気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 18

2019-10-04 00:28:00 | ストーリー
Stay With Me 18










そして

僕らの結婚式は延期をすることに決めた





その報告に
僕の両親は困惑した





入籍だけはしておこうよと言う僕と

入籍は結婚式の日にしようという彼女



僕は不本意だったけれど
彼女の意見を尊重し入籍も延ばすことにした




“ 私の体調の問題と報告して欲しい ” と
言うからその要望通り両親には伝えたけれど



本当は言いたくはなかった



彼女に問題があったからと
周知されることは本当は避けたかった





それでも僕らは今も変わらず一緒に暮らしている



不仲になった訳ではないということは
誰もがわかってくれたようだけど …





理奈ちゃんのご両親だけは
誰とも違う反応だった




娘の体調の悪さを知らなかった
彼女は両親に何も伝えていなかったのだ


両親は娘の病気のことを知った時
一瞬気遣うような言葉をかけたけれど


その言葉は心がこもっているようには聞こえなかった

まるで他人のことのような …






今までも彼女の口から両親の話はほとんど出なかった


初めてご挨拶に行った時も違和感を感じた



親としての何かが欠落しているような
温かみを感じられなかったことが

僕の中で引っ掛かっていた



確執があるのかもしれない







悩みを一人で抱えこんでしまうことも

気を遣いすぎるところも

直ぐ ごめんなさい と謝る癖も

彼女の兄 雅人くんはシスコンかと思うくらい過剰に彼女を気にかけることも





今までわからなかった疑問は

根底に そういう環境が影響していたのかもしれないと気づいた






今回 結婚を延期したけれど
このことで彼女のことを知るきっかけとなった



彼女には生きてて良かったと

幸せだと思えることを

ひとつずつでもいいから増やしてあげたい


僕の中でその想いが強くなった








今夜は二人で外食

僕は日本酒を飲んだ


んー、久しぶりに酔った


年々 酒に弱くなってる気がする

歩くとわかりやすい




同僚が歌ってるライブを見に行こうよと話した


彼女はいつもと変わらないように見えるけれど
時折ふと元気がない表情をする


病気のせいだろうか




手を握ったら

冷たい君の指先に気付く



君は寒いわけじゃないからと苦笑いをした






「 どうすれば 温かくなる? 」



この指先も

君も …





君は “ 昔から冷え性だから仕方ないし ” と微笑んだ


自分はこうだから仕方ない、と始めから諦め

変わろうとしないように見える




それは自分自身の自信のなさ だろうか



まるで硬く閉ざされた心の扉の前で
僕はどうにもできず

独り立ちすくんでいるような


そんな感覚 …









僕は足を止めた




「 冷え性だって治せば良いだけだろう?
僕は君に何をどうすればいいの? 」




僕の真剣な表情を見て
君は困ったように微笑んだ


「 冷え性ぐらいでそんな深刻な 」






君を強く抱き締めた


人が行き交う街角で
通りすぎる人の視線も感じず




ただ無性に

少しでも君と心の距離が近くなるよう



ーー 抱き締めた






「 行さん ? 」

戸惑う君の声






僕は街の真ん中で
こんな大胆なことができる男じゃな:い




でも今夜の僕はきっと

酒を飲みすぎたからだ




今の僕は どうかしてる ーーー




こんなことをしても
心の距離は変わりはしないのに






抱き締めているのに

何故だか知らない人を抱き締めているような切なさ




無性に悲しい …





「 酔いが回ってる … ごめん 帰ろ 」




ーー 伝わらない




空から霧のような雨が降ってきた








ーーーー





突然 人が通りすぎる中で
私を抱き締めたあの頃から



行さんの様子が変わった



常に一人で考えに耽るようになり
あまり笑わなくなった



私 あの時 変なこと言ったかな …




いつものようにパソコンに向かっている行さんの横顔は以前と変わらない



変わったのは
声をかけないと私の方を見なくなったこと




「 行さん、お風呂入ってね。」


以前なら この瞬間
優しい表情を向けてくれていたけど ーー



時計を見た


「 あぁ、もうこんな時間か。」



パソコンの電源を落としお風呂に向かった






心、ここに在らず …


そんな感じの行さん





まぁ、うん、


もう3年も付き合っている仲なんだし
倦怠期とかあって当然だろうし

これで普通なんだよ

きっとそう …




今までが優しすぎたから





でも

次第に行さんとはなかなか視線も合わなくなった





“ 嫌なことは嫌だとハッキリ言って欲しい ”


そう言っていた頃の行さんを思い返すと
あの時は 愛してくれてたんだ



ーー 寂しい …





視線が合わない行さんを見つめていると
突然こちらに向いてドキッとした




「 そうだ。病院って次はいつだった?」



「 えっ!? 今度の土曜日の午前中 … 」





行さんから話しかけてくれた!


と思ったらまた直ぐにスマホに目を落としてしまった





「 土曜日 … 午前中、ね。スケジュール入力忘れてたから。」



それが少し面倒くさそうに聞こえて胸が痛んだ




「 病院、一人で行くよ、、」



その言葉でまた私の方に向いた



「 一人で行く方が良い? 」


真顔でそう聞いてきた行さんが冷たく感じる



都合とか そういう訳ではなくて
面倒そうに見えたから …



でも本当は …



「 ううん、婦人科って男性には居心地悪くないかなって 」



キョトンとした表情に変わった



「 どうして? 今まで一緒に行ってたのに。そんなの僕は平気だよ。」



「 そう、なんだ … (笑) 」



じっと見られると目を合わせづらくなってしまってる





「 君が嫌ならやめておくよ。」


また手元のスマホに視線を落としてしまった




まさか行さんがそう言うとは思わなかった




まるでもう完全に気持ちは私には無いような
冷めたように見えるその表情と言葉に


グッと胸が痛んだ


なんで私はこんなに心が弱いんだろう







いつの間にか
行さんの優しさが当たり前になってて

私は贅沢者だったんだ






行さんはずっと


“ 言って欲しい ”

“ どうしたらいい? ” と

私と向き合い 理解しようとしてくていたのに




「 嫌とかじゃ… やっぱりついていってもらおうかな … (笑) 」




また私の方を見た


「 嫌なことなんてないよ。じゃあ予定通りに。」


またスマホに視線を落とした






今 少し 口調が優しかったような気がした …




最近 誰かと頻繁に電話やメールをしてる …

誰だろう

女性 ?





もう他に

好きな女性ができた … ?



そんなこと ないよね






「 私、もう寝るね。」



「 あぁ、おやすみ。」



素っ気ない …




こんな状態になって
もうどのくらい経っただろう





手術の日ももう直ぐ

入院は一週間程度




行さんとは入籍していないので
手術の同意書は父が署名した


実家に帰るのは気が重かった



子供の頃
仕事で家を空けることが多かった父

母は父と随分年齢が離れた若い継母で
私にはあまり関心の無い人





親から愛されるってどんなこと?

私にはわからない





子供の頃から継母の顔色を見る私を
兄は気を使っていたのか

私には過剰な程 優しかった




そんな居心地の悪い家から

私は大学の入学を期に出ることにした





大学時代は実家での暮らしを忘れるほど楽しい日々を過ごした



そんな時

憧れの人ができた



一つ先輩の海人くんだった



私とは違って
快活的で いつも周りに友だちがいて

ダンスが凄く上手くて

階段を降りる時も
まるでダンスしているように見えた



海人くんが入っているサークルに
私も入ったことがきっかけで顔を覚えてくれた



初めて

私は恋をした ーー




たまに クラブで踊ってることを聞いて
場違いな私は海人くんが出入りしているクラブに行ってみた



そこでは海人くんはちょっとした有名人だった



顔見知りの綺麗な女性が海人くんに気安く声をかけている


私には 海人くんが遠い存在に思えた





海人くんは軽薄でもなく
遊びまくってる男性でもなくて

とても誠実で優しい男性





いろんな女性が声をかけてもサラッと笑顔でかわしていた


純粋にクラブで踊ることが好きなのが見ていてわかった



内面は男らしくてモテるのにとても誠実な所が
私にはますます魅力的に見えた




初めて好きになった海人くんが理想的で

どうしても海人くんを基準に男性を見てしてしまう癖がついてしまった






社会人になって

また海人くんと再会することができた





大学の頃

好きだと言えず
海人くんは卒業をしてしまった


離れてしまった海人くんとの縁が再び繋がったのは共通の友達 修司くんがきっかけだった





少しずつ連絡を取るようになって

海人くんも私を意識してくれるようになって




片想いだった憧れ人と付き合うことになった


それは天にも昇るような幸せな気持ちだった





社会人になった海人くんは
学生の頃と変わらず誠実で優しい人だった


いつも明るくて可愛いところもあって
ちょっぴりイジワルな冗談も言う

いつも私をリードしてくれる紳士的な人だった





ーー 不思議と

私が思ってることを
なんとなくわかってくれた


手を繋ぎたいな って思った時
然り気無く繋いでくれたり








上手く気持ちを伝えられない言葉足らずの私をちゃんと察してくれていた



きっと
とても私を気にかけてくれていたのかもしれない





そうだ …

言葉足らずの私には
海人くんといることが楽だったんだ




別れのきっかけは悲しいものだったけど
お互い嫌いになって別れた訳じゃない





海人くん

今どうしてるだろう …








ドアの向こうで行さんの歩く音がする ーー


寝るのかな






安定剤を飲んだのに 全然眠くならない

いろいろ考えてたからだなぁ…




寝室に行さんが入ってきた


私を起こさないようにと
静かに布団に入って背中を向けて横になった






疲れたような彼の背中に
手をあてたら私の方に向きなおした




「 眠れないのか …? 」



「 うん … 」



「 (睡眠)導入剤 飲んだ? 」




「 飲んだ 」



「 そう … か、ごめん … 眠い 」


静かに目を閉じると
寝息に変わった



“ ごめん ” ?



いつも直ぐに眠ってしまう行さんが羨ましい





髪が伸び

少し痩せて疲れている行さんの頬に触れた


傍にいるのに寂しい







一緒に暮らしはじめて
数ヵ月経った頃



一緒にいるのにあなたがわからなくて
こんな風に寂しかったことを思い出した




あの頃は 優しく微笑んでくれていた

愛してくれてた


それから一度 離れて暮らして

またこうして一緒に暮らし始めてから
随分と愛情表現が多くなった行さんは変わった






でも私は

何も変わってない



殻を破って変わらなきゃいけないのは

私のほう




ねぇ

最近 ずっと一人で何を考えてるの?




気持ちが冷めて

婚約も解消しようとか考えてるのかな





胸が痛い

涙が止まんない




ウジウジと悪い方にばかり考えて


また海人くんを思い出して




そんな自分が 嫌で

大嫌い …




行さん


どうして
まだ私と一緒にいてくれるの?











ーーーーーーーーーーー