気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 27

2023-01-28 00:57:00 | ストーリー
beautiful world  27


【初めての彼女(4)】




大学の卒業して教員職に就いた僕と
旅行会社勤務2年目に入った舞

お互い休日が合わなくなってきたけれど
月に1、2回は仕事帰りに会い一緒に晩飯に行って近況を話し合っていた


そして付き合い始めてから7年目

25歳になった僕は当たり前のように
舞との“結婚”を意識し始めた

舞の仕事が忙しいようで
今夜は二ヶ月ぶりに会う

少しワクワクした気持ちの僕とは違い
舞は昨日も会ったかのように淡々としていた

やっと会えたのにもう少し嬉しそうな顔して欲しいんだが…(苦笑)


食事をしながら

“舞の友達って結婚してるのか?”とか
それとなく“結婚”という言葉を何度か出してみたけれど反応が薄い

舞はなにか考えごとをしているようだった


『舞〜??そろそろ店出る?』

『え、あ、そうね。』

『考えごと?悩みごとか?』

『悩みじゃなくて…私、移動希望が通ったの。』

部署の移動希望?

『希望が通った割に嬉しそうじゃないな(笑)』

『それで今夜あなたに話があって。』

『話?』

『私、海外勤務が決まったの。』


ーー は…?

今“海外”って言った…?


僕は内心
激しく動揺した

海外勤務を希望していたなんて一言も聞いていなかったからだ


というか

僕は今夜 舞に結婚の意思があるのか
それとなく確かめてようとしていたのに

海外勤務って
なんだよそれ…


『まさか…行くつもり…なのか…?』

『ええ。だから別れて欲しい。』


ーー は?


『な、なんで別れなきゃならない!?』

『海外での遠距離恋愛なんかできる訳ないでしょ。』


ーーそうだ

舞はそもそもこういうやつだった…


やりたいこと優先
仕事やキャリア優先

僕なんて
どうでもいい存在だったのか…?


僕がどんな気持ちなのか
どんな考え持っているとか考えもしない


僕はいつも二人で楽しめることや
舞が嬉しくなることを考えて

近い将来二人で家庭持って
毎日笑って過ごして…

二人でーー



でも舞の未来図に僕はいなかった

僕は舞の人生には“必要のない存在”だったってこと…なんだな


『そうか…わかった。』

席を立ち
『じゃあ…』

会計を済ませて店を出た


まさか…

こんな風にあっさりと
今夜別れを切り出されるなんて思いもしなかった


僕は舞にとって
必要のない…

悲しくて
悔しくて
寂しくて
惨めで

堪えようにも
勝手に涙が溢れ出る

心を傷つけられたから?
もしかして僕は舞に依存していた?


わからない
なにも…

頭が回らない…


人の少ない通りを選んで進むと
川辺に着いた

舞と付き合い始めた時に一緒に歩いた遊歩道だった

しまったと思ったけれど
薄暗くて人通りも少ないから気持ちが落ち着くまで真っ暗な川を眺めていた


舞と過ごしたこの7年は
本当にいろんな思い出があった

わがままに振り回されて驚くことや
二人で一緒に笑って幸せを感じた瞬間も沢山あった

一緒に写真撮りに行ったり
舞に服を見立ててもらって
見たことない自分を発見したり

舞のいつも前だけを向くポジティブな性格に考え方を学んだこともあった

意見の相違で口ゲンカしたことも結構あったけど

どんなことも
全てが新鮮で楽しかった…


なのに
こんな風にあっさりと別れてしまうなんて思いもしなかった

僕は舞にとって
その程度の存在だったことが

辛く悲しい…



『…陽太』

振り返ると舞が立っていた

僕の後を追いかけてきたようだった

『陽太がそこまで傷つくなんて私思わなくて…』


ーーは?

7年だぞ!?

『こんなにも長い間付き合ってきたのに
突然別れを切り出され簡単に“ハイさよなら”で気持ち切り替えて別れられるはずないだろう!』

傷つかない訳ないだろ!

でも
舞にはわからないんだーー


『君はいつも自分のことしか考えない自己中な女だった。僕は舞との将来のことも考えて…なのになんで…こんな…簡単に…受け入れられない…』

自分がこんなに泣いて
情けないことを言う男だとは思いもしなかった


『私、結婚願望ないの。』

それは
なんとなくわかってたよ…

なのになんで僕は舞と結婚なんて考えてたんだ…

『刺激がないと生きてる気がしない。安定の生き方なんてつまらない。それに結婚なんて縛り合うみたいなものじゃない。』


『結婚が縛りって考え方間違ってる!結婚は一緒に支え合って生きていくものだ!』

『それなら別に入籍しなくても可能よ。』


何を言っても
もう舞とはわかり合えない...


ーーそう悟った



『そもそも僕たちは結婚観も人生観も全て違ってたんだな。このまま付き合っても上手くいくはずがなかったんだ。別れるのは正解だな…』


『ごめん…陽太。』

『もういい…別れよ。』


僕と彼女との7年という長い交際は

信じられないほど

まるで
シュールなコントみたいに

あっけなく終わったーー






ーーーーーーーーーーー

beautiful world 26

2023-01-22 05:08:00 | ストーリー
beautiful world  26


【初めての彼女 (3)】






僕は晴れて希望の大学に入り
大学生になってからは勉学と柔道を両立しながら

週末は彼女とデートをした

デートは主に彼女が主導権を握っていて僕がついて行くような感じだった

週一しか会わないことに不満はなさそうで
彼女自身もバイトやスケジュールが詰まっているようだった

もっとも
僕も柔道とバイトしかしていないことを彼女は知っていた

周辺の友人達は合コンとか旅行とか大学生活を謳歌していて

僕も撮影旅行したいなと思い始めた


その頃
ようやく舞ちゃんを“舞”と呼べるようになった

女の子を呼び捨てにするのは初めてで
慣れるまでに時間がかかった

舞はとにかく食べ物には拘りが強く
安全で栄養面をとても気にしていて

僕には筋肉がつきやすく栄養価の高い料理を作ってくれた

美意識が異様に高かったし
スポーツジムにも通っているようだ

うちに遊びに来てもストレッチをしながらテレビを見ている

『あれ?言ってなかった?私雑誌のモデルもやってるの。』

と…

バイトってモデルだったのか!
知らなかった!


舞はいつもそうだ

『なんでいつも事後報告…?(汗)』

『言う必要ある?』


事細かく全て教えてくれとは言わないが
一応彼氏なんだし

普通そういうの教えてくれるもんじゃないの?

女の子ってそういうものなの?


とにかく初めて女の子と付き合う僕は驚きが多かった

というか舞が特殊だったことは
付き合っていく内に徐々に気付いていった


僕は華やかな雰囲気の舞と比べてもごく一般的な(身体はデカいがそれ以外はむしろ地味なくらいの)普通の男

僕の何が良くてこうして一緒にいるのか
時々わからなくなる


『僕のどこが好きなんだ?』

『んー?(笑)』
ニヤニヤ顔で僕を眺めていたら僕の膝の上にまたがってきた

『私しか知らないところ(笑)』


“知らないところ”??

『それはどういう、』

『まず顔が好きでしょー?』
頬を撫でた

『低くて優しい声とかー、』
喉を指先で撫でる

『この逞しい身体も…』
指先は腕や胸筋をなぞる

色っぽい表情で迫られて
僕のは硬く大きくなるのは必至で

『こっちも…』
舞は腰を少し揺らしながら刺激してきた

『逞しいよね…ふふっ♡(笑)』


…うっ、、


『キスも…』
わざと焦らすように僕の唇を指先で撫でてきた

僕は舞のルームウェアの中に手を滑り入れ背中を撫でると唇を重ねてきた




舞はセックスも大胆だった

色んな体位を求めてきたし
恥じることなく要望も伝えてくるから満足させる術を学んだ

『陽太とのセックス、好きよ(笑)』

それは僕も好きだが
それだけで僕らは付き合ってるって言えるのか…?

次第に
心が虚しく感じるようになっていった

すると舞の心を確かめたくて
ますます身体を求めてしまう

舞は束縛は嫌うのに
僕から強引に求めると悦ぶ

それで会うと必ずセックスをするようになっていった

本当にこんな関係で良いのだろうか…?



『舞、写真撮りに行こうよ(笑)』

最近全然カメラを握っていなかった

いつも風景写真ばかりだったけれど

初めて人物を撮りたいと思った

その“初めて”は
やっぱり舞が良い


モデルをやっていて
撮られ慣れている舞は自然に美しいポージングをした

『さすがだな、慣れてるな(笑)』

『そりゃね、ふふっ(笑)』


ファインダー越しに見る舞に

やっぱり整った顔の女なんだなとあらためて認識した


『私、陽太が大好きだよ(笑)』


ーー舞?


『私の気持ち、ずっと気にしてたでしょ?(笑)』


どうして…
わかってたのか…?

『陽太のこと全部好きよ。ご飯の食べ方が綺麗な所も、私を認めてくれる所も、とにかく全部。陽太の優しく誠実な所もね(笑)はじめにそう言ったじゃない(笑)陽太の誠実な優しさ。それが今も変わらないから好きなの!(笑)』



そうだ…

最初から舞はそう言っていたのに
何故 僕は忘れてしまっていたんだろう…


『陽太はどうなの?私のこと、ほんとに好き?』


ーー “好きだ”


『あ…』


“好き”という言葉が自然と浮かんだ

訳もなくふいに涙がこみあげてきて
僕は慌てて気付かれぬようさり気なくカメラを構えてシャッターを切った


その時

何故涙が込み上げてきたのか
自分でもよくわからなかった


『ねぇねぇ、どうなのよ〜(笑)』

ファインダー越しに映る舞の笑顔がキラキラと輝いている


ーー綺麗だ…


本当に
そう思った…


僕はやっぱり舞が好きだったんだ…



ずっと舞の心を求め

やっと手に入れたと思ったら
既に手の中に持っていたことに気づいた

そんな感覚だった…


わかってたはずなのに
実感していなかった


『舞ってほんとはめちゃくちゃ綺麗なんだな(笑)』

『え?今さら〜?(笑)』

『自信過剰って言われるだろ!(笑)』

『自信過剰なんかじゃないわよ!事実そうでしょ?(笑)』


見た目の美しさじゃなくて
自由に生きる女性の魂の輝きを

僕は見た

そんな気がするーー




ーーーーーーーーー

beautiful world 25

2022-08-20 11:04:00 | ストーリー
beautiful world  25


【初めての彼女 (2)】





舞ちゃんと付き合い始めて3ヶ月

僕は国立大学への受験勉強に集中していたため
自然に彼女と連絡を取る回数が減っていった


もしかしたらこのまま自然消滅してしまうかもな…という考えも過ぎったけれど


それでも
それが残念だとか寂しいとか

そういう感情は湧かなかった



その時の僕は

彼女に恋愛感情を抱いていなかったということだろう




そんな時ーー

突然 夜中に電話がかかってきた


『ごめん、遅くに。』

『ううん、起きてたから大丈夫(笑)』



付き合うのをやめない?とでも言われるのかもしれないと思った


『今度の日曜、3時間ぐらい時間取れない?』


...声は明るい


『うん。わかった(笑)』




日曜の昼

約束していた待ち合わせ時間よりも先に彼女は着いていた



『陽太〜(笑)』



おぉっ...

やっぱり実際に会うと…

実感が湧くというか
ドキドキするっ!!



『3時間しかないから早く行こっ!(笑)』


僕の手を引いて歩き出した

わっ、、
女の子と手を繋いでる!


『ど、何処に!?』


季節は秋なのに
今日は冬のような寒さ


なのに
めちゃくちゃ顔が熱くなってきた



『私んち!時間が少ないから出歩く時間が勿体ない(笑)』


えぇっ、舞ちゃんち!?
舞ちゃんって一人暮らししてたよね!?

女の子の一人暮らしの部屋に行くって、流石にちょっと…


良いのかな…



『どうして舞ちゃんちなの?』


『来ればわかるよ(笑)』



舞ちゃんちは待ち合わせた駅から徒歩で10分程度と近かった


ドキドキしながら初めて女の子の部屋に入る

男の部屋と違って清潔感がある


しかもなんか美味そうな料理の匂い…


案内されリビングに入ると
テーブルには料理が沢山乗っていた



『凄っ!』


『まずは、陽太くんの胃袋を掴む作戦!私の料理を食べてもらおうと思って(笑) 』


『ははっ(笑) そういう“作戦”とかってバラしちゃったらダメなんじゃないの?(笑) 』



…僕はてっきり


今日 別れ話でも切り出されるのかなって思ってた



『早く早く、食べてみて♡(笑)』



なんか拍子抜けした…

箸を持たされた


『それは陽太くんのお箸!買ってきた(笑)』


『…って事は、、これからもここで食事をする機会があるって事…?』


『もちろん(笑) また来て欲しいと思ってるよ? なんでそんなに意外そうなの?』


『しばらく会えなかったし… 僕ら4回しか会ってないから… きっともう僕はフラれるのかもなって思って来たから…(苦笑)』


『なに、それ…』



声色が急に変わって
彼女の顔を見ると怒りの表情をしていた


『それ!いつから考えてたの!?』


『ご、ごめん、、いつからって…会おうって誘ってくれた時…』


『あのねっっ!!』


彼女は早口で捲し立ててきた


『陽太くんが柔道と受験勉強の両立に必死で頑張ってるのなんてわかってた!だって陽太くんは目標に向かって全力を出す人だと知ってる上で好きになったんだもんっ!陽太くんのこの大事な時期に私の存在が邪魔にならないようにって気を遣って連絡を控えてたのにっ!やるべき事に集中してて、もう私のことなんかどうでも良いなんて思ってるかも、もしかしたら存在自体薄れてきてるかも、なんて悪い方に思ったりして、毎日ずっと不安だった!私は…ほんとは毎日だって陽太くんに会いたかったし、それをガマンしてたのに!陽太くんは私の想いを1ミリも考えてはくれなかったのっ!?』



彼女は想いを全て吐き出して気が抜けたのか悲しそうな表情に変わり涙ぐんだ



『えっ…舞、ちゃん、ごめん、、』


その熱い想いを真正面からぶつけられ
僕は戸惑った



『ありがとう…(笑)』


『今日は時間が少ないんだから!早く食べて食べて!』

彼女はテーブルの料理を指差した


『あ、うんっ、』


料理を口に入れた


なんだこれ!!

『美味っ!!凄く美味いよ!(笑) ありがとう、舞ちゃん!(笑)』



さっきまで激怒し
泣きそうな表情に変わり
今は凄く嬉しそうに満面の笑みになった



『胃袋掴む作戦、成功かな??(笑)』


『ははは(笑) 大成功じゃない?(笑)』


僕が彼女を想う以上に
僕が想像していた以上に

僕の事を想ってくれていたことを知った



『どれも凄く美味くて驚いたよ(笑) なんかお礼しなきゃ…と言っても僕、バイトしてないから、』


『じゃあ、さ… 』



彼女は僕の隣りに座り直し
突然僕を抱きしめた



えっ!?
ええっ!!



『どうしたのっ!?』



また心臓が強く打ち始め
汗が吹き出てきた



『ま、舞ちゃん!?』


『キス…してくれないかな…』



えっ!?
僕 キスなんてしたことないよ!!


緊張で全身が心臓になったみたいにドクドクと早く鼓動を打って
額や手に汗が滲んだ


優勝をかけた決勝戦でも
こんなに緊張しない




『イヤ…かな(苦笑)』


舞ちゃんは不安そうな表情で僕の目を見つめた


彼女の想いが
今日はいっぱい伝わってくる…



『陽太くんのこと大好きだよ…だから私のことも…好きになって欲しい…』



朗らかで友人も多く
思い描いた事は全て叶える行動力があって

綺麗で 可愛いくて
恵まれたスタイル

欲しいもの全てを手に入れているような彼女が



今 不安そうな表情をしている


今まで
自分の“会いたい”という想いを堪え
僕のことを尊重してくれていた


僕は自分のことで頭の中はいっぱいで

君の気持ちを思いやることすらしなかった



こんなに僕のことを想ってくれた女の子は初めてだった


それまでの僕は
恋愛なんて興味すらなく

女の子の気持ちにも疎くて
柔道と写真を撮る事にしか興味が向かなかった


彼女と過ごしたその日
たったの3時間しかなかったけど

彼女の僕への熱い想いも 
密かな気遣いも一所懸命作ってくれた料理の味も


激昂した表情に不安な表情
照れた表情も

見せてくれた沢山の感情や表情の全てが僕の胸に焼き付いて

このまま彼女の表情を見ていたい
触れたいと思った




好きにならない訳、ないよ…


それが僕の初めての“恋” の感情だった


そして僕はドキドキしながら
彼女の唇にそっとキスをした


それが僕の
ファーストキスだった






ーーーーーーーー


beautiful world 24

2022-08-14 20:55:00 | ストーリー
beautiful  world  24



【初めての彼女 (1)】





ーー高3の夏



男ばかり4人で海水浴に来た

「今年こそ彼女作るぞーっ!!うぉーーっ!!」

『ははは!(笑)俺も〜♪』

「叫ぶなよ、かっつん!!恥いわっ!!」



とかく女の子に対して貪欲にギラギラしたかっつんにシンとノブ


海水浴場で遊ぶくらいなら
柔道の稽古をするか大学受験のための勉強をしてる方がいいと断ったら


『この柔道バカ!お前は女子に興味はないのかっっ!?それでも男かっ!!』

とかっつんが捲し立ててきた



『あっ、まさか…お前 男が…』


なんか勘違いしてる!!

『違うっ、そうじゃないし!』


『なら来いよっ♪(笑) 一日くらい息抜きしたって問題無いだろっ!(笑)』



半ばゴリ押しで暑い海水浴場に連れ出されてしまった

子供を連れた家族や
色とりどりの可愛らしい水着の女の子に
ナンパ目的だろうと思われる男も結構いて

海水浴場は賑わっていて
海の家からは音楽が爆音で流れている

息抜き…って


テンションの上がらない僕だけが場違い感を感じていた


『なぁ!あの女の子のグループに声かけようぜ!』

指差した先には
3人組の女の子がいた


ナンパか
マジか…


こっちは男4人
向こうの女の子達は3人


僕は遠慮すると言うと
お前は必要だ!と一番鼻息の荒いかっつんが僕の腕を掴んで言い放った

理由は“高身長で良い身体だから女子寄せ要員だ!”と…

強引に誘ってきた理由ってほんとはそれ?


『だがしかーし!顔は俺が一番だけどなっ!ふふん(笑)』


『は?どの面で言ってんだよ。顔なら俺だろ。』


すかさずシンが突っ込んでいる

『は!?どう見ても俺だろっ!』


かっつんとシンがいつものようにわちゃわちゃやってる間に

さっきの女の子達はどこか行ってしまった



『なぁ〜さっきの女の子達、どっか行っちまったぞぉ?』


のんびり屋のノブがキョロキョロと周囲を見渡した


『なにぃーっ!!!』


あ、ほんとに居ない(苦笑)


『なぁなぁ〜暑いからカキ氷食おうよ〜♪』


『…そうだな。』


一体何しに来たんだよ…(苦笑)



僕も彼女ができたことはなかったけど
今は大学受験と柔道に強く意識が向いていた


そんな時
人生初めての彼女となる女の子と出会った



『おい見ろよ!あの子めっちゃ迫力ないか?』


『足長〜い(笑)』


『モデル?身長高くね?』


どの子の事を言っているのか一目でわかった


175は越えてそうな長身に頭がとても小さい

長身で手足も長くスポーツ選手にも見える引き締まった身体つき

その抜群のスタイルに白いビキニの水着が映えていた


色気より迫力があるって感じで
明らかに一緒にいる女の子達とは雰囲気が違う


すれ違う男達も女の子達も
チラチラとその子を見ていた

あぁ
あの子 明らかに目立ってる(笑)



『ほら見ろ、誰もあの子に声かけらんねぇ様子だ。よし!あの子よりもデカい陽太が勝負してこい!行け!GOだ!!』


『はぁ!?何がGOだ、ヤダよ!』


『…あ。こっち見たよぉ?』


あ、ほんとだ
僕らを見てる


と言うか…
なんか僕を見てるような…


『お、おい…なんか俺らんとこ向かってきてないか…?』


その子がこちらに向かって歩いてきた


『えっ!?、、えっ!?』


かっつんらはその長身の迫力のある彼女にビビり気味で後退りした


そして
僕の前で立ち止まった



ぼ、僕!?
なんで!?



『んんっ!?!?』

かっつんが僕と女の子を交互に見た


『あなた、早見陽太くん、だよね。』



ーーえ??



なんで僕のこと知ってるんだ

『陽太の…知り合い…?(汗)』


動揺したかっつんに
僕は首を横に振った


『…いや、、』



こんなに目立つ容姿の子なら絶対覚えてるはず


『なんで僕のこと、知ってるんですか?』


すると彼女の表情がフッと緩んだ


『柔道の大会で何度か見たことあるわ。あなた、メダル常連選手だから超有名人だもの。』




彼女は僕の1つ歳上の大学生だった


彼女の弟が僕と同い年で柔道をしていて

弟の大会出場の応援でよく試合の応援をしに行っていたからだと話してくれた


近寄り難い迫力があるのに
話すと案外気さくな女の子なのかも


『試合を遠目で見てて、“大きいなー”って思ってたんだけど、近くで見ると思った以上に大きいし背が高いのねっ!ふふっ(笑)』



わ…


綺麗な子だけど
笑顔になると可愛い!


なんかが急にドキドキしてきた



元々 女の子と話すことに慣れてない

だけどこんなにも綺麗で可愛い子から連絡先の交換を求められたら…

ドキドキしながら彼女のメアドと電話番号を携帯に入力した




ーーー



それからは次第にメールのやりとりが増えていき 直接会う約束もした

これって
デートになるのかな…



海で会ったきり
初めて二人だけで会う


考えるだけでドキドキして
どんな話題をふれば盛り上がるのか

どんな所に連れて行けば女の子は喜ぶのか、とか

柔道しか興味がなかった僕は当然知らなくて


かっつんらに聞こうとも考えたけれど

あいつらが女の子のことを知ってるとは到底思えず

逆に僕と彼女との事を
興味津々で執拗に聞かれるのがイヤで

彼女持ちのクラスメイトにこっそり聞いたりしてみた


一応自分なりにリサーチはしたが
当日彼女にも希望を聞いてみたら?とアドバイスされ、そうしようと決めた



ーーー



デートの当日



彼女は半袖のブラウスにデニムのミニスカート姿

どんな服を着ててもスタイルが良いからか

待ち合わせ場所でも彼女は目立っていた

これからデートなんだと思うとますます緊張してくる

どこか行きたいとこある?と聞くと


彼女はもう決めていたようで
僕のリサーチ情報は結局不要だった(苦笑)


彼女の行きたい店や食べたい物を一緒に食べて

なんか本当に僕の彼女みたいな勘違いをしそうになっていた



彼女は僕に自分の事を知ってもらおうと子供の頃からの話を始めた



夏休みには祖父母が住む田舎に家族で帰り

畑の野菜を直接もぎ取って食べたり
近所の子供と川遊びしたなどのエピソードを

僕の隣で楽しそうに話す彼女と川辺の遊歩道を歩いた




彼女は話題も豊富で僕の知らない事も沢山知っていて友達も多いようだ


快活でやりたいことには躊躇なく挑戦し
無理って言葉を知らないパワフルな人だった

子供のように好奇心旺盛
純粋で正直

そういう所にも凄く好感が持てた



『どうして今日僕と会おうと思ってくれたの?』


『そんなの、、早見くんが好きだからだよ(笑)』



すっ、好き!?



『それは… その…』

どういう意味合いの “好き”なのかな…


急に鼓動が早くなってきた




『柔道の試合をしてる早見くんって、闘志の炎が見えるようで “無双か!!”ってくらい強い。本当に格好良いと思うよ。ふふっ(笑)』



あ…

『そっか…ありがと(苦笑)』



なんだ君も同じなんだ

柔道をしてる姿が格好良いから好きって言われたことは今までもあった

確かにそれも僕自身だし
喜ぶべきだところではあるんだけど…



『普段の早見くんって柔和でシャイで可愛いなぁって思ったよ?』



え?


『男のシャイって、なんかナヨってるイメージがあるんだけど(苦笑)』


『なんで?素直で純粋な反応じゃない(笑) 早見くんはちゃんと気遣える人だし、誠実で思慮深い。柔道の時の男らしい無双感とのギャップが凄く素敵だと思うよ。それに柔道から離れてる時のギャップに人間味を感じて良いな、とも思うよ。』


そう思ってくれてたんだ…




柔道では負け知らずの“強い男”


僕を知る人はその印象が強く先行していて

どんな時も“近寄り難い強い男”という勝手なレッテルを貼られていることも少なくなかった

常に男らしいイメージを押し付けてくるというか

確かに柔道に対してはストイックな方だと思うし勝負に負けるのは嫌だ


でもそれが僕の全てじゃない
わかって欲しい

その想いをずっと胸の中に持っていた


でも彼女は
僕の全部を認め
内面も見ようとしてくれている気がした


それがなんだか嬉しくて
ふわふわとした温かいものが湧きあがった


『ねぇ…早見くんって好きな子とかいる?』


『え?』



ドキッとした

好きな子…



この胸の高鳴りが “好き” ってことなら
今 僕は君のことが好きってことになるのかな…



『もし、他に好きな子とかいないならぁ…』


照れくさそうな表情をした


『うん。』


『私と付き合って欲しいなって…思ってるんだけど…』


さらさらと風が吹いて
顔に掛かる髪を耳にかけた


ーー えっ



『僕と…君が?』


『強く男らしい顔とは違う、穏やかで誠実な早見くんも知っちゃってから…段々と早見くんの事ばっか考えてしまうようになって…本気で好きになっちゃった、みたいな?エヘヘ(笑)』



照れを笑顔でごまかしている彼女に
僕の胸はドキドキが止まらなくなった



まるで彼女は

色とりどりの花が沢山詰まった大きな花束のようーー



こんなに素敵な女の子が
 “本気で好き” だと僕に告白してくれたーー




僕は急に顔が熱くなり
心臓は強く鼓動を打ち始めた

多分 今の僕は格好悪いくらい
顔が真っ赤になってる




『私じゃ…ダメかな…』

不安そうな表情をした



『そっ、そんなことないよっ!こちらこそ、よろしくお願いします!』



安堵が混じった嬉しそうな表情で

『嬉しい…(笑)』と呟き微笑んだ




僕には彼女は何事にも自信のある人のように見えていたけれど


でもさっき
僕の返答に不安な表情をし

そしてこんなにも可愛い表情をする人なんだと知った



僕もまた

彼女に対して勝手な思い込みがあったことに気付かされた



僕は彼女のことを全然知らない

恋かどうかの核心もない



でも

もっとこの人のことを知りたいと思った


初めて興味を持った女の子

その子が僕の人生初めての彼女となった





それが


“舞” だった ーー






ーーーーーーーー


beautiful world 23

2022-08-12 20:52:00 | ストーリー
beautiful world  23





翌日

中林とは廊下ですれ違っても
中林も僕も何事も無かった素振りをした

多分中林は僕以上に昨夜のことを意識しているに違いない


卒業式間近の気忙しい日々

卒業式が終わると奈生の御両親に会いに行く事になっているし

中林とのあの出来事は完全に忘れていた


ーーそして今日は卒業式


予定通り教職員らはいつもより早く登校している


「早見先生 おはようございます(笑)」

「おはようございます(笑)」



滅多に着ないスーツ
ネクタイを締めているのがとても窮屈で

毎日スーツを着てネクタイ締めてるサラリーマンを尊敬する…

「ふぅ…」

ほんの少しネクタイを緩めジャケットを脱いで椅子の背もたれにかけた

「えこひいきはしていませんでしたけど、特に思い入れのあった生徒が卒業していくのは個人的には内心寂しいものです(苦笑)」

そんな会話が聞こえてきた

ーーー“思い入れ” か



柔道部員の顔が浮かんだ

今年は大会は思った実績は出せなかった

大学に進み そのまま柔道を続ける者
就職する者もいて

今後 彼等がどんな大人になって
どんな夢に向かって生きていくのだろうかーー

楽しみなのと
少しの寂しさで複雑な気持ちになる

毎年 卒業式はそんな気持ちになる



卒業式は予定通りに進み
滞りなく終わった

校門前で卒業生に挨拶をしたり
写真を撮ったり

卒業生も後輩達と別れを惜しんでいる



そろそろ来るな…


柔道部 副主将の喜多が真剣な表情でやってた

「先生。準備、お願いします。」

「ん、わかった。」

僕は職員の着替え室で道着に着替え

ストレッチをし準備運動をして
気合いを入れて武道館に向かった


校庭はさっきまでの喧騒が消え
ひと気のない静かになった廊下を歩き武道館に向かった



あぁ
これが最後だ


武道館に入ると三年生の七人は
柔道着で並んでいた

一、二年生は厳かに正座し見守っている


ーー張り詰めた空気


「真剣勝負っ!!お願いしますっっ!!」

主将の尾上が挨拶をし三年生一同がそれに続き

「お願いしますっっ!!」

大きな声で挨拶と一礼した

そう
これが毎年恒例の柔道部員の卒業式

ーー “柔道家 早見との真剣勝負” ーー


通常の練習で指導はするけれど
生徒と真剣勝負をすることはない

だからこれが生徒との最初で最後の真剣勝負

当然 負ける訳にはいかない ーー


先に一本取った方が勝者

「よしっ!誰からだ。」



ーーー



「三年間、ご指導ありがとうございましたっ!!」

三年生一同が礼をした

柔道の強豪といわれていたがこの三年主将の尾上は怪我の故障で良い成果を残せず卒業していくからか

悔しそうな表情で涙ぐんでいた

大学でも柔道を続ける尾上
こいつはまだまだ上に行ける奴だ

「尾上。お前の柔道はこれからだ。楽しみにしているからな(笑)」

肩を叩いた


「…っ、はいっ!!ご指導!ありがとうございました!!」
涙を零した



ーーー



もう少しで僕も泣く所だったな(苦笑)

スーツに着替え職員室に戻ると
古文の先生から手紙を受け取った

「卒業生からですよ(笑)」

田中…

すっかり忘れていた

そうか
あいつも卒業したんだな…

「ラブレターじゃないんですか?(笑)」

鋭い所を突かれて内心慌てた
「そ、それはないでしょう(苦笑)」

公園で田中にキスされたあの情景を思い出した

「でも確か、早見先生は田中から本命チョコ貰ってましたよね?」

「そう… でしたっけ…?(苦笑)」


田中の話は…


「あ!そう言えば!今年の“柔道部の卒業式(真剣勝負)” どうでした?今年は早見先生を打ち負かした生徒、いました?(笑)」

「いえ、いませんでした(苦笑)」

助け舟を出すかのように
鈴木先生が話題を変えてくれた

鈴木先生!
ありがとうございます!!

「私、まだ早見先生が柔道してる姿は見たことないんですけど、」

近い近い!!(苦笑)

隣の席の西村先生はいつものようにかなり接近してきた

「ウチは強豪校なのに誰も早見先生に勝てないなんて、ほんとにお強いんですねぇ♡ふふっ(笑) 」


あぁっ、、近い近い!!

少し離れながら


「まっ、まぁ、、指導者でもありますし、、まだ現役でやっている以上、、生徒に負けるわけには、、いきませんから、ははっ(苦笑)」

さり気なく離れてもその分近寄って来る

ちょっ、、
膝が当たってますがっ!?

すると
「早見先生、ちょっとこれ確認してもらえます?」

またもや鈴木先生に助けられた

「(すみません…(苦笑))」

「ははは…(苦笑) 今日撮ったこの写真なんですけど、」


柔道の技なら上手く交わせるんだけど
鈴木先生に助けられてほんと情けない



ーーー


帰り道

「いっそのこと“結婚する”って先生方に報告たらどうです?」

「…あはは(苦笑) 来週彼女の御両親に挨拶に行くんですよ。だからそれまでは…」

「真面目ですねぇ(笑) なるほど。じゃあもう直ぐ西村先生フラれるんですね(苦笑)」

「どうして西村先生がフラれるんですか?」

「えっ!?」

「え?」

お互い立ち止まり顔を見合わせた

西村先生は僕に好意(恋愛感情)を寄せていると聞いた

「西村先生むちゃくちゃ分かりやすいじゃないですかぁ〜(苦笑)」

「まぁ…確かにいつも近いなとは思ってましたけど…」

「はははっ!(笑) 早見先生って好きな事や好きな人には一途に一直線!って感じですよね。逆に興味の無い人や物事には全く興味関心が向かないって感じ(笑)」

「あー、あはは(苦笑)ですね(苦笑)」

鈴木先生は人をよく見てる人だ
僕が鈍感なだけ、か(苦笑)


「実は…」

僕は教師に向いてないんじゃないかって思う時があることを打ち明けた

担任クラスの生徒はきちんと見てきたけれど他の生徒まではきちんと把握できない

実際に担任していない奈生の事も全く覚えていなかったーー

奈生に出会うまで
自分のそういう所に問題視した事は無かった


奈生の残念そうなあの笑顔が…

“覚えてないですよね (苦笑)”

僕の中で大きな後悔と反省になっている


「全校生徒を把握するなんて誰もできませんよ。それに各クラスに担任がついていますから。そこまで気負うことないですよ。」

「…本当にこんなんで良いんでしょうか。」

「そこまで深刻に考え込むことはないですよ(笑) 僕も把握なんてできていませんから。」

鈴木先生はそう言ってくれたけれど…

「じゃあ、僕はここで。今日はお疲れさまでした(笑)」

鈴木先生と駅で別れた

自宅に帰り慣れないスーツのジャケットをハンガーに掛け鞄から中林の手紙を取り出した

今日も中林と会う事は無かったな…


中林の手紙
前に貰ったのも敢えて読まなかった


引き出しにしまっておいた中林の手紙と
今日くれた手紙を読んだ


何気なくかけた僕の言葉も
やる気や励ましになっていたのか…

中林の恋心が切々と伝わってくる

“もし次会えた時は生徒じゃなく女として見てください。”
 
諦めた訳じゃないってことなのか?(苦笑)

“今もこれからも忘れません。”

最後にそう書かれてあった

ファーストキスの相手…だから?


若さ故の無鉄砲さとか 情熱とか
30代半ばの僕にはもう無いけれど

ファーストキスの相手は
今でも忘れてない




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