beautiful world 27
【初めての彼女(4)】
大学の卒業して教員職に就いた僕と
旅行会社勤務2年目に入った舞
お互い休日が合わなくなってきたけれど
月に1、2回は仕事帰りに会い一緒に晩飯に行って近況を話し合っていた
そして付き合い始めてから7年目
25歳になった僕は当たり前のように
舞との“結婚”を意識し始めた
舞の仕事が忙しいようで
今夜は二ヶ月ぶりに会う
少しワクワクした気持ちの僕とは違い
舞は昨日も会ったかのように淡々としていた
やっと会えたのにもう少し嬉しそうな顔して欲しいんだが…(苦笑)
食事をしながら
“舞の友達って結婚してるのか?”とか
それとなく“結婚”という言葉を何度か出してみたけれど反応が薄い
舞はなにか考えごとをしているようだった
『舞〜??そろそろ店出る?』
『え、あ、そうね。』
『考えごと?悩みごとか?』
『悩みじゃなくて…私、移動希望が通ったの。』
部署の移動希望?
『希望が通った割に嬉しそうじゃないな(笑)』
『それで今夜あなたに話があって。』
『話?』
『私、海外勤務が決まったの。』
ーー は…?
今“海外”って言った…?
僕は内心
激しく動揺した
海外勤務を希望していたなんて一言も聞いていなかったからだ
というか
僕は今夜 舞に結婚の意思があるのか
それとなく確かめてようとしていたのに
海外勤務って
なんだよそれ…
『まさか…行くつもり…なのか…?』
『ええ。だから別れて欲しい。』
ーー は?
『な、なんで別れなきゃならない!?』
『海外での遠距離恋愛なんかできる訳ないでしょ。』
ーーそうだ
舞はそもそもこういうやつだった…
やりたいこと優先
仕事やキャリア優先
僕なんて
どうでもいい存在だったのか…?
僕がどんな気持ちなのか
どんな考え持っているとか考えもしない
僕はいつも二人で楽しめることや
舞が嬉しくなることを考えて
近い将来二人で家庭持って
毎日笑って過ごして…
二人でーー
でも舞の未来図に僕はいなかった
僕は舞の人生には“必要のない存在”だったってこと…なんだな
『そうか…わかった。』
席を立ち
『じゃあ…』
会計を済ませて店を出た
まさか…
こんな風にあっさりと
今夜別れを切り出されるなんて思いもしなかった
僕は舞にとって
必要のない…
悲しくて
悔しくて
寂しくて
惨めで
堪えようにも
勝手に涙が溢れ出る
心を傷つけられたから?
もしかして僕は舞に依存していた?
わからない
なにも…
頭が回らない…
人の少ない通りを選んで進むと
川辺に着いた
舞と付き合い始めた時に一緒に歩いた遊歩道だった
しまったと思ったけれど
薄暗くて人通りも少ないから気持ちが落ち着くまで真っ暗な川を眺めていた
舞と過ごしたこの7年は
本当にいろんな思い出があった
わがままに振り回されて驚くことや
二人で一緒に笑って幸せを感じた瞬間も沢山あった
一緒に写真撮りに行ったり
舞に服を見立ててもらって
見たことない自分を発見したり
舞のいつも前だけを向くポジティブな性格に考え方を学んだこともあった
意見の相違で口ゲンカしたことも結構あったけど
どんなことも
全てが新鮮で楽しかった…
なのに
こんな風にあっさりと別れてしまうなんて思いもしなかった
僕は舞にとって
その程度の存在だったことが
辛く悲しい…
『…陽太』
振り返ると舞が立っていた
僕の後を追いかけてきたようだった
『陽太がそこまで傷つくなんて私思わなくて…』
ーーは?
7年だぞ!?
『こんなにも長い間付き合ってきたのに
突然別れを切り出され簡単に“ハイさよなら”で気持ち切り替えて別れられるはずないだろう!』
傷つかない訳ないだろ!
でも
舞にはわからないんだーー
『君はいつも自分のことしか考えない自己中な女だった。僕は舞との将来のことも考えて…なのになんで…こんな…簡単に…受け入れられない…』
自分がこんなに泣いて
情けないことを言う男だとは思いもしなかった
『私、結婚願望ないの。』
それは
なんとなくわかってたよ…
なのになんで僕は舞と結婚なんて考えてたんだ…
『刺激がないと生きてる気がしない。安定の生き方なんてつまらない。それに結婚なんて縛り合うみたいなものじゃない。』
『結婚が縛りって考え方間違ってる!結婚は一緒に支え合って生きていくものだ!』
『それなら別に入籍しなくても可能よ。』
何を言っても
もう舞とはわかり合えない...
ーーそう悟った
『そもそも僕たちは結婚観も人生観も全て違ってたんだな。このまま付き合っても上手くいくはずがなかったんだ。別れるのは正解だな…』
『ごめん…陽太。』
『もういい…別れよ。』
僕と彼女との7年という長い交際は
信じられないほど
まるで
シュールなコントみたいに
あっけなく終わったーー
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