beautiful world 4
それから2日後
出勤してきた葉山さんは風邪を引いている様子はなく私は内心ホッとした
風邪を引いてたとしたらきっと私のせいだっただろうから(苦笑)
でも…
なんか元気なかったな
今日はいつもみたいに厳しく言われなかった
会社から駅に着いて電車に乗り込んだ
座ってスマホを開いたけれど
今日は先生からメールは来ていなかった
先生とのメールのやり取りを眺めた
早く日曜が来ないかなぁ…
「はぁ…先生… 」
「センセ?」
ハッとして見上げると葉山さんが目の前に立っていた
周りを見渡すと沢山空席がある
なんでわざわざ私の前に立ってるの!?
「なっ、なんです!? 空いてる座席に座らないんですか?」
というか
同じ時間の電車に乗った事に気づかなかった
「降りるの次の駅だし。で、なんのセンセイ?」
「葉山さんには関係ないですっ。」
スマホをバッグに入れた
「その“センセイ”のことが好きなのか?」
言い当てられて顔が急に熱くなった
「こ、個人的なことはノーコメントです。」
「そういや傘。」
あ、借りてた傘は自分のロッカーの引き出しに入れたままでまだ返してなかった上にお礼も言えてなかったんだった!
「傘、貸していただき ありがとうございます。今、会社のロッカーに入れてありますので明日お返しします。」
「飯。」
「は?」
「礼の代わりに飯奢ってよ。」
奢るのは構わないけど葉山さんと二人きりだなんて罰ゲーム?
「…わかりました。」
電車が減速し葉山さんが降りる駅に到着した
「今から。」
「は?今から!?」
葉山さんが駅で降りかけて
ついてこいと言うように振り返ったから渋々一緒に電車を降りた
いつもなら降りない駅
見慣れない風景 ーー
「どこ行くんです?何が食べたいんですか?」
「美味いラーメン屋があるから。」
奢るのラーメンでいいんだ?
店に入るともうカウンター席しか空きがなかった
カウンター席に座って注文を待つ間 葉山さんはラーメンができるのを集中して見ている
凄く真剣に見ているもんだからラーメンの食べ歩きとか研究とかしてるんですか?と冗談で言ったら“なぜわかった!?”とばかりにギョッとして眉間にシワを寄せ私の方を見た
目の圧っ!!
恐いから!!
でもこの人
嘘つけないんだろうね(笑)
ラーメンを食べて約束通り私が支払いをして店を出た
ラーメン研究家?の葉山さんが言ってた通り本当に美味しくて内心また来ようと思いながら
「じゃあ、ここで。」と帰ろうとした
「ご馳走さま。珈琲奢るし。あっちな。」
駅とは反対方向を指差した
は?もう帰れると思ったのに
それになんでいつもそんなに強引なのよぉ…
普通は“行かない?”とか尋ねない?と内心イラッとした
「私、もう帰りますから。」
「あの看板の店。近いだろ。」
違う!距離の問題じゃないっ!
腕時計を見るとまだ7時
遅い時間じゃないけど…
これで最後最後…と渋々ついていった
雰囲気の良いカフェでお客さんは女子とカップルばかり
「なんでこの店に誘ってくれたんですか?」
無言で返事を考えてる
考えること?
「…前を通るだけで入れなかったから。」
ん?
“入れなかった“?
「男一人で来る店じゃない。」
え? あぁ〜
女子ばかりで入りづらかったってことね
「意外… 」
少しムッとした顔をした
「すみません…(苦笑)」
意外にシャイ?気が小さい?
会社ではそんな素振りはないけど
しかもあんなに女性社員に人気あるのに
葉山さんファンが聞いたらギャップに萌えるんじゃない?(笑)
私は全然萌えないけどねっ!
「彼女と来ればいいじゃないですか。」
いないだろうけど(笑)
「居れば君とは来ない。」
そりゃそうだ
「ふふふっ(笑)」
オーダーを取りに来た若い女の子に葉山さんは
「ブレンドとハニーワッフル。」と伝えたことに驚いた
「私はブレンドで。」
さっきボリュームのあるラーメンを食べて今度は甘いワッフル?
しかも辛口の葉山さんが甘いワッフルって…
「くくくっ(笑)」
笑いを抑えたけど堪らなくなった
「なんだよ。」
表情を変えず水を飲んだ
「よく食べるんですね(笑) しかもワッフル…ふふっ(笑)」
「ここはワッフルが美味いらしいんだよっ。」
またムッとした
この人のこの不機嫌な表情を今まで恐いなぁと思ってたけど
こういう一面を知ったら不思議と全然恐くなくなった
「今度は葉山さんファンと来てあげれば良いじゃないですか?」
「ファンって… ?」
え?自分にファンがいることに気づいてない?
「いや、いいです(笑)」
「‥... 」
真顔で私の顔をずっと眺めている
「なんです?あまり見ないでくださいよっ」
「その“センセイ”のことが好きなのか?」
センセイ?
まだそれ聞く!?
「葉山さんは好きな人いないんですか?」
「だから。センセイが好きなのかって。」
もう!しつこいな!
話を変えようとしたけれど答えないとそればっかり聞いてきそう
「好きですよっ。それがなにか?」
答えましたよっ
これで良いですか?
「そうか。」
少し不機嫌そうに歌を組んで窓の外に視線を移した
「何度も聞いてきてそれだけですか?」
ほんと何考えてるのかわかんない
オーダーしたコーヒーとワッフルが運ばれてきた
「わ、美味しそう… 」
と私が呟いたからか
「すみません、皿とフォークください。」
と葉山さんは店員さんに声をかけた
自分の分はほんの少しだけ残し殆どは私にと差し出した
「俺は味がわかればそれで良い。」
結局 葉山さんはあまり語らず店を出た
「駅まで送る。」
「いいですよ、道覚えてますから(笑)」
そういったのに葉山さんは駅に向かって歩きだした
相変わらず人の話を聞かないな...
すると
突然腕を引き寄せられ驚いた
背後から自転車が走ってきたことに気づかなかった
「あ、ありがとう、ございます… 」
あぁ、びっくりした!
というか腕を握るこの手を離して欲しいんですけど、、
「…あのさ、」
握る手に力がこもった
「俺、田中さんには…」
「はい…?」
掴んでいた手がやっと離れた
「…いや、すまない…」
それから駅までずっと黙ったままでなんとなく居心地が悪かった
言いかけてやめられると気になる
駅に着くと
「また、明日。」といつもの様子で葉山さんは背を向け歩きだした
「なんだったの…?」
ーーー
金曜の夜
一週間の業務を終えた
日曜には早見先生と会える
それだけで私の心はウキウキしていた
仕事が終わってデスクの片付けを終えロッカーから荷物を取り出した
そうだ!今日こそ葉山さんの傘を返さなくちゃ
傘を持って部署に戻ると葉山さんも帰る所だった
「これ、長くお預かりしていてすみません。ありがとうございました(笑)」
「いや。」
傘を受け取りその傘を見つめた
「...葉山さん?」
「帰る。」
傘を鞄にしまった
今一瞬何か考えてた
いつもの事だけどほんと思っていることを言葉にしない人だな
葉山さんはやっぱり私の隣に座り
ずっと無口だった
次は葉山さんが降りる駅か...
「明後日の日曜だったよな… その、、“センセイ”と会うの。」
なんで知って…
あ、前にスマホ見られたんだった
「よく覚えてましたね(苦笑)」
「大雨にでもなればいいのに。」
「なんでですかっ」
ほんと意地悪!
「じゃあ、な。」
私と視線を合わすこともなく電車を降りた
さっきの
降りる時の一瞬の表情…
なんであんなに悲しそうだったんだろう
“大雨にでもなればいいのに”
あんなこと言われて悲しくなるのは私の方なのにーー
ーーーーーーーーーー