beautiful world 2
「もしかして… 」
まさか私のこと 覚えてくれてた!?
心臓がバクバクしてきた
「そのカメラ、故障ですか??」
ーー え?
私のこと…
わかってない…?
カメラをいじっているフリをしていた私がカメラが故障して困っている人のように見えたようだった
「あぁ、違うなら良いんです(笑) それじゃ。」
頭を掻きながら笑って立ち去ろうとした
「こっ、故障ではないんですけど!つっ、使い方が… どう… だったかなぁと… 」
先生を引き留めたくて咄嗟にでまかせを言ってしまった
「あ〜、そうなんですね(笑) なかなか渋くて良いカメラをお持ちですね(笑)」
これは父が大事にしていたライカのフィルムカメラ
ずっとおねだりをしていてようやく最近譲ってもらった物だった
「つい先日父から譲り受けたんですけど、なんだか難しいです(苦笑)」
「そうなんですか(笑) あの、良かったら少しそれ、見せてもらってもいいですか?」
カメラを手渡すと先生は嬉しそうな表情で細部までカメラを観察した
「フィルムタイプですかぁ〜!これは良い!(笑)」
嬉しそうにレンズを覗いて景色を眺めている
先生...
あの頃と全然変わってない
まともに会話したのもこれが初めてかも…
こんなに近くに先生がいるなんて夢みたい…
「ライカ、僕も欲しいと思ってるんです。こんなに良い物は買えませんけどね(笑)」
同じ趣味だったのが嬉しい
私のことやっぱり覚えてないみたいだけど
それでも今は目の前にずっと憧れていた人がいることにずっとドキドキしてる…
「ありがとう(笑)」
私のカメラを差し出し返してくれた
「(そのカメラ)長年大事にされた物のようですね(笑) 」
「みたいです(笑) だからなかなか譲ってもらえなかったんです(苦笑)」
先生は微笑んで
「ずっと大切にしてあげてくださいね(笑)」
そう言って先生は立ち去ろうとした
「あっ、待って!」
咄嗟に引き留めてしまった
でも口実が…
そうだ!!
「あのっ、良かったら、フィルムカメラでの撮影のコツ、とか、教えて… もらえませんか… 」
「それならお父様にお聞きすれば宜しいのでは?」
確かにそうだけど...
でも!折角出会えたのに
こんな所で引き下がれない!
「父は単身赴任なので、その、周りにもフィルムカメラはわからないみたいで、、」
先生はキョトンとした
「あぁそうか。今はデジカメやスマホで気軽に撮影ができるもんねぇ。わかりました。良いですよ(笑) あ、僕は早見って言います(笑)」
「私は田中と言います、、」
「田中さんね。僕程度の知識で良ければ構わないですよ(笑) 」
よくある名前だからやっぱり私の事は気付いてくれない、か…
「できれぱ、一緒に写真撮りながら教えて欲しいんですけど… ダメですか?」
「なら今撮ってみますか?」
やった…!
本当はこのカメラの操作方法は父に教えてもらっていて知ってはいたけれど
先生は私にカメラの使い方を丁寧に教えてくれた
その先生の腕が触れそうな程近くにあって
緊張してしまい先生の言葉が頭に入ってこない
花を接写してみたり
広角の高原の景色を撮ってみた
どんな風に撮れたのかはフィルムカメラだから現像してみないとわからない
「撮った写真をセン… 早見さんに見てもらいたいんですけど、あの、、連絡先とか教えてもらうのって、ダメですか? 」
連絡先を聞いてしまった!
危ない危ない
もう少しで“先生”って言いそうになったよ
「あぁ、うーん。それはー … 」
先生は考え込んでしまった
やっぱり
私じゃダメ…なのかな
「会ったばかりのこんなおっさんに若い女の子が簡単に連絡先を教えるのは駄目だよ(苦笑) 」
距離を取るような言葉だった
「すみません、、会ったばかりなのに」
先生は誠実でとても真面目な人だって私は知ってる
そんな先生だからそう言うんだってことも理解できるんだけど…
でも、これっきりもう会えないなんて嫌だ...
「なんか、ごめん(苦笑)」
顔をあげて先生を見たら
困った表情になっていた
「誤解しないでね?田中さんが構わないなら僕は構わないんだけど、、うーん(苦笑)」
困ったように微笑んでいた
「お願い...したいんですけど…」
「あ、じゃあ!僕から連絡しなきゃ良いんだな(苦笑)」
「そんな、お返事は欲しいです!じゃないと日にち決められませんし(苦笑)」
「それもそうか(苦笑)」
先生はポケットからスマホを取り出しメールアドレスと電話番号を教えてくれた
半ば私の泣き落としで強引に先生にOKをさせたようなものだけれど
このチャンスを逃したらもう二度と接点が無いんだもの!
「あらためて、よろしくね(笑)」
握手を求め差し出された先生の大きな手が
高校の卒業式を思い出させた
あの時は “別れ” の握手
これは “出会い” の握手…
緊張しながら先生の手を軽く握った
こうして出会いの握手ができるなんて
嬉しくて涙がこみ上げてきそうになった
「写真の出来が楽しみだね(笑) ライカで撮ったからなかなか味のあるものになってると思うよ(笑)」
先生の微笑みは昔と変わらずとても温かかくて
勇気を出して先生にアドバイスを求めて本当に良かったと噛み締めた
帰りのバスの中 ーー
“早見先生”
スマホ住所録にあるその名前表記を眺めながら
私は宝物の手に入れたように感動していた
ーーー
“早見さんに写真を見てもらう日、また一緒に写真撮りに行きませんか? 是非よろしくお願いします。”
たったそれだけのメールを送るのに
何時間も考えてやっと送信を押した
やっぱり私は先生が大好きみたいです…
心がフワフワする
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