気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

たしかなこと (2)

2020-03-25 22:52:02 | ストーリー
たしかなこと (2)



部長はいつもと同じように職務をこなしていて
私を特別扱いはしない

それに不満は全く無いしむしろその方が良い

でもせっかくLINEができるようになったのだから仕事が終わった夜にでも たまには何か送って欲しいなと思うようになった

私から送れば良いんだろうけど どこまで踏み込んでいいのか 距離感がわからない

部長はやっぱりただの食事友達という感覚なのかもしれないし

もしも好意を持ってくれているとしたら部長も私との距離感がわからないのかもしれない

こういう時はどうしたらいいんだろう
私から誘う? それとも誘いを待つ?

うーん…


あれから1ヶ月何も変わらない


LINEの受信音がして開いてみると部長からだった

『笹山さん。本日の業務も御苦労様でした。突然ですが、今週末予定が入っていなければアウトドアしに行きませんか?』

アウトドア!!
部長がアウトドアするようなタイプには見えないわ…

へぇ~!でも面白そう!
『楽しそうですね!是非!』と返すと

返ってきた返事に戸惑った
『日帰りと宿泊、どちらがいいですか?』

しゅ、宿泊!?
これは… もしや…
いやいや、、まさかね


『日帰りでも構いませんよ。その場合は朝から行きましょう。宿泊ならグランピングでも良いし、車で山梨辺りの山頂に移動してシュラフや毛布を持参して天体観測という選択もあります。 』


天体観測? あぁ!星を見ようって言ってもんね


真面目な仕事ぶりの今日の部長が頭に浮かんだ

本当にギャップが大きいな
天体観測とかグランピングとかしそうに見えない


『天体観測に行ってみたいです♪ 』

『ではそうしましょう。空が明るくなる前まで起きていられそうですか? もし眠くなったら寝ても構いませんが、せっかくなので。』

『がんばります!!(笑) 楽しみです!!』

『わかりました。では身体が冷えないように温かい服装でお願いしますね。』



本当に 星を見に行くのね



「は、はい、、(笑)」

一瞬だけ変な勘繰りしちゃった
… 恥ずかしい



ーーー




楽しみにしていた週末
待ち合わせは夕方


降水確率は0%
晴れてて良かったなぁ(笑)

曇ってたり雨でも降ったら部長と会えなかった



部長が近所の公園まで車で迎えに来てくれた

紺のステーションワゴン
トランクにはクーラーボックスやキャンプ道具、天体望遠鏡が積んであった

たまに一人で天体観測に行っていると話してくれた

意外すぎる趣味(笑)



「僕一人ならおにぎりと卵焼きとソーセージぐらいしか作って行きませんね(笑) 貴女が一緒なのでもうちょっと用意しました。」


切った野菜と焼き肉用の肉がクーラーボックスに入っていた


「焼き肉好きでしたよね。」

「焼き肉できるんですか!?」

「ええ、できますよ(笑) こちらも持ってますので。」


キャンプ用のガスやフライパンもあった

「部長ほんとにギャップ凄いですね… 」

「そうですか?僕の趣味なんですよ。」


ーー あれ? 今、“僕” って言った



「釣りなんかもします。もっぱら一人遊びばかりですよ。では行きましょうか。」


運転する姿 初めてだ
チラチラと横目で見てしまう

車の中って距離感が近くなる



部長って…


お腹も出てない
年齢の割にスタイルが良い

日頃 食事も気にしてるようだし


ハンドルを握る部長のゴツッとした男っぽい手に血管が浮き出ている



ーー 男性なんだなぁ


今さら意識してきてなんだか落ち着かなくなってきた




車の中はFMラジオが流れている

「この曲 本当に良いですね。好きです。」
小田和正の “たしかなこと” が流れてきた


何故だか この曲を聴くと
胸が熱くなって泣けてきちゃう…

一生寄り添いたい人と出逢えたら
こういう想いになるんだろうな…



「部長は今までどんな恋しましたか?」

「恋ですか?」

「想像つかなくて(笑)」

「ありますよ。そうですねぇ… 」


学生の頃 付き合っていた彼女の話を聞かせてくれた

陸上部に入っていた部長は 彼女が毎日部活が終わるまで待っていてくれて一緒に帰っていたとか

大会前には必ず御守を渡してくれたこととか
可愛らしいエピソードを教えてくれた

大人になってから付き合った彼女はお互い仕事が終わると毎日電話をしていたらしく

昔はまだスマホが無いから毎日家電にかけていて彼女のお母さんが出ると申し訳ない気になっていたとか (笑)


「今の時代なら携帯があるのであんな苦労はしないで済みますね。」

部長が恋をするとどんな(男の)顔をするんだろう

「部長は優しくてロマンチストですよね(笑) 部長とお付き合いするとワクワクすることばかりかも(笑)」

「… え?」少し驚いた反応をした


あっ、、
何言ってるんだろ 私



「ははっ(笑) すみませーん(笑) なんか変なこと言いましたね(笑)」

「そう思って貰えると嬉しいですね(笑) 今夜は星が 綺麗に見られます。」



今夜の天体観測のことを言ったんじゃないんだけどな…




いよいよ山の中に入って行った

高原の公園内にキャンプもできる所があって
水道とトイレも完備されていた

他に車が数台来ていた
思ったより少ない

「ひとまずはここで食事にしましょう。今夜は流星群が見られますよ。食事したらあの階段から上に昇って行きます。今夜は流星群が見られますので上は外灯を消しているそうなので(星が)よく見えるはずです。」

そう言いながらトランクに積んだ荷物を降ろして手慣れたように準備を始めた


「座っててください。僕がやりますから。」

初めてで何をしたらいいのかわからない私はお言葉に甘えて座らせてもらった

普段から卒のない部長は こんな時もやっぱり無駄のない動きで準備をしていた

「僕一人だったら本当に誰もいない山の中に行きますが、今夜は貴女が一緒なのでね(笑)」

だから整備された所を選んでくれたのか…



ちゃんと考えてくれていたことに感動…
紳士的なんだなぁ



「部長、すみません、、」

「こんな所で部長はやめてくれないかなぁ(苦笑)」


え?じゃあ何とお呼びすれば…

「白川さん、でよろしいですか?」

「部長よりかはいいですね、それでもまだ堅苦しい感じはありますが(笑)」

「白川さんも硬苦しいですけど?(笑)」

冷えたビールと膝掛けを持って私に差し出した

「では、笹山“さん”。これ、冷えないように。」

笹山“さん” って
“くん”呼びとさほど変わらないと思うんだけど(笑)


「二人の時は無礼講で構いません。」



白川さんの方が私より硬いですよ?

野菜を焼きながら私に視線を向けた


「…やはり、“香さん” でも構いませんか…?」


え!?
いきなり名前呼び!?

急に距離を詰めてきた感!




「は、はぁ、、構いませんけど… わ、私の下の名前までご存じだったんですね(笑)」

「はい。皆さん全員覚えています。」


なぁんだ
私だけじゃないのね


「名字以外で呼ぶことはないですがね(笑) 肉焼けましたよ。」


乾杯をした

どうして外で食べる物ってこんなに美味しいんだろ! あ~ビールも美味しい!


「ありがとうございます(笑) 部長!美味しいです!」

「部長じゃないですよ(笑) 喜んでいただけて良かった(笑)」
優しく微笑んだ

こんな風によく微笑むようになってくれて嬉しい


ーーー


時間をかけて食べて飲んで のんびり落ち着いて
片付けをしてトランクに不要な物を積み

部長は大きなリュックを背負って天体望遠鏡を肩に担いだ

「行こうか。」
3分程 昇ると展望台があった

家族連れやカップルが数組がもう天体望遠鏡を覗いていた

二人きりじゃないんだ… 残念(笑)

慣れたように天体望遠鏡を組み立てて調整をしている
「白川さん。あっちは?」
少し離れた所は人がいなかった


「… あちらにしますか? トイレ少し遠くなりますけど。」

「大丈夫です。」

「じゃあ移動しますか。」


誰もいない所に移動した
さっきの開けた展望台の人は暗くて見えない

「こちらの方が見やすいですね。移動して良かった。」
レンズを覗く白川さん

部長には下心とか無いんだなぁ~
下心があるのは私か(笑)


「見てみますか?」
レンズを覗いた

わぁ…
全身鳥肌が立つほど綺麗に星が見えた


「凄い… こんなの初めて見た 」

「良かった。貴女の初めての経験が僕で嬉しい。」

またドキッとした
それって初エッチの時に言うよなセリフでは…(笑)

ほんと部長の発言には笑っちゃうな(笑)

なら…
「初体験が白川さんで私も嬉しいです(笑) 」

「 あ … そう、か、、」
気付いたみたい(笑)
暗くて表情がよく見えないのが残念(笑)

「寒く、ない、ですか? 」
今 動揺してるような(笑)

表情がわからない分 声や話し方で何を考えているか少しわかりやすい

「冷えてきましたね… 」
リュックをゴソゴソと探りだして膝掛けを私にかけてくれた

「湯を沸かしますね。」珈琲を入れてくれた



隣に座る部長が珈琲を飲みながらゆっくりと話始めた

「香さんは… やはり結婚を望んでいるのですか?」

ーー え?

「結婚… ですか?まぁ… いずれは… 相手次第ですけど。彼とはもう自然消滅になってしまいましたから… いつの話になるやら(笑) 」

「そうなんですか。今は好きな人はい
ないのですか?」



ーー なんて答えよう…



「好きな人は… います。」

「そうなんですね。前の彼、ですか?」

「いえ… 」


部長が…
好き なんですけど…



「僕はその人を知っていますか?」

相手は社員なのかを聞いてるんだな…



あなたなんです、なんて
告白できない


「あ、来ましたよ。」

空を見上げるとチラホラと流れ星が見えはじめて
展望台の方から歓声が聞こえてきた


「なんだか感動で鳥肌立ってきました… 」
初めて見る流星群 本当に何秒かに一個見える



「こうして貴女と見られて良かった… 」



の上で綺麗な月を一緒に見た時を思い出した

「あの時の白川さんは “綺麗な月ですね” と言いましたね。」


「そうですね。あの言葉の隠語を香さんは知っていますか?」



やっぱり部長は知ってて言ったんだ…

それは私に愛の告白をしたということになる



「あの時貴女は “手が届きそう”と答えましたね。その言葉の意味も知っていますか? 」

それは “私もあなたが好きです” という意味になる ーー


どうしよう
心臓がバクバク鳴って汗が吹き出てきた


「あ、後で知りました。でも、あの時そう答えて、、良かったと思っています。」


少し沈黙した
その沈黙が物凄く長く感じて戸惑った


「ぶ、部長?」

「すみません、驚いてしまって、、」



ドキドキする

驚いたってどういう意味!?




しばらく黙ったまま空を眺めた

時々遠くから聞こえてくる歓声で二人の沈黙をより実感する

少し離れて座っていた部長が私の隣に座り直した



「僕は今… 貴女に恋をしています」






ーー 部長が私に恋 ーー








「私も、部長が好き、です…」

「… 男として、ですか?」



表情は見えないけど
声だけで緊張してるのが伝わる




「はい…」

「貴女の顔がはっきり見えなくて… 残念です…」


部長の手が頬に触れた


その手の大きさと体温に
私の心臓は壊れそうに激しく鼓動を打った




優しく柔らかな彼の唇が
私の唇にゆっくりと軽く触れて

そしてまたゆっくりと唇が離れた


バーボンの香りと少しのフレグランスの香りが混りあっていた





「…すみません」


え?
今キスしたことを謝ったの?


「決して酔った勢いなどではありませんから。」



わかっていますよ(笑)

「… はい(笑)」







まだ暗いけれど夜明けも近くなってきて展望台に人はいなくなった


「朝日も見て帰りましょうか。」



海岸線を走って車を停めて海岸に降りて歩いた

「珈琲 飲みますか? 」
お湯を沸かして淹れてくれた

朝の空気は澄んでいた


「海辺なので少し寒いですね。」
車の後部座席に載せてあった膝掛けとダウンジャケットと肩にかけてくれた

「優しいですね… 」

「それは貴方だからですよ。」
さりげなく胸がキュンとなる言葉をくれる


一晩で急転直下の如く恋に落ちた

次第に空が明るくなり
朝日が昇り始めた

陽が昇るのを見るなんて初日の出ぐらいしかないと言うと部長は微笑んだ



「眠くないですか? 」

「少し(笑) でも大丈夫です!」

「でも冷えてきたでしょう。帰りましょうか?」

車に荷物を載せ 車をゆっくり発進させた




私はいつの間にか眠ってしまっていて

目が覚めると 少しシートが倒れていてダウンの膝掛けと部長のダウンジャケットをかけてくれていた

いけない!着くまで起きてるつもりだったのに!


「まだ寝てても大丈夫。着いたら起こしてあげるので。」

「いいえっ!起きてます。私一人寝るなんて申し訳ないですから。私が運転できるなら変わりたいんですけど!」

キョトンとした表情から笑いだした

「気にしなくていいのに(笑) 夜釣りに行く時は徹夜だし慣れてるよ(笑) 」

「そうなんですか… 」

「それに、貴方の寝顔はとても可愛いので疲れなんて吹っ飛びます。」

「寝顔!?」
またカーッと全身が熱くなった

恥ずかしい!
そう言うことサラッと言われると超恥ずかしい!

「そ、そんな 恥ずかしくなること言わないでいただけますかっ」

「本当にそう思ったんですが。」

「それと、」信号が赤に変わって車を停車させた

前に視線を向けたまま
「眠っている貴方についキスをしてしまいました。すみません… 」

えっ、、

その言い方にまた胸がキュンとした
「そう… ですか… 」

「断りもなくすみません… 」

断りもなくって
「断りなんて、いらない… ですよ… 」

「あ… はい… 」
目が泳いだ!照れたのかな

「今度は眠っていない時にお願いします… 」

私をチラッと見てまた前を向いた
「では… 次の信号待ちの時に… 」

信号は青に変わって車を発進させた
次の信号待ち?

信号がある度にドキドキする!
だって昨夜は真っ暗で顔がよく見えなかったから…

あ、信号… 青
また信号… 青

「なかなか停まれませんねぇ… 」
もしかして赤を期待してる?

「なかなか停まれませんね~(笑)」

「次は赤、次は赤、、」
願ってる白川さんが異常に可愛い


その願い通り 次の信号は赤になった
隣車線にも車が停まって白川さんは隣の車をチラッと見てまた前を向いた

私もその車を見たら小さな子供達を乗せた車だった

流石に… ね(笑)



結局 タイミングが合わなくて自宅近所の公園まで送ってもらった

「送っていただきありがとうございました。本当に楽しかったです。落ちていく星も昇る太陽もどちらも綺麗で夢のようでした(笑) 」

「僕も夢のようです。このまま連れ帰りたい… 」

「えっ、、ははっ(笑) 」心臓がバクバクしてきた

「帰ったら少し寝てくださいね。」

「あ、はい… 」
まだ帰りたくないな… なんて思いつつバッグを手に持った

「じゃあ、、帰ります。」
ドアノブに手をかけると優しく肩を引き寄せられキスをした

「なかなか赤にならなかったから、、」

彼を見つめると抱き締められた

「困ったな… そんな表情されると本当にこのまま連れて帰りたくなるじゃないですか…」




ーーー



シャワーを浴びながら唇に残る感触でキスを思い出す

… あー、もう、恥ずかしい!



“僕は貴女に恋をしています”

“貴方の寝顔はとても可愛いので疲れなんて吹っ飛びます”

“このまま連れて帰りたくなるじゃないですか”


そういう瞬殺の言葉をサラッと放つもんだから…

あ~もう、なんなの?
会社での白川さんと別人なんだけど!

キスまで優しいし…
絶対好きになっちゃうでしょ…

私はどんな顔して会社で会えばいいの?







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