気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

恋愛小説のように 3

2020-11-26 21:57:00 | ストーリー
恋愛小説のように  3





え?

「それはどういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だよ。」


言葉通りの意味って...


「だから、俺とお前。恋愛してみるかって。」


フワッと心が温かくなった
大好きな先生と...



「で、どうよ...  」

「... ほんと?」

「ほんと、だぁっ!」
私の髪をクシャクシャと撫でた

「... はっ、はい!喜んで!」

「フハハハハッ!居酒屋店員かよ!!(笑)」



ウソみたい...

憧れの人から付き合わないか、なんて...



「俺に過度な期待はするな!洒落たデートなんざ柄じゃねぇからできねぇ(苦笑)」


「物語の中では洒落たデートを描いてるくせに。」


「話の中でデートしてんのは俺じゃねぇし(笑)」


肩幅のある長い腕を伸ばし抱き寄せられた ... 

先生の体温と好きな先生の匂いでドキドキがまた強くなってきた



やっぱり私...
先生が好きだった



「(ぷはっ!) 顔真っ赤(笑)」

「からかってるんですか?」

「違う。俺、お前のこと、、ほんとに好きだよ。」

そう言って照れくさそうに少し微笑んだ



少し顔を赤くした先生に私の胸はキュンとした ...


「... センセェ」

「マジマジと見んな、阿保 ...(笑)」


あ …  

わぁ …



先生の唇が私の唇と触れてる...

愛おしそうに何度も唇や頬に触れてきて
一気に夢の中にいるような心地良さに包まれた


「ふぁ... 」
変な声が出てしまった私に先生は耳元で

「今のなんだ?(笑)」



どうしよう...
キスだけで頭が真っ白になってく



「今日はいろいろと… 我慢だな」

「いろいろ我慢… 」

「いろいろと(笑) 嬉しくて俺、今めちゃくちゃ心臓バクバクなってる(笑)」


またぎゅっと強く抱きしめられた
先生の鼓動が早い

本当にドキドキしてるのがわかる

身体全部汗ばんで...




先生じゃなくて

荒谷 幸輔という男性に
初めて触れた気がした






ーーー



あいつでも...
あんな顔すんだな

くそっ、
めちゃくちゃ可愛かったな!

もっといろんな...


いや、そうじゃなくて!!



遊が俺の懐に入ってきてくれたことが今は何より嬉しいんだ



遊に男ができた事を知った時

俺は内心どこにもぶつけようがない苛立ちと焦りと後悔で男として情けなく感じた


猫のミューのように
ただ愛でるだけでいい、それでいいんだ... と俺は自分の心を誤魔化してきたけど


俺は遊のこと本気で好きだったんだと

そこで気付くなんてな …


だから
どうかもう...

遊だけは
俺の腕からすり抜けていかないで欲しい...




俺は臆病者だから 
ずっと独りで生きてきた


大事なものを失う恐さは
独りきりの寂しさよりもずっと辛く苦しい




それを知ったのは俺が28歳の時だった ーー



当時の恋人 美紗と俺は10年間交際を続け

俺が作家デビューを果たしたことを機に美紗にプロポーズをした


美紗は夏のひまわりのような
キラキラとした笑顔でOKをくれた


本当に幸せだった...




俺達は半年後の付き合い記念日に
二人だけのささやかな結婚式をあげ
入籍しようと決めた




デビューしたと言っても作家としての俺はまだまだ駆け出しで世に名はほとんど知られていなかった


それでも俺はこれから家庭を持つという経済的責任感を感じながらそれが原動力となって執筆活動に熱が入った



沢山の風景が目の前に見えるようにいろんなイメージが創造できて

こんなに絶好調なのは
未来の希望や幸せがこれから待っていると思えたからだ



それでもまだまだ駆け出しの作家

依頼も収入も安定していない俺に変わり
二人の生活は美紗が支えてくれていた


俺は美紗のために原稿を書き
美紗は俺のために働いてくれていた


『美紗にばっか負担かけてすまない… でも、今の俺はめちゃくちゃ良い感じで書けるんだ(笑) 今は美紗に負担かけてるけど、直ぐに美紗を楽にさせてやるからな!』



質素な暮らしだったけど

俺たちは心から幸せだった ーーー




美紗は強くて俺よりずっと精神的に大人で
そして底抜けに明るい女だった


“こうちゃんは書くことに専念して!”

“こうちゃんは才能がある。こうちゃんの書くものは沢山の人の心に残る作品が書ける!だから自信持って(笑)”


俺を励まし
時には激を飛ばしながら

どんな時も俺を信じてくれていた


経済的なことだけじゃなく
心も支えてくれていた



俺になくてはならない大きな存在の美紗が

ある日ーー




買い物に出かけたまま 
この部屋に帰って来ることはなくなった



突然この世から去ってしまった



交通事故

即死だった ーー




最後に交わした言葉は

“ちょっと買い物行ってくるね(笑)”
だった




ちょっとって
ちょっとじゃねぇじゃん...


早く帰って来いよ ...

どこ寄り道してんだよ ...





俺は何日も泣いた

飯もまともに食えなくなっていった...



そして
美紗のために頑張っていた作家という仕事も

美紗を失ったことで書く理由が無くなった


考えても考えても何も浮かばなくなり
とうとう俺は何も書けなくなってしまった


“才能は枯れてしまった” と思った





俺が書けたのは美紗がいたからだったんだ ... 




独り残された俺は
それでも生きていかなきゃならない


昼に夜に
生活のためにバイトをした

生活のため...  なんてのは口実で

本音は美紗を失った辛さを忘れたかっただけだった



寝ても夢を見ないほど毎日の労働で身体は疲弊しきって

暗いアパートに帰ると簡単に風呂を済ませて布団に倒れこむ

そんな毎日が続いていた頃




夜中に帰宅したら玄関の前に男が立っていた

編集社の担当 柴田だった



『先生、今までなにやってたんですか!いつ電話しても繋がらないし訪ねてきてもいない、ほんと心配してたんですから!

それ、、作業服ですよね... まさか工事現場とかで働いてるんですか!?』


『あぁ... 』

鍵を開けて部屋に入ると柴田も一緒に入ってきた

『こんな夜中に一体なんの用なんだよ。俺、疲れてんだ … 』


『これ、渡しに来たんです。』




柴田は俺に封筒を差し出した

仕事の依頼書と資料だった




もう仕事はできないと伝えると
柴田は顔を歪ませ涙目で俺に怒鳴ってきた


『先生の仕事は工事現場で働くことじゃないですよっ! !先生は“書くこと”が仕事なんです!!』




“書くことに専念して!”

そう言った美紗の笑顔を思い出した



『でももう... 俺は... 書けなくなっちまったんだよ... 』


『そう言うと思ってそれを持って来たんです。』



依頼書の内容は児童書の短編だった



『先生は児童向けの作品は書いたことないですよね。』

『ないよ。だから無理だって、』

『だからです!経験がないから“挑戦”するんですよっ。書くことから逃げないでください!』


“挑戦”って... 



『児童書つっても... そんな簡単じゃねぇだろ... 』

『そりゃ挑戦ですもん、簡単じゃないです。』

『お前なぁ... 』



柴田は俺に向かって土下座した


『でもっ!今の先生だから書けることがあるはずです!子供に夢と希望と挑戦の意義を伝えてあげて欲しいんです!お願いします!僕、先生の書く話、本当に好きなんです!先生の書く話が読みたいんです!先生の本がっ...!!』


『なに言ってんだ... 俺なんか他の作家と比べても部数も大した事ない。名前も売れてない。世間様には受け入れられにくいんだろうよ... 元々物書きの才能なんて 俺には無かったんだ... それにもう、何のために書きゃいいのか...わかんねぇんだよ... 』



『そんな風に卑屈になって逃げないでくださいよ!!僕が慰めで言ってるって思ってるんですか!?

僕は!僕は... 本当は先生みたいな作家になりたかったんですよっ!!だから才能ないのは僕なんです!!

... 僕は先生みたいな作品を書きたかった ... 先生は才能もあるし作家デビューもしたのに、書くチャンスあるのに、、何やってんですか!先生は贅沢なんですよ!

何のために書くかわからない!? そんなの決まってるでしょ!! 先生の作品を待ってくれてるファンでしょう!!

これっ!見てくださいよっ!!」


沢山の手紙やファックスを俺に差し出した


「こんなにも先生の作品に感想の手紙が届いてるんです!あなたにはこんなに沢山のファンがいるんですよっ!!みんな先生の書く作品を待ってるんです!!ちゃんとひとつ残らず読んであげてください!!」


手に取ったファックスには俺宛に書かれた作品の感想が書かれていた

“いつも素敵な作品をありがとうございます”

“勇気をもらいました!私も頑張ってみようって思えるようになりました!ありがとうございます!”

“綺麗な世界を魅せてくれてありがとうございます”

“深川先生の次の作品も楽しみに待ってます”



ありがとうございます なんて...

待ってます... か



「いつまでも逃げて甘ったれてんじゃないですよ!!あなたのその才能、もう要らないっていうなら僕にくださいよっ!!』


悔しくて泣きながら必死に俺に訴えた



『... 柴田... お前 』




ーーー




俺は涙を拭いながら

一枚一枚
丁寧に全てのメッセージを読んだ

柴田の言葉や沢山の読者に救われた ーー




児童書の仕事を引き受けたことで

生きる意味や
作家デビューするまでに抱いていた夢や希望を

全部思い出した...



そして美紗から
俺に勇気を与えてくれた言葉の数々...


児童書なんて無理だと思ったけど
始めから無理だと決めつけずにやってみようと
真剣に取り組んだ



出来上がった草稿を柴田に見せると
柴田は泣きだした


『おいおい、泣くようなこと書いてないぞ(苦笑)』

と言う俺に柴田は


『僕は今凄く嬉しいんです!またこうして先生が書いてくれたこと!先生から子供達へと夢や希望が繋がっていくことが!ほんとに、本当に!嬉しいですっ!!』


柴田の熱い言葉に俺も涙が溢れた


『感謝しないといけねぇのは俺の方だよ...
ほんとありがとな... 柴田のお陰だ。そして読んでくれてる人達みんなにもな。』



俺はまた“書くこと”を仕事としてやっていくことを強く決意した






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恋愛小説のように 2

2020-11-25 12:26:00 | ストーリー
恋愛小説のように 2





私は高校の時に“深川 榛(ふかがわ はる)”という作家の本と出会った


オススメ書としての書店員のコメントに目が留まり軽い気持ちで買ってみたのがきっかけだった



はじめは“これがオススメ〜?”と思ったけれど

途中から徐々にその物語の世界に引き込まれていった



美しい情景や音までも聞こえてくるような表現と

登場人物の心情が共感でき


読みながら主人公と一緒に泣いたり笑ったりしながら

気付かされることも多くて


何故そう考えるのか 私にはわからないこともあったり

学んだり 想像もつかない深い世界に連れていってくれる



私には深川 榛の世界をもっと知りたくて
先生の作品を全て読んだ



私の中で深川 榛先生は女性だと思い込んでいた

何故なら繊細な女性の感情の機敏を
読み手側が手に取るようにわかる表現をしているから


それが ーーー




『深川先生よぉ、新刊出たんだろ~?金入ってるんだろぉ?ここは奢れよ(笑)』


“深川先生!? 新刊!?”


たまたま私が好きな作家先生と同じ名前で反応してしまった


居酒屋の隣の席には中年のおじさんが二人

どうも親しい仲のようだった



『ダチのくせにこういう時だけ先生呼ばわりかよ(笑)』


気になって一緒にいた友達との話はそっちのけでおじさん二人の話に聞き耳を立てた


『ベストセラーのー、あれ?なんだっけ?ロンドンの、ほら、あれで幾ら入ってきたんだよ(笑)』


えっ!?


『んなこと、どうでもいいだろ。おめぇはほんと下世話なヤツだなぁ(苦笑)』



やっぱり“深川 榛(はる)”!!


女流作家とばかり思ってたのに...

おじさん... だった




『お前ん家で“座れるなら”酒とツマミを持ってってやるけどよ。ちっとは掃除すれば?彼女でもいればねぇ(苦笑)』



そのまま話を聞いていると先生はおじさんなのに恋人もいない独り身で洗濯や掃除は面倒くさく後回しにし

ひたすら執筆活動している …ということか


あの感じ、納得(笑)




40代前半かなぁ…?

先生の情報は全く世に出てないから
年齢や女性か男性かもわからなかった



少し天然パーマ気味の髪はボサボサで無精髭面

襟首が伸びたTシャツにダボついたヴィンテージデニムにサンダル

凄く細いのに肩や背中の骨格はしっかりしている

箸を持つ手は大きく 指は細く骨ばってて長い

横からでは伸びた前髪で目元が見えない


低い声で少し気だるそうに話すその姿は 確かにどう見てもきちんと家の中が整理整頓できているようには思えない

それであんな素敵な作品が描けるって…

深川先生はやっぱ “天才”!!




先生のサイン、欲しい!!!

なんで今日本持って来なかったんだろう
こんなチャンスもうないかもしれないのに!!


こうなったら!!!


『あっ、あのっっ!!!』



勇気を出して“深川 榛”先生に声をかけた





ーーー




先生の家政婦として働き始めた

表札には“荒谷”となっている

深川 榛先生の本名は“荒谷 幸輔”という名だった



先生は口は悪いけど とても優しい人だった


毎日訪ねてくる猫に“ミュー”と名付け餌を用意し

執筆中でも膝に乗ってくるミューを優しい眼差しで撫でている



『明日も必す来いよぉ… 』

見送る時の先生の後ろ姿が
いつも少し寂しげに見える


あんなに可愛がってるのに
何故 飼い猫にしないんだろ…



『おーい遊、すまんがコーヒー入れてくれぃ。』

タバコ休憩に入るといつもコーヒーを要求する

先生お気に入りの渋いマグカップいっぱいに
お気に入りの豆のコーヒーを入れて盆ごと縁側に置くと

必ず縁側に座ってタバコに火を点ける


『ふぅ~~っ… 』


煙りを吐き出してコーヒーを飲む背中は
いつも孤独な人のように見えた


執筆中の作品のことを考えてるのかもしれない

私は少しでも先生の手を煩わせないよう
掃除に洗濯に料理にと

私なりの精一杯を尽くした



私はうるさくしてるつもりはなかったんだけど
落ちつきの無い私にもっと静かにできないのかと始めの内は渋い顔をしてたけど


次第に慣れてきたのか
先生は何も言わなくなった



パソコンに向かって執筆している先生の後ろ姿

Tシャツから肩甲骨が浮き出て
時々 天然パーマ頭をポリポリと掻いては

『ふぅ~~ … 』と大きな溜め息をつき

首が凝るのか 頭を左右に傾けコキコキと音を立てて頭を回す

肩を揉みましょうかと声をかけると

『いや、いい。』と

私の顔を見ることなく
低い声で短い返事が返ってくる

パソコンに向かってる時の集中力が凄いのも尊敬してる





『そこに紙袋があんだろ。それ、頂きもんだ。食べてもいいぞー。』

『センセも食べますよね~?』

『ん… そうだな(笑)』


時々ミューに向けるような
優しい表情を私にも向けてくれる

ミューを撫でるように
私も時々 何かの拍子で頭を撫でてくれることがある


『作り置き、旨かった(笑) いつもありがとな。』

そう言って私の頭を撫でる

その度に 胸がドキッとする


子供を褒めてるように見えなくもないけど...



執筆中の先生をオンとすれば
その他の時間はオフになって


ぼんやりと考え事していたり
時折、オヤジくさい冗談を言ってみたり


冗談言ってる時の先生は
親戚の陽気なおっちゃんみたいにオヤジギャグなんか言っては自分一人でケラケラ笑っちゃってるような感じ


昭和時代の貧乏大学生がそのまま年取ったような風貌の先生から

どうやってあんな繊細な表現とロマンチストな物語が湧いてくるんだろう


そんな不思議な先生のパーソナリティの部分に次第に興味が湧いてきて


深川 榛(はる)先生のファンの私は


いつの間にか
荒谷 幸輔という男性を知りたいと思うようになっていた



それが“恋”だと気付くのは早かった





それでも先生は私のことは親戚の姪のような存在なのか、ずっと子供のような扱いで


私に色気がなく落ちつきもないから仕方ないことだとわかってたけど

ちょっとは女として見て欲しいと思うようになっていた



そんな時...




背格好や雰囲気が先生と似た男性に思いがけず告白されてしまった


告白の時
ふいに先生が私に言った言葉を思い出した


“ガキんちょのくせに、なに言ってんだか(笑) ははっ!”



ーー ガキんちょ…


私は先生の姪でもなければガキんちょでもない!


勢いで交際にOKで返事をしていた






ーーー





付き合い始めて一ヶ月


先生と違って若い彼とは今の流行りの話題も話せて普通に楽しかった


私のこと“好きだ”って言ってくれる人が存在してる

それだけで嬉しくて幸せを感じる



それが恋かどうかはわからなかった
先生の時は直ぐにわかったのに...


でも承認欲求が満たされていることは確かだった





ーーー





先生に初めて彼がいることを伝えた





きっと...

“お前に?変わった趣味の男もいるもんだな(笑)”

なんて言いながらケラケラと笑うんだろうと思ってたのに…




『お前… 男 いたのか。』

困惑顔をしたと思ったら...


『俺は聞いてねぇ!』

と怒った表情に変わった



先生は今まで私の父ちゃんみたいな気持ちだったの...?


それからの先生は
今までみたいにふいに私の頭を撫でることは無くなった


でもそれ以外 先生は今までと同じだった




ーーー




“なんか、ごめん。やっぱり付き合うのやめよ。”


私はたった一本の電話で彼にフラれた


恐いけどその理由を聞いた...


“もっとお淑やかな女の子らしい子かと思ってた。なんか、思ってたのと違うなって...” と

冷めたい彼の声がスマホから聞こえた ーー




だったら...

だったら、落ちついた女の子のように装えば良かったの?




フラれたことが悲しいんじゃない
また女として否定されたことが悲しい


お前は人間としても駄目だと否定されたようで深く傷ついた...





ーーー




先生の前ではいつも通りに…

そう心に決めていつも通り先生宅を訪ねた



先生はいつもの通り

襟首が伸びたTシャツとヴィンテージデニムに裸足でパソコンに向かっていた


私の顔をチラッと見て

『おぅ、今日もよろしく頼むー。』と気だるそうにそう言った



そんな いつも通りの先生に安心した



でもつい彼の言葉を思い出しては涙が出そうになってしまう


あんなに泣いたのに涙は枯れてくれない...




失恋したことを先生に伝えると
複雑な表情をした



先生が私に気を使ってる...

気を使わせるつもりはないのに
つい涙が出てしまう


でも家事はきちんとこなさないと
お仕事だもの...


先生は時々私の様子を伺うようにチラチラと私を気にしてる



先生...


彼は少し先生に似てたの

彼に言われた言葉は
先生に言われたようにも感じる


本当は先生も私のことそう思ってるんじゃないかって...


なんか
先生にフラれたような気持ちになるよ...





ーーー




家事仕事を終えて

約束の先生の草稿を読ませてもらった



主人公の想いが成就するストーリー展開になっていた



『私もこんな恋愛したいなぁ… 』

ふいに出た私の言葉に



『そういう恋愛、してみるか』



先生の言葉に



驚いた ...







ーーーーーーーーーー



祖母

2020-11-19 00:00:00 | 日記

今月は祖母が死去し
仕事もしながらだから本当に何かと気忙しい日が続いていたけれど

ようやく少し落ち着いた。


祖父が亡くなった時は
亡くなった後は全く祖父の“気”は感じなくて

四十九日どころか葬式が終わって早々に冥土に旅立ったのが祖父らしい。

祖父はいつも自己中の人だったから納得(笑)

祖母はとても温かくてお茶目で誰にでも誠実で心優しい人だった。

“おばあちゃん居る?”と思うだけでフワッと傍に現れてくれる。

親が唱えるお経がグダグダでも
“ええよ、ええよ(笑)”って笑ってる(笑)



おばあちゃんは四十九日までは傍に居てくれそう(笑)


(これは熱い湯呑みに手を近づけると湯呑みの熱がじわっと手に伝わるような感覚に似てます)

温かい気(幸せなエネルギー、神のエネルギー)
背筋が冷たくなる気(怨念、不浄のエネルギー)


長年病院で認知症で寝たきり生活だったから

ようやく苦痛から解放され良かったと思う。

孫として私の本音はやっぱり寂しいけれど

次の人生はもっともっと楽しんで欲しいと願ってやまない。






恋愛小説のように 1

2020-11-03 09:08:00 | ストーリー
恋愛小説のように 1






俺は恋愛小説家

柄にもなく恋愛小説なんか書いているが
実の俺は一度も結婚することなく45歳になった


過去 恋人は何人かいたが
今現在はいない

今は毎日餌を目当てに庭に顔を出す野良猫のミューのように
可愛くて愛でたい子はいる



今日はその子が訪ねてくる日


「こんにちはー!おじゃましまーす!」

「おう。」

「センセ~、またひどく散らかしてますねぇ(苦笑)」

「よろしく頼む。」


彼女は “遊(ゆう)”という

時々 この古民家 一軒家の掃除と俺の飯を作り置きをしに訪ねてくる家政婦の25歳の女の子

誰よりも先に俺の原稿を読ませて欲しいという条件で破格の安さのバイト料となった


遊が来てくれるようになって
洗濯だの 掃除だのに時間を取られなくて済むことは本当に時間が有効活用できて助かっている



「いつになったら洗濯かごに入れてくれるんですかぁ~?」

脱ぎ散らかした靴下を指先で摘まみ俺の顔の前に持ってきた

「あぁっ、よせっ!早くやっちまってくれ。」

「はぁ~い(笑)」



彼女には週2回 火曜と金曜に来てもらっている
それ以外の日は実家の金物屋で店番をしているそうだ

朝9時に来てから洗濯を始めて、掃除や昼飯、作り置きのおかずを作り、洗濯物を畳んで収納し終えるのが午後2時頃

彼女は俺の作品のファンで家事を済ませると4時頃まで俺の本棚の本や原稿を読むのが彼女の日課




彼女と知り合うことになったきっかけは
古い友人と飲み屋で飲んでいた時だった


たまたま隣にいた彼女は俺達の話をこっそり聞いていたようで


“私はセンセのファンで作品は全部持ってます!!”と
あの調子で話しかけてきたのだ





ーー 初めてだったんだんだ



俺の作品が好きだと直接聞いたのは



俺はサイン会もしないしメディアに顔も出さない
作家名も本名じゃない

ファンレターを“読む”ことはするが
直接 ファンだと言ってくれたのは遊が初めてだった


遊は瞳をキラキラ輝かせながら
“あの作品の、あのシーンが特に!”と細かく力説した

俺のお気に入りのシーンを俺と同じように感じてくれている

それに俺は感動した

本当に嬉しかったんだんだ…




「すぇんすぇーっ!!」

パタパタと俺の元にやってきた


「なんだっ!騒がしいなっ!」

「これっ!なんなんですかっ!」

手に持っていたのはクラブでママにもらった名刺だった

「見りゃわかるだろう。ただの名刺だ。」

「センセ、クラブに行ったんですかぁ!?」

鼻息荒く小鼻を膨らませながらその名刺を俺の顔にくっつきそうなほど目の前に突き出した

「ちょっ、なっ、近いわっ!行ったらなんだってんだっ」

「… センセのイメージ崩れますよぅ… クラブに行く人って女遊びが好きなお金持ちのエロオヤジじゃないですかぁっ!」



そのクラブのママが俺のファンだということで
ママと知り合いだった編集者が是非に是非にどうかお願いします、と強引な低姿勢で頼まれ連れて行かれた

その時に貰った名刺だった


「客のみんながそうって訳じゃない。それはお前の偏見だ。じゃあお前の俺のイメージはなんなんだ。」

「少年の心を持った~ … 変態?」

「変態!? 俺のどこが、」


洗濯機から終了した音が流れた

「あ、洗濯終わったみたいですね!」

慌てて洗濯物を取り出しに向かった


直ぐに興味が反れてしまう所は
本当に猫のようだ



縁側から暖かい風が吹き抜け
今年は春らしく過ごしやすい日が続いている

洗濯物を持ってベランダに出てきた彼女を眺めた

物干し竿にシーツを干すとシーツはゆらゆらと揺れ
彼女のスカートも同じように揺れていた


ん? スカートなんて珍しいな


「今日は良いお天気なので洗濯物、良く乾くと思いますよ(笑) もう1回洗濯機回しますから!」

「おう。」

「ミャア… 」
今日もミューが庭木の隅っこから顔を出した

「ミュー、こっちおいで(笑)」

俺が呼ぶと膝の上に乗って来るほど今は懐いてくれている


子猫の頃から俺んちに顔を出すようになったミューは “ミュウ、ミュウ”と鳴いていた

それで俺はその子猫をミューと名付けた



今日も彼女はてきぱきと家事を済ませようと頑張ってる
最後に原稿を読ませろと言うのが日課だからなぁ(笑)



「あ、センセ?今日は家事終わったら直ぐにおいとましますので!」

ん?

「そうなのか。」

「はい(笑) 彼とデートが入っちゃって!テヘッ♡」


は!? デート… だと!!

「お前… 男 いたのか。」

「失礼ですねぇ!それ、セクハラですよぉ! あれ? モラハラ? どっちだ?」


嘘だろ…
ショックだ


「…いつからだ」

「先月です♡ 言ってませんでしたっけ?」

「知らん!俺は聞いてねぇ!」

「なんでお怒り口調なんです?」
「あ、あぁ、すまん… 」


ミューがよそんちの猫になっちまったような
ジェラシーと寂しさを感じている

そんな俺の気持ちも知らず
遊は陽気に大きな声で歌いながら掃除機をかけている


最近綺麗になったなって気付いてたよ
でも そういうことを言うのはアレだから言わなかった



そして遊は早々に家事全般を済ませ
いつもより1時間半早めに帰ることになった


「じゃあセンセ? ちゃんと洗濯物は洗濯かごに入れといてくださいよ?ではまた来週の火曜に~(笑)」

「… お、おう。気をつけて帰れ。」



遊がいなくなっただけで急に静かになった


よし、静かになったことだし仕事に集中集中!

パソコンに向き合ったけれどモヤモヤして 続きが浮かばねぇ…


あいつがデートねぇ…

彼氏の前だともっと淑やかなんだろうか

想像つかねぇな





ーーー




今日は火曜

遊が来る日


雨が降ってるから外に洗濯物は干せない

別室で室内干しできるスペースと除湿機を使って洗濯物を干すだろうと除湿機を出しておいた


「こんにちは~。おじゃまします。」

「おう。」

遊は大きなバッグからエプロンをかけ洗濯物を拾っていく

なんだ?
いつもと様子が違う

いつも騒がしいくらいのヤツなのに今日は静かだ

洗濯物がまた散らかっているのを本気で怒ったのだろうか


「すまん、洗濯物」

「いいんです。」


えっ!?!?
明らかにおかしい


「おいおい、今日は暗いな(笑) 彼氏とでも喧嘩したとか?」

「うっ、、」

顔をぐしゃぐしゃにして俺の顔を見た

マジかよ…
地雷踏んじまったか?


「早く仲直りしろよ(苦笑)」

「ぅわぁーっ!」

いきなり号泣して驚いた


「ちょっと、おい、大丈夫か?」
ティッシュを差し出した

「ずびばぜんっ、うっ、うっ、」
ティッシュで鼻をかんだ

喜ぶのも泣くのも いつもパワー全開だな(苦笑)


「じごどは、ぢゃんと、(グズッ) じまずがら、、」

「お、おう… 」

その言葉通り、きちんと仕事はいつも通りてきぱきとこなしていった

昼飯ができ 向かい合わせに座って一緒に食い始めた
遊の瞼は真っ赤に腫れていた


「… 何が あったんだ?」

「私… 嫌われちゃったみたいです… 」

「…なんでよ。」

「もっとお淑やかな女の子がいいって。うるさいんだって。」


はぁ???


「んなこと、、お前のことわかってて付き合いだしたんじゃねぇのか?」

「私、そんなにうるさいですかね?」


まぁ… そうだな
落ちつきはあんま無いわな


「でもまぁ、お前のそういうとこが好きな男もいるって。まだ若いんだからそういうのも良い経験になるさ。」


遊には悪いが俺は内心ホッとした
どうしてだろう

俺は遊が可愛い


ほんと騒がしいし落ちつきがないやつだけど
裏表の無い天真爛漫で素直なところが良い所

家事もできるし作る飯もなかなかのもの



遊はまだ涙目で昼飯を食ってる


「なぁ。遊はどんな男が好きなんだ。」

「センセみたいな… 」


へ!?

「少年みたいなところがある」

「ほ、ほう… (照)」

「年下の、」

「チッ!結局 女は年下クンかよ。」



一瞬ドキッとした俺は阿保ぅだな



お前なら年下よりも
心に余裕のある大人の男がイイんじゃねぇのか?



たとえば俺みたいな…


いや、俺は付き合うなら色気のある大人の女がいい

40代なんて最高だよな


「くふふふっ…(笑)」

「だからぁ、センセのその気持ち悪い含み笑いが変態みたいですからやめてください~」

「なんだとぉ~!?」


周りの人間は俺に “先生、先生”と媚びへつらう
そんな中でこうして俺にズバズバとモノ言うのは

この遊だけ…



俺にとっては特別な存在で
唯一俺が俺らしく
こうしてくだらないことで笑えるのはこの子のおかげだ


それでも遊はあくまでもミューみたいな
手元で愛でるだけで

ただ それだけで
幸せな気分になるような存在だった





ーーー



「センセ、原稿。」

「あぁ、そうだったな。」


パソコンの画面を遊の方に向けた



いつもこの瞬間は少し緊張する

どんな感想が聞けるんだろう



遊の真剣な表情は
この瞬間だけだ


すると
遊の瞳から綺麗な涙がポロポロとこぼれだした


… あ

「センセ… 良かったです… またこの二人の気持ちが通じ合えて、、(笑)」

「そっ… か、ははっ(笑)」



こうして
読み手の生の声が聞けるのはこの瞬間だけ


「私もこんな恋愛したいなぁ…(グズッ)」



だったら俺と

「そういう恋愛、してみるか?」









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