気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 21

2019-11-29 19:46:00 | 日記
Stay With Me 21








鞄の中にはシワくちゃになった元彼女
静からの手紙が入っている






ーー パン屋の看板が見えてきた






何を話せばいいのか …



しばらく躊躇したが
今考えたって何も浮かばない



僕は店へと歩きだした





店のガラス扉を開くと

店員女性が二人いて
彼女が振り返った




目が合った瞬間
感極まったような表情から笑顔に変わった




それが 僕の胸に突き刺さった





「 … 来てくれて ありがとう





「 まだ … 仕事なんだろう?」




「 もう上がらせてもらう。外で待っていてくれる?」







15分程で彼女は私服に着替え店から出てきた






「 お腹すいた? 食事でも、、行く? 」



「 そうだな。」





今夜は昨日より随分寒く
時折強く吹く風が頬を更に冷たくする



病的に痩せたその身体は
コートを着ていてもわかる





「 痩せたな。」



「 ちょっとね(笑) 」




ちょっとどころじゃないだろう …




「 何でも食べられるのか? 」



「 ん~ 最近は外食しなくなったな、、」





食べられなくなった、ということなのか?




「 じゃあ 食事はやめよう。」




「 あ、久しぶりに私が何か作ってあげようか (笑) 」




え? …



「 それはいいよ(笑) この辺りのカフェでも入ろう。」




「 … そっか わかった(笑) 」




別れてから10年経った





この辺りも以前より随分と店は変わっていたが
僕らの10年という離れていた時間は一瞬で埋まった





「 あぁ、あの店 まだあったのか。 」




「 じゃあ あそこにしよう(笑) 」





僕らが何度も入ったことのある夫婦二人で営んでいるコーヒー店は今も全く変わらず健在していた




店内に入り

僕らがよく座っていた席に
示し合わせたように昔の定位置で自然と座った






この店でまた静を前にし座っている


またこの光景が見られるなんてな …






注文を済ませると

次 何を言えばいいのかわからなくなった






「 本当に痩せたな。」



「 何度も言う程 私痩せた?(笑) 」



「 あ、ごめん、、」



「 なに? コウってば、そんなに洗練したのに内面は変わってないのね(笑) 」




「 変わったこともある。」




「 何? 」




「 僕には大切な女性ができたんだ。彼女と一緒になるつもりだ。」




彼女は少し驚いた表情を見せたが
直ぐに静かに微笑んだ




「 そうなのね。今 あなたはとても幸せなのね。

良かったわ … 」





「 あの頃君には悪いことをしたと思っている。
若かったのもあった。

僕は自分のことで精一杯で、君を大切にできなかった。

本当に子供だったよ。」




静は首を横に振った




「 いいえ。あなたは昔も今も優しい。
だって、こうして私に会いに来てくれたんだもの。」






それは違う …

ただ自分が後悔したくなかったからだ





これも自分のことしか考えていない身勝手な行動だ






「 身体の調子は … どうなんだ。何故ちゃんと治療を受けないんだ。 」




「 私には守るものも、守る人もいないから(笑) それに延命して何か変わるとは思えない。

病院のベッドの上で、ただ息をする時間を延ばしても意味が無いって私は思うの。(笑) 」







ーー 彼女らしい考え方だけれど

僕なら少しでも長く生きられるなら抗うだろう





それは 僕には別れ難い存在がいるからだ

静には そういう存在がいないのだろうか







「 どうして仕事を続けてるんだ? 身体は辛くないのか。」




「 もう辞めるわ。あなたとまたこうして会えたから(笑)


前にあなたが住んでいたあの部屋を訪ねたことがあったの。でももうあなたはいなくなってた。


連絡が取れなくなって … もしかしたらあの店にいればまた会えるかもしれないと思って(笑) 」






なんだって … ?






「 いつから … あの店に 」






静が部屋を出て行った三年後

僕はあの部屋を出た





静は旦那と別れ

その半年後に訪ねてきたようだ





ーー もし



その時 僕がまだあの部屋で暮らしていたなら

また静を受け入れただろうか






でもそれなら

理奈ちゃんとは出会えていない











「 ねぇ。コウ。最期にコウにお願いがあるんだけど。」













僕は 静の願いを叶えることにした





残された時間があまり無い儚げな静を

冷たく突き放してしまう程
僕の心は強くなかった






静の願いは


恋人だったあの頃のように
過ごすことだった





自分は誰かに愛される資格のある女だったと
最期に思いたかったのだろうか






静は親の心配をよそに

まだ一人暮らしをしていた






またあの頃のように また僕に料理を作りたいと言う静


僕は一緒に買い物をし 彼女の住む部屋に向かった






洒落たメゾネットタイプの建物に着いた



イメージしていたより良い暮らしをしていたことで
内心 ホッとした






買い物の品を冷蔵庫に詰める静はとても嬉しそうだった






「 またコウにご飯作ってあげられるなんて(笑) 」




嬉しそうな静に
理奈ちゃんへの罪悪感を感じた






「 手伝おう。」



僕もコートを脱いでキッチンに立った




「 もしかして、料理できるようになったの? 」





あの頃の僕は自炊ができなかった

全て静任せにして負担をかけていた





静と別れてから

男も自炊ぐらいできないといけないなと思い
料理のレシビ本を買って

レパートリーを増やした




理系だからか?

レシビ本を見ながら食材を料理へと変化させていく工程が案外面白くて


しばらく一切外食もせず
料理にハマった時期もあった






「 ん、まぁ今はそれなりに? (笑) 」




「 そうなの? 人は変わるのね(笑) 」




野菜の皮をピーラーで剥いていると




「 あの頃のコウは 凄くガリガリだったから体力もなくて(笑) 沢山食べさせてあげないと!って思ってたの(笑) 」





「 確かに体力無かったな(笑) 」





「 痩せてるのは昔と変わらないけど、今はたくましくなったようね(笑) 」




シャツの袖をめくりあげている僕の腕を見ながらそう言った





「 ジョギングは毎日のルーティンにしてるよ。 たまに泳ぎに行くこともあるよ。若かったあの頃よりは体力も筋力もついたな(笑) 」





僕の顔を見て 微笑んだ




「 イヤだわ!ひ弱な男だったら作りがいがあるのに(笑) はははっ(笑) 」





「 じゃあ 僕が作ろうか(笑) 」




「 コウの口からそんな言葉が聞けるなんてね(笑) 」




静は嬉しそうに笑った




骨と皮だけのような筋ばった細い指

服の上からも痩せた身体は隠せてはいなかった




その 折れそうな程の貧弱な身体に
僕は悲しさが溢れてきた





「 君は座ってろ。僕が作るから。 」




「 でも … 」




「 いいから(笑) 」


静の肩に手を添え
テーブルの椅子に座らせた




触れた手に伝わる肩の細さに

命があまりない という言葉を実感する





「 コウは昔よりも随分優しくなってない?(笑)
それだけ今 幸せなのね。 ふふっ(笑) 」





「 幸せだよ。 … 今、この瞬間も。」





ーー 本当は 悲しい



でも その想いをここで出してはいけない



静はきっと

大事に想われている幸せを感じたいのだろうから







「 へぇ(笑) そんなリップサービスも言える大人の男になったのね(笑)

ふふっ(笑) まぁ、ここは素直にありがたく受けとることにするわ(笑) 」





「 大人の男って(笑) 僕はもうおっさんだぞ(笑) 」






「 … ううん。温かくて … イイ男になったと思う。本当よ。」





その言葉が 悲しげに聞こえ
僕は聞こえなかったフリをした






ーーー






テーブルには 和食のおかずが並んだ


小さな茶碗に子供が食べる程度のご飯



こんなので大丈夫なのかと聞いたが

それで十分だと笑った




こうして 誰かと食事をするのは久しぶりだと
嬉しそうな表情の静に切なくなった




「 あなたの彼女に申し訳ないなぁ(笑) 」




「 ははっ(笑) 本当にそう思ってる?(笑) 」




「 ちょっとはね(笑) 」




彼女は出張に出ていて来週までは帰らないことを話した



「 キャリアウーマンって感じ? 」




「 そう、だな(笑) できる女風というより家庭的な子だよ。」




「 子?(笑) 若いの? 」




「 かなり、ね(笑) 」




「 やるわね(笑) あなたがそんなに若い子と付き合ってるなんて夢にも思わなかったわ(笑) 」




それは僕自身も常々思うところだ




「 可愛いの? 」





「 ん、かなり可愛い(笑) ふふっ(笑) 」





「 ノロケなんてコウらしくない(笑) 」





「 僕の方が相当惚れてる(笑) 彼女のためなら何でもしてあげたいよ。」




「 ほんと変わったわね(笑) あ~、だから身体鍛えてるとか? 」




「 ジョギングは知り合う前から始めていたよ。でも走る距離は増えたな(笑) 」




「 ふふっ(笑) そういうとこ変わらず可愛いわね(笑) 」




「 僕を可愛いなんて言うのは君だけだよ(笑) 」





「 あなたの彼女もきっと思ってるはずよ(笑) 」





「 だろうか(笑) 」







そんな 和やかな会話をしながら食事を終えた






「 今夜 … 泊まっていかないよね? 」



後片付けで食器を洗っていた僕にそう言った




「 それはできない。」





「 だよね(笑) ごめんね、そこまで甘えられないよね(笑) 」





少し寂しそうな笑顔に胸が痛い




「 静が明日休めるならどこか行くか?

僕も仕事休み取るから。車で迎えにくるよ。」





僕が洗い物を済ませていると

静は僕の傍に来てコーヒーカップを出しケトルで湯を沸かし始めた





「 私はもう仕事は辞めたのよ(笑)

実はね、オーナーには “ 会いたい人がいて、会えるまではここに居させて欲しい。会えたら辞めさせて欲しい ” とお願いしてて。

事情を話したらオーナーは快諾してくれたの。」






「 またこうしてコウに会えたことが本当に嬉しい。」




僕を見上げた静は

昔よりも小さくなったように感じる







「 … そうか。 じゃあ明日 少し遠出しても構わないからどこかに行こうか。

身体が疲れない程度でな。」






「 それはデートのお誘いかしら? (笑) 」




“ これはデートのお誘い ”

僕が理奈ちゃんによく言った言葉だ ーー






「 自由に解釈してくれ(笑) 」




「 なんなの? そのいい加減な感じ(笑)
じゃあ、デートだと思うことにするわよ?(笑) 」




「 ははっ(笑) どこに行きたい? 」




「 ほんとはまたあなたと花火が見たかったなぁ(笑) 」




花火大会 …

初めての夏

初めてキスをした場所 … か





「 もう寒い時期だからね(笑) 花火は来年だな(笑) 」




「 来年の夏までいれば、の話ね (笑) 」




ーー え?




「 … まさか 来年はいないというのか? 」




「 予定通りならいない(笑) 」




ーー は?




「 お前 、、馬鹿じゃないのか、、 」





急に悲しみが汲み上げてきた





「 なんで生きようと抗わないんだ! なんで諦める?

ほんと、、ほんとにお前は馬鹿だよ!」





「 コウ、コウ、ごめんね、私、ほんっと馬鹿だよねぇ

分かってるんだよ。でももう遅いの。どうしようもないの。 ごめんね (笑) 」





泣きそうな目で悲しげに笑う彼女に ハッとした




「 … あやまるな。すまない … 悪かった。」




辛いのは静の方だってわかってたのに





「 ありがとう。 やっぱりあなたは優しい …

私なんかのために本気で怒るなんて 」




静は視線をケトルに移した





「 馬鹿だよねぇ 私。

私の人生 何も残らなかったな。

子供でも出来てたらなぁ(笑) ふふっ(笑) 」





「 お前がこんな身体になってるなんて … 想像もしてなかったよ。」





ニットを着ている背中に 背骨の形が出ていた

その痩せた背中に触れると振り返った





「 私の身体に触らないで。

こんなに痩せちゃったらもう女には見えないでしょ。」





痩せた身体を気にしているようだった






「 昔も今も 僕には静は女でしかないよ。」





「 コウも相当なお馬鹿ね … ふふっ(笑)

女をその気にさせるような言葉をそんなナチュラルに言っちゃいけない。

そういう所、直さないと彼女が心配するわよ(笑) 」



ケトルの湯をドリップコーヒーにかける







明るく振る舞う静に胸が痛い




「 … 本当にそう思ってるよ。」





「 じゃあ、さ。」




静はケトルをガス台に戻し落ちるコーヒーを眺めた





「 今の痩せ細った私の裸を見ても 」




振り返って真っ直ぐ僕を見た




「 あなたは男として私に欲情するのかしら(笑)

確か、あなたはぽっちゃりな女が好きだったでしょ? ふふっ(笑) 」





視線をコーヒーカップに移し静かにコーヒーを注ぐ





「 僕が欲情するのは彼女にだけだ。」






「 ふふっ(笑) 正解の答えね(笑) 」





コーヒーカップを手渡された





「 もし欲情するなんて言われたらどうしようかと思ったわ(笑) 」



テーブルの椅子に座った






「 … お前がもし健康だったとしても僕はもう … 」




愛してはいない ーー







「 そうね。わかってるわ。

私は幸せだった頃をもう一度夢見たかっただけ。

コウを利用してごめんなさい … 」





一筋の涙が頬からこぼれ落ちた






「 いいんだ。 静は今も魅力的な女だよ。それは本当だ。

もし彼女と出逢っていなければ もしかしたらお前に欲情して抱いてたかもな。ふふっ(笑) 」






「 だから、そういうこと言うのやめてよ(笑)

女としては嬉しいけどね(笑) ふふっ(笑) 」





やっぱりそうなんだな






「 コウ、ちょっと立ってみて。」



「 え? 」椅子から立ち上がった



「 こっち。」椅子の横に立たされた



「 なんだ? 」



「 そのまま。」


子供のように 僕を抱き締めた



「 もしまたコウに出会えたらハグしたかったの。


コウ、匂い変わった。

フレグランスをつけるようになったのね(笑) 良い匂い … 」





「 おやじ臭いと思われるのは嫌だしね(笑) 」




「 コウなら許せるわ(笑) 」





昔と変わらない性格

昔と変わらない話し方

昔と変わらない声




違うのは

僕の心





「 じゃあ僕もハグしていい? 」



「 それはダメ(笑) 」



「 なんだよそれ(笑) 」




ダメだと言われても無視して優しく抱き締めた

本当に折れそうなほどの薄い骨ばった身体に悲しみが込み上げてくる




やめてと振り払おうとする力も非力で


泣きそうな自分を見せたくなくて抱き締めた






「 変な意味は無いからなっ (笑) 」


努めて平気な声を出した





誰かに愛されたいんだろう

その役目は僕は果たせないけれど





少しでも力を加えると枯れてしまいそうなそうな
そんな儚げな花のような静に


僕ができることなんて
何も無いことはわかっている




だったらせめて

僕だけは女として見てあげたい




あの出会った頃は

静を目当てに沢山の男性客がパン屋を訪れていた





その 美しかった頃の静でいられるよう









ーー あの時 そう思った







ーーーーー







翌日の朝 静の部屋を訪ねた




静は顔色の悪さを隠すような厚めの化粧に

身体の線が出ないようなロング丈の小さな花柄のワンピースにボリュームのある厚手の白いカーデガンを羽織っていた







「 随分可愛らしい服装だな(笑) 」



「 デートの誘いと解釈したからね(笑) 」



「 ははっ(笑) 」






今は花火大会の時期じゃない

静の希望には添えないけれど



二人で行った植物園や港のカフェで
当時の思い出話をした



病的な細さの静は
すれ違う人の目を引いた



そんな人目を気付かせないよう
僕は静に沢山話しかけた






でも 時折
理奈ちゃんは今 どうしているだろうと頭を過った



昨夜は帰宅後 LINEメッセージをしただけで
電話をしなかったことを気にしていはいないだろうかと気にかかる




今 彼女のことを考えてる?と静に話しかけられた




「 ん、昨日電話してないから。気にしてないかなと。 」





「 いいなぁ(笑) 私もそんな風に誰かに気にかけられたいわ(笑) 」





「 一応 僕は静を気にかけてるつもりなんだけど? 」





「 そうね(笑) 友情で、ね(笑) 」






「 静を友人としては見てないんだけど。」






「 じゃあ何? 」






「 元、彼女。」






「 まんまじゃない(笑) 」





「 ひねりがなくてすまないね(笑)

男でも成立する “ 友人 ” ではなく
やっぱり静は元彼女。

僕の中では今でも “ 綺麗な女 ” だよ。 」






「 ふふっ(笑) ありがと(笑) 」



照れくさそうに笑った静はまだ可愛く見える








「 花火。来年一緒に行こう。約束だ。」





潤んだ瞳で微笑んだ





「 馬鹿ね … (笑) あなたには彼女がいるでしょ?

それに 私は守れない約束なんてしないわ。」






「 約束、してくれ。」


真剣な僕に 根負けしたような表情をして微笑んだ






「 わかった(笑) 約束。」









ーーーー








僕と静の

二人の時間は終わった




LINEで連絡が取れるようにはなったけれど

静からLINEが来ることは一度も無かった






心の中に穴が空いたような喪失感で
札幌の理奈ちゃんの元に向かう気持ちも失せた








僕は日常のルーティンをただこなしていた




朝 ジョギングをし

シャワーを浴びて朝飯を取り

通勤ラッシュの電車に乗りこみ仕事に向かう





仕事が終わるとスーパーマーケットに立ち寄り
食材を購入して帰宅



真っ暗で冷えた部屋に灯りを点け
暖房のスイッチを入れる



買い物袋から食材を取り出し冷蔵庫にしまうと

ルームウェアに着替えて晩飯の支度




自分一人のために作った料理は本当に味気ない






「 はぁ … 」 つい溜め息を漏らしていた






静はちゃんと食べているだろうかと

僕は静の心配ばかりしていた







ーー 理奈ちゃん


LINEの “ 理奈ちゃん ” を開くと

もう彼女から3日間もメッセージが来ていないことに気がついた





「 え … ? 」






僕はこの3日間 一体なにしてたんだ ーー






慌てて理奈ちゃんにメッセージを送ったけれど
一向に既読にならない




まだ仕事をしているのだろうかと時計を見ると
もう夜の10時を過ぎていた




結局 理奈ちゃんから返信が来たのは翌日の夕方だった




こんなこと … 今まで一度もなかった






返信内容は

行き違いのトラブルがあってバタバタしていて、でも一応予定通り 明後日には帰る予定だから


という、ものだった






まるで業務連絡



ずっと仕事モードのスイッチが入ったままなんだろうか




理奈ちゃんは家庭的な女性だけれど

仕事モードの彼女は夜中でも資料作成をしている時がある





“ ちゃんと眠れているのか? 疲れは溜まってない?

君が落ちついたら 電話したいんだけど。 ”





そのメッセージが既読になったのは

やっぱり翌日だった







結局 電話で話すこともなく
理奈ちゃんは予定通りに帰ってきた



とても疲れて 少し痩せたように見えた






もうクタクタだと言いながら着替えもせず直ぐにソファに横になった



そんな姿を僕は初めて見た


相当なプレッシャーもあったようだし
できれば 仕事を制限させたいのが僕の本音 …





「 直ぐ晩飯食べる? 」



「 食べるぅ~~ ♡ ぅ~~ん 疲れたぁ … 」




甘えるようなリラックスしている理奈ちゃんにホッとした



随分素直に言うようになったな






「 じゃあご飯注ぐよ(笑) 」



「 ん~ ありがとう 」


疲れた身体を起こし
着替えもせずテーブルについた




「 いただきます。」丁寧に手を合わせた




「 久しぶりだな(笑) 一緒に晩飯食べるの(笑) 」




「 寂しかった?(笑) 」




ドキッとした




「 ん、、そうだね。寂しかったよ(笑) 」




「 私も(笑) … 出張、次は断る。」




あれ?




「 どうした? やっぱりキツかったのか? 」




「 身体は疲れてるのに眠れないし、眠れないから翌日はもっと辛いし。

二泊ぐらいならなんとか乗り切れるけど、流石に10日間の出張は辛い(笑) 」




「 そうか。 理奈ちゃん、仕事は辞めようとは思わない? 」





箸を止め キョトンとした





「 私に仕事辞めて欲しいって意味? 」




あ … マズかったか?





「 んー … そういうつもりではないけど … そんなに疲れてるのが心配でね(笑) 」





「 長期出張だったから(笑) 今夜は爆睡できそうだよっ(笑) 」





「 ふふっ(笑) 理奈ちゃんはやっぱり可愛いな … (笑) 」





「 え~? どこが?(笑) 」





「 いっぱいご飯食べるところが(笑) 」




また箸を止めた




「 私 … そんなに食べてる? 」


ショック! と思っているような困惑の表情






「 あははっ(笑) 大食いだって意味じゃないよ(笑)

美味しそうに食べる姿が可愛いんだよ。


あ! また痩せただろう!もっとふくよかにしたいのにまた遠退いた。

もっと食べさせないといけないな。 ははっ! 」





「 痩せたいのに! 」口を尖らせた





静の姿が浮かんだ


「 痩せたらダメだ。絶対にだ。」





一瞬

厳しい顔になってしまい
理奈ちゃんは戸惑いの表情をした




「 … え? 」





慌てて取り繕った


「 僕の好みのふくよかな女性になって欲しいと思ってるんだよ (笑) 」





少し不服そうな視線を僕に向けながら
またご飯を食べ始めた





「 またもう、そんな可愛い顔して(笑) クククッ(笑) 」





「 私のこと可愛いなんて言うの、行さんだけだからねっ? 可愛いを連呼されたら恥ずかしくなるよっ 」




大きな里芋を頬張る理奈ちゃんの頬は
まるでリスみたいだ(笑)




「 それで良いんだ(笑) みんなから可愛いと思われたら “ 僕の理奈ちゃん ” が取られるだろう? 」





「 うっ!! ゲホゲホゲホ!! 」


理奈ちゃんは驚いて喉を詰まらせた



慌てて水を渡したら
その水を一気に喉に流しこんだ





「 とっ、取られるって、、ゲホゲホ! そんなこと、ゲホゲホ! あるわけないでしょ!? びっくりしてむせちゃったよ! 」





「 どうしてさ! 十分あり得る話だ。」




「 行さん … おかしいよ … 行さんの感覚、絶対に他の人と違う … 」



苦笑いをした




「 なにが? どこが? 」




「 いい、いいの(笑) 安心して? 私、モテる女じゃないから!(笑) 心配しなくてもいいよ? 」





「 理奈ちゃんが可愛く見えない男なんているのか? 僕はそっちの方がわからない。」





「 行さんが変わってる人で良かった(笑) 」





「 普通だろ? 」





「 あはははっ(笑) 」


丸い頬が赤くなって楽しそうに笑う理奈ちゃんは
やっぱり僕にはとびきり可愛く見える




「 でさ。結婚式のことだけど。そろそろ決めないか?」




「 … うん、そうだね(笑) 」





ーーーーーーーーーー


Stay With Me 20

2019-11-28 19:01:00 | ストーリー
Stay With Me 20









昔よく利用していた古本屋に

探していた本がようやく入ったからと連絡があり仕事帰りに立ち寄ることにした




会社のスタッフ専用出入口にいた中野さんもちょうど帰る所だった





「 寺崎さん、、来てくださってありがとうございました。」



安定の固い挨拶だな(笑)



「 彼女と行かせてもらったよ(笑) 」



「 え!? 彼女、さん … そう … だったんですか。
すみません。気付きませんでした。」



俯き目を合わすことなく
駅に向かって歩きだした




「 中野さん、綺麗で素敵だったよ(笑) あ、歌もね(笑) 」





本当に綺麗だった

歌も凄く上手くて良かったんだが …


本当に同一人物なのか!?と自分の目を疑う程の会社でのギャップ


そこに目が釘付けになった、というのが正直な感想


そちらのインパクトの強さで
本当は歌はあまり入ってこなかった(笑)






そもそも

元が理奈ちゃんに似てるから

理奈ちゃんもあんな感じの化粧とか少し大胆な洋服でもイケるってことだよな



… それを想像するだけでつい、顔が弛む






「 綺麗 … ? 」



「 あ? あぁ、うん。

そうだ、中野さんは僕の彼女にとても似てるんだ(笑)

彼女も君の衣装のような感じも似合うだろうなって思ったな(笑) 」





「 彼女さんと私が … ?

ということは寺崎さんの好きなタイプって … !


あ、そんなことはないですよね、じゃあ失礼しますっ 」



明らかに中野さんらしくない明らかに不自然な動揺を見せ
小走りで立ち去ってしまった





なんだ??

何が言いたかったんだ?






まぁ とにかく

ようやく理奈ちゃんとの関係も元に戻ったし


ちょっとしたことを任されたり
少し変化があった






はぁ~

久しぶりに熱い夜だったな …

ふふっ(笑)





僕が変わってるのかもしれないが

日々愛が増してる気がするぞ!(笑)





料理中の背後から肩を抱いては首にキスをし

化粧を落としてる最中に服の中に手を撫で入れて


ちょっかいを出すたび
邪魔しないでと軽くあしらわれるけれど



女の子らしい愛らしい声と
困った表情に丸い頬を赤くするところが堪らなく可愛い




ん~

本当に幸せだなぁ~





「 ふふっ … (笑) 」



あっ、

誰かに見られていないか周囲を見渡した






会社ではプライベート話は一切しない僕が

随分歳下の彼女に家ではデレてるなんて誰も思うまい


おっさんキモッ!とか思われそうだからな!




「 ふぅ! 」

大きく深呼吸をして顔を引き締めた






古本屋の店主と遇うのは5年ぶり



学生の頃によく訪ねていたこの店はあの頃と変わらないけれど

もう80になったと笑うその店主の顔には
人生経験を重ねた深みを感じる深いシワが刻まれていた




僕は目当ての本を受け取り

また来るからと約束をし本屋を出た





ここから駅への帰り道にある パン屋を思い出した




そのパン屋は元彼女が勤めていた店だ






初めて恋をして

初めて女性と付き合い 同棲をした


そして

突然 彼女は家を出てしまった





もう誰も好きにならない

恋なんか二度としないと思った程 好きだった






出会いはあのパン屋だった


大学への通学路でもあったから
たまに立ち寄っていた


僕はただの客の一人にすぎなかった






そんな時 ーー


ある日から彼女は

僕だけにこっそりとおまけ(小さなクロワッサンだったりクッキーだったり)を入れてくれるようになった



それが僕だけだと知ったのは

友人にはそのおまけらしきものはいつも入っていないことに気が付いたからだ





どうして僕だけ? と疑問に思っていたある日





パンの紙袋の中にメモが入っていた

彼女の名前と電話番号が書かれていた



あの時代は今のようにスマホも無い時代




連絡の手段は固定電話か手紙、直で会う、その三択




彼女は僕よりも少し歳上のようで

とても綺麗な女性だった






綺麗だから 彼女目当てで毎日そこでパンを買う友人もいた



その頃の僕は綺麗な女性に少し偏見があった





綺麗な分、性格が悪いんじゃないか、とか
高飛車でわがままなんじゃないか、とか




だから “ 美人 ” だとは思ったが
それ以上の興味はなかった





その “ 美人 ” の彼女からの連絡先メモ ーー



これはどういうことだ?


何日も そのメモを眺めた







恋に興味もないし 冴えない僕には

誰かと付き合うということに
現実味を感じていなかった






そんな時

いつものようにパン屋の前を通り過ぎた時

彼女が店から出てきた





「 あの! あなたの電話番号を教えて欲しいの! 」



驚いた僕は軽く引いた



「 はっ!? 」



「 あたし、あなたが、好きみたい、なの、、」








女性から好きなんて言われたのは人生初めてだった








告白の力って凄い


それまで気にしていなかった人なのに

彼女が気になるようになった





ーーー






たまに食事をしたりと

ヲタクな僕が一般的なデートらしきことをするようになった








彼女と会っている時はとても楽しくて
気持ちも高揚した


女性に好かれるって

嬉しい … !!








でも彼女の手すら触れない

そんな友達のような付き合い方を続けていたある日





彼女から

“ 私のこと好き? 私はあなたの彼女だよね? ” と聞かれた





ーー えっ?






僕は考えた




① 彼女といると楽しい

② 別れ際は名残惜しくなる

③ 帰宅したら電話で無事かどうかを確認しないと落ち着かない



総体的に考え
これは 恋愛感情ではないのか? と答えが出た




恋愛しているかどうかを論理的に頭で考えていた僕は

いかに馬鹿な男だったか



ーー 本当に笑える(笑)







恋なんて

いつの間にか “ 落ちる ” ものだ





あの頃の僕はそんな鈍感で頭デッカチな男だったが




今思い返しても

あの頃の僕は彼女が好きだったことに間違いはない






彼女はいつも自分に正直で

そして負けず嫌いだった




端正な顔立ちの2つ歳上で24歳の彼女は社会人


学生の僕には大人に思えた










彼女と付き合い初めて

初めての夏 ーー




彼女と花火を見に行った時


人混みではぐれそうになり
彼女がとっさに僕の手を繋いできた





あの瞬間 初めて
心で “ 恋をしている ” と実感した




ドキドキして

ますます手の汗が気になって

然り気無く手を離そうとしたら




「 離したらはぐれてしまう(笑) 」と
握り返して笑った彼女の笑顔はとても綺麗で


まるでドラマの主人公にでもなったかのような感覚になった






そんな彼女の浴衣姿は
凄く色っぽくて

まだ中学生のように純粋だった僕は直視できなかった





ふと目にとまった彼女の白くて細い首筋に
じんわりと汗が滲んでいたのを見た瞬間



身体の芯が熱くなって
僕は彼女の身体に触れてみたいという欲求が強くなった






花火を見上げる彼女に


奥手だった僕は勇気をふりしぼり

彼女に初めてキスをした







彼女が僕の部屋に遊びに来る事が増えてはじめたある夜


彼女は今夜はここに泊まると言った




動揺する僕に
彼女はキスをしてきた




初めて経験する僕を優しくリードする彼女




… あれは

男として本当に情けなかったけれど

男でも “ 初めて ” のことは忘れられない淡い思い出だ







人生で初めての彼女との付き合いで

いかに自分が甘えたい男だったかということを知った





次第に彼女が僕の泊まる頻度が増え

いつの間にか一緒に暮らすようになっていた






大学を卒業し 僕も会社員となり
環境が変わってストレスも溜まるようになっていた



元々 そんなに体力もない理系男子の僕は会社から帰ると 毎日グッタリで

そんな僕を彼女は献身的に支えてくれた





毎日彼女が部屋にいることが当たり前

食事の支度や掃除に洗濯も
彼女がすることが当たり前で



その “ 当たり前 ” と思うことが
いかに自分勝手な考えだったかを学ぶことになった




彼女とすれ違い始めたきっかけは
本当に些細なことだった




してもらうこと 与えてもらうことが

当たり前になっていた僕に

彼女は次第にイライラすることが増えていった





「 あなたにとって私は何なの!? 私はあなたの母親じゃないのよ!」





彼女が何故 怒っているのかさえわからなかった鈍感な僕は




「 どうして怒るんだ? 」と戸惑いながらそう返した



彼女は 何故わからないの!? 信じられない!と怒りをぶつけながら泣きだした



戸惑う僕は 何も言えなかった ーー








翌朝 ーー

彼女は突然
荷物をまとめて部屋を出ていってしまった






あの時の僕は

何故 彼女が突然去っていったのか

理解できないまま





ただ 彼女を失った喪失感でいっぱいになり

まるで死人のように生気の無い毎日を過ごしていた








友人の斎藤が心配をし

飲みに連れ出してくれた





斎藤と話している内に気付いた

いや あれは気付かせてくれたのだろう





母親のように彼女から与えてもらうことがいつしか当然のようになり

彼女を誠実に 思いやりを持って接し
愛することができていなかったのだと



幼稚で稚拙な恋愛しかできなかったんだと





ーー 深く思い知った







しかし そう理解をしても

心はそう簡単には立ち直れず





僕は彼女の勤めていたあのパン屋の店を何度も通っては彼女の姿を探した


けれど彼女の姿は無く



思い切って店に入り
新しい店員の女性に彼女のことを尋ねてみると


彼女は部屋を出たあの日に
パン屋を辞めていたことがわかった







唯一の連絡先でもある実家にも電話をかけてみた


彼女は実家も出たままで
一人暮らしを始めたようだった



場所は教えてはくれず

彼女との繋がりが完全に切れたことを



その時悟った ーー






ーーーー






あの時の胸の痛みは今はもう無い


でもあの頃の切ない想いはまだ忘れてはいない






そして僕は

またあの時のようにパン屋の前を通りかかった



居るはずのない店内をふと見ると …






「 えっ … 」






ーー 彼女の姿がそこにあった







なんで …




また この店にいる彼女を見ることができるとは思ってもみなかった





彼女はあの頃よりも痩せてはいたけれど
雰囲気はあまり変わってはいなくて

昔の綺麗な女性のままだった







店の前で足を留めていた僕に彼女は気付き
彼女と目が合った


彼女も驚いた表情に変わった





“ しまった 、、”





僕は咄嗟にそう思った ーー








目を反らし 少し会釈をして店の前を足早に通り過ぎようとしたら彼女が店から出てきた




「 コウ! 」





久しぶりに聞く彼女の声だった ーー





ゆっくり振り返ると彼女はあの頃と同じ
優しくて華のような笑顔を向けていた








ーー あぁ、ダメだ

この笑顔に …






「 久しぶり … 」




「 元気そうで … 良かった。 コウは … 随分変わったね。なんか、凄く格好良くなってる(笑)」




「 … そんなことは 」








僕を “ コウ ” と呼ぶのはこの人だけだ



今 僕はどんな顔をすればいいのだろう









「 コウは … 結婚した? 」




なんで そんなことを聞く?




「 いや … 」



距離のある ぎこちない言葉のやりとり






僕はもう

とうの昔にこの人への気持ちを吹っ切っている




もう未練も無い


だから



大丈夫

大丈夫だ








「 そう(笑) 私ね、もしかしたらここにいたら
また偶然コウと会えたりしないかなと思ってたの(笑) 」





は … ?

この人は何を言ってるんだ




僕らはもう昔に終わった仲だろう




突然 僕から去って行ったのに









「 君は 、、結婚してるんだろう? 」




「 バツイチ(笑) 今はフリー (笑) 」




ドキッとした



つまり 何が言いたいんだ





直感的に

直ぐにこの場を離れないといけない気がした







「 そう。 じゃあ、お元気で。」


素っ気なく立ち去ろうとした時





「 待って!これ …! 」


パンの入った紙袋を強引に手渡してきた





「 私 待ってる!(笑) 」



そう言って店の中に入って行った







なっ、、なん、なんなんだ!


待ってるってなんなんだ!?



自分から出て行ったくせに

“ またよりを戻したい ” とでも言いたいのか!?





あり得ない

それはあまりにも身勝手だろう




イライラを収められないまま家に着いた







部屋は真っ暗だった




あぁ …


そうか


理奈ちゃんは来週末まで出張だっけ …







「 こんな時に!」




こんな時にって、、なんだよ




何故、こんなに腹が立つ?






部屋の灯りを点けてテーブルにパンの紙袋を置き
コートの胸ポケットからスマホを取り出した



理奈ちゃんからLINEが入っていた






“ もう家かな? 晩ご飯は冷蔵庫に入ってるからね。”




胸が痛んだ




今、電話いい?と返信すると直ぐに電話がかかってきた





『 お疲れさま(笑) 』


その可愛い声が
時間を現実に引き戻してくれた気がした






「 札幌はどう? 寒い? 」



『 凄く寒いよ!雪が降ってきてもう積もりかけてるの(笑) 行さんと一緒に旅行で来たいな!ふふっ(笑) 』


雪に少し興奮気味の君と
僕の気分との温度差を感じた




「 ん(笑) そうだな。 行こうよ(笑) 」




今すぐ君を抱き締めたいよ


「 早く会いたい … 」



『 まだ出張初日だよ? 来週まで帰れないのに(笑) 』


「 今すぐ抱き締めたい。沢山イチャイチャしたい。今度の休み、そっちに飛ぼうかな。」



『 航空券もったいないよ!(笑) 』



「 もったいなくなんかない。君に会えるんだから。

愛してる、だから、、」




『 行さん? 突然どうしたの? 』




「 いや、寂しいだけだよ(笑) 君で埋まってる身体の半分が無くなったようなものだから。 」




『 じゃあビデオ通話で話そうよ(笑) 』



ビデオ通話に切り替えると
寒いからか丸い頬が赤くなっていて

まるで雪国の子供のようだった



「 頬、赤くなってるな(笑) 」




『 そうなの(笑) ヤだよ~ 恥ずかしい(笑) 』




「 可愛いよ? 子供みたいで(笑) 」




『 それ、褒めてるつもり!?(笑) 』



「 はははっ(笑) 褒めてるつもりだけどな(笑) 」







君との温かい電話を切ると
部屋の寒さをより一層感じた




暖房を点け 君が作り置きしてくれている料理を温めている間に風呂の湯を貯めた




しばらく君は帰らないんだよな ーーー




それだけで部屋が広く 静かに感じる





やはり僕は


歳を重ねても昔と変わらず
寂しがり屋で甘えん坊な男なんだな




いつもは君がいると思えるから
一人でも寂しくはないんだ



君と離れて暮らした時は
身を切られるような寂しさに

頭がおかしくなりそうだったもんな






“ 待ってるから!”


ふいにまた彼女の言葉を思い出した






ハッと気付いてパンの紙袋を覗いた




そこにはパンと手紙が入っていた




あの時とっさに書いたものではない事は直ぐにわかった




いつ会うかもわからない

もう二度と偶然でも会うことはないかもしれない僕に


手紙を用意していたというのか … ?





手紙を開いた





懐かしい綺麗な文字 ーー




手紙には

話し合いもせず突然部屋を出て
音信不通になったことへの謝罪や

あの時の彼女の想いが切々と綴られていた




もうあれから何年経つと思ってるんだ …




部屋を出てからの彼女は直ぐに他の男ができていた

その男は粗暴で不実な男だったようで随分と苦労したようだが


そんなこと言われても 僕には関係のないことだ






“ コウの純粋な優しさが恋しい ”




はぁ … ?


なにを今更 …




“ もしコウに会えたら、コウとーー ”




その瞬間 僕は咄嗟に手紙を握り潰した




「 はぁ!? 馬鹿じゃないのか!? 」





手紙をゴミ箱に捨てた








写真立ての中の理奈ちゃんは
こちらを向いて笑っている



今夜みたいな夜は

傍にいて欲しかった





今度の休み


札幌に飛ぼう …






ーーーー





翌日の朝 ジョギングを済ませて出勤の支度をしながらも


ゴミ箱に入っている手紙を気にしている自分




会えるかどうかもわからない僕をずっと待ち続けたんだ

一応 最後まで読んでやるか …





一晩経って 少し冷静になっていた僕は

また手紙を拾い上げ シワくちゃになった手紙を広げた






“ またコウと笑顔で話したい。私にはもう時間が無いから、もしこの手紙がコウに渡せたら最後のチャンスを神様にもらえたということだから。”




ーー 時間が 無い?




“ 実は胆嚢癌のステージ4で、抗がん剤治療は断ったの。 ”




… は?

癌だって?




だって店で働いてるんだろう?


あんなに元気そうな …




… そういや


痩せていて顔色は悪かったような

しっかり顔を見てなかった …






“ 気づいた時はだいぶ進んじゃっててね。

時間がないとわかると今までの人生を振り返るものなんだね。



思い出すのは幸せだった時のことと後悔が多くてね。




コウに謝らないと死ねないなって。

やっぱりコウは優しかったなって。


愛してくれたのに、見返りばかり気にしていた自分にも反省した。


今更、コウに愛されたいなんて思ってないの。


ただ、会って謝りたかった。感謝の言葉を言いたかったの。 ”







「 やっぱり、馬鹿だ … 僕なんか忘れればいいのに … 」



涙が頬からこぼれ落ちた















ーーーーーーーーーーー



Stay With Me 19

2019-11-22 19:50:00 | ストーリー
Stay With Me 19








グループで社内コンペに出す企画をまとめていて
来週明けの提出に間に合わせるため
締切最終日の今日はグループみんなで残業をした


仕上がり終わった頃はもう22時になっていた




「 やっと終わったねぇ(笑) 」


「 お疲れさまでした~!(笑) 」



みんな 疲れた笑顔で帰っていった





帰宅は23時は回るかもと行さんには事前にLINEは送っている


晩ご飯は食べててねと送ってるから
当然もう食事も終わって


ルーティングの早朝ジョギングもあるから
いつもなら寝ようとする時間




以前なら私が残業の時は
車で迎えに行くよ って言ってくれていた




でも今は …


“ 帰りは気をつけて。”



たったこれだけ …




ううん!

ちゃんと返事をくれるだけでもマシなんだから!






最後に残っていた三年先輩の篠原さんが声をかけてきた



「 吉野さん、晩ご飯食べて帰らない? 」




「 私はもう … あ、やっぱり行きます(笑) 」



帰っても何もないなと思い出し
一緒に食事をして帰ることにした




会社に近い居酒屋に入った




篠原さんはとても気さくな人
コミュ力も高い




「 あれ(企画) 通るといいね(笑) 」



「 そうですね。結果が出るまでドキドキです(笑) 」





ご飯食べて帰るからと行さんにLINEを …

スマホをバッグから取り出そうとした





「 彼氏? 」


「 はい、あ、でも 」


スマホをそのままバッグにしまった

「 やっぱりやめておきます。多分もう寝てる頃だろうし (笑) 」




「 上手くいってる? カレシと。」




篠原さんの顔を見た




「 え? 」



「 いや、なんか。吉野さん、最近暗くない?(笑) 」




暗い … かな





「 ごめん(笑) ハッキリ聞き過ぎ?(笑) 」






ビールをゴクゴク飲んで
仕事終わりのビールは旨いなー!と笑った

私もつられて笑った




「 飲みなよ(笑) 仕事が終わった後のビールは最高だよ?(笑) 」



表情筋がよく動くから

顔全部で思い切り楽しそうに笑うから
見てるだけで私も笑ってしまう




「 終電までまだ時間あるからしっかり飲んで食おう(笑) 」



「 私お酒控えてたんですけど1杯だけ(笑) 」



「 君はさぁ~ 優しーい勧め方だと遠慮するだろ?

このだし巻き卵、旨っ! 食べてみ?(笑) 」




… え?



「 どうして、、」

わかったのかな 私の性格



「 二年も同じ部署で一緒に働いてたら大体わかるでしょ(笑) 」




行さんとは三年も一緒に暮らしてるけど
優しく勧めるタイプだよ


君が決めていいよ って
私の意思を尊重する人




行さんがこの人みたいに
少し強引なくらい引っ張っていってくれるタイプだと私も違ったのかな …



あっダメダメ! 比べたらダメ!
それにそれじゃ他力本願じゃない




「 おかわり来た来た! 」




ニカッと笑って篠原さんはもう2杯目のビールに口をつけた


相当ビール好きなんだなぁ(笑)




私もビールを飲んだ

ほんと久しぶり




「 美味しい … (笑) 」



篠原さんの笑顔が、でしょ!?と言ってる



会社でもいつも元気で面白い篠原さん

一緒にいると自然と明るい気持ちになる






「 みんな気にしてたんだけどさ。吉野さん結婚やめたの? 」



この人は 他の人が聞いてこないことを
本当にストレートに聞いてくる




「 一応延期 … (笑) 」 苦笑いになった




「 一応延期? 」



「 あ、えーっと、、いろいろ事情がありまして、少し先に延ばしただけです(笑) 」




「 ふぅん … 」


焼き鳥に口に入れモグモグしながら
何か考えてる




「 仕事中はそんな歯切れ悪くないのに。


あっ、もしかして俺セクハラ発言した?モラハラだった?

ごめん(笑)

つい気になったらストレートに聞いてしまうんだよな、俺。

その内 処分されるかな(笑) 」



「 そんな、セクハラだとは思ってないです(笑) 」



「 良かった(笑) 腹減ってるだろ? もっとちゃんと食え!

最近、ずっと顔色悪いし痩せてきたんじゃない?

よし!次は何注文するかなぁ。 何でもいける? 」


メニュー表を広げた




あぁ 篠原さんのこのさっぱりした気さくな性格

気持ちが楽になる



病気のこと

公にしてないから知らないもんね





篠原さんは勧め上手だから
結局 私はビールを2杯も飲んでしまった



店を出て駅まで一緒に向かった



久しぶりのアルコールで
歩くと酔ってるのがわかる


足取りもふわふわする




「 仕事終わった後の1杯が何より旨いんだよなぁ(笑) 」



1杯? 中ジョッキで4杯は飲んでたよ?(笑)




「 ふふっ(笑) 飲むと更に陽気ですね(笑) 」


「 いつもと変わんないでしょぉ? あはははっ(笑) 」



酔うと笑い上戸の度が増すんだなぁ(笑)


やっぱりどうしてもつられ笑いしてしまう

「 はははっ(笑) 」



私もこんなに笑ったの久しぶり





行さん

もしまだ起きてたら心配してるかな …




スマホを取り出して確認した


でも LINEも電話も入ってなかった





ーー 急に殺伐とした現実に引き戻された






「 (彼氏) 心配してた? 」



「 いえ … 何も来てないです 」




「 … なんだ。やっぱカレシと上手くいってないじゃん。

んー、あのさ! カレシといて気負いせず自然体でちられて、幸せだなぁとか、思う?

もし思えないなら … 」




「 思えないなら? 」




「 結婚は “ 無し ” だな。」



胸にチクッと刺さった



「 “ 無し ” ですか、、」




いつもの陽気な篠原さんの表情に変わった



「 そりゃーそうでしょ?(笑) そんなの一生続かないでしょ? いつかは必ず疲れてくる。 」



ちょうど駅についた



「 じゃ、また月曜!お疲れさん!(笑) 」



「 あ、お疲れさまでした 。」



片手を軽く上げて満面の笑顔で駅の雑踏の中に消えていった








行さんの笑顔が浮かんだ


最近 … 笑顔を見てない







マンションの前に着いて時計を見ると
もう0時半を回っていた




早朝ジョギングをしている行さんはいつもなら既に寝てる時間




鍵を開けて静かにドアを開くと
まだ部屋の灯りがついていた



「 ただいま。まだ起きてたんだね 」





寝ててくれれば良かったのに と内心思った

その方が気が楽だった






連絡もなく遅くなって怒ってはいないかと
彼の顔色を伺う



「 遅かったね。晩飯外で食べてきた? 」


その声と話し方が少し冷ややかに感じた





「 あ、うん。職場の人と仕事帰りに。」


「 そう。メール無かったから心配した。」




心配してたような口調じゃない







「 ごめんなさい … 」



「 最近仕事大変そうだったし。気晴らしになった? 」




行さん …






「 うん。じゃあ お風呂入るね。 」




「 ん 。」





メイクを落としてお風呂に入った




「 はぁ~ 」





辛い …



私は ここで独り泣く習慣がついた





お風呂から出ると行さんはもう寝室に入る所だった



「 先に寝るから。おやすみ。」



あ …




「 待って。」

とっさに引き留めてしまった




寝室のドアノブを開きかけた彼が私の方を見た

「 え? 」




どうしよう

引き留めて私は何をいうつもりだったのだろう



「 なに? 」




「 何でもない … 」



「 … じゃあ寝るから。 おやすみ。」



一瞬悲しそうな表情をしたような …
気がした




ドアが閉まった ーー





閉まったドアが
心の扉が閉ざされたように思えて


辛い …







ーーー







それから翌週の手術日



手術前日からの入院にも付き添ってくれた

完全看護の総合病院だから行さんが泊まることはできない





入院手続きから主治医や看護師さんからの説明なども

一応私の婚約者だから “ 身内 ” として
きちんと対応してくれた




それはまるで “ 長年連れ添った夫 ” のような感じだった



本来なら結婚前ならラブラブな時期

でも私達は到底そうは見えなかっただろう






術後も順調に回復してきて

ゆっくりと体力も戻ってきた






なにより

子宮を取らなくて済んだことが何よりだった



これで行さんへの負い目にも似た思いが晴れて軽くなった




でも …

行さんの素っ気なさは変わらなかった



“ 今夜、会社の子の付き合いがあって遅くなるかも。”




LINEが届いた


会社の子 … ?



子って … 年下かな


どこに行くの?と問うと

ライブハウス。ヴォーカルしててライブを見に行く約束してたの忘れてたから。と返ってきた




私は

連れていってくれないんだ


行さんは以前から会社の人に私を会わようとはしなかった




仕方ないよね …




また返信が入った



『 一緒に行く? 』




えっ!?




『 行く! 』



嬉しくて即答したら場所と時間が送られてきた





ーーー





待ち合わせ場所に向かうと
もう行さんは先に着いていた




「 行こうか。」

ふと背中に触れる癖は変わってはいない



「 行さんの会社の人と初めてお会いするから少し緊張する(笑) 」



「 あぁ、そうだったな。」


考え事をしているような生返事が返ってきてそのまま黙ったまま歩く




行さんの手をチラッと見た



「 手を繋いでもいい? 」



「 … ん? え? 」



聞こえなかったようだった

何度も言うのが恥ずかしくて




「 なんでもない(笑) 」


そう誤魔化した




「 どうして “ なんでもない ” でごまかすんだ。」



聞こえてたことが恥ずかしい


行さんから手を握ってきた




ドキドキして

嬉しい





「 君から言うなんて、、ちょっと驚いただけだ。」



口を固く閉じたけど
前を向く優しい眼差しに見えた





暖かくて大きな手

綺麗で長い指が私の手を覆った







「 私のこと 、、」



「 あの店だよ。」


看板を指差した



好き?って聞こうしたんだけど
着いてしまった



年期の入った店の扉を開くと
結構お客さんが入っていてもうライブは始まっていた




カウンターの入口近くの席に座った


歌っている女性が会社の人 …


なんだかセクシーな人だな



注文を取ってくれたお店のマスターが聞いてきた


「 あなたは、ゆみちゃんの親戚? 」



ゆみちゃんとはヴォーカルの人のことだった




違うと答えると 逆に少し驚いた表情をした




なんとなく
似てるかもしれないけど



舞台にいるあの女性の方がずっと輝いていて綺麗





行さんはずっと女性を見ている

というより 見つめている





女性は行さんに気付き

たまに行さんに視線を向けた




ただ それだけのことなのに妬けてしまう




怪しい関係じゃないから私を連れて来たんだろうし

そんなことぐらいで気にしないようにと
思ってはいたんだけど …






「 そろそろ出ようか。」



「 あの方にご挨拶しなくてもいいの? 」



「 ん … いいんだ。 」





店を出て

ライブの感想もなく
黙って歩く行さんの少し後ろを歩く


見上げる程 身長差のある彼の背中は
少し寂しそうに見えた




「 飯食って帰るか。」


チラッと私に振り返った行さんは
穏やかな表情をしていてほっとした


「 そうだね(笑) 」




食事をしながらも
ライブの感想を話さないのが不自然に感じる


私から話しかけてみた


「 さっきのライブ良かったね(笑) 同僚の方、凄く上手いし。当たり前か(笑) ヴォーカルだもんね! 」



「 そうだね。良かった。会社での印象と随分違っていたから別人みたいに見えたけど。」


少し微笑みながらそう言った



「 会社ではどんな感じの方? 」



「 とてもおとなしくて固い感じだな。あまり笑わないし、誰とも親しい感じはなくてプライベートが見えない、」



そう言いかけて話を変えてきた



「 君に似てるだろう? 容姿が(笑) 」


え?



「 似てた? 」



「 あぁ、そうか。そうだな。今日はライブ用だったから似てないか(笑) 普段は似てるんだよ。」



「 そうなの? そういやマスターさんにも親戚かと聞かれたなぁ(笑) 」




「 きっとマスターも似てると思ったんだろう(笑) 」




久しぶりに前の穏やかな行さんだ


ああ、、久しぶりに会話らしい会話をしてる

嬉しい




「 行さん、あの、聞いても良いかな、、 」




「 なに? 」




「 行さんなんだかあまり笑わなくなった気がするんだけど … どうして? 」




本当は どうして素っ気なくなってしまったののか知りたい




「 そう、かな。」


それまでは私を真っ直ぐ見ていた視線が反れた



気まずい空気になった





「 私達 冷めちゃった? 」




いつも心の中で思っていたこと




ゆっくり私に視線を戻した

その視線は少し厳しいものだった




それが嫌な予感をさせてた

心臓の鼓動が早くなってくる




「 出よう。」




そう言って立ち上がった





ーーー





店を出ると帰る方向とは違う方向に向かって歩きだした



「 どこに行くの? 」




その問いかけにも答えてはくれず
隅田公園の川沿いを歩いた






「 理奈ちゃん。病気も回復したよね。」



少し前を歩く行さんの足が止まった




「 えっ? うん … 」




「 僕が … “もう君への気持ちが冷めた” と言ったら? 」



背中を向けたまま問いかけてきた




まさか …

行さんが?





「 さっきの女性に恋をしたと言ったら? 」






「 えっ …? 冗談 … 」




… 今までずっと私だけを見て

私のことが大好きだとわかる愛情を沢山注いでくれていた行さんが


他の女性を … ?







「 君の病気も改善したことだし、君はもう何の気兼ねもなく誰ともでも恋愛も結婚もできるだろう?」



肩越しに冷たく言う行さんは
見たこともない他人の背中に見えた






行さんがそんなこと

言うなんて ーーー







想像してなかった



足から力が抜けるような感覚と
見える風景が知らない風景のように見えて

現実じゃないように錯覚する



急に目頭が熱くなって涙が溢れ流れ出した






「 なんで … 急にそんな 」







私を一切見ようともせず

川沿いの柵に手をついて河を眺めている






「 なんでって 、理由はわかっているんだろう?

いつだって君は自分の本心を言わず隠していた。君が何を考えてるかわからなかったよ。


それって僕は信頼されてなかったということだよな。


僕は努力してきたつもりだった。

頑張ったけど 君のことはわからないままだった。」




確かに行さんは努力してくれたことも知ってる

私は何も自分を変えることができなかった


でも、でも …




「 そのままの君でも良いと思ってたよ …

でもやっぱり無理だった。」




過去形で話す行さんの言葉
一言一言が胸に突き刺さる






「 言いたいことは? 何もないのか? 」










私に視線を向けた


瞳が潤んでいるように見えるけど
声と表情は冷たい




「 私は、、 」



“ 別れたくない ”
その言葉が … なかなか出せない


静かに私の言葉を待っている



20分近くは二人の沈黙は続いただろう





「 やっぱり君はそういう人なんだよな。
大切なことや本当の気持ちを伝えてはくれない。」


そう言うと溜め息をついた





「 もうダメだな。 僕達、もう別れよう。」




「 別れたくない!! 」

やっと言葉が出た




それから堰を切った水のように想いが
涙と共に溢れ流れはじめた



言葉が上手く出なくて
話は支離滅裂だったけれど


行さんに愛されて幸せだったことや
素っ気なくなって寂しかったこと


今夜 少し嫉妬したことや
恵美のことで嫉妬して悩んだこと



子供の頃から嫌なことも我慢して言わずにやりすごす癖がつき

なかなか言いたいことも、感情を表すことも苦手になったこと



そんな自分が嫌いなことーー




本当は ずっとずっと

行さんが思っているより私が行さんのことを愛しているということ




時間がかかったけれど

彼はずっと黙って聞いてくれた





「 もう、、行さんは、私に、冷めちゃったかもしれないけど、私は、私は、、 」




突然 ふわっと温かくなった


み込むように抱き締めてくれた




「 待ってた … 待ってたよ。やっと心の扉が開いた… 嬉しい … 」



「 … えっ 」




「 時間、かかりすぎ(笑)




それって

じゃあ …






「 最後の賭けだったんだぞ!(笑)

“ 別れよう ” って言葉出すの。

わかったって言われたらと考えると恐かった。」




… 胸が痛んだ




「 じゃあ … 別れようって話は … 」





私の目を覗き込んだ行さんの優しい微笑み

目は泣きそうに潤んでいた



「 別れるなんて本気で思ってないよ(笑) 」




「 ひどい … 」

また号泣した私の涙をコートの内ポケットに入れていたハンカチで優しく拭った



「 ごめん、殴ってもいいよ(笑) 」




「 そんな、ぶたないよ!」




「 これからは溜め込まず、抑え込まず、必ず話して欲しい。その都度!だよ。約束してくれ。」



「 ごめんなさい。約束 … 」





大きく暖かい両手で頬を包まれた






「 冷たくするの、本当にキツかった。

風呂で君が密かに泣いているのを知った時
胸が張り裂けそうだった。


それが毎晩だとわかった時は本当に辛くて悩んで葛藤した。


“ ごめん、本当は違うんだ! ” と言いたくなる衝動を抑えて、僕も君が風呂に入ってる時、毎晩泣きたい想いだった。」



泣きそうな瞳で微笑む




「 行さん … 」



行さんのそんな想い
全くわからなかった





「 ずっとこうして触れられなくて我慢してた。


でもね、毎朝必ず寝てる君に気付かれないよう抱き締めたりこっそり何度もキスしてた(笑)

はははっ(笑) 知らないだろう?(笑) 」




その姿を想像してキュンとした

気付かなかった …





「 寝てる時にしかできなかったからな(笑) でもこれからは … 」



行さんの唇が私の唇に何度も触れ
次第に求めてくるような熱いキスに変わった


身体が熱くなるような感覚が久しぶり …






行さんは “ はぁ~ ” と大きく深呼吸をした



「 コート着てて良かった … 」



「 えっ 」



「 いや、さぁ!早く帰ろう!で、帰ってイチャイチャしたい。もう我慢したくない(笑) 」



私が笑うと目を大きくさせた



「 なんだなんだ? 笑い事じゃないぞ!もう何ヵ月もずっと抱きたい衝動を抑えて我慢してたんだからなっ!

それも十分な努力と認めてくれるだろう!? 」



拗ねるように口を尖らせて言うのが可愛くてまた笑ってしまった


「 うん、うん(笑) 」




「 浮気なんてしてないし、他の女性に気持ちが動いたとか、そういうことは一切無いってこと … 」



恥ずかしそうに視線を反らして頭をかいた



「 … わかるだろう? 」



行さんも身体が反応していたようだった




年齢の割りに照れ方がとても可愛い行さんが愛おしい






「 そうだね(笑) 」


「 あ、理奈ちゃん!ホテル入ってみる? 」


「 急いで帰るんでしょ?? 」


「 (そう) だな … (笑) 」








手を繋いで駅に向かった

金曜日の夜だから駅周辺は人が多かった

いつもなら人が多い所では繋いだ手を自然と離す



自然と手を離そうとしたら
離さないよう強く握り返してきた






「 もう離さない。離したくない。」




真っ直ぐ前を向き
低い声で呟いた行さんの綺麗な横顔は

いつもよりも男らしく見えて


バーで初めて手を握られた時の照れくさい想いが甦る







やっぱり行さんが大好き


愛してる







その夜は

愛を確かめ合って
幸せで眠れなかった











ーーーーーーーーーーー