気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 10

2021-10-21 20:33:00 | ストーリー
beautiful world  10




やっと先生と会える土曜が… 
「来たーっ!!」

先生とは午後3時に指定された駅で待ち合わせ
張り切りすぎて15分早く着いた

実はこの駅は高校の通学で毎日使ってた駅

懐かしいなぁ~

先生は高校の近くに住んでたんだなぁ(笑)


「…あれ?田中?」

声がした方を振り返ると
高2の時の担任 鈴木先生が立っていた

「わぁ!鈴木先生お久しぶりですぅ~(笑)」

「久しぶりだなぁ(笑) 元気にしてたか?」

「はい!(笑) あ… 」


これはマズイよ!!

鈴木先生と親しく話してる所を(早見)先生に見られたら私が卒業生だとバレちゃう!!


「す、鈴木先生も、、お元気そうで、なによりです、、」

周囲を見渡してもまだ(早見)先生の姿は見えない
早くここを立ち去らないと、、

「田中は幾つになったんだっけ?もう就職したんだろう?今どこに勤めてるんだ?」

「ええ、、私は中小企業の、会社員、で… 」

チラチラと周囲を見渡した

「あっ、すみません先生!私そろそろ時間で、行かないと、、」

「そうか。たまには学校に顔でも出しに来いよ(笑)」

「あっ、はいっ! ありがとうございます、それじゃ失礼しますっ!!」

駅から離れるため学校とは反対方向に向かった

あぁ、、
やっぱりこの駅は用心しないとだよ、、

振り返って駅を見たらもう鈴木先生の姿はなかった

「はぁ~…」


胸を撫で下ろした



「田中さん?」

「は、はいっ!?」
振り返ると早見先生だった

「もう着いてたんだ(笑) 駅で待ち合わせしたよね?」

「は、早く着きすぎたので周辺を散策してまして!あはは(笑)」

「そう(笑)ちょっと寄り道してもいい?」


良かった…

この様子じゃ鈴木先生と一緒にいた所は絶対に見られてない

スーパーマーケットに立ち寄り
「直ぐに夕方になるし一緒に晩飯、どうかなって(笑)」

「なら私が何か作りましょうか?」

「それは悪いよ、お客さんなんだから(笑)」

「いいえ、任せてください!(笑) と言ってもそんな上手くはないので期待はしないでください(苦笑)」

「はははっ(笑) 僕も全然上手くないよ(笑)」

野菜などの食材とビール6缶パックを購入して
先生のアパートに到着した

階段を登って一番奥の部屋

いよいよ先生のお部屋に…

緊張するっ!!


「どうぞ〜」

「おじゃまします…」

整然と片付けられた部屋
お掃除したって言ってたもんね

これが先生の匂いなのかぁ… 
凄くいい匂い♡

ドキドキしながら部屋を見渡した


「適当に座ってて(笑)」

買い物した食材を冷蔵庫に入れている
ほんと先生ってたくましい体格…

Lサイズの私でもお姫様抱っこが可能なんじゃ…

…って、そんなシチュエーションある訳ない!

それにもしお姫様抱っこが出来ても…


平気な表情で
内心“重っ!”とか思われるよ(苦笑)



「そうだ!」
突然先生が振り返りドキッとした

「写真だよね。こっちの部屋にあるから。」


案内された部屋にはお仕事部屋らしきデスクとパソコン
それに大きな棚と...

筋トレ器具!!


「こっちの棚は全部写真だから適当に見てて構わないよ(笑)」

沢山あるアルバムの中から一冊手に取って開いて見ると

そこにはいろんな美しい風景が収められていた

「…わぁ... 綺麗 」


とても鮮やかで美しい...
眩く輝く水面や紅葉の進んだ森と差し込む光

先生の見てる世界はこんなに輝いて見えているのかな


北海道の富良野の風景や
九州の夜景とか

全国各地の写真が揃っていた

「全国各地をまわったんですか?」

「あ〜うん。若い頃夏休みとかにバイクでね~(笑)」

珈琲の良い香りがしてきた


「舞…?」

タイトルに “舞” と書いてあるアルバムが数冊あった

人の名前らしきタイトル

これってまさか
前の彼女…



「珈琲入れたのでどうぞ~?」

「あ… ありがとうございます(笑)」

先生が入れてくれた珈琲
とても美味しい

写真にしてもこの珈琲にしても
先生が作るものって何故なんでも素晴らしいの?


「写真結構あるでしょ(笑) 段ボールにしまってあるのも含めたらアルバムが500冊にもなってそろそろ困ってきた(苦笑)」

「500冊も?」

「フイルム写真はやっぱり手放せなくて(苦笑) データで保存してるものだけでも処分しないととは思ってる(笑)」

「確かにフイルム写真は捨てられませんよね(笑)」

 “舞”って元カノさんですか?

「あの中に人物写真ありますか?」

一瞬目が少し大きく見開き直ぐ笑顔になった

「ん、あるよ(笑) 見たい?」

「いえ、そういう訳では(笑)」


見たくない

でも好きな人を先生がどんな風に撮ったのか見てみたい気もする

複雑な気持ち…


「あぁ、そうだ、忘れない内に(笑)」

アルバムを持ってきた
開いてみると…

「??」

写真が一枚も入っていない…

「君にプレゼント。撮った写真入れて(笑)」

「良いんですか?ありがとうございます(笑)」

「それと…」

もう一冊別のアルバムを手にしていた

「こっちは僕が撮った君の写真を入れようと思ってる。もっと君の写真を増やしたいんだけど…構わない?」


優しい眼差し…

海岸で先生に撮ってもらうの楽しかったな…

大好きな人が優しい眼差しで
今 真っ直ぐ私を見つめてる

人物写真を撮らないこの人が
私を撮りたいと思ってくれていたことに

言葉では表せないほどの幸せを感じてる…


「…是非、お願いします」


いつまでも
こんな時間が続けば良いのにな…






ーーーーーーーーーー

beautiful world 9

2021-10-19 20:25:00 | ストーリー
beautiful world  9






“君は綺麗だと思ったよ。”


「んぐっ!!ゴホゴホッ!!」
飲みかけたコーヒーでむせた

“綺麗”って…

先生が言ってたあの“綺麗”って意味??

だとしたらこれって…

“告白”!!!


…んな訳ないよね〜

「あはっ、あはは…(苦笑)」


私は自信過剰な人間じゃない
むしろ自信が足りないくらいだし

でもどういう意味なのかは知りたい

だって今日の先生からは私を意識してる様子は全くなかった

図々しく寄りかかって爆睡しちゃったもんだから印象悪くなっててもおかしくない


言葉の意味は凄く気にはなるけど
その真意をメールや電話では聞きたくない

やっぱり直接聞きたい…



―――



ムカつくくらい朝から晴天 ーー

今頃 彼女は“先生”とやらと会ってるんだろう


習い事の先生とかだろうか




俺は今まで付き合った彼女は全て向こうから告白された

付き合ってても
俺は本気で好きにはなれたことはなかった


それで結局最後は彼女から別れの言葉を切り出され関係が終わる


“なんかつまんない”
“何を考えてるのかわからない”
“顔は良いのに”
“私のこと好きになってくれなかった”

大体そんな理由だった ーー

俺には“恋心”というものがわからなかった


だから誰かに固執や執着することはなかったし

それを孤独を感じたこともなかった


そもそも人間に興味が湧かない

なのに…
何故か田中さんのことだけは気になっている


田中さんにだけは好かれたいと思ってる

これって好きって事で良いんだよな…


好かれたいのに
好かれるような事ができない
言えない


なのについキツイ態度になっちまう

彼女にはもっと優しく、明るく笑顔で…


って、こんなぎこちない笑顔しか作れない

明日からは少しでも彼女に優しく接するようにしないと


好かれたい…



田中さんに笑いかけて欲しい…




ーーー



月曜日


彼女が出勤してきた

「おはようございまーす!」

なんだよ
いつもより元気じゃん

昨日“先生”と会ってたからか?


ムカつ…

ダメだ、、
優しく、優しく、優しく…


「葉山さん、おはようございます(笑)」


「や、あ… おはよう… 」

「や??」

「(ゴホン!) なんでもない。」

斜め向かい側の自分の席に座った田中さんは上機嫌だった

俺にはあんな顔 
させらんねぇな…


「ハァ…」



昼休みになり
彼女はランチの誘いを断っていた

ダイエットしなきゃという彼女の声が聞こえてきた

ダイエットか…
確かに最近なんか丸くなったもんな

...ってまた俺は!


彼女の良いところを探して言葉にしねぇといけねーだろ、俺!


「あれ?葉山さんはランチ行かないんですか?」

彼女が声をかけてきた

「ああ、行く、」

席を立った

「なぁ。飯、行かないの?」

「今日はお昼抜きにします(苦笑)」

「ダイエットって聞こえたけど… 昼抜くより筋トレとか運動した方が良いんじゃ、ないか… ダイエットで身体壊したら意味、ないし… なんなら俺、運動、付き合うけど…」


なんかスゲーぎこちない言い方になってしまった…


「え?」

俺 余計なこと言っちまったかも
「飯、行くわ。」

立ち去ろうとしたら

「あの!葉山さん、お気遣いありがとうございます(笑)」


礼を言われちまった...


「どんな筋トレが効果あります? あ、今日仕事終わってからまた聞いて良いですか?(笑)」


彼女の笑顔がめちゃくちゃ輝いて見えた…



「あ、あぁ… 」

俺が彼女を笑顔にさせた…

ふわっと
心が軽くなって
温かく感じる

そうなんだ
本当はああいう表情(かお)を俺に向けて欲しかったんだ

「なにか??」

「あ… いや。」

部署を出てドアを閉めた

…嬉しい


こんな感情
久しぶりだ




―――



今日の葉山さん
朝からずっとおかしい…

なんでいつもの嫌みが出ないのかな

目が合った時
いつもなら“なんだよっ!”って感じで眉間にシワを寄せるのに…

今日はそれが無い



… やっぱりおかしい


あ、わかった!
きっとまた体調が悪いんだ

筋トレが必要なのって本当は葉山さんなんじゃない?

葉山さんは筋トレより健康管理??


“俺が筋トレするからお前も付き合え!!”的な誘いとか…

それはヤダ



仕事が終わって葉山さんが声をかけてきた

「あの、さ… 筋トレ、」

「その筋トレなんですけど、家の中でできるやつですよね?」

「あっ、まぁ、そうだな、、」


はぁ~ 良かったぁ

「ジム通いって手もあるけど。ジムの方が器具が揃ってるしバランスの取れた身体作りはできるだろうけど。」

バランスの取れた身体?
バランスの取れた… 筋肉

昨日の先生のガッチリとした身体を思い出したら顔が熱くなってきた


「あっ、あはははっ(照) …なるほど… 」

「帰るぞ。」


駅まで歩いている間
葉山さんは部屋でできる方法を幾つか教えてくれた


「走るのも必要かもな。」

「あー私、持久力ないんで。」

「は?本気で痩せる気、あっ… 」

“あっ”??

「だったら…歩く所からやってみれば、いいんじゃないか。」


あれ?

“はぁ?本気で痩せる気あんのか!?”って言いかけたんじゃ…

明らかにいつもと反応が違う…


「葉山さん。やっぱり体調悪いんじゃないんですか?」

「やっぱりってなんだよ。別に…なんともねぇよ。」


おかしいな…
なら今日は機嫌が良いって感じ?


「私本気で痩せないとって思ってるので歩くところから始めてみます。」

「で? 何キロ痩せる目標?」

「あー… 3、キロ?」

「なんだよ。5キロぐらい言うかと思った。」

「えっ!? 5キロは必要ですかね!!」

「知らねぇよ。目標は自分で立てるもんだし。」

「ですよねぇ…(苦笑)」

やっぱりいつもの辛口葉山さんだ



駅に着いて電車を待っている間
葉山さんはスマホを見ながら

「あの、さ。この前の金曜の夜のことなんだけど。」

金曜の夜??

「強引に飯誘って…悪かったな… 」


そうだった

あの夜別れ際 葉山さんは悲しそうな表情をしてたな…


「…いえ、」

それからの葉山さんはずっと無言でスマホの画面を見ている
俺に話しかけるなって空気…


「あの、葉山さん、」

ちょうど電車が駅に入ってきた

黙って乗り込むとまた当たり前のように私の隣に座った


「なぁ。」

「はい?」

「話があんだけど。」
   
「はい?」

「……」


え? ちょっと!
その話、待ってるんですけど?


「今週の土曜、」

「無理です、予定がありますから。」

「なんだよっ、速攻で断んなっ。」

「大事な予定があるんですっ。」

「チッ!」

「やっぱり短気ですねぇ(笑)」

あ、黙ってしまった



「…すまん」

えっ?
今 謝った??
葉山さんが!?

やっぱり熱でもあるんじゃ?


「なら…来週はどうよ…」

「まぁ、来週の土曜(祝日)なら…平日夜でも良いんですけど。何系の話ですか?まさか私に相談ごと…とかは無いですよね(笑)」

「デート…」

「はい?」

「来週土曜の休日は、デ…」

「デート!?いやいや、ただ話をするだけで良いんですよねぇ?」


葉山さんの顔が見る見る赤くなっていく

え…?
デートってマジ?
冗談じゃない...?

「ほら、なんだ!スポーツ、痩せたいんだろっ!?」
 

話じゃない?
デートがしたいの??
スポーツがしたいの???

目的がわからない話に戸惑った


「やっぱり熱でもあるんじゃないですか?」

葉山さん顔がますます真っ赤になった

「やっぱり熱あるんじゃ、」

「無いよっ!」

「なんなんです?そりゃ私は痩せたいですけど…で?スポーツって何するんです?」

葉山さんとの会話ってほんと疲れる


「テ、テニスしようぜっ、、」

テニス!?
あんなハードなスポーツとんでもない!!

「無理です。私の心臓もちません。」

「なら、ボーリング。」

「ボーリングしながら話しするんですか?」

「そう、だ、、」

なにがなんでもスポーツがしたいって訳ね
まぁ身体を動かす機会になるか…


「わかりました。」

「おぅ…ならボーリング。土曜、デート。」

「なんで片言…(苦笑) それともう!デートじゃないから!」

「… 嫌なら、いい。」


あれ? いきなり意気消沈?


「ボーリングは行きましょう。ボーリングで痩せるのかわからないですけど。」

「俺が痩せさせてやる。任せろ。」

はい??
あなたスポーツトレーナーさんですか??

面白っ(笑)


「なんだよっ。」

「葉山さんって意外と面白いんだなって(笑)」

「面白いことは何も言ってない…てか… 」

立ち上がった


「いつもそんな風に笑っててくれ。」

え?

電車は葉山さんが降りる駅に停まった

「約束、絶対に守れよ。」

「はーい。お疲れさまでしたぁ… 」


相変わらず単語会話で終わったけど

“いつもそんな風に笑っててくれよ”

って、だったらいつも笑わせてよ



デートってやっぱり冗談だよねぇ?
今日ずっと変だったけどやっぱり熱でもあったんじゃ...

ずっと顔赤かったし?




翌日も
その翌日も

それからの葉山さんはずっと
その変なままだった

優しくなったのは嬉しいことだけどね(笑)








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beautiful world 8

2021-10-18 23:39:00 | ストーリー
beautiful world  8




“田中さん”

“田中さん、もう直ぐ降りるよ”


ーーえ?

ハッとした

私は先生に寄りかかりウトウトと寝てしまっていた

先生と身体が密着していた

まるで私を守るような体勢で
寝ている私を支えるために腰に手を回していた

こんな贅肉いっぱいついてる身体に先生の手がぁ!!

気が動転して焦った

「す、すっ、すみませ…」

先生も私も混雑しているこの電車内では動くに動けない

先生と一緒にいるのに立って寝るなんて私本物のバカじゃないの!?!!

昨夜 今日のことを考えていたら全然眠れなくて
今日はずっと歩いていたから自覚していた以上に疲れていたのかも

「ほんとすみません、、」

「いや(笑) もう着くからね。」

電車が駅に着き扉が開くと先生は私の手を握りエスカレーターに向かった

混雑した駅ではぐれないようにだろう

まるで私 子供みたいだ(苦笑)


ーーー

待ち合わせた駅の外のモニュメントの前に着いた

楽しかった一日がこれで終わり…

寂しい…
もっと一緒にいたかった

「今日は疲れただろう(笑) 家でしっかり寝てね?ははっ(笑)」

顔がカーッと熱くなった
電車内で先生に寄りかかって寝るとかあり得ない!!

「ごめんなさいっ!重かったですよね!」

「え?全然大丈夫だよ(笑)」

「そう、ですか…」

あぁ、、恥ずかしい
顔が見られない…

「じゃあ次の土曜日に(笑)」


ーーー


帰宅すると母は私の帰宅を待っていたかのように
嬉しそうな表情で「おかえりー!(笑)」とキッチンから顔を出した

「誰と行ってたの?(笑)」

「友達。」

「そう(苦笑)」


お母さんは25にもなる私が
未だに一人もカレシができないことをずっと気にしている

私だってカレシ欲しいよ?

でも誰でも良いって訳じゃないもん…


自室に入り
カメラが入っているバッグを降ろした

スマホを開き
電話帳を開いた

“早見 陽太”という名前を眺めながら
幸せを噛み締めた

早く土曜日が来ないかな♡


ーーー




“好きな人なんて…いません…”

でもカメラを通すと僕は何となくわかるんだ

あれは誰かを想う女の表情だった


好きなタイプは

“誠実で…穏やかで…爽やかで…大人で…ガッチリした人で…”

確かそう言っていた

“大人で”ってことは

彼女があの瞬間思い浮かべた男は
そこそこ年齢のいってる男か…?


まさか既婚者?不倫?

いや
彼女はそういうタイプじゃないと思う


なんだろう
このもやっとした気持ちは…


鏡に映る自分を見つめた


僕だってそんなに悪くはないだろ?


…って
何考えてるんだ、僕は(苦笑)




今日撮った田中さんの画像データをパソコンに落とした


このぎこちない歩き方に硬い表情

「ははっ(笑)」

なんか可愛い…



少し拗ねたようなこの表情も…

「ふふっ(笑)」



それから柔らかい表情に変わって…

「……」



好きな男を思い浮かべるこの表情がやっぱり一番印象的で


ーーとても魅力的で綺麗だと思った





そしてスマホを手に取った



“君は綺麗だと思ったよ。”



僕は素直に思った気持ちを彼女に送った



そう
この感情は

久しぶりの“ときめき”だった







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beautiful world 7

2021-10-17 21:47:00 | ストーリー
beautiful world  7





「じゃあ…僕も田中さん撮っても良い?」

そう言いながら鞄からカメラを取り出そうとした



えっ!?


「駄目?(苦笑)」

「良い、ですけど…」


嬉しい!!
けど照れる…


「何年ぶりだろうなぁ〜 女性を撮るの(笑)」


ーー “女性” 


先生には私がちゃんと女性として見えているんだ… 


胸の辺りがふわふわする



「あ、じゃあ海近いし海岸に行ってみようか。」


海岸で普通に歩いてみてと言われて歩いてみる

ぎこちない動きになっちゃう!



「ふはははははっ!(笑)」

先生が豪快に笑った


「そ〜んなに緊張する〜?(笑)」

先生がカメラ越しに私を見てると思うと そりゃ緊張しますよ…



「そういや田中さんの下の名前聞いてなかったね?」


え?そっか


元生徒だとバレないよう言ってなかったんだった


でももう完全に覚えてないのはわかったから教えてもいいか…



「奈生(なお)です。」

「漢字は?」

「奈良の奈に生きるです(笑)」

「OK!奈生ちゃんね(笑)」


“奈生ちゃん”!?

名前を呼ばれて顔から火が出そうになった



カシャッ


「ふふっ(笑)」

「あっ、変な顔撮りましたね!?」

「変じゃない全然(笑)」

と言いながら連写で撮られた



「もっと良い顔撮ってくださいよぉ!」


カメラから顔を離した


「自然体の良い顔じゃない(笑) じゃあ奈生ちゃんの“良い顔”、してみて(笑)」



あらためてそう言われると…
照れる…


カシャッ


「良い表情(笑)」

「だから、不意打ちやめてくださいよ〜!」

「奈生ちゃんはコッソリ撮っただろう?(笑)」


確かに…(苦笑)


「緊張は溶けた?(笑)」


そっか

緊張してたから和ませてくれたってことなんだ…


「そうですね…(笑)」


カシャッ


「ね、今恋してるならその相手のことを 思い出してみて。」


あなたが好きだから
言えません…



「好きな人なんて… いません… 」


カシャッ 


「…… 」

先生が何か呟いたような気がした


「えっ?」


カメラを下ろし私に優しく微笑んだ


先生はずっと笑顔で私に話かけながら
私をカメラに収めてくれた




「人物撮影、得意なんですか?」

「いや全然(笑) 人物写真は彼女ぐらいかな。昔はよく撮ってたけどね(笑)」


先生の口から出た“彼女”という言葉に胸が詰まった


「へぇ… 彼女さんですか…」

「昔付き合ってた彼女ね(笑) でももっぱら街並みや自然の風景ばかり。あ、星とかも時々撮りに行くよ?」


どんな彼女だったんだろう…


「早見先生の今まで撮影した写真見てみたいなぁ〜、、なんて(笑)」

「僕の写真かぁ。うん、良いよ!(笑)」


…やった!
先生んちに行ける!


「次会う時に適当に持って来るよ(笑)」


…あれ? 持ってくる?


「ですよね(笑) 先生の家で見られるのかな〜なんて勝手に思っちゃいました(笑)」

「僕んち?」

私ったら勘違いも甚だしい



「あぁ~。確かにその方が沢山見られるのか… ならウチ来る?」


へ?
いいの!?


「ほんとに良いんですか?」

「写真の量 結構あるからねぇ。その方が良いかもね(笑)」

「ほんと嬉しいです!(笑)いつならご都合いいですか!?」

「そうだねぇ…」

先生が手帳を取り出した




何でも言ってみるもんだなぁ♪
こんなにラッキーなことが続くなんて夢みたい

「えーっと… ね。直近だと次の土曜の夕方か再来週の、」

「次の土曜で!!」


食い気味に返事をした私に先生は少し圧倒されたような表情をした

「そう、、なら土曜で(笑)」



先生の部屋に行ける!
あ~ほんと言ってみて良かった!


「田中さんは本当に写真好きなんだねぇ(笑)」


また“田中さん”呼びに戻ってる
さっきのは撮影中の限定だったんだな...(苦笑)



「そうだ、だったら僕の師匠が来月写真の個展を開くから良かったらそれも一緒に見に行ってみる?」


先生の師匠さん?

スマホで個展の案内情報を送ってくれた



あれ
この方…



「“矢野導信”って知ってる?」


えっ!!
あの有名な写真家の!?


「もちろん知ってます!!」

先生は巨匠と言われている矢野導信から少し学んだと話し始めた


きっかけは一人で撮影旅行に行った時 

先生がまだ大学生になったばかりの頃

無鉄砲にも大御所の矢野導信に声をかけたらしい



「今思うと無謀にもよく話しかけたもんだ(笑) 今なら絶対に声なんてかけられないよ(苦笑)」


若さ故の身の程知らずというか
無鉄砲さが逆に矢野導信から気に入られ

時々レクチャーを受ける仲になったと笑いながら話してくれた



先生の写真がどこか違うと感じてたのはそういうことだったのかも…




「それまではただ写真を撮ることが好きだったけど、写真の奥深さを知って世界が広がってもっと好きになったんだよ(笑)」


先生の幸せそうな微笑みに
本当に写真が好きなんだと感じる


「個展、是非ご一緒に行きたいです(笑)」

「ん(笑)」




それから鎌倉のお土産物店の通りをお互いに撮影した

先生の撮った画像を見せてもらうと


「なんで?どうして?」


同じ風景を撮影しているはずなのに
やっぱり全く違う趣きの風景になっている


別世界を映しているように印象的な映像

やっぱり先生は凄いんだと実感した



ーーー


帰りの電車は混んでいて
先生との距離が密着した


「やっぱりこの時間帯は混んでるね(苦笑)僕に掴まってて良いよ。」

先生の腕に初めて触れた…


心臓がドクドクしてるのがバレちゃいそう


先生の腕の筋肉 凄いな
柔道してるから?


電車に揺られていると

今頃になって寝不足の影響と疲れが出てきて立っているのに凄く眠い…



「眠い??」

「は…ぁ… 」


“…田中さん?”


先生の声が遠のく…






ーーーーーーーーーー