Stay With Me 13
ぼんやりしている理奈ちゃんの顔を撫でた
それにしても疲れた
眠い…
僕がまだ20代ならこんなに疲れないだろう…
まだ朝の10時50分…
時間はあるから
少しだけ ーーー
…………
「 …行さん 」
意識を失うように眠ってしまっていたようで
理奈ちゃんはもう出かける支度ができていた
「起きられる? もう少し寝たい?」
えっ、今何時だ!?
飛び起きて時計を見るともう2時半になっていた
会社の飲み会明けで
今日ドレスを見に行く時間は余裕を持って夕方の4時にしていた
その後、夜はディナーを予約してある
( これは理奈ちゃんに内緒 )
「ギリギリまで寝かせてあげようと思って (笑)
無理なら今日はキャンセルするけど?」
「無理じゃない!直ぐに支度する!」
急いでシャワーを浴びて支度をした
ーーーー
サロンを出るともう外は暗くなっていた
「そろそろ食事をしに行こう。昼飯も食べてないしお腹空いただろう?」
予約していることを内緒にしていた店に入って行く
「え? ここ予約してたの??」
「あぁ。たまにはこういう店でデートも良いだろう?」
肩を抱いて見下ろした
「でも高そう…」
「全然大丈夫(笑)」
「結婚でもして子供が生まれたりなんかしたら贅沢な外食は年イチね!」
理奈ちゃんは本当にしっかり者の倹約家だ
「年イチって、それは少ないだろう? せめて誕生日とか結婚記念日、クリスマスとか、、」
「私がご馳走を作るから~」
「理奈ちゃんのご馳走か(笑) なら… まぁ(笑)」
スマホで撮ってもらったいろんなパターンのドレスを眺める理奈ちゃんの表情はとても幸せそうだった
ドレス姿の理奈ちゃんはとても綺麗だった
「ほら、この(写真の)行さん、ほんっとに素敵でもうモデルさんだよ(笑)
ドレスを見ていたら、あ~ほんとに結婚するんだなぁって実感した(笑)」
“結婚するんだなぁ” か
一瞬 原さんの悲しげな微笑みが浮かんだ
“次 会う時は理奈のご主人さんになってるのかなぁ”
「 …… 」 僕の顔をじっと見た
「 …もしかして今、プロポーズ早まったなとか後悔してたりして?(笑) ははっ 」
「そんなこと思ってないよ(笑)」
「気にし過ぎだね、私(笑)」
一瞬 心を見透かされたのかと思った
プロポーズを早まったとは思っていない
でも…
他の女性を思い出してモヤモヤする今の状態で結婚なんて
でも理奈ちゃんに気持ちが冷めたという訳ではない
なのに
僕はどうしてしまったんだろう
店を出てちょっとした時
斎藤から電話が鳴った
『そこで待ってろ。』
それだけを言って電話が切れた
そこで待ってろ??
人が行き交う中から斎藤が小走りで現れた
「あ、斎藤だ。」
「えっ?」
斎藤が少し手を挙げた
「よう!偶然だな。何してんの?」
「食事してきたとこ。斎藤は?」
「俺は仕事終わって飯食っ… て…」
斎藤が僕の後ろにいる理奈ちゃんに気付いた
「は、はじめまして… 」
少し緊張したように理奈ちゃんが挨拶をした
「あ、、」
斎藤は戸惑いながら理奈ちゃんにぎこちなく挨拶をした
「どうも、、初めまして… 」
あの斎藤が 少し動揺の表情を見せた
「彼女の吉野 理奈ちゃん。こっちは斎藤ね。」
斎藤が理奈ちゃんを凝視しているから理奈ちゃんは僕の顔をチラッと見た
「なんでそんなに見るんだよっ 」
「あっ、いや、、すまん、、今から二人でどこ行くんだ?」
「決めてないけど、斎藤は?」
「飯食ったからもう帰るとこだったんだが… 」
斎藤は理奈ちゃんに優しく微笑んだ
「とこかで話さない? やっと(君と)会えたから。」
年期を感じる洒落た喫茶店の扉を斎藤が開いた
その瞬間
珈琲の良い香りが漂った
耳障りの良い落ちついたジャズが流れている
あれは…
レコードか!
レコードの音ってやっぱりいいな…
品の良い白髪のマスターがカウンターの中で珈琲をたてていた
アンティークな家具もセンスが良い
置いている物も全て
あのマスターがこだわってチョイスした物達のように見える
やっぱり斎藤はさすが
良い店 知ってるな …
「良いね、ここ。」
「落ち着くだろ? ここのカツサンドも絶品なんだぞ(笑)」
理奈ちゃんは嬉しそうに斎藤を見つめてる
「理奈ちゃんは何にする?」
斎藤がメニューを差し出した
「あ、私は… 」
今、理奈“ちゃん”って言ったな!?
「 …お前、馴れ馴れしいぞ。」
少しムッとした僕に斎藤が僕に微笑みかけてきた
「可愛いな、ふふっ(笑)」
「何がだっ、、」
「お前じゃない(笑) 理奈ちゃんが(笑)」
だからお前が理奈“ちゃん”って言うな!
全く馴れ馴れしい!
「あ、あの、私は、えーっと、じゃあ、マンデリンで… 」
初対面の男に名前で呼ばれたらそりゃ戸惑うよな
「お、渋いとこ行くね(笑) お前は?」
「じゃあ、モカマタリ。」
「OK。」
三人が珈琲をオーダーして
「理奈ちゃんのはこっち(東京出身)の人?」
斎藤は理奈ちゃんのことをいろいろ聞いてる
「ね。寺崎のどこが好き?」
え?
照れながらチラッと隣の僕の顔を見た
「誠実な所とか、色々です(笑)」
誠実という言葉に胸が痛んだ
今の僕は本当に誠実なんだろうか ーー
斎藤と目が合った
斎藤は真顔で僕を見ていた
「そうか(笑) 寺崎は昔から誠実な男だしいい旦那になるから安心していいよ。俺が保証する(笑)」
「ふふっ(笑) そうですね、ありがとうございます(笑)」
「お前も理奈ちゃんに惚れこんでたから結婚するの嬉しいだろう?(笑)」
斎藤は含みのある視線で僕を見た
なん、、だ… ?
「あ、あぁ、もちろん、、」
「でもね、理奈ちゃん… 」
少し前のめりになって理奈ちゃんに話しかけた
「もしもね、こいつのことで辛いことや悩みができたら、いつでも遠慮なくここに連絡して。必ずね。」
理奈ちゃんに自分の名刺を手渡していた
「君の代わりに俺がしっかりと説教してやるから(笑)」
「なっ、なんなんだよ、辛いことって、、 」
動揺した僕を無視して理奈ちゃんから目線を外さない
「あぁ、これは “もしも” の話ね(笑)」
「ふふっ(笑) わかりました(笑)」
理奈ちゃんはすんなりと斎藤と打ち解けている
それが悔しい
僕は普通に話せるようになるまでかなり時間がかっかたんだぞ!
「斎藤さんはプロのカメラマンさんだと聞いてます。そんな雰囲気ですね。ふふっ(笑)」
「そう? あ!じゃあさ、結婚式は俺が撮ろうか?(笑)」
「えっ!良いんですか!? 嬉しい!でも… プロのお仕事されてる方に、なんだか悪いです… 」
「じゃあ決まりね(笑) 理奈ちゃん可愛いから誰が撮っても可愛くなるだろうけど、俺が君の内面の魅力も写真に引き出してあげる。
どんなに美しいモデルより、君が素敵だってことがわかる良い写真をね(笑)」
斎藤は優しく微笑み
理奈ちゃんは照れくさそうにはにかんだ
なっ、なんだなんだ!?
「そうじゃない。」
「じゃあ誰だよ。…え?もしかして、この間の原さんとかじゃないよな?」
返答ができなかった
斎藤は驚いて一瞬言葉に詰まったようだった
「まぁ… 確かにあの子、わかりやすくお前に惚れてたもんな。
で?なんでお前までそんな気になった?何があったんだ。」
「たまたま偶然会ったんだ。二人きりで会ったのはその偶然会った一度だけ。」
「その一度の “偶然” で何があって惚れたんだ?」
彼女が抱き締めてきたこと
僕も自然に抱き締めていたこと
あの時の切ない想いが甦った
「好きになったとかじゃなくて… ただ彼女のいじらしい所が心に残っ、 」
「ダメだ。」
キツい口調で僕の言葉を遮り険しい視線で
僕に指さした
「とにかく、惚れてようがいまいがダメだ。
もうあの子と二度と会うな。連絡も取るな。
そんなんで結婚するなんて俺は絶対に許さない。」
ーー 斎藤
「お前のその想いは一時の幻想だ。わかったな!」
いつもはとても穏やかな斎藤が
初めて見せたその威圧的な表情と口調に驚いた
「わかってるよ、、もう会うつもりはない。」
「そうしないとお前は必ず後悔することになる。」
ーー 後悔
「お前が中途半端な気持ちで理奈ちゃんと結婚しようとしたら許さない。
もしまたあの原さんと会うようなことをしたら俺はお前から理奈ちゃんを奪う。 いいな!」
は!?
奪う!?
「奪うってなんだよ、なんでお前が!」
「俺が理奈ちゃんに惚れたから。」
「 なに…?」
「そう言えばお前は納得するか?」
「するか!ふざけんな! 」
斎藤の険しい表情が少し緩んだ
「 …わかったろ。お前には理奈ちゃんが必要な存在なんだよ。」
「…僕を試したのか?」
なんなんだ、なんで、
ーー 腹が立つ
でも
僕らのことを思ってのことなのはわかってる
無くした後で大切なものだったと気付いても
その時にはもうどうすることもできなくて
それをずっと引きずって生きていかなきゃならないこともある。
そんな後悔がどれだけ辛いか、お前だって経験してんだからよくわかってるだろう。
ちゃんと思い出し、それを胸に刻んでおけ。」
そう言って煙草に火をつけた
「 …そうだな。」
煙草の煙を静かに吐き出した
「だからよそ見なんかすんな。 わかったな。」
確かにそうだ ーー
いつも 理奈ちゃんが僕の傍にいて
微笑んでくれるのが当たり前になっていた
理奈ちゃんが部屋を出て行ったあの時の自分を思い出した
本当に辛くて 食欲もなくなって
夜になると心が押し潰されそうなほど寂しくて
悲しくて
夜になると毎晩必ず
二人で過ごした日々を思い返し
とめどなく涙が溢れた
あんな辛い想いは
もう… したくない
「そうだな。 悪かった… 」
斎藤は優しい表情になった
「お前は、」
日本酒が入ったグラスを持った指で僕を指さした
「ちゃんと、幸せになれ(笑) 寺崎。」
穏やかな表情で 少し微笑んだ
ーーーー
帰り道にある橋で
話に盛り上がっている大学生くらいの三人組が前から歩いてきてすれ違った
自分が大学生の頃を思い返した
あいつと知り合ったのは僕が大学の頃だったな
あいつはあの頃からずっと良い奴だった
お互い家はそこそこで
それなりの仕送りもあったが
欲しい物が結構あった僕は
学校が終わるとバイトをした
そのバイト先にあいつがいた
あの頃からあいつは考え方が冷静ではあったが
今よりもっと明るく朗らかな印象だった
昔から日々のたわいのない話ばかりで
あいつの悩みは聞いたことがない …
僕が悩んでいたらさりげなく
少ない言葉でタイミング良くヒントや的確で納得できる指摘をする
そんな格好良い男だ
そしていつも人のことばかり気遣って
僕はそんなお前の気遣いにも気がつかないまま
今までずっと救われてきたってことに後から気付く
そんな鈍感な僕は人としても負けてる
“お前は、ちゃんと!幸せになれ。寺崎。”
ちゃんと、ってなんだよ
じゃあお前は今 幸せじゃないってことなのか?
斎藤…
一体 なんなんだよ、、、
くそっ、、
あいつの優しい強さが悔しい
なんで涙が出るんだ ーー
ーーーーーーーーーーー
ぼんやりしている理奈ちゃんの顔を撫でた
それにしても疲れた
眠い…
僕がまだ20代ならこんなに疲れないだろう…
まだ朝の10時50分…
時間はあるから
少しだけ ーーー
…………
「 …行さん 」
意識を失うように眠ってしまっていたようで
理奈ちゃんはもう出かける支度ができていた
「起きられる? もう少し寝たい?」
えっ、今何時だ!?
飛び起きて時計を見るともう2時半になっていた
会社の飲み会明けで
今日ドレスを見に行く時間は余裕を持って夕方の4時にしていた
その後、夜はディナーを予約してある
( これは理奈ちゃんに内緒 )
「ギリギリまで寝かせてあげようと思って (笑)
無理なら今日はキャンセルするけど?」
「無理じゃない!直ぐに支度する!」
急いでシャワーを浴びて支度をした
ーーーー
サロンを出るともう外は暗くなっていた
「そろそろ食事をしに行こう。昼飯も食べてないしお腹空いただろう?」
予約していることを内緒にしていた店に入って行く
「え? ここ予約してたの??」
「あぁ。たまにはこういう店でデートも良いだろう?」
肩を抱いて見下ろした
「でも高そう…」
「全然大丈夫(笑)」
「結婚でもして子供が生まれたりなんかしたら贅沢な外食は年イチね!」
理奈ちゃんは本当にしっかり者の倹約家だ
「年イチって、それは少ないだろう? せめて誕生日とか結婚記念日、クリスマスとか、、」
「私がご馳走を作るから~」
「理奈ちゃんのご馳走か(笑) なら… まぁ(笑)」
スマホで撮ってもらったいろんなパターンのドレスを眺める理奈ちゃんの表情はとても幸せそうだった
ドレス姿の理奈ちゃんはとても綺麗だった
「ほら、この(写真の)行さん、ほんっとに素敵でもうモデルさんだよ(笑)
ドレスを見ていたら、あ~ほんとに結婚するんだなぁって実感した(笑)」
“結婚するんだなぁ” か
一瞬 原さんの悲しげな微笑みが浮かんだ
“次 会う時は理奈のご主人さんになってるのかなぁ”
「 …… 」 僕の顔をじっと見た
「 …もしかして今、プロポーズ早まったなとか後悔してたりして?(笑) ははっ 」
「そんなこと思ってないよ(笑)」
「気にし過ぎだね、私(笑)」
一瞬 心を見透かされたのかと思った
プロポーズを早まったとは思っていない
でも…
他の女性を思い出してモヤモヤする今の状態で結婚なんて
いいのだろうかと戸惑う
でも理奈ちゃんに気持ちが冷めたという訳ではない
なのに
僕はどうしてしまったんだろう
店を出てちょっとした時
斎藤から電話が鳴った
『そこで待ってろ。』
それだけを言って電話が切れた
そこで待ってろ??
人が行き交う中から斎藤が小走りで現れた
「あ、斎藤だ。」
「えっ?」
斎藤が少し手を挙げた
「よう!偶然だな。何してんの?」
「食事してきたとこ。斎藤は?」
「俺は仕事終わって飯食っ… て…」
斎藤が僕の後ろにいる理奈ちゃんに気付いた
「は、はじめまして… 」
少し緊張したように理奈ちゃんが挨拶をした
「あ、、」
斎藤は戸惑いながら理奈ちゃんにぎこちなく挨拶をした
「どうも、、初めまして… 」
あの斎藤が 少し動揺の表情を見せた
「彼女の吉野 理奈ちゃん。こっちは斎藤ね。」
斎藤が理奈ちゃんを凝視しているから理奈ちゃんは僕の顔をチラッと見た
「なんでそんなに見るんだよっ 」
「あっ、いや、、すまん、、今から二人でどこ行くんだ?」
「決めてないけど、斎藤は?」
「飯食ったからもう帰るとこだったんだが… 」
斎藤は理奈ちゃんに優しく微笑んだ
「とこかで話さない? やっと(君と)会えたから。」
年期を感じる洒落た喫茶店の扉を斎藤が開いた
その瞬間
珈琲の良い香りが漂った
耳障りの良い落ちついたジャズが流れている
あれは…
レコードか!
レコードの音ってやっぱりいいな…
品の良い白髪のマスターがカウンターの中で珈琲をたてていた
アンティークな家具もセンスが良い
置いている物も全て
あのマスターがこだわってチョイスした物達のように見える
やっぱり斎藤はさすが
良い店 知ってるな …
「良いね、ここ。」
「落ち着くだろ? ここのカツサンドも絶品なんだぞ(笑)」
理奈ちゃんは嬉しそうに斎藤を見つめてる
「理奈ちゃんは何にする?」
斎藤がメニューを差し出した
「あ、私は… 」
今、理奈“ちゃん”って言ったな!?
「 …お前、馴れ馴れしいぞ。」
少しムッとした僕に斎藤が僕に微笑みかけてきた
「可愛いな、ふふっ(笑)」
「何がだっ、、」
「お前じゃない(笑) 理奈ちゃんが(笑)」
だからお前が理奈“ちゃん”って言うな!
全く馴れ馴れしい!
「あ、あの、私は、えーっと、じゃあ、マンデリンで… 」
初対面の男に名前で呼ばれたらそりゃ戸惑うよな
「お、渋いとこ行くね(笑) お前は?」
「じゃあ、モカマタリ。」
「OK。」
三人が珈琲をオーダーして
「理奈ちゃんのはこっち(東京出身)の人?」
斎藤は理奈ちゃんのことをいろいろ聞いてる
「ね。寺崎のどこが好き?」
え?
照れながらチラッと隣の僕の顔を見た
「誠実な所とか、色々です(笑)」
誠実という言葉に胸が痛んだ
今の僕は本当に誠実なんだろうか ーー
斎藤と目が合った
斎藤は真顔で僕を見ていた
「そうか(笑) 寺崎は昔から誠実な男だしいい旦那になるから安心していいよ。俺が保証する(笑)」
「ふふっ(笑) そうですね、ありがとうございます(笑)」
「お前も理奈ちゃんに惚れこんでたから結婚するの嬉しいだろう?(笑)」
斎藤は含みのある視線で僕を見た
なん、、だ… ?
「あ、あぁ、もちろん、、」
「でもね、理奈ちゃん… 」
少し前のめりになって理奈ちゃんに話しかけた
「もしもね、こいつのことで辛いことや悩みができたら、いつでも遠慮なくここに連絡して。必ずね。」
理奈ちゃんに自分の名刺を手渡していた
「君の代わりに俺がしっかりと説教してやるから(笑)」
「なっ、なんなんだよ、辛いことって、、 」
動揺した僕を無視して理奈ちゃんから目線を外さない
「あぁ、これは “もしも” の話ね(笑)」
「ふふっ(笑) わかりました(笑)」
理奈ちゃんはすんなりと斎藤と打ち解けている
それが悔しい
僕は普通に話せるようになるまでかなり時間がかっかたんだぞ!
「斎藤さんはプロのカメラマンさんだと聞いてます。そんな雰囲気ですね。ふふっ(笑)」
「そう? あ!じゃあさ、結婚式は俺が撮ろうか?(笑)」
「えっ!良いんですか!? 嬉しい!でも… プロのお仕事されてる方に、なんだか悪いです… 」
「じゃあ決まりね(笑) 理奈ちゃん可愛いから誰が撮っても可愛くなるだろうけど、俺が君の内面の魅力も写真に引き出してあげる。
どんなに美しいモデルより、君が素敵だってことがわかる良い写真をね(笑)」
斎藤は優しく微笑み
理奈ちゃんは照れくさそうにはにかんだ
なっ、なんだなんだ!?
この雰囲気
僕には絶対に言えないようなクサイセリフをサラッと言いやがって
僕は理奈ちゃんの肩に手を回した
「お前ぇ… ただ 口説いてるようにしか見ないぞ!」
「口説いてるように聞こえた?(笑) お前にしては鋭いな(笑) ははっ!」
はぁ?
「冗談だよ(笑) マジで受けとるな(笑)」
うつむき加減で顔をほころばせている理奈ちゃんにモヤモヤする
「結婚式… 楽しみだな… 」
「そうだね… 」
その時 斎藤が僕をじっと見ていたことに気づかなかった
後日 斎藤から電話があった
『理奈ちゃんが俺の妹にソックリで驚いたよ。』
斎藤の妹って
亡くなった妹さんのことか…
だからあんなに驚いた表情をしたのか
『俺が言いたいことはそこじゃない。お前、理奈ちゃんと本気で結婚する気あるの?』
「え? 当然だろ?」
『その割に浮かない顔してたぞ。
前はあんなに浮かれて結婚の報告をしてきたのに。なんかあっただろ。』
斎藤は昔から人の心の察しが鋭かった
『女か?』
え?
『まさか、他に気になる女でもできたとか。』
「 …いや、そんなこと… でも、、気にかかる人は… 」
『は…?』 声のトーンが下がった
「予定通り結婚はするつもりだ。」
思わずため息が出てしまった
『お前、今日はもう仕事終わったんだろ? 今から飯、行こう。』
ーーーー
斎藤が選んだ店は昔からやってる大衆居酒屋 ーー
混みごみした広い店内は話し声で充満していた
運ばれてきた料理はかなり旨くて
これだけの人が入るわけだなと納得した
「ところで。どんな女だ。」
「…お前も知ってる、」
「大学の頃のやつ?」
僕には絶対に言えないようなクサイセリフをサラッと言いやがって
僕は理奈ちゃんの肩に手を回した
「お前ぇ… ただ 口説いてるようにしか見ないぞ!」
「口説いてるように聞こえた?(笑) お前にしては鋭いな(笑) ははっ!」
はぁ?
「冗談だよ(笑) マジで受けとるな(笑)」
うつむき加減で顔をほころばせている理奈ちゃんにモヤモヤする
「結婚式… 楽しみだな… 」
「そうだね… 」
その時 斎藤が僕をじっと見ていたことに気づかなかった
後日 斎藤から電話があった
『理奈ちゃんが俺の妹にソックリで驚いたよ。』
斎藤の妹って
亡くなった妹さんのことか…
だからあんなに驚いた表情をしたのか
『俺が言いたいことはそこじゃない。お前、理奈ちゃんと本気で結婚する気あるの?』
「え? 当然だろ?」
『その割に浮かない顔してたぞ。
前はあんなに浮かれて結婚の報告をしてきたのに。なんかあっただろ。』
斎藤は昔から人の心の察しが鋭かった
『女か?』
え?
『まさか、他に気になる女でもできたとか。』
「 …いや、そんなこと… でも、、気にかかる人は… 」
『は…?』 声のトーンが下がった
「予定通り結婚はするつもりだ。」
思わずため息が出てしまった
『お前、今日はもう仕事終わったんだろ? 今から飯、行こう。』
ーーーー
斎藤が選んだ店は昔からやってる大衆居酒屋 ーー
混みごみした広い店内は話し声で充満していた
運ばれてきた料理はかなり旨くて
これだけの人が入るわけだなと納得した
「ところで。どんな女だ。」
「…お前も知ってる、」
「大学の頃のやつ?」
「そうじゃない。」
「じゃあ誰だよ。…え?もしかして、この間の原さんとかじゃないよな?」
返答ができなかった
斎藤は驚いて一瞬言葉に詰まったようだった
「まぁ… 確かにあの子、わかりやすくお前に惚れてたもんな。
で?なんでお前までそんな気になった?何があったんだ。」
「たまたま偶然会ったんだ。二人きりで会ったのはその偶然会った一度だけ。」
「その一度の “偶然” で何があって惚れたんだ?」
彼女が抱き締めてきたこと
僕も自然に抱き締めていたこと
あの時の切ない想いが甦った
「好きになったとかじゃなくて… ただ彼女のいじらしい所が心に残っ、 」
「ダメだ。」
キツい口調で僕の言葉を遮り険しい視線で
僕に指さした
「とにかく、惚れてようがいまいがダメだ。
もうあの子と二度と会うな。連絡も取るな。
そんなんで結婚するなんて俺は絶対に許さない。」
ーー 斎藤
「お前のその想いは一時の幻想だ。わかったな!」
いつもはとても穏やかな斎藤が
初めて見せたその威圧的な表情と口調に驚いた
「わかってるよ、、もう会うつもりはない。」
「そうしないとお前は必ず後悔することになる。」
ーー 後悔
「お前が中途半端な気持ちで理奈ちゃんと結婚しようとしたら許さない。
もしまたあの原さんと会うようなことをしたら俺はお前から理奈ちゃんを奪う。 いいな!」
は!?
奪う!?
「奪うってなんだよ、なんでお前が!」
「俺が理奈ちゃんに惚れたから。」
「 なに…?」
「そう言えばお前は納得するか?」
「するか!ふざけんな! 」
斎藤の険しい表情が少し緩んだ
「 …わかったろ。お前には理奈ちゃんが必要な存在なんだよ。」
「…僕を試したのか?」
なんなんだ、なんで、
頭が混乱する
「別に俺は理奈ちゃんに惚れてる訳じゃないから安心しろ。
俺はただお前を信じてるあの子に悲しい想いはさせたくない。 …可哀想だからだ。」
「別に俺は理奈ちゃんに惚れてる訳じゃないから安心しろ。
俺はただお前を信じてるあの子に悲しい想いはさせたくない。 …可哀想だからだ。」
いつも斎藤の言う事は正しい
心を見透かされてしまうのも悔しい
何においても僕は斎藤には勝てない
昔からそうだ
心を見透かされてしまうのも悔しい
何においても僕は斎藤には勝てない
昔からそうだ
ーー 腹が立つ
でも
僕らのことを思ってのことなのはわかってる
でも
やっぱり悔しい ーー
「俺は嬉しかったんだよ。
妹にそっくりで あんな良い子がお前の彼女でさ。
あのさ。
やっぱり悔しい ーー
「俺は嬉しかったんだよ。
妹にそっくりで あんな良い子がお前の彼女でさ。
あのさ。
いつも当たり前にそこに存在するものなんてこの世界には何ひとつ無いんだよ。」
亡くなった妹のことを言っているのか?
「一時の感情だけで選択したことが大きな後悔と心の傷になることがある。
亡くなった妹のことを言っているのか?
「一時の感情だけで選択したことが大きな後悔と心の傷になることがある。
無くした後で大切なものだったと気付いても
その時にはもうどうすることもできなくて
それをずっと引きずって生きていかなきゃならないこともある。
そんな後悔がどれだけ辛いか、お前だって経験してんだからよくわかってるだろう。
ちゃんと思い出し、それを胸に刻んでおけ。」
そう言って煙草に火をつけた
「 …そうだな。」
煙草の煙を静かに吐き出した
「だからよそ見なんかすんな。 わかったな。」
確かにそうだ ーー
いつも 理奈ちゃんが僕の傍にいて
微笑んでくれるのが当たり前になっていた
理奈ちゃんが部屋を出て行ったあの時の自分を思い出した
本当に辛くて 食欲もなくなって
夜になると心が押し潰されそうなほど寂しくて
悲しくて
夜になると毎晩必ず
二人で過ごした日々を思い返し
とめどなく涙が溢れた
あんな辛い想いは
もう… したくない
「そうだな。 悪かった… 」
斎藤は優しい表情になった
「お前は、」
日本酒が入ったグラスを持った指で僕を指さした
「ちゃんと、幸せになれ(笑) 寺崎。」
穏やかな表情で 少し微笑んだ
ーーーー
帰り道にある橋で
話に盛り上がっている大学生くらいの三人組が前から歩いてきてすれ違った
自分が大学生の頃を思い返した
あいつと知り合ったのは僕が大学の頃だったな
あいつはあの頃からずっと良い奴だった
お互い家はそこそこで
それなりの仕送りもあったが
欲しい物が結構あった僕は
学校が終わるとバイトをした
そのバイト先にあいつがいた
あの頃からあいつは考え方が冷静ではあったが
今よりもっと明るく朗らかな印象だった
昔から日々のたわいのない話ばかりで
あいつの悩みは聞いたことがない …
僕が悩んでいたらさりげなく
少ない言葉でタイミング良くヒントや的確で納得できる指摘をする
そんな格好良い男だ
そしていつも人のことばかり気遣って
僕はそんなお前の気遣いにも気がつかないまま
今までずっと救われてきたってことに後から気付く
そんな鈍感な僕は人としても負けてる
“お前は、ちゃんと!幸せになれ。寺崎。”
ちゃんと、ってなんだよ
じゃあお前は今 幸せじゃないってことなのか?
斎藤…
一体 なんなんだよ、、、
くそっ、、
あいつの優しい強さが悔しい
なんで涙が出るんだ ーー
ーーーーーーーーーーー