beautiful world 20
来月の奈生の誕生日
何を贈ろう
ブランドモノや今の流行りとか
僕には全くわからない
スマホで検索してもさっぱり...
なので仕事帰り書店に立ち寄った
こんなにも沢山ファッション誌が出版されているのか
とりあえず一冊手に取ってみた
「あれ?陽太?」
声をかけてきたのは
同じ道場に通っている女性、七海だった
一瞬誰なのかわからなかった
いつもすっぴんで道着以外の服装はトレーナーにジャージの七海が女性らしく化粧してスカートなんか履いていた
「なに?その変な顔は。」
怪訝そうな目で見てきた
「変な顔ってなんだよ(苦笑)」
道場に通っている女性の中でずば抜けた実力を持っていてかなり強い女
七海は積まれた女性ファッション誌に視線を移し
「こんなとこで何やってるの?」
あーそうか
一応 七海も女だしな
七海に聞いてみるか
七海に勧めてもらったファッション誌を購入し書店を出た
「陽太が彼女へのプレゼントで悩んでるなんてね、クククッ(笑)」
「何故笑う。」
「道場での勇ましい姿と彼女への贈り物で悩んでる姿とのギャップが、、クククッ(笑)」
「それなら、、」
そんなオシャレOLみたいな格好してる七海の方がずっと違和感があるぞ!と言いたかったが飲み込んだ
「ほんとありがとうな、助かったよ(笑)」
「え?お礼は言葉だけ?」
七海に晩飯を奢ることにした
書店近くの小さなイタリアンのお店に入った
二人だけで食事をするのは初めてだ
まぁ…
こう見ると七海でも一応女性に見えるもんなんだな
化粧と服の力の凄さを知った
窓の外は雨が降りそうな雲行きになっていた
食事も終えたしそろそろ…
「陽太に彼女ができたって聞いた時は驚いたわ(笑)」
「何故驚く。そんなに意外か?」
「しばらく彼女いなかったじゃん。もう彼女作らないのかなって思ってた。ちなみに彼女、陽太のファンの子?」
「ファンってなんだよ。」
「陽太の練習や試合を見に来てる女の子集団よ。その子の中の誰かとか?」
「んな訳ない。」
過去に応援してくれていた女性のひとりに相思相愛だと勘違いされて困った事があった
それからは誤解させる言動にならぬよう気をつけていた
「あの子、顔 可愛かったけどね〜(笑)」
「そうだったか?忘れたよ。」
本当は覚えている
確かに可愛い顔立ちの若い子だった
今の奈生と同じぐらいの年頃だった
でも魅力を感じることは無かった
「えー!覚えてない?可愛いかったよ。読モだったらしいし。で?今の彼女は?可愛いの?」
「可愛い。」
「わ!即答!」
奈生の僕に向けた満面の笑みが浮かぶ
「本当に可愛いからね。」
「私、結婚するなら多分陽太かもって思ってたんだけどなぁ(笑)」
「は!?なんで。」
「約束したじゃん。お互い35を越えてもパートナーが居なかったら結婚しようって。」
そんな約束したか...?
…あ、したな
「あ〜あれな!七海がふざけて言ったやつな(笑)」
「えっ…」
七海の表情が消えた
えっ
まさかあの冗談って本気だったのか?
だってあれは七海がふざけて言っただけだろう?
「あー、、すまない、、本気だと思ってなくて。」
「はは(苦笑)冗談だよー」
え?
「あんなの冗談に決まってるじゃん。」
「ったく!なんだよっ!(苦笑)」
「はははっ(笑)」
店を出ると雨が落ち始めていた
「傘は?」
「私持ってない。」
んー
仕方ないな
駅までは100メートルほど
「んじゃ!走るか!」
走りながら七海は何か言って笑った
「なんだって!?」
「なんでもない!(笑)」
駅に着いた
まだ小雨でその内 止みそうだし
家まで遠くないから傘を買うほどでもない
「寒っ!」
七海は足元やスカートが雨に濡れていていた
リュックの中から持っていたタオルを七海に使えと差し出した
「汗臭くない?」
「使ってないしちゃんと洗ってるわ!(笑)」
「あはは(笑)ありがと!」
タオルを受け取り髪を拭いた
「うっ、、なんか臭う!」
苦い顔をした
「えっ!?」
「ウッソ~(笑) 臭くないわよ(笑)」
「なんだよ!(苦笑)」
「タオル、次の練習日には洗って返すから。」
「いつでもいいよ。とにかく風邪ひかないようにな。」
「ありがとうね。ご馳走さまでしたぁ(笑)じゃあね(笑)」
七海が改札に入って行くのを見送っていると
突然振り返った
「見送りなんて良いから!(苦笑)」
「あ、あぁ、うん(苦笑)じゃあな!」
七海に促され僕は小雨の中を走った
ーーー
見送られるのは嬉しいけど困る
陽太のそういう自然に出てる優しさって妙に期待をさせるんだよ
なんだぁ〜
やっぱり忘れてたんだ…
あの約束をした時には
もう彼とは別れてた
35でお互い結婚相手がいなかったら結婚しようなんて
冗談めかして言うしかなかったよ
だって真剣に言うと
超真面目な陽太なら断るだろうなってわかってたから
彼女ができた陽太はますます強く逞しくなった
まさに愛の力ってやつ?(苦笑)
可愛い彼女…かぁ
電車の窓に映る自分の姿を見ても可愛い女性とはほど遠い
柔道で鍛えた自分の硬い腕が
こんな時はちょっと恨めしい
ーー “可愛い”
彼女のことをそう即答で答えたあの時の陽太は
私が見たことのない恋人を想う顔になってた
あんな顔するんだって
胸が痛かった
今日会えて嬉しかった
でも会わなきゃ良かったな…
このタオル
少し陽太の匂いがする
好きな匂い…
めちゃくちゃオッサン臭ければ良かったのに(苦笑)
―――
雨で濡れ寒くて
直ぐに風呂に入り
今夜はルーティンのジョギングは休むことにした
七海に勧められ購入したファッション誌をめくってみると
うーん…
贈る物 贈る物…
それとも何か喜ぶ事をした方が嬉しかったりする…のか?
だとしたら旅行とか?
旅行だったら部屋に温泉とか大きな風呂がある所が良いな
二人でしっぽりと混浴なんかして...
最近奈生とゆっくり会えてないし
抱いてない
考えるだけで抱きたくてなってきた
「あーもう、会いたいなぁ!」
いやいや真面目に考えろ
またファッション誌に目を落とした
次のページをめくった瞬間
あっ
これにしよう!
多分、いや!きっと喜んでくれるはず
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