気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

懐かしい思い出

2020-06-20 00:41:33 | 日記

テレビで事故物件のことしてて思い出した。


茨城で一人暮らしをしていた時

部屋の隣が何年も空き部屋だったと聞いていたけれど事故物件ではなかった。

でも夜になると隣に何かがいる気配は確かにあった。

ある夜隣の部屋から私の部屋の台所に幽霊がいたもんだから大嫌いなGを見つけた時レベルでギョッ!とした。

Gのように即座に排除したけど見つけた時はいつも驚く!


そんなのよりも気味が悪かったのはとある大阪のビジネスホテルに宿泊した時のこと。

ホテルの建物に入るなり暗い感じではあった…

その時は二件隣には葬儀場のビルがあったのは気付いていたけれどさほど気にはしてなかった。



私の友達が隣の部屋を抑えて、お互いシングル部屋をとってけれど、お互い荷物を置きに部屋に入った友達から

「ここ!ヤバい!来て!」と隣の部屋からLINEがきた。

部屋を訪ねるとそりゃもういきなり気持ち悪くなるくなる部屋だった。

「音がするよ((T_T))」と言うから二人で静かに耳を澄ませていたら


壁の中から “パキッ!” “コトッ!” “コン!” と音がする

部屋の空気からもパチパチとラップ音がする


私「これ… 酷くない?…ちょっと(あなたが)祓ってみる?」

友達「怖いから(ダメ、イヤ)!」


友達も祓える人なんだけど何故か霊が凄く苦手だったので実力を発揮できそうもなかったようで

私「私の部屋、隣だし私の部屋で一緒に寝てても来るかもねf(^_^; どうする?私の部屋に来る?」

友達「行く!!!」

となり、私の部屋から浄霊をしてシングルベッドでぎゅうぎゅうで寝た…

なんてことも思い出した!


人間は自分で対処できないこと(天災など)や得体の知れないものは恐いと感じ、対処できることや、知らないものを知ることで あまり恐怖を感じなくなるものだと思うから

彼女が何故そんなに怖がっていたのか未だに不思議なのですが(笑)

「こういう所にこの時間以降から独りで“丸腰”で行くと怖いですよ」
と昔、エネルギーワーカーの先生に聞いて

その言葉通り “丸腰”で独りで向かったら流石にあれは恐怖を感じた

(丸腰=対処するための呪術を一切使わず神の降臨無しの状態)


ジワジワといろんなものが近寄って来るのがわかるから

“これが普通なんだよね… あぁ夏なのに寒気がするぅ!怖いー!ギャー寄って来ないで!!((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル”

と思いながら恐怖の体感をした事もついでに思い出した(笑)

それも もう何年も前の話で懐かしいなぁ!




ドラマ 愛していると言ってくれ

2020-06-16 00:21:00 | 日記


25年ぷりに再放送が始まりました

当時、リアタイで見ていましたがまだ若かった当時感じたこととは違うものを感じるのは25年で私も随分大人になった(老けた)からだろう(笑)

今の時代のようにスマホもメールを使うことも簡単じゃなかったあの時代

もぉ!スマホがあれぱリ直ぐにメールで気持ちを活字で送れるのに!とヤキモキするけれど

言葉の伝達手段が今より少ない時代だったからこそ手紙や手書きメッセージのファックスに心が響くんだなぁ


ドラマ「愛していると言ってくれ」は今でもやっぱり私の中ではキュンキュン度が一番のドラマ(笑)





たしかなこと 2 (11)

2020-06-06 09:20:00 | ストーリー
たしかなこと 2 (11)






お風呂から上がって乾いた食器を棚にしまうと取り敢えず私の一日のルーティンが終わる



疲れてるとそれから直ぐに寝るけど
いつもは録画していたCSの映画を見る



宣隆さんは夜遅いのが苦手だから私が映画を見てるといつも途中からウトウトし始めて 映画が終わる頃には隣で完全に寝落ちしてる


眠かったらお布団で寝てと言っても いつも隣で私にもたれかかって寝てしまったり私の膝を枕にして寝たり


子供が母親にくっついて回るようにいつも傍にいる

そして時々確かめるように私を抱き締めてくる

それが甘えているようでいつも胸がキュン♡となる


会社で見ていた“クールな大人の白川部長”からは想像もできない


私が先にいなくなったら生きていけないのでは?と冗談で言った時


そんなこと一瞬でも考えたくはないから冗談でも言わないで欲しいと 真剣な返答が返ってきたこともあった




「香さん、もう終わった?」

私を待ちわびたように寝室から顔を出した



「終わりましたよぉ」

最後の食器を棚にしまい寝室に向かった



一緒に布団に入るとキスをしてきた

「明日 同窓会ですよね」

そう聞きながらパジャマを脱がされた


「うん、えっ?」首筋を舐めてくる


「クラスメイトに好きな奴とか … いた?」


「い、いない、、、」

私を知り尽くしている彼に触られると…



「そうか… 明日迎えに行くね。」

いつもはつけないキスマークを身体中につけられた

まるで “僕のものだ” と印をつけたいように



私の嘘に気付いたのかもしれない





ーーー




朝 鏡で首を見たら見えるところにはキスマークはついてなかった


「香さん、今夜迎えに行くから、もし二次会に参加するなら早めに教えてください。じゃあ行ってきます(笑)」


いつものように
いってきますのキスをして宣隆さんは出勤した




本当は当時 私は同級生の男の子に片想いをしていた

その彼が同窓会に参加すると友達から聞いていたけれど宣隆さんには言えなかった


心配してヤキモチを妬きそうだから言えなかった


宣隆さんが心配するほど私イイ女でもないのに


それなら宣隆さんの方がモテてたに違いないのに!イケオジ好きな女子には今でもモテそうだもの


声も素敵だしスタイル良いし腹筋や背筋とかなんだか凄くしっかり出てきて身体に厚みが出てきたからスーツを新調しないとなんて言ってたし




夜の同窓会用の服を持って職場の店に向かった

今夜 店を閉めてからそのまま同窓会の会場に向かうことになっている

ガーデンパーティができる洒落た店を貸切りにして高校の頃の同学年全クラスの生徒が参加対象になっている




仕事を終えて着替え、急いで電車に乗り会場のある駅に降りた

始まるまでになんとか間に合った
受付の参加名簿に名前を記入すると

“柚木 洋” のサインを見つけた


あっ… 柚木くん 来てる

ドキドキしながら受付で会費を払い会場の中に入ると今も仲良しのなっちゃんが私の所に笑顔で駆け寄ってきた



「柚木くん居るよ(笑)」


「別に… 柚木に会いたくて来た訳じゃないし…」


「でもこんな機会じゃないと会えないじゃない?」


然り気無く男性を見渡すとスーツを着たひときわ目立つ高身長の男性の後ろ姿



あれは柚木くん ーー




ーーー




柚木くんは高校でバスケ部だった

県大会で優勝を狙えるほどの実力校で柚木くんは期待をされているメインメンバーだった


身長も高くて爽やかでスッキリと整った顔立ちだったから女子にもモテていた


私も素敵だなと憧れで見ているだけだったけれどある日の休日 ショッピングモールで偶然柚木くんから声をかけられた


私服の柚木くんは初めてで学生服姿とは違って大人に見えた


その偶然がきっかけでたまに話をするようになった


柚木くんはモテてたから私からは声は掛けなかったけれど 練習を見学している女子の中に紛れていた私と目が合うと少しはにかんだように微笑みかけてくれた



私はそれだけで嬉しかった



そんなある日柚木くんが進学するの?と聞いてきた

大学に進学すると伝えると俺は留学するんだと残念そうに微笑んだ




「日本に帰ってきたらさ。もし笹山さんが俺のこと覚えてくれてたらまた会いたいな。友達としてでも構わないから… 」


15年も昔 忘れていてもおかしくないそんな小さな約束を私はまだ覚えている


想いが残っている訳じゃないけど あの頃の淡い恋心は忘れられない



「香、柚木くんこっちに向いたよ(笑)」


あっ…



一瞬で時が戻ったような
あの頃の気持ちが甦ってきた

あぁ… 駄目だ

ここには来てはいけなかったかもーー




柚木くんが私に向かって歩いてきた


「笹山さん…?」


私のこと覚えていてくれたーー


「うん。柚木くん、変わらず格好良いね(笑)」


「笹山さんは凄く綺麗になったね(笑)」

照れくさそうに笑った笑顔は昔と一緒で爽やかだった


私は顔が一気に熱くなって手も汗ばんできた


「向こう(海外)で何度も引っ越をして旅もして君の連絡先を無くしてしまったんだ。だから連絡できなくて… 」


柚木くんは留学先の大学を卒業をしてからしばらくバックパックで世界中を旅をし その後アメリカの企業に就職をしたと話してくれた



「こちらには仕事の転勤で先週帰国したんだ(笑) 同窓会があると聞いて、笹山さんに会えるチャンスだと思って… (笑)」


はにかんだその表情は バスケの練習で目が合ったあの瞬間の柚木くんと一緒だった


隣にいたなっちゃんがいつの間にか居なくなっていて私と柚木くん二人だけになっていた


「あそこに座ろうよ」



連絡先を失くしたってことは
あの時の約束 覚えてくれてたってことかな



「柚木くんはもう結婚してるんでしょ?」


「まだしてないよ(笑)」


「そっか… 柚木くんならこっちでも直ぐに相手はできるよ(笑)」


「… 君に会ったからそう簡単にはできないよ(笑)ははっ(笑)」

困ったように笑った


それはどういう…



「君が結婚したことを聞いた。笹山さんのことは何よりも一番に知りたくてね(笑)」


ドキドキしてきた


「どうして… 」


「俺の初恋の人だったから。」



ーー えっ



あんなに女子に囲まれ この人の周りには黄色い声が絶えなかったのに



「あの時… ちゃんと君に告白しておくんだったって後悔した(笑) 」



そんなこと…
今更 言わないで欲しい

複雑な気持ちになった…




「柚木くんが私のこと好きだなんて、そんな、、あの時に言って欲しかったな(笑)ははっ」


「直ぐに離れて暮らすことになるから言えなかった。言えば俺と君の関係は変わってたのかな。俺と君は繋がっていられたのかな。」



真剣な眼差しで見つめられ返答に困った



「おーい、柚木ぃ!」


柚木くんがバスケ部仲間の男子に呼ばれた



「あっ、柚木くん呼ばれてるよ、行ってきて、、」


「後で、必ず話を、、あ、これ俺の連絡先、今度こそ渡すつもりだった」



名刺を受け取った


外資系の企業なのかな
よくわからないけれど裏には私へのメッセージとプライベートアドレス、プライベートの電話番号が書いてあった



“ずっと笹山さんに会いたかった。日本に帰ることになって一番に頭に浮かんだのは笹山さんだった。また会えて嬉しい。”


どうしよう
ドキドキしてる

でももう会わない方がいい ーー




同窓会が終わり
みんなが会場に退出し始めた

そのタイミングで化粧室に入り柚木くんも皆と一緒に出て行くのを待っていた

ざわつく人の声が聞こえなくなるまで待ち静かになると化粧室を出た

もう誰も居なくなっていた

スマホにはなっちゃんからメールが入っていた


“どこー? 先に出た?二次会来られる?会場はここだよ!”

地図が添付されていた



二次会には行けないと返信をすると男性の手が私の腕を掴んだ



柚木くんだった ーー



「笹山さん、探したよ。もしかして俺のこと避けてる? やっぱり迷惑だったのかな…」

寂しそうに微笑んだ



「そういう訳では…」


「本当に、本当に俺、君に会えて嬉しかったんだ。あの時の約束、俺忘れてないよ、君は忘れてしまったのかな…」


胸がズキンと痛んだ



「それは… 私も、」


静かになった会場で後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえた



ーー 宣隆さんだった



「すまないが妻の手を離してくれるかな。」

柚木くんの手を払い 私の肩を抱き寄せた



「えっ、、」

動揺した柚木くんの表情に気まずくなった

私の肩を抱いて帰ろうとしたら柚木くんが声をかけてきた

「あの!すみませんが、笹山さんと話す時間を俺にくれませんかっ!」



柚木くん ーー



「一体なんの話があるのかな。」


昔、会社で見ていた塩対応の時の宣隆さんだった

そして威圧的に感じる声…



「どうか、二人だけで話す時間を僕にください!!」

そんな宣隆さんに怯まず深々と頭を下げた



柚木くん…
どうしてそこまで


宣隆さんに深々と長く頭を下げている柚木くんに宣隆さんが声をかけた


「…3分。3分だけですよ。」


「ありがとうございます。」

顔を上げた柚木くんは少しホッとした表情をした



宣隆さんは私に少し微笑んで会場の外に向かった



「ごめんね、笹山さん… 」


「ううん、、どうしてそこまで… 」


「高校の頃の君と変わってしまっていたら約束なんて忘れたふりをしようと思ってた。でも変わってなかったから俺…

もちろん君は結婚してるから今更俺が割り込めるはずもないし、それで君が悲しい想いをするのは俺も不本意だよ。でもやっぱり笹山さんが好きだって思った。

ちゃんと想いを伝えたかった。じゃなきゃ俺ずっと忘れられないままになる。 友達になれたら、なんて約束したけど… 俺の方が無理だ(笑) 好きなのに友達になんてなれそうもない(笑)」

柚木くんは悲しそうに笑った


「私も… 」



あの頃みたいにドキドキした

宣隆さんと付き合ってなかったらもしかしたら柚木くんと…



「柚木くんとは友達になれそうもないや(笑)ふふっ(笑)」


「それは君が既婚者だから? それとも俺と同じ気持ちってだからってこと…?」


「それは… 」



カツカツと足音が近付く音が聞こえてきた

宣隆さん…



「3分だ。香さん、帰ろう。」

出口に向かって歩き始め
宣隆さんは突然足を止めた


「君は…」

振り返り柚木くんに静かに話しかけた



「君は香さんの青春時代を知っているが僕は知らない。僕の知る香さんは今の大人になった香さんだけだ。だからこそ青春時代の輝いていた香さんのことを忘れず淡い思い出にして欲しい。僕には得られないその思い出をね。」




そう言って会場を後にした ーー


駐車場に停めた車に乗り込んで宣隆さんは車のエンジンをかけた


「宣隆さん、あの、、」


「何か食べに行ってもいいですか?僕は君の同窓会が気になってまだ晩ご飯食べてないんですよ(笑) お腹すきました(笑) 」



いつもの宣隆さんだった
優しく微笑んで私の手を握った



「うん、そうしましょう。私もあまり食べられなかったから(笑)」


宣隆さんは会話を聞いていたのかな
もし聞いていて柚木くんにあの言葉を言ったのなら…


宣隆さんはやっぱり大人だな…

私には無理だ
あんなこと言えない



“僕のもの”の印(キスマーク)をいっぱいつける可愛い所もあるけど


「ふふっ(笑)」


「何故笑うんですか?(笑) 髪型?服?変ですかね… 」


「そういやいつもと雰囲気違いますね(笑)なんだか若く見えます(笑)」


「若い方々が集まる場所に出向くんです。貴女の父親が迎えに来たと思われたくはなかったんです(笑)」


「あははっ!(笑)父親には見えません(笑)」



この人のこういう所がとても可愛くて
やっぱり好き


思っていたよりヤキモチ妬きで
愛してるって言葉は少ないけど

いつでも 私を想ってくれている


大きくて温かなこの手はいつも私を包んでくれている




「… 幸せだなぁ… 」


「え? なんですか?」


「お腹すいたなぁって(笑)」


「すきましたね(笑) 何食べたいですか?」


「餃子とラーメン(笑)」


「想像したら余計にお腹すいてきましたよ(笑)」


こういう日常が幸せなんだなぁ…






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たしかなこと 2 (10)

2020-06-03 21:44:00 | ストーリー
たしかなこと 2 (10)






仕事が終わり会社を出てから香さんに今から帰るとメールを送ろうとしていたら背後から名前を呼ばれ振り返った

声をかけたのは部下の植草君だった



「部長、もう帰られますよね?」


「ええ、帰ります。」


「なら駅までご一緒していいですか?」


「え? ええ… 」



植草君は40代前半で未婚女性

美人でうちの部署では一番仕事ができる社員

僕と彼女は…




ーー もう15年ほど前




妻とはしばらく別居をしていた

離婚という言葉を出したのは妻の方からだった

僕は引き抜きで今の会社に入り 必死で家族のために働いていた

キャリアアップを目指していた妻は子供ができたことで産休を取り子育てに専念はしていたけれど

元々 家庭的ではなかった妻は一日家にいても家事も疎かにしがちで休日に僕が掃除や洗濯をまとめてするといった具合だった

毎晩 疲弊しきって帰宅しても 妻は娘を寝かせたままそのまま朝まで起きない日々が続いた

次第に殺伐とした家庭になり僕も不満はあったけれどそれでも愛娘の万結のためにずっと我慢をしていた

キャリアアップをしたい妻に仕事を休ませ子育てを任せきっているという負い目も多少はあったからだ

妻自身 娘は可愛がってはいたけれど仕事を休んでいることで人よりも遅れを取っているという焦りとストレスが溜まっていたようで

万結を寝かしつけた後 不満や愚痴を僕にぶつけては 僕もストレスからつい強い語気で口論になってしまうこともあった

思ってもいない言葉も勢いからつい出てしまい言い過ぎてしまったと後悔をしても

謝ることができずそのままうやむやにしてしまうことも多くなり

口を開けばお互いを傷つけ合うような夫婦になってしまっていた

それも僕が家を出て行くことで回避はしたが 結局夫婦関係は修復することなく離婚という方向に進んでいった


その離婚をする寸前の僕は

唯一の心の拠り所だった娘の万結もいない独り暮らしの部屋で脱け殻のように暮らしていた

業務に支障をきたすことがないよう 何事もないように振る舞い気を引き締めてはいたものの

一歩会社を出ると独りきりの部屋に帰る気にはなれず毎晩深酒をして帰る日々が続いていた

そんな僕に植草君が話しかけてきたのだった


酔った僕は記憶が無くなる時があるがその夜のことは今でもまだ覚えている

僕がまだ40で植草君は20代半ばだっただろうか

仕事終わりに一人居酒屋で呑んでいると彼女も一人で店に入ってきた

一緒の席、良いですか?と聞いてきたが
僕が返事をする間もなく彼女は僕の前に座った

まだ若い彼女は酒の飲み方も知らなくて
僕の目の前で見る見る内にビールのジョッキを空けていく


「もうその辺にしておいた方がいい。」と言う僕の言葉も聞こえてはいないのか



「課長は何で笑わないんですかぁ?」と僕の分の酒まで注文をした



「飲まないなら私が呑みますよぉ」と散々酔っているのに僕の冷酒まで呑もうとする



「あ、僕が呑むから君はもう烏龍茶に、、」



彼女が頼んだ冷酒を呑み終える前に次々と僕のおかわりを頼む


「本当にもう勘弁してください、、悪酔いしそうだよ(笑)」



無邪気というか 無鉄砲というか これが若さなんだろう

僕もこの頃に戻りたいと思った



店を出ると雨が降る寸前なのか雨の匂いがした

蒸し暑くて汗ばむ手で足元をふらつかせている彼女の肩を支えて歩いた


「課長、私 課長が好きなんです、、」

それは唐突な告白だった




顔を上げ僕を見つめる彼女の瞳は潤んでいてキラキラしているように見えた

僕もかなり酔っている上に動揺し頭が回らなかった



「僕は既婚者だから… 」


その“既婚者”という自分の言葉に違和感を感じた



ーー そうだ

僕はもう離婚するんだった




僕にはもう“家庭”という誰かが待ってくれている場所は無い



空からポツポツと涙のような雨が降ってきた



「どうして… 」



彼女の言葉に
僕は涙がこぼれていることに気付いた



「どうして泣くんですか… 」と彼女も泣いた



あぁ… そうか

僕は寂しかったんだ



ずっとそれに気付かないふりをしてきたけれど

本当は孤独だったんだ





「課長… あなたが好きです あなたが欲しい 」


こんなボロボロの僕でも
求めてくれる人がいるーー


僕は彼女に温もりを求めた






ーーー





彼女と肉体関係を持ったのは
ただその一夜きりだった

でも今までの虚無感が消えることはなく
ただ 彼女に対する罪悪感だけが残った


僕は寂しさを埋めるために
彼女の想いを利用したんだ



彼女はそれでも構わないと言い続け僕を求めてきたけれど

彼女が僕を想うような感情を
僕は彼女にいだくことができなくて

弱くて卑怯な僕を僕自身が許せないでいた




会社ではお互い何事もなかったように振る舞っていたけれど彼女の心中は僕とは違っていたはずだ


だからこそもうプライベートで会うことを避け

もう誰にも心を開かないと決めた





ーーー




「笹山(香)さん、お元気ですか?」


なんだか元彼女が今の彼女のことを尋ねられてるような気まずさを感じた




「ええ。元気ですよ。」


「聞いていいですか?」


「質問は無しでお願いします。」


「冷たいですね(笑) 質問もさせてもらえないんですか?(笑) 私に無くて笹山さんが持ってるものって何ですか?」


「質問は無しだと言ったはずですが。」


「私には本当に冷たい人ですよね。…酷いです。」


“酷い”という言葉が胸に刺さった



「勘違いならすみません。もしかして君はまだ僕のこと…」


「まさか(笑) もう何とも思ってないですよ。結構 自惚れ屋なんですね(笑)」


その言葉にホッとした



「でも… 何故 私じゃダメだったんですか?それは知りたいです。私、女としてどこがダメだったんですか。」


「ダメだなんて思っていませんよ。貴女は仕事もできるしとても綺麗で素敵な女性だと思います。」


「ならどうして私ではなく笹山さんなんですか、、」


「僕は… 」



まだ僕の部下だった頃の会社で働く香さんの笑顔が浮かんだ



「その答えはシンプルです。僕が彼女を愛しているからです。だから理由や条件のようなものがある訳ではなく、ただ彼女に惹かれてるんですよ。彼女じゃないと駄目だと。」



「… さっきのは嘘です。何とも思ってないなんて嘘です。」



ーー え



「ずっと好きでした。」


「そ...それはもう昔の話でしょう。」


「私が結婚しなかったのはずっと部長が好きだったからです。」


その言葉は僕を攻めているように感じたがそれは仕方ないことだ


「君は今もとても魅力的な女性だと思います。でも… 僕が彼女と結婚をしていなくても君と付き合う事はなかった。」


一瞬泣きそうな表情をしたけれど気丈な彼女は少し微笑んだ



「…ありがとうございます。悪あがきをしてしまいましたがちゃんと振ってもらえて良かった…(笑)」


そう言って俯いた



駅前の交差点の信号は赤になった



「信号を渡ったら… 私が言ったこと全て忘れてください」



「ええ… 」



あの夜のようにまた僕らの上に雨が降ってきた


「…雨 ですね」


あの夜とは違う
今の僕は傘を持っている


朝 僕を気にかけ傘を手渡してくれる大切な人が今の僕にはいる


鞄から傘を出して広げ
彼女を傘の中に入れた


「すみません、傘を持ってなくて… ありがとうございます。」

傘が僕達二人だけのほんの小さな世界を作った

彼女の肩が僕の腕に触れ
彼女の体温があの夜を思い出させた



ーー 信号が青に変わった



「この傘を使ってください。」

傘を彼女の手に握らせた

「じゃあ、また。会社で… 」

僕はその二人だけの世界から離れた


交差点を走って渡り駅の建物の軒下に入って振り返ると

彼女はまだ交差点の向こう側で僕の傘をさしたまま僕に微笑み小さく手を振った




彼女だけがその小さな世界に取り残されたようだった



僕に “さようなら” と言っているような彼女の微笑み



植草君
さようなら…







ーーー



香さんは僕が手にしていたビニール傘を見て

「あれ?私、傘をお渡しましたよね?」と不思議そうな表情をした


「ん、同僚に貸した。」


「同僚?」


「植草君です。」


「やっぱり…!」


その言葉にドキッとした

「何故、やっぱりなんでしょう...」


「宣隆さんは女性にはちゃんと気を使いそうだもの!」と握り拳を作った


そんな明るい香さんは本当に愛らしい

「ははっ(笑) まぁそうですかね。」


「あ、もうご飯できましたよ!お母さんからも諸々野菜を送ってくれて助かった(笑)」


「そうか(笑)」


こうして今 僕はまた温かい家庭を持つことができた


ーー 香さんのおかけだ



「植草さん、お元気ですか?やっぱりお綺麗ですか?」
料理をテーブルに並べた


「昔から変わらないね。」


「あのね? 私と宣隆さんがお付き合いを始めた頃にね、植草さんが宣隆さんの事を言ってたの。」


えっ!?



「“白川部長って、彼女できたのかしら?” って。もう私その時びっくりしちゃいましたよ(笑)」


「どうしてそんな話に、、」


「“男の色気が出てきた”って。色気は私にはわからなかったけど植草さんの洞察力って凄いなと思いました。仕事ができる人はよく人も見てるんだなって。ほんと植草さん尊敬しちゃうなぁ(笑)」



そんなことを…



僕が香さんを気にかけていたその時
彼女は僕を見ていたのか


「鋭い人だね(笑)でも僕らが付き合っていたことは気付いてなかったね。」


「気付いてなかったのをわかってた宣隆さんもよく見てたんだね(笑)」


「えっ、、ただなんとなく、、だよ(笑)」


「ご飯食べましょ♪」



もし…

香さんが僕と植草君が過去に関係を持ったことを知ったら香さんは悲しむだろうか


それとも怒るだろうか

『そうだったんだ!』と驚くだけだろうか

いずれにしてももう昔の話でわざわざ話すこともない




「香さんは本当に料理が上手ですね(笑)」


「ふふっ♪宣隆さんが誉めてくれると頑張れますっ!」

また握り拳を作った



「ははっ!気負いしない程度にね(笑) それと…」


「ん?」


「そろそろ、子供欲しくないですか?」


「… え?子供… 」


「… 香さんは欲しくないですか?」


「いえ… 欲しいです。でも本当に良いんですか?子供を望んでも。」


「どうして?僕がもういい歳だから?」


「そうではなくて… 宣隆さんにはもう娘さんがいるし、、」



香さん…


「香さんと僕の子が欲しいんですよ。」


「…本当に?」



嬉しそうに微笑んだその表情に
温かい気持ちになった






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