気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me ( Forever & Always 2 )

2019-04-24 00:03:07 | ストーリー
Stay With Me


ー Forever & Always (2) ー










大学時代にたまたま友人になった男 “ 寺崎 行 ”

この男は学生時代にバイト先で知り合った





俺より3つ年上なのに頼りなさ気に見える一見冴えないオタク系だったが

とても心根の優しい良いヤツだ





人が腹の立つ出来事も

こいつだけは 腹を立てることもなく
感情的になることもなく笑ってやり過ごすところが


俺は気に入っていたし
責任感のある所も信頼していた





寺崎は顔もスタイルも良くて身長も高い



残念ながらあいつは大学の4年間で
彼女ができることはなかった


純粋で女にはかなり奥手な性格だからかもしれない



彼女が欲しい気持ちはあったんだろうけど

口数が多くない寺崎は彼女が欲しいということを口にすることはなかった






そんな冴えない寺崎も社会人になって数年後

ついに彼女ができた





俺が寺崎に彼女のことを聞くと

照れながら彼女の話を聞かせてくれた



そんな幸せそうな寺崎を見て 俺も嬉しくなった













二人は付き合い始めて

数ヶ月後には同棲をしていた



彼女から積極的に押し掛けてきたようだ




それから数年

次第に寺崎からの連絡が少なくなっていた頃

寺崎から 飲みに行かないか と連絡が来た





もしかして結婚の報告か? と思ったが話は違った






同棲をやめて別れた という報告だった







あの時の寺崎は


本当に見てられないくらい落ち込んでいて



放っておくと死んじまうんじゃないかと本気で心配になるくらい頬がこけ痩せていた



彼女との別れの辛さは一目見ただけでわかった





不器用な男なりに

一生懸命だったのだろう






彼女と別れた理由も言わず



別れた報告だけをして

ただただ 悲しそうに黙って酒を飲んでいた





俺は黙ってその酒に付き合うことしかできなかった







それからも俺は寺崎が気になって

たまに外に連れ出した






会う度

少しずつは傷は癒えているように感じ安心した






それら二年 ーーー



寺崎が嬉しそうに飲みの誘いをしてきた





寺崎に気になる女の子ができたようだった





それは寺崎より15歳も年下の24歳の女の子





あいつは彼女との年齢差を凄く気にしていた



年齢差なんか気にすんな! と俺は強く背中を押した







その時はまだ寺崎の片想いだったが

こいつの誠実さならきっとうまくいくと信じていた






15歳も若い女の子ならお前のその野暮ったさも少しはなんとかした方が良いなと軽くアドバイスをしたら


どうしたらいい!? と前のめりになって熱心に聞いてきた




そんな寺崎を見て
惚れた女に対するあいつの本気度を知った




お互いにいい歳のおっさんになったのに
寺崎は未だに純粋な可愛い男なんだなと

心から思った











俺のアドバイスで
次第に野暮ったさも消えていった



元々 顔もスタイルも良い男だから女にモテてもおかしくはない





ただ

今まで女と付き合った経験があまりないようだからウブで不器用

その彼女に気の効いた言葉のひとつでも言えてるのか?と兄弟みたいに心配もした






カジュアルスーツを着て髪型も変えて現れた時は
別人のようにイイ男になっていて


“ おっ イケてんじゃん ” と言うと
男なのに可愛い照れ笑いをした






そういう顔は彼女に見せろよ と俺が笑うと

あいつは頭をかきながらまた照れくさそうに笑いシワを作って笑った

その後

その子と付き合うことになったと嬉しそうに報告をしてきた





どんな子か、どうやって口説いたのかと聞いたら



可愛いの連発で

可愛いってのは充分わかったよ と笑った






その嬉しそうな表情は

前の失恋の傷が完全に癒えていることを意味していた






本当に良かった ーー






そんな寺崎が彼女と上手くいかなくなり



別れたような状態になったと聞いた時

俺も胸が痛んだ










あんなに幸せそうに話していたのに ーー





また前の失恋の時のように


意気消沈し頬が痩せこけたあいつに戻ってしまうんじゃないかと心配になった




でも痩せたようだったが
ちゃんと飯も食っていたようで


前の時の程の心の痛手はおってはいないように見えた





それがかっかけで

寺崎は以前よりも想いをちゃんと言葉にするようになっていて口数も増えていた



頼りなげだった男が男らしくなってきたのも
きっと年下の彼女と付き合ったからだろう





彼女と疎遠状態になって3ヶ月


あいつはまだ想いが深く残っていて



自分の何がいけなかったのか ーー

ずっとそればかりを考えていたようだ






わからないなら 彼女を手放したくないなら

素直に聞けばいいだろう、と俺は言った






俺には

そこまで深く想った女は今までで一人だけ


“ 愛している ” という言葉を口にしたのは
あの女性だけだ







きっともう

彼女とは再会もないだろう










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Stay With Me ( Forever & Always 1 )

2019-04-22 13:03:22 | ストーリー
Stay With Me


ー Forever & Always (1) ー












俺は昔から友人から
普通に “ 斎藤 ” と呼ばれている







子供の頃の誕生祝いでカメラをもらったことがきっかけで


大層なカメラ好きだった親父は

カメラに興味を持った俺に嬉しそうにカメラの使い方を教え

俺をとても可愛がってくれた






たまに海外出張もある親父は



出張から帰ってくると直ぐに


撮ってきた写真を自宅の一室に作った現像室で直ぐに写真を現像し

俺や妹に嬉しそうに見せては
海外での出来事を嬉しそうに聞かせてくれた






数年に一度


家族で海外旅行に行っていたが

現地に着くと親父は事前にリサーチをしていた場所に
写真を撮りに行きたがっていた




母さんはいつも呆れながらも
それに付き合っていた感じだったな



父方の爺ちゃんがイタリア人のハーフで親父は幼少の頃 海外暮らしをしていたからか

親父は世界観も人間的にも大きな男だった







親父と同様に写真を撮る事が趣味になった俺は

将来は写真家になろうと思った





それはごく自然の流れだった








高校の夏休みに初めての一人旅で行ったニューヨーク


そこで俺は光と影を見た






表向きの華やかなニューヨーク


綺麗なスーツを着たビジネスマンや
モデルのような洒落た女性





ひとつ路地を曲がるとダウンタウン



まともに教育も受けてこなかったような人々や
その子供達



俺は愛情も経済的にも恵まれて育ったことを実感した




人種や貧富 教育の格差で

人生は大きく違ってくることを目の当たりにした


それでも

子供達は生き生きとしていた





人間の表と裏があり

裕福でも貧困でも

人の幸福はそれだけで決まらない




幸福かどうかは自分の心がどう感じているか、だろう


心がその人を形づけていると言ってもいいかもしれない




言葉にはできない心の言葉や内面も

写し出せるような



見えるものだけに囚われない

そんな写真家になりたいと




その時 深く思った


それから数年


俺はカメラマンの道に進んだ







もちろん始めは荷物持ちから




徐々に実力が認められるようになり





有名なファッション雑誌で撮らせてもらえるようになった



それは自分が思っていたより早く叶った







何が被写体になっていても

表に見える形や姿だけではなく

内に秘めた美しさや本質的なものを具現化し写す






それが俺のスタイルになっていた









ーーーーー









カメラマンはそれなりにモテる






カメラマンとモデルは

シャッターを切っている間は



恋人だけを見て一心に愛撫しているような

そんな感覚に近いのかもしれない






だからか

恋愛感情を抱かれることもある






モデルの女の子に食事やデートに誘われることも
少なくない



でも俺は全て断ってきた



仕事は仕事

プライベートとは区別して考えていた






だからか


俺はガードが硬いとか

実はゲイではないか、人妻と不倫しているんじゃ、など

影ではいろんな憶測があるようだが



俺はそんな声は全く気にならなかった









俺は

惚れた女を口説きたい 、ただそれだけ




付き合った女はそれなりにはいた




美しい女が好きだ

容姿が美しくいのももちろん悪くはないが
心が惹かれる女


常に頭の片隅にいるような …




そう

“ あの女性(ひと) ” のような ーー














仕事柄 モデルやヘアメイク、スタイリストなど
女性との接点が多いからか

付き合っている彼女が誤解をすることもあった




そんなんで関係が拗れてくると
信頼関係が崩れ


気持ちが冷めてしまう




もちろん上手く付き合っていきたいと思って
きちんと向き合って話もしてきたが


それでもお互いにすれ違い始めると
心の距離は離れるばかりで














元に戻ることはなかった







俺は結婚願望がないし

いつも四六時中ずっと傍にいたいと思うこともない



お互いに自分の時間を大切にするような関係を望むし
そんな精神的に自立をした女が理想だった



そんな関係でも
心が繋がっていれば大丈夫



そう信じていた



もしかしたら
それは自分勝手な考えなのかもしれないが











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Stay With Me 14

2019-04-22 12:09:00 | ストーリー
Stay With Me 14







男の靴が玄関にある




部屋から男の声が聞こえる


誰か来てる ーー



リビングに入ると理奈ちゃんが男と談笑していた

「あ、おかえりなさい!」


男が振り返った

「どうも。」


理奈ちゃんのお兄さんの雅人くんだった


「あぁ、こんばんは 、 、」


… なんで来てるんだ




「どうしたんですか?」


「こっちに用があって。理奈の住んでるとこも見たことなかったし。」


「そうでしたね(笑)」


義兄と言っても
僕より10歳以上年下


「行くんは元気だった??」


“くん” 付け
なんとかならないかって前々から引っ掛かる



「まぁ 変わらず。雅人くんは?」

上着を脱いで鞄を置いてソファに座った




「俺も変わらずだな(笑) でさ、今夜ここに泊めてもらうことになったから、よろしく。」

理奈ちゃんの顔を見たら困った笑顔を返してきた


「あぁ、そうなんだ、、」


LINEででも先に教えてくれてたら
心の準備したのに





僕は10歳以上も年下のこの雅人くんがどうも苦手だ ーー

時々 トゲのある言い方をすることもあるからな






僕にも妹はいるが
僕ら兄妹との関係とは全く距離感が違う




この人は理奈ちゃんと異常に近い

絶対にこの人 シスコンだ




「私がソファで寝るよ。」


なんで? 僕らは一緒に…


「男同士が一緒の布団では寝られないだろ?(笑)」



そりゃそうだが…



「ああ!それもいいか(笑) 話したいことあるし(笑)」

話したいことなんか僕にはない


「話したいことって何ですか」



「まぁ、、それはー」

理奈ちゃんの顔をチラッと見て僕にニッコリ微笑んだ


「男にしかわからないこととかあるだろ?(笑)」


はぁ?


「じゃあ俺、風呂借りるわ(笑)」


「あ、タオル出すよ!」



二人が風呂の方に向かった



僕は上着と鞄を持って自室のクローゼットのハンガーに上着をかけた




話ってなんだ

取り敢えず明日には帰るだろうからそれまでの辛抱か…


雅人くんが風呂に入ったのを確認して
理奈ちゃんに話しかけた


「雅人くんが来てるって連絡が無かったから驚いたよ。どうしたの? 急に訪ねてきたの?」



「そう。私も驚いた 」苦笑いをした


「ほんとに君がソファで寝るの?」


「うん(笑) 今夜だけだし別に良いよ。」


「僕が雅人くんと寝るの?」


「嫌? じゃあお兄ちゃんにソファで寝てって言おうか。」


「それは、」

まるで僕が言わせたみたいだよな




結局 …

僕がソファに
雅人くんと理奈ちゃんが同じ布団で寝ることになった


風呂から上がった雅人くんが冷蔵庫からビールを取り出し缶を開けて飲みながら


「行くん、俺が理奈とベッド使っていいの?」


いいの? ってどういう …


「 …はぁ」


「やっぱり私がソファで… 」


「いいじゃん。行くんがソファで良いって言ってくれてるんだし? 悪いな(笑) 話はまた今度ってことで(笑)」


だから話ってなんだよ!


雅人くんと理奈ちゃんは本当の兄妹じゃない
雅人くんはお義父さんの親友の子

その親友が事故で亡くなって引き取った子供だと聞いた


幼い頃から兄妹として育った二人だから
男女の恋愛感情なんてものはないだろう

… とは思うけど





僕は気にし過ぎだと思ってるけど
やっぱり あのシスコンっぷりを見ると …

嫌な想像をしてしまって不安になる





髪を乾かしてリビングに入ると雅人くんの姿はなかった





「斎藤さんとどんな話したの? 斎藤さんって、とても素敵な人だったもんね。 凄く格好良いし、優しいし… 誠実そうだし… ねっ(笑)」



“ねっ” !?



「ん… あいつは確かに良い奴だよ。昔から。」


「今夜 急に斎藤さんと会うことになったでしょ?何かあったの?」


「いや、別に何もないよ(笑)」


「そうなの??」


「理奈ちゃん … あいつ (斎藤) のこと 、好きに 」


「ならないからっ(笑) まだ気にしてるの?(笑) ふふふっ」


「別に、、気にしてない。」




ほんとは気にしてる ーー





理奈ちゃんが僕の首に腕を回してバグをした

「そんなこと気にしてる行さん、可愛いなぁ(笑)」




あぁ 今夜は理奈ちゃんと … なんて思って帰ってきたのに

雅人くんが来てなきゃ




服の中に手を入れた


「ダメダメ! お兄ちゃんがいるんだし(笑)」


「もう寝たんだろう? ちょっとだけ…」


「(まだ起きてるかもしれないから )」

小声でそう言って軽く手を振り “僕らの寝室” に入っていった




キスぐらい良いじゃないかと
僕はふてくされながら水を飲んだ



「はぁ~」


大きなため息をついてスマホを手に取り充電コードを差し込んでリビングの電気を消した









間接照明だけの薄暗い部屋で毛布を広げソファに横になった




時計の秒針の音が大きく聞こえる


静かだ…

寝室が気になる



気になって 寝られない!

やっぱり僕が雅人くんと寝れば良かった

いつもなら 直ぐに寝られるのに …



僕は やっぱり理奈ちゃんが大好きで
いつも一緒にいたくて

斎藤と違ってやきもち妬きの小さい男だ



理奈ちゃんに頼りにされなくて当然かもな …









「 はぁ~ 」


また大きな溜め息が出た






静かに寝室のドアが開いて驚き身体を起こした

雅人くんだった





「 ( デカイため息ついてんな ) 」


「 理奈ちゃん寝たんですか? 」


「 もう寝てる。」




嘘だろ!? 最近また寝つき悪いって言ってたのに …




「 眠れない? 」


「 理奈が寝るまでは起きてようと思ってた。」




え?




「 話あるって言ったろ? 」



あぁ、ほんとに話があったのか

わざわざ理奈ちゃんが寝てから話って …





僕の向かいの椅子に座った




「 話って何かな。」


前のめりになって下から睨むように僕を直視した




「 俺見かけたんだよね。お前が女と良い感じだったとこ。」



「 … え? 」



「 見間違いかと思ったけどやっぱりあんただった。」




あんた … ?




薄暗い部屋の中
鋭い目だけが獣のように光って見え

息を飲んだ ーー




この男

普段 理奈ちゃんの前ではひょうひょうとしているのに

こんな鋭く凄みのある一面


見たことない






「 あの子は知り合いで偶然会っただけで。それだけだ。」


ちゃんと目を合わせて本当の気持ちを伝えた




「 俺さぁ …

理奈が好きだからあんたみたいないい加減な奴と結婚なんて許せないんだよね。」





好きって ーー




「 好きってどういう … 」


「 女と抱き合ってたろ。」


血の気が引くとはこういう感じなのだろう
急に寒気がしてきた




「 あれってあいつへの裏切り行為だろ 」


「 はぁ!? 」


「 ( シーッ!あいつが起きるだろ?) 」



雅人くんが寝室の方に目をやった


「 男の浮気って世間では男の性(さが)みたいに言われてるけど俺はあんたとは違う。

一度やった奴は またやる。」




「 (そんなんじゃない!) 」

イラッとした




「 浮気以外なんなんだ。他の女と遊んどいてあいつと結婚ってあんた何考えてんだ。いい加減にしろよ!

今すぐ理奈と別れろ。」




“ 別れろ ” の
その言葉に怒りが汲み上げた




「 別れない。 絶対に。」



睨み合いになった



きっと何を言ってもこの男は信じないだろう






「 じゃあ あの女のこと、あいつに話せんのか?
話せないなら後ろめたさがあるってことだ。

あいつじゃなくても良いだろ?

そんだけの顔持ってたら女には困らないだろ? 」





「 僕には彼女が必要だ。彼女も同じだ。」

握りしめた手が怒りで震えながらも冷静に応えた




















「 あんた見てたらほんっとムカつくんだよ!
なんでこんな最低なおっさんを理奈が、、 」




寝室のドアが開いた




「 なぁにぃ? どうしたの? 」

眠そうに理奈ちゃんが起きてきた




怒り心頭の僕は立ち上がって

「 いや、何でもないよ、やっぱり雅人くんがソファで寝るって。 じゃ、雅人くん、おやすみ。」



「 待てよ! 」

雅人くんの言葉を無視して
理奈ちゃんの肩を抱いて一緒に寝室に入った



「 え? なになに? 喧嘩してたの!? 」



「 もう寝よ。」





布団に入って理奈ちゃんを抱き締める





腹が立つ





義兄って言ってもあれじゃ完全に理奈ちゃんを狙ってる “ ひとりの男 ” じゃないか





「 く、、苦し … 」


強く抱き締め過ぎた



「 ごめん … 」



「 何でそんなに怒ってるの? お兄ちゃんと何を話したの? 喧嘩? なんで? 」




「 何でもないよ。さっき君がキスしてくれなかったから寂しいだけだっ。」



理奈ちゃんがキスをしてきた

「 ごめん (笑) 」

子供をあやすように僕の頬を撫でた




「 僕は今夜イチャイチャしたくて帰ってきたのに。」



僕は理奈ちゃんの唇に頬にキスをしながら
胸元のボタンを外し始めたらやっぱり阻止された




「 どうしてもイヤなのか?

あっ、それと。なんで雅人くんと一緒だとそんな直ぐに眠れるんだ。いつもはなかなか眠れないのに。」



「 ごめん … 眠剤 飲んでた … 」




なんでこんな時に飲むんだよっ



「 行さん … そんな恐い顔して怒らないで (笑) 」

さっきの事でイライラがおさまらない




困ったなぁ、というように微笑んで

「 ( じゃあ、ちょっとだけなら ) 」


「 ほんとに … ? 」


「 ( あ、しないからね!) 」


「 それは … 約束できない 」








ーーーーー








いつの間にか雅人くんは部屋を出て行っていた



「 どうしよう … 」


理奈ちゃんは雅人くんが帰ってしまっていることに困惑していた





「 きっと気付いたよね … 恥ずかしい 」

両手で顔を覆った


「 恥ずかしくなんかないっ。だって結婚するんだから。」



僕達がお互いに愛し合ってることを知らしめたかったから

僕は気分が良い





「 ちょっとだけって言ったのに! 」

僕の腕を叩いた



「 ひどいっ! 」



君が必死で声を殺していたから
抑えきれないよう攻めたことを怒ってる




「 怒らないで?(笑) 理奈ちゃん。」


抱き締めたらまた背中を叩かれた


「 行さんキライ! 」



キライという言葉に胸がチクッとした





「 嫌いなんて言わないで欲しい。

僕は君を愛してるよ。

だから誰にも奪われたくない。それだけだ。」




理奈ちゃんは なんのことだかわかってない

知らなくてもいい …

雅人くんの気持ちなんか … 一生













ーーーーーーーーーーー

Stay With Me 13

2019-04-21 05:11:45 | ストーリー
Stay With Me 13







ぼんやりしている理奈ちゃんの顔を撫でた


それにしても疲れた

眠い…



僕がまだ20代ならこんなに疲れないだろう…




まだ朝の10時50分…


時間はあるから



少しだけ ーーー







…………







「 …行さん 」


意識を失うように眠ってしまっていたようで
理奈ちゃんはもう出かける支度ができていた


「起きられる? もう少し寝たい?」




えっ、今何時だ!?

飛び起きて時計を見るともう2時半になっていた



会社の飲み会明けで
今日ドレスを見に行く時間は余裕を持って夕方の4時にしていた

その後、夜はディナーを予約してある

( これは理奈ちゃんに内緒 )




「ギリギリまで寝かせてあげようと思って (笑)
無理なら今日はキャンセルするけど?」


「無理じゃない!直ぐに支度する!」


急いでシャワーを浴びて支度をした







ーーーー






サロンを出るともう外は暗くなっていた



「そろそろ食事をしに行こう。昼飯も食べてないしお腹空いただろう?」



予約していることを内緒にしていた店に入って行く


「え? ここ予約してたの??」


「あぁ。たまにはこういう店でデートも良いだろう?」

肩を抱いて見下ろした



「でも高そう…」


「全然大丈夫(笑)」


「結婚でもして子供が生まれたりなんかしたら贅沢な外食は年イチね!」



理奈ちゃんは本当にしっかり者の倹約家だ



「年イチって、それは少ないだろう? せめて誕生日とか結婚記念日、クリスマスとか、、」


「私がご馳走を作るから~」


「理奈ちゃんのご馳走か(笑) なら… まぁ(笑)」




スマホで撮ってもらったいろんなパターンのドレスを眺める理奈ちゃんの表情はとても幸せそうだった



ドレス姿の理奈ちゃんはとても綺麗だった











「ほら、この(写真の)行さん、ほんっとに素敵でもうモデルさんだよ(笑)

ドレスを見ていたら、あ~ほんとに結婚するんだなぁって実感した(笑)」



“結婚するんだなぁ” か




一瞬 原さんの悲しげな微笑みが浮かんだ


“次 会う時は理奈のご主人さんになってるのかなぁ”







「 …… 」 僕の顔をじっと見た



「 …もしかして今、プロポーズ早まったなとか後悔してたりして?(笑) ははっ 」


「そんなこと思ってないよ(笑)」


「気にし過ぎだね、私(笑)」





一瞬 心を見透かされたのかと思った




プロポーズを早まったとは思っていない

でも…


他の女性を思い出してモヤモヤする今の状態で結婚なんて

いいのだろうかと戸惑う



でも理奈ちゃんに気持ちが冷めたという訳ではない



なのに

僕はどうしてしまったんだろう









店を出てちょっとした時

斎藤から電話が鳴った



『そこで待ってろ。』

それだけを言って電話が切れた




そこで待ってろ??




人が行き交う中から斎藤が小走りで現れた



「あ、斎藤だ。」


「えっ?」


斎藤が少し手を挙げた


「よう!偶然だな。何してんの?」


「食事してきたとこ。斎藤は?」


「俺は仕事終わって飯食っ… て…」


斎藤が僕の後ろにいる理奈ちゃんに気付いた





「は、はじめまして… 」

少し緊張したように理奈ちゃんが挨拶をした




「あ、、」

斎藤は戸惑いながら理奈ちゃんにぎこちなく挨拶をした



「どうも、、初めまして… 」

あの斎藤が 少し動揺の表情を見せた




「彼女の吉野 理奈ちゃん。こっちは斎藤ね。」

斎藤が理奈ちゃんを凝視しているから理奈ちゃんは僕の顔をチラッと見た




「なんでそんなに見るんだよっ 」


「あっ、いや、、すまん、、今から二人でどこ行くんだ?」



「決めてないけど、斎藤は?」


「飯食ったからもう帰るとこだったんだが… 」




斎藤は理奈ちゃんに優しく微笑んだ

「とこかで話さない? やっと(君と)会えたから。」




年期を感じる洒落た喫茶店の扉を斎藤が開いた


その瞬間
珈琲の良い香りが漂った










耳障りの良い落ちついたジャズが流れている




あれは…

レコードか!



レコードの音ってやっぱりいいな…



品の良い白髪のマスターがカウンターの中で珈琲をたてていた




アンティークな家具もセンスが良い


置いている物も全て

あのマスターがこだわってチョイスした物達のように見える





やっぱり斎藤はさすが

良い店 知ってるな …



「良いね、ここ。」



「落ち着くだろ? ここのカツサンドも絶品なんだぞ(笑)」



理奈ちゃんは嬉しそうに斎藤を見つめてる



「理奈ちゃんは何にする?」
斎藤がメニューを差し出した


「あ、私は… 」



今、理奈“ちゃん”って言ったな!?

「 …お前、馴れ馴れしいぞ。」

少しムッとした僕に斎藤が僕に微笑みかけてきた



「可愛いな、ふふっ(笑)」


「何がだっ、、」


「お前じゃない(笑) 理奈ちゃんが(笑)」


だからお前が理奈“ちゃん”って言うな!
全く馴れ馴れしい!



「あ、あの、私は、えーっと、じゃあ、マンデリンで… 」

初対面の男に名前で呼ばれたらそりゃ戸惑うよな




「お、渋いとこ行くね(笑) お前は?」


「じゃあ、モカマタリ。」


「OK。」


三人が珈琲をオーダーして


「理奈ちゃんのはこっち(東京出身)の人?」



斎藤は理奈ちゃんのことをいろいろ聞いてる



「ね。寺崎のどこが好き?」


え?


照れながらチラッと隣の僕の顔を見た


「誠実な所とか、色々です(笑)」



誠実という言葉に胸が痛んだ
今の僕は本当に誠実なんだろうか ーー


斎藤と目が合った

斎藤は真顔で僕を見ていた



「そうか(笑) 寺崎は昔から誠実な男だしいい旦那になるから安心していいよ。俺が保証する(笑)」


「ふふっ(笑) そうですね、ありがとうございます(笑)」



「お前も理奈ちゃんに惚れこんでたから結婚するの嬉しいだろう?(笑)」


斎藤は含みのある視線で僕を見た


なん、、だ… ?




「あ、あぁ、もちろん、、」



「でもね、理奈ちゃん… 」

少し前のめりになって理奈ちゃんに話しかけた



「もしもね、こいつのことで辛いことや悩みができたら、いつでも遠慮なくここに連絡して。必ずね。」

理奈ちゃんに自分の名刺を手渡していた


「君の代わりに俺がしっかりと説教してやるから(笑)」



「なっ、なんなんだよ、辛いことって、、 」

動揺した僕を無視して理奈ちゃんから目線を外さない



「あぁ、これは “もしも” の話ね(笑)」


「ふふっ(笑) わかりました(笑)」



理奈ちゃんはすんなりと斎藤と打ち解けている

それが悔しい



僕は普通に話せるようになるまでかなり時間がかっかたんだぞ!



「斎藤さんはプロのカメラマンさんだと聞いてます。そんな雰囲気ですね。ふふっ(笑)」



「そう? あ!じゃあさ、結婚式は俺が撮ろうか?(笑)」



「えっ!良いんですか!? 嬉しい!でも… プロのお仕事されてる方に、なんだか悪いです… 」


「じゃあ決まりね(笑) 理奈ちゃん可愛いから誰が撮っても可愛くなるだろうけど、俺が君の内面の魅力も写真に引き出してあげる。

どんなに美しいモデルより、君が素敵だってことがわかる良い写真をね(笑)」




斎藤は優しく微笑み
理奈ちゃんは照れくさそうにはにかんだ



なっ、なんだなんだ!?
この雰囲気

僕には絶対に言えないようなクサイセリフをサラッと言いやがって



僕は理奈ちゃんの肩に手を回した

「お前ぇ… ただ 口説いてるようにしか見ないぞ!」


「口説いてるように聞こえた?(笑) お前にしては鋭いな(笑) ははっ!」



はぁ?


「冗談だよ(笑) マジで受けとるな(笑)」



うつむき加減で顔をほころばせている理奈ちゃんにモヤモヤする



「結婚式… 楽しみだな… 」


「そうだね… 」


その時 斎藤が僕をじっと見ていたことに気づかなかった






後日 斎藤から電話があった



『理奈ちゃんが俺の妹にソックリで驚いたよ。』



斎藤の妹って
亡くなった妹さんのことか…


だからあんなに驚いた表情をしたのか




『俺が言いたいことはそこじゃない。お前、理奈ちゃんと本気で結婚する気あるの?』


「え? 当然だろ?」


『その割に浮かない顔してたぞ。

前はあんなに浮かれて結婚の報告をしてきたのに。なんかあっただろ。』



斎藤は昔から人の心の察しが鋭かった



『女か?』


え?


『まさか、他に気になる女でもできたとか。』



「 …いや、そんなこと… でも、、気にかかる人は… 」



『は…?』 声のトーンが下がった


「予定通り結婚はするつもりだ。」
思わずため息が出てしまった


『お前、今日はもう仕事終わったんだろ? 今から飯、行こう。』






ーーーー






斎藤が選んだ店は昔からやってる大衆居酒屋 ーー


混みごみした広い店内は話し声で充満していた




運ばれてきた料理はかなり旨くて
これだけの人が入るわけだなと納得した




「ところで。どんな女だ。」


「…お前も知ってる、」


「大学の頃のやつ?」










「そうじゃない。」



「じゃあ誰だよ。…え?もしかして、この間の原さんとかじゃないよな?」


返答ができなかった




斎藤は驚いて一瞬言葉に詰まったようだった



「まぁ… 確かにあの子、わかりやすくお前に惚れてたもんな。

で?なんでお前までそんな気になった?何があったんだ。」


「たまたま偶然会ったんだ。二人きりで会ったのはその偶然会った一度だけ。」


「その一度の “偶然” で何があって惚れたんだ?」



彼女が抱き締めてきたこと
僕も自然に抱き締めていたこと

あの時の切ない想いが甦った




「好きになったとかじゃなくて… ただ彼女のいじらしい所が心に残っ、 」


「ダメだ。」

キツい口調で僕の言葉を遮り険しい視線で
僕に指さした


「とにかく、惚れてようがいまいがダメだ。
もうあの子と二度と会うな。連絡も取るな。

そんなんで結婚するなんて俺は絶対に許さない。」



ーー 斎藤



「お前のその想いは一時の幻想だ。わかったな!」


いつもはとても穏やかな斎藤が
初めて見せたその威圧的な表情と口調に驚いた



「わかってるよ、、もう会うつもりはない。」


「そうしないとお前は必ず後悔することになる。」



ーー 後悔



「お前が中途半端な気持ちで理奈ちゃんと結婚しようとしたら許さない。

もしまたあの原さんと会うようなことをしたら俺はお前から理奈ちゃんを奪う。 いいな!」



は!?
奪う!?


「奪うってなんだよ、なんでお前が!」


「俺が理奈ちゃんに惚れたから。」


「 なに…?」


「そう言えばお前は納得するか?」


「するか!ふざけんな! 」




斎藤の険しい表情が少し緩んだ


「 …わかったろ。お前には理奈ちゃんが必要な存在なんだよ。」


「…僕を試したのか?」


なんなんだ、なんで、

頭が混乱する



「別に俺は理奈ちゃんに惚れてる訳じゃないから安心しろ。

俺はただお前を信じてるあの子に悲しい想いはさせたくない。 …可哀想だからだ。」




いつも斎藤の言う事は正しい
心を見透かされてしまうのも悔しい


何においても僕は斎藤には勝てない

昔からそうだ



ーー 腹が立つ



でも

僕らのことを思ってのことなのはわかってる


でも
やっぱり悔しい ーー




「俺は嬉しかったんだよ。
妹にそっくりで あんな良い子がお前の彼女でさ。

あのさ。

いつも当たり前にそこに存在するものなんてこの世界には何ひとつ無いんだよ。」



亡くなった妹のことを言っているのか?



「一時の感情だけで選択したことが大きな後悔と心の傷になることがある。

無くした後で大切なものだったと気付いても
その時にはもうどうすることもできなくて

それをずっと引きずって生きていかなきゃならないこともある。

そんな後悔がどれだけ辛いか、お前だって経験してんだからよくわかってるだろう。

ちゃんと思い出し、それを胸に刻んでおけ。」




そう言って煙草に火をつけた



「 …そうだな。」



煙草の煙を静かに吐き出した

「だからよそ見なんかすんな。 わかったな。」




確かにそうだ ーー



いつも 理奈ちゃんが僕の傍にいて
微笑んでくれるのが当たり前になっていた


理奈ちゃんが部屋を出て行ったあの時の自分を思い出した


本当に辛くて 食欲もなくなって
夜になると心が押し潰されそうなほど寂しくて

悲しくて



夜になると毎晩必ず
二人で過ごした日々を思い返し


とめどなく涙が溢れた




あんな辛い想いは

もう… したくない





「そうだな。 悪かった… 」



斎藤は優しい表情になった

「お前は、」


日本酒が入ったグラスを持った指で僕を指さした

「ちゃんと、幸せになれ(笑) 寺崎。」



穏やかな表情で 少し微笑んだ






ーーーー







帰り道にある橋で


話に盛り上がっている大学生くらいの三人組が前から歩いてきてすれ違った


自分が大学生の頃を思い返した


あいつと知り合ったのは僕が大学の頃だったな

あいつはあの頃からずっと良い奴だった



お互い家はそこそこで
それなりの仕送りもあったが


欲しい物が結構あった僕は
学校が終わるとバイトをした


そのバイト先にあいつがいた




あの頃からあいつは考え方が冷静ではあったが
今よりもっと明るく朗らかな印象だった



昔から日々のたわいのない話ばかりで
あいつの悩みは聞いたことがない …



僕が悩んでいたらさりげなく
少ない言葉でタイミング良くヒントや的確で納得できる指摘をする




そんな格好良い男だ




そしていつも人のことばかり気遣って

僕はそんなお前の気遣いにも気がつかないまま
今までずっと救われてきたってことに後から気付く


そんな鈍感な僕は人としても負けてる





“お前は、ちゃんと!幸せになれ。寺崎。”





ちゃんと、ってなんだよ

じゃあお前は今 幸せじゃないってことなのか?


斎藤…
一体 なんなんだよ、、、

くそっ、、



あいつの優しい強さが悔しい

なんで涙が出るんだ ーー







ーーーーーーーーーーー

Stay With Me 12

2019-04-19 23:00:00 | ストーリー
Stay With Me 12






降車駅で降りると
本格的に雨が降ってきた







理奈ちゃんに渡されていた傘を鞄から取り出そうとしたら
さっきの原さんの切なそうな顔が浮かんだ




この感覚は空虚感 ーー

その言葉がしっくりくる



僕は傘を広げ
家路に向かって歩いた



ーー 理奈ちゃんと顔を合わせづらいな


そんな後ろめたさを悟られぬよう
いつものように玄関のドアを開けた


風呂上がりだったのか
頬が赤い理奈ちゃんが顔だけ出した


「おかえりなさい(笑)」


「ただいま。」


「楽しかった? 久しぶりだったでしょ? 会社の人との飲み会。」

「あぁ、楽しかったよ。」


僕は理奈ちゃんの顔をまともに見られないまま
着替えるため直ぐに自室に入った



僕が風呂から上がると理奈ちゃんは僕のシャツにアイロンをかけていた


その慣れた手つきに
一緒に暮らした月日を感じる


「できたっと… 」

アイロンを片付け始めた



…… 僕のぎこちなさを悟られないよう普段通りにふるまう


こんな思いの原因を作ったことが
そもそもいけないんだ



僕は原さんに恋愛感情がある訳ではない

雰囲気に流され …



いや、違う

流された訳じゃない



あの場所で あの瞬間は
僕は彼女に恋をしていた


たった数回
偶然 出会っただけなのに



初めて会った時

彼女はガチガチで会話もままならなくて
僕もどうしたら良いものかと戸惑った

彼女はどんな時も自分の感情に素直な子だった


女性から僕を好きになってくれて
アプローチをされたことで

戸惑いながらもモテるってこういうこと? と高揚感も感じた




僕は昔から器用な男じゃなくて
隠し事をしていてもわかってしまう


「どうしたの?」

顔を覗きこんできた



「あ、いや、斎藤が君に会いたいって言ってたなって思い出して… 」


とっさに誤魔化した




「私も会いたかったの~ 嬉しいな(笑) 」


最近 ゆず茶に凝ってるのか
ゆず茶を入れて隣に座った



「斎藤のことを好きにならないでくれ。」




あっ、しまった…

ずっと懸念していた言葉がつい出てしまった





「え?どういう意味?」


「いや… えっと… 」


「なに?どういうこと?」


また顔を覗きこんできた




「あいつ 昔からモテてたんだよ。」


するとクスクス笑いだした

「それで?(笑)」


「心配で…」



楽しそうに笑った


「なんで心配するの?(笑)」


「もしかしたら、君も斎藤をって… 」


「そんなに素敵な人なの?でもそんな心配することないよ(笑)」


「そうだな(笑)」


原さんを気にしながら
理奈ちゃんを取られたくない僕は

随分身勝手だ…


でも理奈ちゃんを手放したくないのは本心だ




僕は初めて理奈ちゃんを見た時、いきなり惹かれた

人生で初めての一目惚れだった





ーーーー





「理奈ちゃん。最近また眠れないの?」


朝食を食べている理奈ちゃんに問いかけた


「え?」


いつも僕が先に眠ってしまうから気がつかなかったけれど

またこっそり精神安定剤を病院からもらっていたことに今朝 気付いた




「引き出しに安定剤が入ってるね。」


「ごめん…(苦笑)」


「 …悩みでもあるの?眠れるようになっていたのに何故また眠れなくなったんだろうと思って。」


真面目に聞いてきた僕の顔を見て
理奈ちゃんも箸を置いた


「布団に入ったらついつい考えごとしちゃって頭が冴えてしまって(笑)」


「考えごとって?」


「 …んー、仕事のこと、とか?(笑)」


仕事で悩みがあるなんて今まで一度も聞いたことない…



「何があったの?」


「え? まぁ、うん、色々(笑)」



また箸を持って食事を始めた

理奈ちゃんは一人で抱えこむところがあった


そんなに僕は頼りない男なのだろうかと情けなく感じていた


「眠れなくなるほどのこと、どうして一人で抱えこむんだ? 僕じゃ頼りにもない?」


理奈ちゃんは目をクリクリさせた



「大袈裟だよ(笑) どうしたの? いつもはそんなに私のこと気にしてないのに(笑)」


ふふっと笑って味噌汁を飲む彼女



ーー その言葉は

僕の胸を射さした


君はそう
思ってたの?

僕が君を気にしてないって…



「理奈ちゃん 。僕は君のことを何も気にもかけない冷たい男だとか、気づけない鈍感な男だと思ってたの?」


理奈ちゃんはキョトンとした表情で僕に視線を向けた


「前も何かで悩んでたろ? 聞いても何も教えてくれなかった。なんなんだよ!何でいつもそうなんだ? そんなに僕は君にとって頼りにならない男なのか?」


つい強い口調で攻め立ててしまい
困った表情になる理奈ちゃんにハッとした



「そんなこと思ってないよぉ(笑) ありがとう、行さん。」



困ったような笑顔を向けた



…理奈ちゃん



「眠れなくなるほどのことって… 一体何なんだ… それに僕は君にとってなんなんだ。僕達 結婚、するんだろ?」


本気で心配している僕に
困った表情で笑いかけてきた



「んー。人事異動のことで、ちょっとね(笑) 」



「人事異動?それなら隠す必要ないじゃないか。」


「そんな、隠してた訳では…」




社内の人事異動があって
新人の社員教育を任されて理奈ちゃんが教えていると聞いた



今までの業務も行いながら

新人に対しての社会人としての基本から教えなくてはならなくて


伝えても なかなか実行されなくて



どう伝えたらちゃんと伝わり理解してもらえるのだろうかと

毎日最近頭を悩ませていたようで



それでストレスが溜まっていたようだ



僕達にはそんな悩みを吐き出せる信頼関係すらなかったのだろうかと


いたたまれなくなった





「今までも誰にでもそうなの?」


「え?」


「誰かに悩みを相談したりしなかったの?」


「まぁ…うん」


「どうして僕に相談してくれない? 僕は自分が凄く情けないよ。一番君の傍にいるつもりなのに。」



眉尻を下げて悲しそうな表情になって黙りこんでしまった



「あ… ごめん、君を責めてる訳じゃ… 」




しまった、と思った




「 …あのね 」


「うん。」


「恵美のことなんだけど… 」




急に心臓の鼓動が早くなってきた




「恵美があなたのこと好きだって聞いた… 」


「原さんが… ?」



友達同士なのに

彼女はそんなことを理奈ちゃんに話したって言うのか… ?



「大丈夫だよね?」


「大丈夫って… なにが?」


複雑そうな表情で僕を見る理奈ちゃんに胸が痛い…



一人でそれを抱えてたのか




何か気付いているのだろうか






それでも ーー

僕の心が揺れたことは理奈ちゃんには言わない





「 行さんは … 」


何かを言いかけてそのまま黙りこんでしまった


「 心配してる?(笑) ははっ 」



笑ってごまかしたものの ーー

ぎこちない笑いになっていたかもしれない





食器を持ってキッチンで洗いだした彼女
の様子を伺った



いつもと変わらないけど
やっぱり原さんのことを気にしてたのか …












僕はテーブルを拭いて理奈ちゃんの元に台拭きを持って行った



「 ありがと。」


食器を拭いてるのを手伝う



「本当に心配しなくてもいいから。それを昨日言いかけたんだな。」



「ずっとモヤモヤして眠れなくて(笑) ふふっ
でも もう眠れるかなぁ(笑)」



拭き終えて布巾をかけて珈琲をいれようとした




「ごめん… 」




原さんより小柄な理奈ちゃんを抱き締めると
少し痩せているような気がした



いつの間にか僕は理奈ちゃんを抱かなくなっていた



理奈ちゃんも求めて来なくなってたことに気づいた





こうして抱き締めることも …





「痩せただろう。」

肩も腰も以前より痩せてる


それも気づかなかった




「え~?痩せてないよ(笑)」

確かに明らかに細くなってる




「痩せたらダメだってあれだけずっと言ってただろ? 僕はずっとぽっちゃりな理奈ちゃんが好きだって言ってたのに。」


「そんな、、痩せてない、、」


「もっと食わせないといけないな!」



「これ以上 太れと?」



「何言ってるんだ、痩せ過ぎだ。確かめる。」


「体重計に乗れって?」





理奈ちゃんを抱き上げた

明らかに軽い…
こんなに痩せていたとは





「ほら、やっぱり。」


「降ろして、、ちょっと 」
びっくりした表情になる


「イヤだ。」




理奈ちゃんの白い脚が朝の光に当たりやけに白く見えて…



「抱きたくなった」








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