気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 11

2019-02-10 00:46:00 | ストーリー
Stay With Me 11





あれからたまに原さんからLINEが届くようになった

LINE IDを聞かれて教えないのも悪い気がして

その場の流れで教えることになった



理奈ちゃんには原さんからメッセージが届いていることを何となく言いづらくて

つい言いそびれたままになっている




LINEの内容は今日は一段と寒いですね、とか

セールが始まっていてバタバタなんです、とか


そんな大したことのない、他愛のないことだけれど


返答するか否か
いつも迷ってしまう




僕は誰かを好きになっても原さんみたいに積極的なアプローチができない男だ

女性からのアプローチを受けたのは前の彼女だけ


そして人を好きになることに理由はないと思っている



しかし僕は理奈ちゃんと結婚すると
彼女にはハッキリと話したのに


何故 毎日LINEを送って来られるのだろうか




ーーーー




そんなある日


僕の会社の仲間で飲み会があった

「そう言えば。女性と歩いてる所を見ましたよ。クリスマスイブの夜だった。」


あぁ、あの日か

「寺崎さんの彼女ですか?」

「そうだよ(笑)」

「かなり若い娘でしたねー!寺崎さんやりますねー!(笑)」



若い娘…

そう言われることがわかっていたから黙ってたんだけどな


「そんな若い娘!?彼女の年齢幾つなんですか!?」


他のスタッフに根掘りはほりと聞かれて照れくささと気まずさで苦笑いした


「私は… めちゃくちゃ残念です」


はい??

今日の紅一点
20代後半の女の子

この娘も理奈ちゃんと変わらないほど若い娘だ



「寺崎さんフリーだとばかり勝手に思い込んでました。」

すると同じ部署の西内くんが
「あれ?寺崎さんのこと好きだったの?」


え?


「好きって、そんなんでは 、、」

取り繕おうとしてジェスチャーが大きくなっている彼女をみんなが突っ込んでからかっている


恋愛感情はなくても
女性に好かれるのはやっぱり嬉しいもんなんだな





それからしばらくして店を出た

2件目があると思っていたけれど
そのままアッサリと解散した


せっかく飲みに出て来たことだし
もう一杯だけ呑んで帰ろうと

あのバーのマスターの店に向かった




バーの扉を開けると
マスターが少し驚いた表情で僕を見た


「あ、久しぶりだねぇ。」


「どうもご無沙汰してます(笑)」


カウンターに一人で座っていた女性が振り返った


「あっ。」 原さんだった

ひとつ席を空けて僕もカウンター席に座った


「寺崎さんだ...」 
彼女はすでに酔っている様子



彼女は毎週この店に来ているらしい

もしかしたら僕がここに来るのではないかと
彼女は期待して通っていたと僕に微笑んだ


マスターはそれを聞かない振りをしていて僕は返答に困った



「かなり酔ってるけど、帰れるの?」

「せっかく会えたのにまだ帰らない!」


困った表情の僕を
マスターはチラッと見て苦笑いをした


「帰れなくなるよ、、僕が駅まで送るから。」


駅までそんなに遠くはないから
駅まで彼女を送り届け
僕はまた店に帰ってくるつもりで店を出た



ふらつく足取りの彼女を支えて歩く

「まだ帰りたくないよ~」

うーん
困った娘だな



「そんなこと言わないで、ね?(笑) 」

「ほんとにイヤなの!」
彼女の腕を支える僕の手を振り払った


「んー、じゃあ どうしたいの?(笑) 」

「せっかく会えたのに… 帰りたくないよ」

静かに涙をこぼしだし僕は動揺した


「な、なんで泣くの?」

「毎日 LINE送っても返事はもらえないし、毎週あの店に通っても会えないでいたのが寂しかった… やっと会えたのにもう帰れなんて… 辛い … 」



すれ違う人達が
チラチラ見ながら通りすぎていく


きっとこれは僕が泣かせたみたいに見えているんだろう




「じゃあ、、お茶でもして帰ろうか」

「まだ飲みたい、寺崎さんと二人で、デートしたい。」



デートって 、、



「あー、じゃあ さっきのマスターのところに戻ろう、、」

「私がたまに行く所に行く!」
すねた表情で僕の腕に手を回した



なんでそんな表情になるの(笑)

子供のような彼女に可笑しくなった



コンビニに入って行く彼女

コンビニ??


彼女は慣れたようにコンビニでビール2缶とチキンを購入した

今から飲みに店に向かうのにビール?


コンビニを出て
またふらつく足取りで歩きだした


「なんでビールを買ったの?」

「え?今からビール飲みに行くんですよぉ」


訳がわからないまま彼女に連れて行かれるように歩いた



駅から離れていく ーーー



一体どこまで行くんだ?


しばらく歩き川沿いの公園に入って行く


まさか
いつも夜の公園でビールを飲んでるのか!?

女の子が!?


僕の常識の範囲から外れている彼女に
ただただ驚いた



慣れた感じでベンチに座る

ここは街灯も明るくて整備された綺麗な公園ではあるけれど

女の子が一人で夜 缶ビールを飲んでるなんて…



「ねぇ、よくあるの?ここで飲むこと…」

よくあると言って彼女は笑った

機嫌は直っているようでホッとした




「これはあなたの分!」

ビール1缶を差し出した



「僕は良いよ(笑)」

と応えると途端にムッとした表情をし
ビールを開けて手渡された


「ここね、川向かいの灯りが綺麗に見えるんだよー?ほらねっ 」

子供のように川向かいを指した



ーー 本当だ

昼間に来たことはあるけれど
夜は来たことはなかった





「さっきのあのお店も素敵だけど、この風景も良いでしょ??(笑)」


隣の彼女の表情が少し寂し気に見えた


「そうだね」 ビールを一口飲んだ


もう季節は春

夜でも寒さは感じなくなってはきたけれど

夜の公園で缶ビールを飲んだことなんて一度もない
初めての経験だ






なんだろう
不思議な気分


初めて会った時に感じた
彼女の明るくて朗らかな印象は変わらないけれど

何か違う相反するものを感じる



「原さんは不思議な人だね(笑)」

「えー?どこがですか?(笑) 」

「うーん… なんだろう。うまく言い表せないけど(笑)」

彼女はクスクス笑いだした



「あ、これもあります、はい!」

まだ温かいチキンを手渡された


「ありがとう(笑)」

彼女は少し切なそうに微笑んだ



「そうやって笑いかけてくれるの、凄く嬉しいな...(笑)」


ーー その表情と言葉に胸がキュンとした



それを悟られないよう顔を逸らした


「僕のどこが良いの?」

「えー?(笑)それは困った質問だなぁ(笑)」


立ち上がって川沿いのフェンスにもたれかかり対岸の夜景を眺めてる


「んー。あたしも今はわかんない (笑) はじめは『うわぁ!凄く格好良い!』と思った(笑)

でも、今はそういう外見的な理由じゃなくて…」



振り返って笑顔を見せた


「あなたの優しい笑顔?かな?(笑)」

笑っているのに悲しそうに見えた



「理奈に向けるあなたの笑顔も好きですよ(笑)」

苦笑いする彼女に胸が痛くなる



「僕は理奈ちゃんが」

「わかってますよっ、わかってるから(笑)」

だからそれ以上言わないでという思いで僕の言葉を遮った



「でもあたしは言わずにはいられないから言わせて欲しい。」



ベンチに座る僕の前に歩み寄ってきた

「やっぱり寺崎さんが好き…ずっと頭の中に寺崎さんがいる。

LINEだって迷惑だってこともわかってた。こんな告白も迷惑ですよね。それもわかってる。

それでも気持ちを伝えたかった。」



一生懸命に想いを伝えようとする彼女がとても いじらしくて愛おしく想えた


僕はゆっくりと立ち上がった



「そんな目で見ないでよぉ。ますます忘れられなくなる~(笑)

今夜で気持ちを切り替えようと思ってたのに(笑)」


頑張って笑顔を見せようとする彼女の目には
こぼれそうなほど涙が溢れてきた



「寺崎さん… 1回だけ、許してください。」

彼女は僕を強く抱き締めた





彼女の切ない想いが浸透していくような感覚に
自然と僕も彼女を抱き締めていた



柔らかな髪の感触と
少し優しいフレグランスの香りに

僕は一瞬

陶酔した




「 …寺崎さんの匂い 良いなぁ...こんな感じだったんだぁ(笑)

ありがとう… やっぱり寺崎さんは優しいなぁ(笑)」


ゆっくり身体を離した彼女は


「ビール飲んだら帰りましょ!あ~ 酔いが覚めちゃったな!えへへ(笑)」


そう おどけて笑った彼女が
いじらしくて切ない

もう彼女とこんな時間を共有することは二度とない



「もしかして、雨が降る?… 雨の匂いがする」

空を見上げる彼女




もう少し

君と一緒にいたい ーー




「あ、やっぱり雨が… 」

ほんの少し細い雨が僕の頬に当たった



「降ってきちゃった…

寺崎さん。あたしがあなたを独占できる時間はもう終わりみたいですね...駅に戻りましょ(笑)」



本当は僕の鞄に折り畳みの傘が入っていた

出かける時に 理奈ちゃんに渡されていたものだった



雨はみるみる大粒になり
僕らの上に落ちてきて

駅まで走れそうもなくて
慌てて屋根のある公園の休憩場所に駆け込んだ


鞄の中のこの傘を取り出せば
彼女との時間は終わる



「向こうの空は雲が切れてるから きっとこれは通り雨だろう。」


「 …一晩中やまなきゃ良いのに (笑)」


そんないじらしいこと言われたら ーー


「濡れてしまったけど、寒くない?」

「そうだタオル!私持ってました(笑)」


バッグからタオルを取り出し
そのタオルで先に僕の髪や頬に優しく触れた


「あぁ 僕はいいよ、男だし、」

僕を拭く彼女の手に触れてしまった

ぎこちなくタオルを受け取り
濡れた彼女の髪を優しく拭いた




「すみません… 」

彼女はうつむいた


「いや… 」




ーー どのくらいの時間だろう

僕らは静かに降りだした雨音を聴いていた




「 …僕を好きになってくれて…
ありがとう… 」


うつむいたままの彼女は涙を拭っていた

「理奈と… 結婚するんですよね 」


胸が痛い…


「ん。」


「次 会う時は理奈のご主人さんになってるのかなぁ(笑)」


「そうだね… 」



雨は次第に小降りになってきた


「ここで別れましょう。あなたが先に行ってください。」


今にもこぼれ落ちそうなほど
目に涙を溜めて

目も鼻も真っ赤にして笑顔を作る彼女を


ーー もう一度抱き締めたかった





「 …わかった。原さん。さようなら … 」


「さよなら」

彼女は小さく手を振った



僕は振り返らず駅へと歩きだした



何故 僕は
こんなにも胸が痛いのだろう






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