気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 6

2018-12-18 23:17:00 | ストーリー
Stay With Me 6





「もしもし。」


修司くんは彼に居場所を説明して彼女を迎えに来て欲しいと話をした


「このままずっと帰らない訳にはいかないだろ?ちゃんと向き合って話してみなよ。

理奈ちゃんだってカレシと別れたい訳じゃないんだろ?」



そう… だけど



20分ほどで彼が店に入ってきた

緊張した表情になる私を見た修司くんは直ぐに彼氏が来たとわかって椅子から立ち上がった


「こんばんは、」
修司くんは彼に挨拶をした



彼の目には私しか見えていないようだった

険しい表情で「帰ろう」 と私の腕を引っ張って店を出た




修司くんも慌てて追いかけてきた

「あっ、あのっ!彼女の話ちゃんと聞いてやってください!」



その言葉に彼は足を止め
冷たい表情で修司くんの方を振り返った


「わかってますよ。」


近くに停めていた車に私を押し込むように乗せ車を発進させた


サイドミラーから修司くんを見ると
心配そうな表情で私を見送っていた



ーーー



車内は気まずい空気…


彼はずっと険しい表情のまま黙って自宅に向かっていた



「なんで… 突然居なくなるんだ。なんで男といたんだ。」


やっぱり誤解してる


「偶然 さっきの友達と会って… 」

説明しなきゃ…
そう思えば思うほど 言葉が出てこない


凄く怒ってる


ーー 恐い…




こんなに恐い表情の寺崎さん
見たこと無い



「心配したよ」

「ごめんなさい…」

チラッと彼を見た


「さっきの男、あの野村ってやつじゃなかったな 。」


「学生の頃からの友達で… たまたま偶然会って… 」


「君のこと随分とかばって心配してたけど。かなり親しい関係なんだろうね。」


修司くんのことも誤解してる


「違うよ、彼は、」

「“彼”?」

「その “彼” じゃなくて 、、」


焦れば焦るほど
言い訳じみて聞こえてしまう



「違う… 違うよ… 誤解だよ… 」


きっと
今の彼には何を言っても信じてもらえない


悲しくなってきた


彼はずっと黙ったまま
駐車場に車を停めて車を降りた

部屋のドアを開けると部屋の灯りは点いたまま 暖房も点いたままだった

慌てて出てきたのがわかる


時計の針は午前2時前を指していた



「今夜はもう寝よう。冷静に考えられないから。」



…冷たい口調

気まずい雰囲気のまま布団に入った


目を閉じている彼の横顔は随分と疲れていた …


初めてだ
こんな寺崎さんを見るの


声を荒げ怒鳴ったわけではない
責め立てられたわけでもない

なのに…


こんなにこの人を恐いと思ったことはなかった

普段は あんなに優しい人なのに …




ーーーー




一睡もできずに夜が明けてしまったから朝ご飯の支度をすることにした


彼は少しは眠れたようだったけど
睡眠不足のようで眠そうに起きてきた


彼は毎日のルーティンのジョギングには行かなかった



「おはよ… 」
眠そうな顔で顔を洗いに行った


今日は… どうなんだろう

昨日の寺崎さんのままだろうか


恐い…
緊張する…


顔を洗って出て来た彼の顔が見られない

「腹減ったなぁ~ 朝食ありがと (笑)」

彼から私にバグをしてきた



えっ…

今まで彼からこんなことしなかったのに …

しかも昨日あんなに怒ってたのに…



先にテーブルについて私が座るのを待ってる


私はぎこちなくテーブルについた




「旨い(笑)」

笑顔で私を見たのがわかった


私は目を合わせられない
昨日の冷たい彼の表情が頭から消えない


「理奈ちゃん、今日久しぶりに陶芸に行かない?」


「え… うん…


陶芸って気分じゃなかったけど
家にいても気まずいだけだから行くことにした


彼は車の中で私の手を握ってきた

「一緒に行くの 久しぶりだね(笑)」



繋がれた手

こんなことも初めて




ーーー





「随分 上手くなってるね(笑)」

嬉しそうな彼


「そう、かな…」


彼のために一生懸命 お茶碗を作ったあの頃のことを思い出した


あの時のときめきとか恋してる気持ちが無いことに気がついた

好きなのかどうかもわからなくなるなんて

経ったの一晩で気持ちが冷めてしまったのだろうか


もう自分の気持ちさえも信じられない

穏やかな表情で陶芸に集中してる彼を見つめる



寺崎さん…

私の視線に気がつきいつものように爽やかに微笑む彼


「一緒に作ろう(笑)」


私の背後に座り私の手に彼の大きな手が添えられた


「力加減も上手くなってるね 」

耳元で聞こえる彼の穏やかで優しいいつもの声


「 …寺崎さん ごめんなさい 」

「んー?なにが?」


胸が…

凄く痛い…


「私 しばらくあの部屋を出ようと思います。」



「ーー え?」


ロクロで回っている粘土の形が崩れた

彼の体が私から離れた




「っと、待って、なんでっ、 、」

動揺して声が震えてる





「“一緒に暮らさないとわからないことがある”

寺崎さんは以前そう言いましたよね… それがわかった気がします。」



一瞬 沈黙した



「嫌だよ… どうして… 僕は一緒にいたいよっ」


粘土がついたままの手で背後から私を離さないよう強く抱き締めた


私は胸が苦しく痛んだ


「僕の何がいけなかった?教えてくれ」



彼の温かい体温が伝わってくる


あなたは何も悪くない

これは私が自分勝手な事を言ってるってわかってる


今のあなたは無理してる
本当は私にいっぱい言いたいことや聞きたいことあるだろう

なのに 関係を壊したくなくて無理して笑顔を作ってるのもわかってる


私が知らなかったあの冷めたく恐い表情

あれも寺崎さんなんだ


私はこの人が好きかどうかもわからなくなった


今すぐ別れるんじゃなくて
少し距離を置きたい


私は
本当に身勝手だ…



「君まで僕から離れていくなんて嫌だ… 」





“君まで”

前の彼女は彼から離れていったということ…?




「少し距離をおこう」





ーーー






私は友人の恵美のところに住まわせてもらうことになった


必要な物だけを海外旅行用の大きなスーツケースに詰め

他の物は置いて行くことにした



「理奈ちゃん… 」
私を愛おしそうに優しく抱き締めた


「君の荷物そのままにしておくから。だからいつでも帰ってきて欲しい… ずっと君を待ってるから。」


「じゃあ … 行くね 」


目を潤ませている彼と
玄関先で別れた



閉じた玄関の扉の前でコートの胸を掴んだ

胸が痛い ーー



涙がこみ上げそうになって大きく深呼吸をしエレベーターに向かって歩きだした



ーーー



野村くんは会社で私を見つめている事が増えた

ランチの誘いや一緒に退社を合わせてきたりと急に積極的になった


『今度の休み、何してる?』

『今夜ご飯行こうよ 』



こんなに積極的にアプローチされるなんて初めてで戸惑いもあったけど

正直な気持ち 、誰かに求められることが少し嬉しい



恵美の部屋に帰ると
恵美はまだ帰ってなかった


電話が鳴った
野村くんからだった


「もしもし?」


『吉野さん。明日はご飯行こうよ。俺 、嫌われちゃってるのかな。』


嫌いとか 好きとか そういうんじゃなくて …


「私、彼氏がいるって言ってるじゃない。」


『知ってる。あの時ロビーにいた男だろ? かなり歳 離れてるように見えたけど。』


「年齢とか私 関係ないから。」


『年齢関係ないなら年下でもいいよね!』


野村くんは2つ年下
でももっと年下のように感じる



「ただいまー!」

恵美が帰ってきた



「もう切るね。」

『待って!』

「なに?」

『俺、本気だから。彼氏と上手くいってないんじゃない? 最近ずっと沈んでるから気になってた。

俺ならそんな顔させない。真面目に俺のこと考えて。じゃあまた明日。』




なに真面目なことを…
でも…

ドキドキした


「今の電話、カレシだった?」

「違う(笑)」

「なぁんだ。まだカレシと連絡取ってないの?」

「うーん…」うなだれた

「気になるなら電話すればいいのに (笑)」


あの部屋を出てから1ヵ月
彼からの連絡はない



今にも泣きそうな目をして私を送り出した彼の顔を思い出す度

胸がチクチク痛む




「恵美は何で彼氏と別れたんだっけ 」


「あいつの浮気じゃん!(笑)」


「あ、思い出した。 そうだった(笑)」
寺崎さんは浮気とかしないだろうな



「理奈のカレシ優しい人なんでしょ?なにが不満だったの?」

恵美は着替えて冷蔵庫に入っているビールを開けた




「優しいの。ほんとに… 優しい過ぎるくらい」

「なのになんで家出たの?」

「彼が恐くなって… 」


「ぶはっ!」

恵美は口に含んでいたビールを吹き出した

慌てて吹き出したビールをティッシュで拭きながら



「優し過ぎて恐いって!? (笑) 一体誰の歌よ(笑) ただのノロケにしか聞こえないんだけど!」


恵美は爆笑した



「真面目な話なのに 、、ふふふっ(笑)」

つられて笑った


「ごめんごめん(笑) 一体どういうこと?」


恵美に心のもやもやした想いを打ち明けた


彼は女性との付き合いに慣れてないだけ

口下手で気持ちを言葉にするのが上手くないだけで

私が彼を誤解しているんじゃないかと言った


そう言われてみればそんな気もするけど…


「それに愛情がなきゃ一緒に住んでる間ずっと優しくなんてできないんじゃないの?無理して四六時中 装い続けるなんて誰もできないよ。」




「それとカレシ、年の差を感じてた?やきもちの妬き方すら知らなかっただけかも?もしそうなら可愛い男じゃん(笑)

それに偶然とはいえ彼女が男といたらカレシなら誤解して腹立つんじゃない?

ああ、カレシの肩持ってるとかじゃないからね(笑) 」



恵美の言う通りかも… と思えてきた




「理奈を大事にしてくれるそのカレシ大事にした方がいいと思うな。

優し過ぎて頼りないぐらいが良いよ?気が強くて我が強い男よりずっと良いわ(笑) 」



確かに寺崎さんは口下手な方だと感じてた
私が甘えると嬉しそうな表情をしてた…



ーー 胸がキュンとした



「逃げないで向き合えば?」



確か、修司くんにもそう言われたな ーー



「で?カレシの写真全然見せてくれないのはなんで?やっぱりイケてないオッサンなの?(笑) 」


「やっぱりってどんなイメージなのよっ 」


誰にも彼を見せたことはなかった
なんとなく見せたくないと思っていた


あのチョコレート屋の前で彼と目が合って初めて会話をしたあの日を思い出した


浮かぶのは 彼の優しい表情ばかり





出て行った私を待つ彼は
今 どんな気持ちで過ごしているのだろう

二人で過ごしたあの部屋でひとりきり

ちゃんとご飯食べてるかな …



美味しそうに私が作ったご飯を食べてる彼の顔を思い出した


罪悪感で胸が痛んだ



ーーーーー



それからも毎日のようにデートに誘ってくる野村くんに根負けして

仕事帰りに食事をすることにした



一回だけだよ 、と了承すると
そんな!一回だけなんて!と言いながらも

凄く嬉しそうな表情をした




嬉しくてテンションの高い野村くんはやっぱり学生のように見える


明るくて面白くて
時々“好き”をアプローチしてくる

それが凄く恥ずかしい …


店を出て帰ろうとすると
もう1件ぐらいいいでしょ!とおねだりしてきた



可愛いな …
なんてちょっと思ってしまった


「もう帰らなきゃいけないから。ごめんね。」


残念そうな表情になった野村くんと並んで歩いた


「俺さ…ずっと吉野さんを見てた。

入社して同じ部署になって、理奈は先輩で。

おっとりしてそうなのに結構ちゃんと仕事できてさ(笑)



俺はまだまだ仕事覚えるのもやっとの頃理奈がさりげなくサポートしてくれたのも気付いてた。

部の飲み会の時だって他の人は気付かない気遣いを理奈だけがさりげなくしてたのも知ってる。

なんかさぁ。
始めは 姉さんみたいな感じで見てたけど…

段々と俺の中で気持ちが変わってきて…

俺、好きなんじゃないかなって気がついた。

でも仕事で同じぐらいにはならないと俺の気持ち、伝えられないなって思ってた。

だから… ほんとはずっと前から吉野さんが好きで

そのことを伝えたかったんだ。」



立ち止まって私を見つめた

見たことのない野村くんの男の表情に心が揺れた


でも…


「私は野村くんのことそんな風に想えないよ… 」




野村くんの表情が沈んだ

「わかってる。でも俺、諦められない。」


真剣な表情で私を見つめてる …

そんな目で見ないで



思わずうつ向いた



「俺の方が理奈を笑わせてあげられる。
必ずカレシのこと忘れさせるから。

だから 、、俺と付き合って欲しい 。」





彼の本気の告白に
戸惑いが隠せなくなった


「困る…」



「真剣だから。俺とのことも考えて欲しい。」


後ろから車が来て
私の腕を掴んで路肩に引き寄せた

ドキッとした


野村くんは私の腕から手を離した


「考えといて。」


まだドキドキしてる

それは突然後ろから車が来たから

きっと
そう 。






ーーーーーーーーーーー

Stay With Me 5

2018-12-13 23:15:00 | ストーリー
Stay With Me 5







『吉野さん、書類のチェックして欲しいからLINE ID 教えて 』


ちょうど帰宅した頃
後輩の野村くんから電話がかかってきた




「明日、確認じゃダメなの?」


『ウチは休みだけどどうしても先方が急ぐらしくて。』


「わかった… じゃあ… 」



LINE IDを教えてからPDF送信先のアドレスを教え

野村くんから書類の画像と添付書類がPDFで送られてきた




『届いた? 見れる? 確認して直ぐに連絡ちょうだい。』


「わかった。」


電話を切った



もっと早くチェックしてれば良かったのに!

いつもギリギリに慌ててやるからこんなことになるんじゃない!


もう!


私は書類のチェックをして連絡を返し直ぐに食事の支度を始めた


早くしないと寺崎さん帰ってきちゃう



「ただいまー 良い匂い(笑)」


あー 帰って来ちゃった

「まだできてなくて、もうちょっと待っててくださいね!」



鞄をテーブルの横に置きコートを脱ぎながら


「僕も手伝おうか?」

私の傍に来て何を作ろうとしてるのかを覗きに来た


顔が近い!



ーーー LINEの受信の音がした



「理奈ちゃんにLINE入ったよ?」


「さっき仕事の書類で確認してたんです。

きっとその件だと思うから。チェックしてOKだったから多分大丈夫。後でいいです。」


「そう?」


彼は私のスマホの画面に視線を落とした



LINEのポップアップ表示を見て

「 “野村くん” からだよ 」



「あ、じゃあやっぱりOKの返事だけだと思う。」




「 …そう、なんだ。」


私のスマホの画面を見て

コートと鞄を持って部屋に着替えに入って行った





一緒に晩御飯の準備をしてテーブルにつく





「腹減ったなぁ(笑) さっきのLINE。チェックした方がいいんじゃない?」



あ、忘れてた



「急ぎみたいだったけど」



え?

おかしいな…

あれだけちゃんとチェックして大丈夫だったのに




「ちょっと見てみます。」


LINEのメッセージを読んだ


『書類ありがと!これで大丈夫!』


やっぱり確認済みのメールだった(笑)



ーー あれ?




『それと!大事なことがもう1つ!』


『明日デートしよ!この返事も早くちょうだい!(^-^)』




なにこれ!!
しかも連続で入ってる!!


びっくりして彼の顔を見たらちょうど彼と目が合った



「早く返事欲しいって書いてなかった?」



えっ!! 寺崎さんこれ見たの!!


「返事なんてしない! 全く何ふざけて送ってきてるんだか!」


ぷんぷん怒っている私を見て彼は笑った



「もしかしてあの時の後輩?」


あの時のって…


そうか、寺崎さんはロビーで野村くんを見たんだった




「そう!あの後輩!私とは何でもないですよ!?」



「彼、男前だったね 」

ご飯を食べながら微笑む彼




「そうですかぁ?そんなこと無いですよっ。
寺崎さんの方が絶対に素敵です!何でいきなりこんなの送ってくるのかしら!」



「そんなに興奮する理奈ちゃん、初めて見た(笑)」


楽しそうに笑った




あっ、なんだか言い訳みたいに聞こえた?
誤解してないよね!?




…って

誤解どころか
ヤキモチすら妬いてくれないんだ…


今まで野村くんに憤慨してたのに急にガッカリした



「寺崎さん… 心配にならないですか?」


「え?」 私の顔を見た








「理奈ちゃん可愛いからモテてもおかしくないか、と思うよ 」



違うよ…

そういうことが聞きたいんじゃないよ



「ちょっとは… ヤキモチ妬いて欲しいな… 」


私は我慢できずに拗ねた





「そっか(笑)」

何も気になってない様子…



ーーー たまに私は寺崎さんがわからない



だって普通なら

彼女が他の男性からデートに誘われたらヤキモチを妬くものじゃない?

妬かない人もいるのかな


私のこと心配してないってことだよね
信頼されてると思えばいいのかな



それでも…


「理奈ちゃん?」


なんだか
悲しい



「何でもないです…」

私は箸を手に取った




寺崎さんはそれ以上この件には触れず

いつものように私が洗った食器を拭いて食器棚に片付けている



その姿を見ながら

彼の私への気持ち、本音はどうなんだろうと知りたくなった




「あの… 寺崎さん」



「んー?」

いつもと何も変わらない彼





「私のこと… 好きですよね?」


食器を持ったまま少し驚いた表情で私の方を向いた




「え?なんでそんなこと聞くの?」


なんでって…

質問した私の気持ちわからない?



「もういいです。忘れてください」



あぁ、ダメだ
涙が出そう…



黙って洗濯物を畳む


彼は食器を全て棚に片付けて
私の横に座り一緒に洗濯物をたたみだした





「理奈ちゃん」


多分 今
私の顔を見てる…



「理奈ちゃん?」

凄く優しい口調だから涙がこみ上げてきた



私のこと
好きなんだよね


うん…
わかってるよ


でも…


「たまにあなたがわからないです。不安になる。」



「僕なりに伝えてるつもりだったんだけど… ごめん…」




こんなに優しい人に
“ごめん” なんて言わせてしまった



「私の方こそ ごめんなさい」

どうしても心のモヤモヤが抑えられない



こういう時

ただ黙って抱き締めてくれるだけでいいのに




「先にこれ、しまってきますね 」

畳んだ洗濯物を持って立ち上がった



あなたはいつも淡々としていて情熱的ではない


クールと思えばいいんだろうけど

それが私には凄く寂しい時がある



甘えていいよって言ってくれるけど

あなたから私に甘えてくることはない



思い返せばハグするのも私からが圧倒的に多い

甘い言葉をかけてくれることもあまり無い




優しい人柄は充分なほど伝わる



その優しさはあなたの人間性であって
愛情の深さではないんじゃないかとか

本当に私は特別な存在なのだろうかとか


そんな風に思えてくる時がある




元々 言葉は少なめの彼だけど

たまには言葉が欲しい時がある



せめてこんな時は
ただ抱きしめてくれるだけでもいいのに…




こんなに傍にいるのに

凄く寂しい…




あなたはとても優しい人だから

良い人だから

切なそうな表情は見たくない




そんな想いもあるからこんな想いを言い出せない





「理奈ちゃん…」



そんな優しい声で話かけないで

余計に悲しくなる



私の頬を大きな手で包み自分の方に向けさせると驚いた表情をした



「どうして泣いてるの?」

戸惑いの表情に変わった




「僕 なんで泣かせちゃったのかな、、」




ーー わからないんだ



「私は… 寺崎さんが好きです。」



私の心を読もうとして私の目を見つめる



「僕もだよ?」


こんな風に私から言えばあなたも同じように応える


私達はずっとそうだった…




「僕… 鈍感だから、君の気持ちを察してあげられなくて本当にごめん… 」





それでもヤキモチすら妬いてくれないなんて

寂しいよ…




ずっと困った表情で私の顔を見つめてる

なんでこんな時に抱き締めてくれないの ?




こんな時、海人くんだったらきっと…


「お風呂の準備してきます」

立ち上がりお風呂のお湯を貯める





なんで今更また海人くんのこと思い出しちゃったんだろう

寺崎さんはあんなに優しいのに


私は物凄くわがままなんだろうか…

いたたまれない寂しさでいっぱいになった




私がお風呂から出て
次に彼がお風呂に入った



スマホに受信のランプが点滅していた


開いてみるとまた野村くんからLINEが入っていた



『返事ぐらいくれよー! 待ってるのに 』



返信をする気になれなくて
深いため息が出た


野村くんのせいで気付きたくなかったことに気付いてしまった


一緒にいるのに孤独を感じていたことを


それは恋愛の温度差みたいな感じ…

きっと私はずっと心のどこかでこれに引っ掛かっていたんだ

心の距離感で孤独を感じていたんだ




“既読” を見たのかまた野村くんからLINEが入った



『俺 本気で吉野さんが好きなんだ。ほんとはずっと前から想ってた。

新入社員で入った時は先輩としか見てなかったけど

一緒に仕事していく内に吉野さんのさりげない気遣いに沢山救われてたことを知って

次第に気になる人になってた。


いつも俺、冗談ばっか言ってたから信用してくれないかもしれないけど、この前 吉野さんの彼氏を見て悔しくなった。

なんでもっと早く告白しなかったんだろって。

諦めた方が良いんだろうけどやっぱり俺の想いをどうしても伝えたくなった。

吉野さんに彼氏がいてもやっぱり俺の気持ちは変わらない。

俺、本気で好きなんだ。

会ってくれるなら今直ぐにでも向かう。一言でもいいから返事が欲しい。』




ーーー なんでよ

なんで寺崎さんよりも情熱的なの


なんで彼から言われたい言葉をあなたが言うの!


また涙が溢れた

彼と過ごすこの空間がいたたまれなくて
あの優しい笑顔が辛くて

私は彼がお風呂に入っている間に黙って部屋を出た



ーーー



部屋を出た私は目的もなく電車に乗り
普段降りることのない3つ隣の駅で降りた




「あれ!理奈ちゃんじゃん!」

声の方を振り向くと修司くんが友達3人といた



「うわ、ひっさしぶり!なに?こんな時間にどこ行くの?」



修司くん…


「なんだ?どうした??」

辛そうな表情になっていた私に修司くんは戸惑った

修司くんは駅で友達と別れる所だった



「理奈ちゃん 飯食った?カフェでも行く?酒がいい?あ、ちょっと待ってて。」


修司くんは友達に挨拶をして私と近くの居酒屋に入った


「どうしたの?今にも泣きそうな顔だったけど(苦笑)」

「そう…だったかな(笑)」


修司くんとは引っ越しの手伝いをしてもらった以来会ってなかったからしばらくぶり

だから寺崎さんのことは知らない


彼氏ができたことを伝えると修司くんは喜んでくれた


修司くんと元彼の海人くんは親友だから今でも二人はよく会ってるんだろうな



海人くんは…
今どうしてるんだろう

聞いてみたいけど 聞かないことにした



「で?彼氏と喧嘩でもしたの?スッピンでこんな時間に街ウロウロしてたし(笑)」


修司くんのこの明るい性格に気持ちが救われる


「喧嘩ではないよ(笑) 喧嘩はしたことないよ。喧嘩にもならない… 」



「まぁ喧嘩した方が本音がわかることもあるからなぁ。相手の本音も自分の本音も。

俺なんかしょっちゅうツレとしょーもないことで喧嘩してはまた直ぐ元通りたけど(笑) 」


あぁ 修司くんは確かにそうだね (笑)


「彼女がいた時も 彼女と喧嘩しては俺が謝って元通り(笑)

俺は悪くない!と思っててもツレと違って彼女の場合は必ず最後 俺が謝ってきたな(笑) あははっ!」



「彼女が好きだから?(笑)」




「と言うより、あとあと考えたら彼女の言う方が正しいことばっかだったから(笑)」


「そうだったの(笑)」


「俺ってほら、考え無しで言う所があるじゃん?それで彼女に叱られてたんだわ(笑)」


「あはははは!(笑)」


修司くんと話しをしてたら辛さを忘れてた



「ところでさ、今、彼氏と一緒に住んでるんだろ? 黙って出て来たんだから心配してるんじゃないの?

電話とかメールとか来てるんじゃない?」



スマホの電源はOFFにしていた




「どうかな… 」

「見てみなよ。」


スマホの電源をONにしたら何回かの着信履歴とLINEメッセージが入ってきた


「ほら。心配してんだろ?理奈ちゃんの本心ちゃんと話してみなよ。なんで言いにくいんだ?彼氏なのに。」


LINEを開いてみた




『理奈ちゃん 何処に行ったの?』

『心配だよ 迎えに行くから 連絡ちょうだい 』


心配…
してくれてるんだ



「電話して迎えに来てもらいなよ。な?」


既読になったのを見たのか
直ぐに彼から電話がかかってきた



「…
出ないの?」



躊躇している私を見ていた修司くんが


「理奈ちゃん、悪い!」

私の電話を手から奪って電話に出た







ーーーーーーーーーーーー




Stay With Me 4

2018-12-12 13:44:00 | ストーリー
Stay With Me 4








私は家族以外の人と暮らすのは初めて



だから多少は気を使うのは当前

でも想像していたよりも
割りと違和感なく生活できているんじゃないかな







彼も私に過剰に気を使ってる感じもない様子

自然体で一緒に過ごしてる感じはする








“ 一緒に暮らさないとわからないこともある ”





彼は以前そう言っていたけれど
それはまだわからない





知らなかったことは

彼にはルーティンかあることぐらい






朝5時にはストレッチをしてからジョギングしに出かける


朝食は和食かスムージー




だから痩せて締まってるのかと納得した






彼は私をジョギングに付き合わせるようなことも言わない









「 今夜は外で食事でもしない? 会社まで迎えに行くから 。

これは “ デート ” のお誘いね (笑) 」




嬉しそうに微笑む彼





“ デートのお誘い ”

そういや以前もそう言った事あったなぁ




「 わかった。じゃあデートしよ(笑) 」







仕事が終わってメールをしたら
もう私の会社のロビーで待ってると返信が来た




エレベーターで降りると



「 お疲れさま 」 と爽やかな笑顔で手をあげた







長身だから黒のロングコートが似合ってる




全体的にダークカラーで渋くキメてきた彼

出会った頃とは別人みたいに格好良くなった





違う違う、元々 格好良い人だったんだよね (笑)




ん?

でも、今朝こんな服装だったかな?







「 吉野さんの彼氏? 」



背後から同じ部署の後輩 野村くんが話しかけてきた


びっくりして立ち止まって後ろを振り返った




私の肩に手を置きコソッと耳打ちしてきた


「 でも俺の方が良い男ですよ。じゃお疲れさまでした。」








後輩の野村くんは彼とすれ違う瞬間

チラッと彼を見て通りすぎた






失礼ねっ

寺崎さんの方がずっと格好良いんだから!





ムッとした表情の私に寺崎さんが歩み寄ってきた





「 行こうか 」 微笑む彼

私の背中に手を触れ歩きだした






一緒に暮らしてるのに私はますます好きになってる







「 なんでそんなに見つめるの?(笑) 」


何か顔についてるのかと思ったのか
彼は自分の顔を触った









あぁ 、もう!
何を言っても何をしても爽やかで格好良い



「 格好良いなって思って。モテそうだなと … 」




「 えっ? そんなこと言われたことない(笑)
それより僕は君が心配。 … さっきの男とか 」






さっきの男?

あ~!野村くん?





「 ないない! それはないです(笑) 」


「 そう? 」


「 後輩の一人だし、何もないです(笑) 」




彼は少し考えるような仕草をした



「 君より年下か … 」 低い声で呟く








あれ? もしかして …

ヤキモチ妬いてくれた?






「 ところで、食事が済んだら行きたい所あるんだ 」

微笑む彼








なんだ … ヤキモチ妬いてくたんじゃないんだ

ちょっと残念(笑)






寺崎さんが向かったのはスカイツリーだった



「 実は … まだ登ったことなくて(笑) 」








展望できる階まで登った


彼と見る東京の街はひときわ綺麗に見える





「 綺麗だね … 」

背の高い彼を見上げた




静かに夜景を眺めている









コートのポケットから手を出して私の肩を抱き寄せた




「 薄暗いからわかんないよね 」



え?



彼が頭に一瞬キスをした




見上げると目があって笑顔になった




小声で耳打ちしてきた

「 ほんとは唇にしたいんだけどね(笑) 」





あぁ … ラブラブだぁ

デートしてるって感じ

家で見る寺崎さんとはまた違って見える





見とれてると

彼が私の唇にキスをした






びっくりして口をおさえた



「 あんまり見つめるから … (笑) 」

照れくさそうに頭を掻いた






凄く愛されてるって実感する …






ーーーー




彼はそれからも変わらず大事にしてくれた


家事も積極的に手伝ってくれたり気づかってくれる


なんの不満もない





あぁ …

でも



気になることがひとつ





一緒に暮らしてる割にはあまり求めてこない

あっさりというか落ち着いているというべきなのか …



それくらい





たまに私からハグをすると嬉しそうな表情になるし
私が恐縮するくらい凄く優しいから

不満なんてとんでもない!






いつしか


“ 彼と結婚したいな … ”

なんて想いも湧いてきたけど …



それは私からは言いにくい








“ 君もいつかは結婚するのかな ”


他人事のようにそう言った彼の言葉が忘れられなかった










ーーーーーーーーーー


Stay With Me 3

2018-12-11 21:20:55 | ストーリー
Stay With Me 3






あの夜から

つい寺崎さんのことを考えてしまうようになった


同じマンションでいつでも直ぐに会える距離だから余計に



もう帰ってるかな …



毎日 朝の挨拶と夜にメールか電話をくれる




同じマンションだから

できることならもっと会いたいな
なんて思うのは私だけなのかな





『お疲れさま。 今、帰った。』

今夜もメールはくれたけど…



『食事しました?もしまだなら持って行きましょうか? 多く作ったので。』

ドキドキしながらメールを送ってみた



『食事はまだだよ。いいのかな?お言葉に甘えても。』



『じゃあ持って行きますね!』

会う口実ができた!




急いで幾つかの料理を温め直し
炊き込みご飯をパックに詰めて

ドキドキしながら彼の部屋のドアのチャイムを押すと笑顔でドアを開けてくれた




「ありがとう。 どうぞ、あがって。」

初めて部屋に招き入れてくれた




同じ部屋の間取りなのに家具やカーテンとかで全く違う雰囲気









一枚板のテーブル
落ち着いた大きめのソファー
深いグリーンのカーテン

テレビの後ろに間接照明があって間接照明は見えなくしている


全体的にダークカラーで落ち着いている


一人暮らしを満喫しているのがわかる





「あっ、これ 」

料理が入ったバッグを手渡した





「へぇ、凄いな!いつもこんなに沢山作るの?」


嬉しそうに爽やかに笑った



「お皿に盛りましょうか、、(笑)」


食器に凝ってるのかな
しゃれた食器が並んでいる




「もしかして、寺崎さんは料理得意なんですか?」


「え? どうして?」


「食器、素敵なものばかりだから 」


「あー(笑) 実は僕、趣味で陶芸もしてるんだ。」



ーー 陶芸


寺崎さんが陶芸をしている姿は容易にイメージできた




「いつも仕事で無機質なものを扱ってるでしょ?たまに自然の温かいものに触れたくなるんだ(笑)

自分の手で形を作り ひとつのものが出来上がるって、凄くやりがいがあるんだ。」




私が知らない世界も沢山知ってて温かい人だな

料理を盛り付けて素敵な一枚板のテーブルに並べた



「旨そうだ(笑)」
彼の顔がほころぶ



その表情に私も顔がほころぶ

凄く美味しそうに食べる姿を見てるだけで心が温かくなる



「理奈ちゃんは料理上手なんだね。きっと素敵な奥さんになりそうだ(笑)」



“きっと素敵な奥さんになりそうだ”



「寺崎さんは今まで結婚を考えたことなかったんですか?」



私の顔を見た



「考えたこと、あるよ(笑)」


そうだよね
年齢的にあってもおかしくない



「なぜ結婚しなかったんですか?」



箸を置いて手を合わせた




「ご馳走さまでした(笑)凄く美味しかった。」

沢山持ってきたのを残さず綺麗に食べてくれた




ーー さっきの質問
しちゃいけなかったのかな



「食器は僕が片付けるから。」

慣れた手つきで食器や持ってきたパックを洗いだした




「さっきの質問の答えになるかわからないけど…


洗いながら話だした



「30代に入った時 結婚を約束した人がいてね。一緒に暮らし始めて上手くいかなくなって。男と女は一緒に暮らさないとわからないこともあるんだよ(笑) 」


暮らさないとわからないことってどんなことだろう


「じゃあ同棲してから結婚を決める方が良いってことでしょうか…



寺崎さんの手が止まった


「ん … そうだね(笑)」




寺崎さんが珈琲とチョコを出してくれて
私の顔を眺める



「理奈ちゃんは結婚とか考えることある?」








ドキッとした



「今はまだ… でもいずれは…」



「 …そうか。いずれ君も結婚するんだろうね。」

優しく微笑む彼




それは

私とは結婚しない、という意味?



私も結婚とかまだ考えてないけど
考えてなかったけど…


その言葉が他人事のように聞こえて
少し寂しさを感じる




「いつか結婚したいとか考えないんですか?」


「どうかな… 結婚は一人ではできないからね(笑)」




確かにそうだけど…




「じゃあ、そろそろ帰りますね 」
立ち上がった



「え?もう? あぁ、いつの間にかもうこんな時間か…
わざわざ持って来てくれてありがとう。

凄く旨かったよ。また理奈ちゃんの手料理食べたいな(笑)」



「また作って持ってきます(笑)」


「あ、ちょっと待って、部屋まで送る。」


彼は部屋の鍵を手に取った



彼はあの初めてのキスをした夜以来
私には全く触れようとはしない

紳士的なのかもしれないけど…


ドキドキしながら勇気を出して寺崎さんに抱きついた



「理奈ちゃん… 」

戸惑ってるのが声で伝わる



「好きです… 」

彼が優しく抱きしめてくれた





「僕も好きだよ。 ただ …」

身体を離して私の目を見つめる瞳が潤んでいた


「君に触れたら抱き締めたくなる。
抱き締めたらキスしたくなる。
キスしたら帰したくなくなる。

それでも… いいの?」


私が小さく頷くと
彼は優しく唇を重ねてきた






ーーーーー






しばらくして

私は彼から合鍵をもらった


そして時々
晩御飯を作って彼の帰りを待つようになった




「ただいまー」 彼の爽やかな笑顔


「おかえりなさい」 微笑む私




“ただいま”

その言葉を聞けることに幸せを感じる




「理奈ちゃん明日 休みでしょ?
良かったら陶芸、一緒にやってみない?」

「うん。やってみたい(笑)」




次の日

彼と一緒に陶芸工房で陶芸を体験した

初めてだからなかなか上手くできない




「こうするんだよ」



私の背後にぴったりとくっついて
私の手に彼の大きな手が添えられた


その綺麗な指を見ると胸がドキドキする


「…ゆっくりね …そうそう」



息がかかるくらい顔が近い
未だに慣れなくて照れくさい



「上手くできたね(笑)」


チョコを選んでいた時のような可愛らしい笑顔の彼に私もつられて顔がほころぶ




ーーー



「また行きたいな」 そう言う私に

「じゃあまた行こう」 と嬉しそうに微笑む




私が作った少し不格好なお皿は彼の作った食器と一緒に棚に並んだ


ひとつひとつ
私が作る食器が増えてきた頃





「あのさ… 」

照れくさそうに話しかけてきた



「僕の茶碗作ってくれない… ?」

それを照れくさそうに言う彼



「まだ寺崎さんみたいに上手くできないのに?」


「ん… それでもいいんだ… 」
頭を掻きながらはにかんでいる


「いいよ。まだ上手くできないけど(笑)」


「ありがとう…(笑)」




なんだろう …
なんでお茶碗?

でも嬉しそうだからいいか





彼が使うお茶碗かぁ…

私は陶芸の教室に通うことにした



納得できるものができるまで一人で何度も通った


毎日通えるわけではないから出来上がるまでに2ヶ月もかかった




ーーー やっとできあがった!


これで寺崎さんがご飯を食べてくれるのかな

想像するだけでなんだか照れくさい



木箱に入れて大切に持ち帰った



「お茶碗、できました。時間かかっちゃったけど。」



嬉しそうな表情をして自室から何かが入った箱を持ってきた


「実は僕も君のを作ったんだ(笑)」



箱を交換した



「僕から開けても構わない?」

彼は静かに箱の蓋を開いた




「あ…ありがとう 」

感無量な表情で丁寧に手に取り眺める




「凄く… 温かい… 嬉しいよ…

それ以上の言葉が見つからないような表情で
瞳を潤ませているように見えた


私も彼から渡された箱を開けてみると中には白に優しい桃色が入ったお茶碗が入っていて


私はゆっくり丁寧に箱から取り出し手に取り出した




わぁ…

嬉しい




手にしっくり馴染む


「可愛い … 嬉しい」

私のために…



私のことを想って作ってくれたことに
心から感動して胸が熱くなる



陶芸って凄いな

作り手の気持ちがこんなに伝わるものなんだ





「あの… 理奈ちゃん。僕と一緒に暮らさない?」



え?



彼は はにかみながら頭をかいてる



少し驚いたけど
私には迷いがなかった


「はい。」



嬉しそうな笑顔になった




「ありがとう。嬉しい!」


いっぱいシワを作って
心から嬉しそうに笑うこの人を



私は

この人を愛してる…






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Stay With Me 2

2018-12-10 14:05:45 | ストーリー
Stay With Me 2





そのデートからスイーツ以外のメールが届くようになり

私もメールが来るのを楽しみに待つようになっていた



『 今週土曜、飲みに行かない?
今度は正式な “デートの申し込み” なんだけど。』




正式なデートの申し込み…

その言葉にドキドキしてきた…






『わかりました。楽しみです。』




“楽しみです” なんて言葉を送ってしまった…


『嬉しいな!僕も楽しみだよ!』


その文面から嬉しそうな寺崎さんの笑顔が浮かんだ





ーー 土曜日


この日はお店の近くで待ち合わせをしていた


寺崎さんだ …











スラッとした長身で

いつものように背筋が伸びた綺麗な姿勢

手足が長くて顔も小さくて本当にスタイルが良い



私は寺崎さんの背中に軽く触れると

気づいて振り返った寺崎さんは私を見下ろした



「こんばんは…」
はにかんだ表情の寺崎さん


「こんばんは…」
その表情に私もつられてはにかんだ


「じゃあ、、行こうか」


一瞬 …

寺崎さんの手が私の背中に触れた

寺崎さんが私に触れたのはこれが初めてだった



その一瞬で

いつの間にか寺崎さんが私の中で気になる人になっていることに気がついた


気がついちゃったから…
凄く意識しちゃう



一人の男性として…




「…理奈ちゃん?」

「え?あ、ごめんなさい、、 」


つい、見つめ過ぎて話を聞き逃していた


「そんなに見つめられたら恥ずかしいな(笑)」

「ごめんなさい…」 
私の方が恥ずかしい!



「今日も眼鏡じゃないんだなと思って…」


ごまかしてみた

心まで見透かされてるような微笑みに胸がドキドキする

こういう表情が大人と感じる



「眼鏡かけてる方が良かった?」

「眼鏡をかけた寺崎さんも好きですよ。」

つい“ 好きです ” なんて言葉を使ってしまった



「理奈ちゃんは眼鏡の男、好きなの?」



眼鏡かけてる男性が好きってことでは…

うーん… 
どう言えばいいのかな



複雑な表情になった私を見て





「眼鏡の男が好きというより…

僕が… 好き… とか…」




え!?


ほんとに見透かされたようで驚いた



「いや、そんな訳ないか(笑)もう40になる僕なんかにね(笑)自惚れ過ぎだね(苦笑)ごめん。」


そんなことないのに…


「年齢差って気になります?私は全く気にならないです。

私は寺崎さんのこと一人の男性として見てま…けど… 」



少し驚いた表情から優しい笑顔に変わった



「ありがとう…

今さらだけど、君は若いから気になるようになってしまって… 」


少し残念そうに微笑んだ


「僕と一緒にいてつまらなくないかなとか

君ならもっと年相応の若い男とも出会えるはずなのにとか

僕の身勝手な思いに付き合わせてるんじゃないかと思うこともある。

だけどやっぱり僕は君と一緒にいたいし、また君に会いたいと思ってしまう。」




ーー これは告白 … ?





何か言葉を
返事をしなきゃ、、




「 一緒にいてとても楽しいです。

私も寺崎さんは気になる存在です… 」





「 ほんとに? 無理してない? 」

戸惑っている





「 ほんと、です … 」


凄く

恥ずかしい

寺崎さんの顔が見られない



ーー 二人とも沈黙した





この沈黙が私の緊張感を増した




「 あの … 理奈ちゃん」

彼は言いにくそうに話しかけてきて
目を合わせた




そして不安混じりの眼差しで真っ直ぐ私を見つめた


「 好き… なんだ。 君のこと。」





ーー その表情に真剣な気持ちが現れていた



心臓の鼓動が早くなって額が汗ばんできた




「 僕と付き合って欲しい … 君が、良ければだけど。

あ、返事は今じゃなくても良いから!」



大人の寺崎さんが
一生懸命 恥ずかしそうに告白をする姿に

胸がキュンとした




「 … 今 返事をします。」



その言葉に寺崎さんは急に緊張の表情になりますます背筋を伸ばして息を飲んだ



「 よろしくお願いします… 」

お辞儀をし視線はそのままテーブルから上げられなかった

今 多分私の顔は真っ赤になってるはず





「 ほんと?… ほんとに?」


視線を上げると

私の顔を覗き込むように
信じられないというような表情で私の顔を見てる


「 ほんと、です。」



パァッと表情が明るくなった


「 ありがとう ほんとに嬉しい!断られるのを覚悟してたから(笑) 」


寺崎さんは本当に嬉しそうに
沢山のシワを作って私に笑顔を向けた




その笑顔に
今頃になって胸がドキドキしてきた



ーーー




お店を出ると気温が下がっていた


火照った顔にはちょうど良かった





「 少し寒くなったね。もう一件行く?
それとももう帰ろうか。」




「 じゃあ、もう一件だけ … 」




「 わかった、そうしよう。」

彼の手が私の背中にふと触れた



その手は私の肩を抱くこともなく
手を繋ぐこともなく並んで歩いた



でも二人の距離は彼の肘が触るくらい近くなった








彼の行きつけのバーの扉を開けた




バーのマスターは年配の渋い男性で落ち着いたお店だった






「 女の子連れて来るの初めてだよねぇ? 彼女?」



「 あぁ、うん。そうだね(笑) 」

照れくさそうに私の顔を見た









もう今夜から私の彼氏なんだ …



彼の横顔を見つめる

やっぱり格好良い人だったんだな …






綺麗な横顔 …

私と違って(笑)







カウンターの下で彼がそっと私の手を握った



初めて手を握られてまたドキドキする






温かくて大きな手だな

海人くんより長い指なんじゃ …





また海人くんを思い出してしまった




でも以前みたいな胸の痛みがない

海人くんへの想いは消えてたんだな







ううん

消してくれたのは寺崎さんだ





寺崎さんを見つめる





「 可愛いでしょ? 僕の彼女(笑) 」

嬉しそうにマスターにそう言いながら私の顔を見た




「 うん(笑) 彼女にはおっさん過ぎじゃ?(笑) 」




彼は穏やかに微笑んだ



「 やっぱりそうかなぁ(笑) 」
はにかんで頭をかいた




私はあまり喋ることなくずっと飲んでいたから
立ち上がって自分が酔っていたことに気がついた




お店を出てタクシーで帰ることにした






「 ごめんね、僕が気がついてあげられなくて … 」


すまなさそうに微笑んで部屋の前まで送ってくれた






「 すみません、私が飲み過ぎちゃっただけです 」


鍵を探す私を背の高い彼は包みこむように優しく抱き締めた




わっ …




「 好きだよ。ほんとに … 」




彼は私に優しく唇を重ねた




彼から少しバーボンの香りがした

… 大人の香りだ







「 おやすみ … 」



優しく微笑んで

私が部屋に入るまで見守ってくれた




恥ずかしくて彼を直視できずゆっくりドアを閉めた






彼の足音が次第に遠ざかっていく








あぁ …

凄くドキドキする




“ 好きだよ。ほんとに … ”

いつもより少し低めの
落ち着いた声だった



私が思っていた以上に彼の身長が高いことも実感した

そしてコートからフレグランスに混じる男性らしい良い香りがした




今日この部屋を出る時は

まさか寺崎さんとキスするなんて


ーー 想像もしてなかった







酔ってるせいもあり頭が

ぼんやりする …



まるで夢みたいに現実感がない














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