気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay with me 《まとめ》

2020-12-24 07:25:00 | ストーリーまとめ

“Stay with me”   《まとめ》

































恋愛小説のように 6 最終話

2020-12-20 23:39:00 | ストーリー
恋愛小説のように  6   最終話





「深川 榛(ふかがわ はる)の新刊出てたね♪」



ーー えっ



本屋に入る時
すれ違った女性二人の会話が耳に入った



“深川 榛”

幸輔さんが書いた本が新刊コーナーに積まれていた



ゆっくりと書籍を手に取った



パソコンに向かって執筆している幸輔さんの後ろ姿

Tシャツから肩甲骨が浮き出て
時々 天然パーマ頭をポリポリと掻いている


そんな姿を思い出した ーー





ーー あの別れから二年


一度も深川 榛の本を開いていない

開くことができなかった


幸輔さんと別れたことが
火傷の跡のように

私の中で未だ消えずに残っていた



手に取った書籍を元に戻した



この二年間で
私は付き合った男性がいた


好きだから付き合いたいと言うその人の言葉に

少しはこの胸の痛みが消せるなら
幸輔さんを忘れられるならと

そんな逃げるような思いで

「じゃあ… よろしくお願いします」

そう答えた ーー



でも彼が楽しそうに話す会話も
私には退屈で

胸が高鳴り
ときめくこともなく

キスをしても
心は変わらなかった

そんな彼との交際は
やっぱり呆気なく終わった


彼の心を傷つけてしまったという罪悪感で 付き合う前よりも胸が重苦しくなってしまった


そして

幸輔さんと過ごした時のように
また誰かに恋をすることなんてないと思った ーー




本屋を出ると冬の冷たい風が強くなっていた


「寒っ、、」


ポケットに手を入れたらスマホが鳴っていた


着信を見ると友達のモモちゃんからだった

明日予定が無いなら会わない?と誘ってきた



ーーー



モモちゃんは高校からの友達

そして
作家 深川  榛と出会ったあの居酒屋で私と一緒にいた友達の一人だった


私が深川  榛のファンだったことも
深川  榛である幸輔さんとお付き合いし

そして別れてしまったことも
彼女だけには話していた


私達が別れた経緯を聞いた彼女は
“それが先生の遊への愛だ”と言った

その意味が私には理解できなかった




「ねぇ遊…  深川先生の新刊、出てるの知ってる?」


あ…

さっき見た本の表紙を思い出した


「うん。(笑)」

「…読んでみた?」

「読んでないよ(苦笑)」



落ち着かない様子のモモちゃんにどうしたのか聞いた

バッグから深川  榛の新刊をテーブルに出した


「… これ、私は読んだからあんたにあげる。だから、絶対読んで…!」

「え?なんで?どうしたの?(苦笑)」

「読まないと…  遊が読まないと駄目な本なんだよ。だってこれは… 」

言葉に詰まって
私の前にグッと本を差し出した



え?

「待って、なんで…?(苦笑)」

「とにかく読めばわかる。読まないと絶対に後悔する。」

「後悔って… 私にはもう読めないよ… 」


私がもう深川  榛の本が読めなくなってしまった事を知ってるのにどうして…


「遊が読まなきゃこの本が世に出た意味がない。この作品の存在価値は無いからよ。」




ーーー




強引に渡された深川  榛の新刊

ふいに…

幸輔さんのいたずらっ子のように
ニッ!と笑う顔が浮かんだ



辛いんだもん…
こうして思い出すのが

だから読まなかったのに…



今まで揃えて持っていた深川  榛の本は全て段ボールに入れて押し入れにしまったまま

捨てる勇気もなく
胸の痛みが無くなるまでは本は開かないと決めたのに…



“遊が読まなきゃこの本が世に出た意味がない。これの存在価値は無いからよ。”


その言葉で
渡された本を開くことにした




主人公は男性の“陽介”

幸輔さんの名前に似てるな



なんでもない日常の中で
“風子”という女性と出会う


地方の山に囲まれた農村で生まれ育った野生児のような風子が大学進学で東京に出てくる


東京という異世界のような都会で出会った陽介とのエピソード


この陽介って…
なんだか幸輔さんに似てる



陽介と風子の心が
次第に重なって

二人は恋に落ちた


奔放な陽介は
風子を振り回しながらも

不器用なりに風子を愛していた


愛猫を愛でる陽介に風子がやきもちを妬く所は

風子の愛らしさが目に浮かぶようだった


それは
ミューの頭を撫でながら愛でる幸輔さんの姿とも重なった



それから物語は陽介と風子の二人の想いが
次第にすれ違っていく

きっかけとなる出来事もなく
喧嘩をする訳でもなく
嫌いな部分が出てきた訳でもなく


誰にでもある
ほんの些細なタイミングが合わなくなり

それが多くなって
気持ちがすれ違っていく


そして
風子を取り巻く人達や環境の変化により
心も変化していく


そんな中 “都会の女”と変化していく風子に陽介の心だけ独り取り残されていった


陽介だけが
孤独と焦りを感じていく…

それでも風子に悟られぬよう
気丈にいつもの笑顔を作る不器用な陽介は

陽介なりに風子を理解しようと
受け止めようとする



それが陽介の愛…





ーー これって

まさか…


私と幸輔さんの話 …?




そして風子は都会の男性と出会い

風子は幸せに生きていくのに



陽介は風子との思い出を
愛おしく愛でながら


風子を想い
愛猫と生きていくなんて…




ーー なんで…

どうして
ハッピーエンドじゃないの…?


幸輔さんは今も独りきりなの?



縁側に座り煙草をふかしている幸輔さんの

ミューを待つ寂しそうな後ろ姿が鮮明に浮かんで


ーー 涙が溢れ流れた




あれからもう二年も経つのに

時間は記憶や想いを曖昧にし
そして消していくというのに

私は未だにこんなにも胸が締め付けるような痛みを感じてる


幸輔さんと別れてからの私は
半身を引きちぎられたような痛みと喪失感で
もう昔のようには笑えなくなってしまった




幸輔さんのくだらない冗談や
私をからかっては少年のようにニカッと笑うあの顔につられ笑った

包みこむような優しい笑顔が照れくさくて誤魔化しても全部お見通しで

抱きしめながら頭を撫でる大きく温かい手


全部覚えてる

その全てに愛を感じていた

あの頃は本当に幸せだった…





ーーー




本の中にも出ていた隅田川テラスに
本の中の夕暮れ時に訪れた


ここは陽介と風子が初デートした日に訪れた場所


幸輔さんもここに来てイメージが浮かんだのかな…


今日は12月12日

二年前の今日
幸輔さんと別れた



あぁ…

本を読んでからずっと幸輔さんのことばかり考えてる…


恋愛小説のような恋をしてみたいと言った私の言葉に

幸輔さんは
“そういう恋愛、してみるか?”

と言ったあの瞬間から私達は始まったんだ…



本当に恋愛小説の本にしてくれたんだね


「センセ…」



「へぇ。君は深川 榛のファン?」



振り返ると
懐かしい男性が立っていた


風で天然パーマの髪が乱れ目元が隠れている幸輔さんが

ーー そこにいた





「幸輔さん… 」


「それ。」
私が手に持っていた本を指さした

「深川 榛の新刊だよねぇ(笑)」


「えっ… 」


「深川 榛ってなかなか良い作家だと思わね〜?(笑) 」

自画自賛して少年のようにニカッ!と笑った


あぁ…
あの頃の

あの笑顔だ…




「どうしてここに… 」


欄干に立ち
川の流れを眺めながら


「今日はねぇ。記念日なんだよねぇ(笑) 俺、彼女がいましてねぇ、」



“彼女がいる” ーー

胸がズキンと痛んだ



「いや、違うな。“前にいた”だな(笑) 
今日はその彼女が幸せになった日なんだよ(笑)」


「… どういう意味ですか」


「言葉通りの意味ですよぉ?(笑) 俺と別れて彼女は幸せになっただろう。その幸せに一歩踏み出した幸せ記念日。ヘヘッ(笑)」


いたずらっぽく笑った



ーーー違う


別れてからずっと幸せだと感じられない日々だった

ずっと 本心から笑えなかった…


「センセは… 幸せですか?」

「俺はいつだって幸せですよぉ〜(笑)」

私に微笑みかけた



ーーそれは嘘だとわかった


幸輔さんは強がりで
いつも心の一番奥は見せてくれなかった


でも嘘を言った後
唇を硬く噤み 眉尻が下がる癖がある

本当は嘘をつきたくないという心理が働いてそういう表情にさせるのかなと思っていた



「この物語… ハッピーエンドじゃなかったですね。私はハッピーエンドが良かったです。」


「でも風子は幸せになったでしょぉ?へへっ(笑)」


「“風子” … 幸せになりませんでしたよ… 」


「え…?」

戸惑いの表情に変わった


「“風子”は“陽介”のことをまだ愛してるんですよ。」


幸輔さんは困惑した表情で私を見つめた


「…どうして」


「わかってないのは幸輔さんの方ですっ!勝手に私の幸せを決めないでくださいよっ!私はずっと幸輔さんのこと忘れたくてもずっと苦しくて、心に残ってて、、私は全然前に進めなくて、」


涙が溢れてきた
なんでわかってくれないの


「ずっと、ずっと忘れられなくて、笑えなくなって… 私は、」



ーーふわっと温かくなった


私を抱き締める幸輔さんの温もりが
冷えた私の身体に伝わってきた



「それでも“陽介” はずっと“風子”を愛してんだ。」


そう…
物語の中で

陽介はずっと変わらず風子を愛していた


「腕ん中に入れちまうと手放すことが、離れることが恐くなっちまうんだ… 陽介は意気地の無い弱いヤツだから…」


やっと
心の一番奥の声を聞けた気がした ーー



「もう俺はお前を手放さなくてもいいのか…?」

抱き締める腕の力が強くなった



「私が離さない」


やっと
本当の自分の居場所に戻ってきたような

懐かしい
温かいこの幸福感



「 お前が昔 原稿を読んで “またこの二人の気持ちが通じ合えて良かった”と言ったことがあったよな… 」


…あった


幸輔さんの顔を見ると
泣きそうな目で愛おしそうに私に微笑んでいた


「ハッピーエンドに…するか?」


私は嬉しくて頷いた

「恋愛小説みたいですね…(笑)」


「そういう恋愛、したかったんだろ?(笑)」

いたずらな表情で笑った


「ミューと…俺ら三人で家族になんねぇ?」

幸輔さんは目を潤ませて私に微笑みかけた


「はい!喜んで!(笑)」


「やっぱりお前は居酒屋店員かっ!(笑)」



大きな手で私の髪をくしゃくしゃと撫で
懐かしい広い胸の中に私を抱き入れてくれた ーー


この温もりから
離れられない…






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