるよ(笑) 寒いけどほんとに行く?」

「行く(笑)」


ケーキを持って展望所に登った

風が無くて良かったねと言いながら彼はロウソクに火をつけた
プリンを買ったら付けてくれるプラスチックの小さなスプーンを取り出した。

「ごめん、これしか持ってきてないんだ(苦笑)」
彼は困った顔をして苦笑いした

「あはは(笑) 良いですよ♡」

「んじゃあ、メリークリスマス(笑)」


お互い笑いながら一口分 ケーキをすくって口に入れた

恋人と過ごすクリスマスは初めて

むちゃくちゃ寒いけれど心は温かくて
とても幸せを感じる…


「あ!忘れる所だった(笑)」
彼はリュックからカメラを取り出した

「記念 記念(笑)」


彼は私にレンズを向け
幾つか写真を撮ってくれた

私もカメラを借りて陽太さんを写真に納めた


今夜は星が見えないねと言う私に
陽太さんは星は奈生の瞳の中にあると微笑んだ

時々ロマンチックなことを言うから照れる…


そしてまたリュックをゴソゴソを覗いて
中から赤いリボンがついた大きな袋を取り出した

「これ、クリスマスプレゼント(笑)」

「わ…ありがとうございます...見ても良いですか?」

「ん(笑)」


淡く優しいピンクベージュのストールが入っていた
柔らかい… これカシミアだ!

「嬉しい…ありがとうございます…」

「なんだか奈生みたいに優しくて柔らかくて温かいから…選んだ(笑)」

うっ…
恥ずかしくなる

あっ、私も…

「あの…私も陽太さんに…」

私はマフラーをプレゼントした
実は手編み
手編みだということは言わないつもり…

「もしかしてこれ編んでくれたの?」

「えっ!」

なんでわかっちゃったの!?
市販の物と遜色ないレベルで編めたと思ってたのに!


「以前、“準備してる”って言ってたからもしかしてそうかなって(笑)」

うわぁ~っ!
手編みなんてすっごく重い女だって思われる!

でも編み物は昔からそれなりに得意だったから
私が編んだ物を使って欲しいと思ってたけど…

「奈生?」

「私のは手編みで…すみません…」

「どうして?手編みを貰ったの初めてで凄く嬉しいよ(笑) ありがとう…」

「…手編みの物なんて重くない?」

「どうして?(笑)奈生が僕のために編んでくれたのが嬉しくないはずないだろう?ずっと大切にするから。」

陽太さんは柔らかい手触りが好きなのを知っていたから実は私もカシミヤの毛糸で編んだものだった

深みのあるエメラルドグリーンのマフラー
きっと陽太さんに似合うと思ってた


「早速着けてみる(笑)」
嬉しそうに首に巻いた

「柔らかいなぁ…(笑)」
嬉しそうに微笑んだ

やっぱり柔らかい肌触りの物、好きなんだ(笑)

「私も早速ストール使わせてもらいます(笑)ふふっ(笑)」

「似合ってる。良かった(笑)」

「陽太さんも(笑) ふふっ♡」

「ははっ(笑)」


なんて幸せなクリスマスイブなんだろう…





――――――――――