beautiful world 18
12月に入り予測通り私は多忙極まっていたけれど
ようやく落ち着いた今日は会社の忘年会
「仕事収めまであと2営業日!皆さん頑張りましょう!取りあえず今日はお疲れさまでした!では!カンパーイ!!」
皆で乾杯をした
やっと乗り越えた…
来週は残務処理と会社の大掃除でやっと年末年始の休みに入る
周りのみんなは談笑しながら実家の帰省話をしている
私は逆に陽太さんとの同棲のために家を出ることを両親に話さないといけないと考えていると
正面に座っている葉山さんが話しかけてきた
「お疲れ。」
「お疲れさまでした(笑) 葉山さんはご実家暮らしなんですか?」
「実家は鎌倉。」
「近いですね!ならいつでも帰れますね(笑)」
「…まぁ。正月の年イチしか帰らないけど。」
近いのにそんなに帰らないのは家庭に事情でもあるのかな
でもそこは触れないでおこう…
隣の席の先輩の関さんが
「田中ちゃんは?」と聞いてきた
「ウチは元々実家暮らしなので(笑)」
「違う違う(笑) 今日イブじゃん?この後デートでしょ?」
「え!?ど、どうしてですか!?」
「とぼけちゃってぇ(笑) 彼氏できてるんでしょ~?最近かなり綺麗になっちゃって(笑)」と私の頬を軽くつついた
あ…
チラッと葉山さんを横目で見た
葉山さんは聞こえていないように知らん顔で料理をお皿に取っていた
「あはは… まぁ、そうですね(苦笑)」
「ほらぁやっぱり!だと思ってたんだよねぇ!(笑)」
関さん、ちょっと声が大きすぎますっ
でも周囲の人達は騒がしく雑談していて聞こえていない様子だった
「ねぇねぇ、」
私に耳打ちしてきた
「(まさかだけど相手は葉山じゃないわよね?)」
「違いますっ!」
私も大きな声が出てしまった
「もしかしてそうかもってちょっと思ってた(笑)」
全力否定した私に関さんが笑った
「なんだぁ?なにが違うんだー??」と遠い席から少し酔った課長が聞いてきた
「なんでもないでーす(笑)」
関さんが応えてくれた
「で?で!?どんな彼氏なの?どこで出会ったの?そういう話聞くの私大好きなの♡」
「あ〜、えーっとぉ…」
「おい。田中さん困ってんだろ。もういいじゃん。」
向かいの葉山さんが話を切ろうとした
「何?ヤキモチ?ダッサ!(笑)」
関さんがニヤニヤ顔で返事をした
「はぁ!?ちげぇわっ。」
葉山さんがムッとした表情になった
「ほんっと、あんたってなんでいつもそんなに感じ悪い物言いするの?」
関さんもムッとしてビールを飲み干した
あぁぁっ…
気まずい…!!
「あー… えっと、、関さんビールのお代わり頼みますね(苦笑)」
「田中ちゃんありがと♡あんた(葉山)に田中ちゃんはもったいないからね。」
「は!?」
葉山さんが眉間にシワを寄せた
ちょっとちょっと、ほんとやめてくださいよぉ!
これじゃ本気の喧嘩になっちゃう!
「だってあんたやたら田中ちゃんに当たりキツイじゃん。」
「んなことねぇよっ!」
声を荒げた
ほんともうやめてー!!(泣)
「あっ、あの、ほんとそんなことないですからっ!(苦笑)」
周辺の先輩方が一斉にこっちを向いた
「またあの二人やり合ってんのかぁ?誰だぁ?あそこくっつけたのは!」
「まぁまぁ(笑)」
関さんの隣の先輩がなだめに入ってくれた
なに!?
こんな小競り合い、頻繁にあることなの!?
嘘でしょ…
そういや二人が会話してるとこ見たことない…
―――
忘年会も終わり
店を出ても二人は何やらブツブツと言い合っていた
あの二人があんなに仲が悪いなんて知らなかった…
まさかあんな言い合いになるなんて思いもしなかった
私一人っ子だから喧嘩とかしたことない見慣れてないし
恐いよ、ほんと…
あぁ 疲れた…
「はぁ~」
他のみんなは気にする様子もなく駅まで談笑しながら歩いている
そろそろ陽太さんに忘年会が終わった報告の連絡をしなくちゃ
私はスマホを取り出した時
誰かが私の肩をポン触れた
振り返ると
「えっ!!陽… 」
「シッ!(笑)」
陽太さんだった
腕を引かれ細い横路に入っていった
他のみんなは私に気づかず
そのまま駅まで歩いていった
「え?えっ!?なんで...」
陽太さんは早足で歩きながら振り返り
突然消えた私を誰かが気づき探しに来ていないことを確認し足を止めた
「迎えに行くからって言っただろう?店の場所も聞いてたし(笑)」
「でも、ここは遠いから来なくていいって、、」
「今日は特別な日だからね(笑)」
今夜は二人で迎える初めてのクリスマスイブ
「ずっとこの寒い中待っててくれてたの?」
「寒かったけど今はこうして奈生がいるから温かい(笑)」
私の手を握った
そういう彼の手は凄く冷たく冷えきっていた
一体いつから待ってたの?
「もう、嘘つきですね!こんなに冷たくなってるじゃないですか(苦笑)」
「そんなことはないぞ?心はメチャクチャ温かいんだ(笑)」
満面の笑みで私に笑いかけた
ーー キュンとした…
背伸びして陽太さんにキスをしたら
眉尻を下げて彼は嬉しそうに微笑んだ
「わっ(笑) 早速奈生からクリスマスプレゼントをもらってしまった!(笑)」
「違いますよぉ〜プレゼントはちゃんと別にありますからね?(笑)」
「ほんとに?今のがプレゼントだろう?」
と微笑んでまた手を繋いで歩きだした
「そんな訳ないですよ(笑)」
「じゃあまだ他にもあるの!?今年はのクリスマスはなんて贅沢なんだろう!(笑)」
大袈裟に言いながら嬉しそうに笑った
「こうして奈生とクリスマスを過ごせるだけでも贅沢なのに(笑)」
気づくと彼の手は本当に温かくなっていた…
ーーー
駅にはもう社員の姿は見えない
お泊まりの準備物が入ったバッグを駅のコインロッカーから出すと
陽太さんが当たり前のように自然に持ってくれた
そして一緒に電車に乗り彼の家に向かった
電車を降りといつものように手を離そうとしたら私の手を強く握った
「もう離さなくていいんだ。」
心がふと軽くなった…
ーーー
彼の部屋に到着して荷物を置いた
「ケーキ買ってるよ(笑) 寒いけどほんとに行く?」
「行く(笑)」
ケーキを持って展望所に登った
風が無くて良かったねと言いながら彼はロウソクに火をつけた
プリンを買ったら付けてくれるプラスチックの小さなスプーンを取り出した。
「ごめん、これしか持ってきてないんだ(苦笑)」
彼は困った顔をして苦笑いした
「あはは(笑) 良いですよ♡」
「んじゃあ、メリークリスマス(笑)」
お互い笑いながら一口分 ケーキをすくって口に入れた
恋人と過ごすクリスマスは初めて
むちゃくちゃ寒いけれど心は温かくて
とても幸せを感じる…
「あ!忘れる所だった(笑)」
彼はリュックからカメラを取り出した
「記念 記念(笑)」
彼は私にレンズを向け
幾つか写真を撮ってくれた
私もカメラを借りて陽太さんを写真に納めた
今夜は星が見えないねと言う私に
陽太さんは星は奈生の瞳の中にあると微笑んだ
時々ロマンチックなことを言うから照れる…
そしてまたリュックをゴソゴソを覗いて
中から赤いリボンがついた大きな袋を取り出した
「これ、クリスマスプレゼント(笑)」
「わ…ありがとうございます...見ても良いですか?」
「ん(笑)」
淡く優しいピンクベージュのストールが入っていた
柔らかい… これカシミアだ!
「嬉しい…ありがとうございます…」
「なんだか奈生みたいに優しくて柔らかくて温かいから…選んだ(笑)」
うっ…
恥ずかしくなる
あっ、私も…
「あの…私も陽太さんに…」
私はマフラーをプレゼントした
実は手編み
手編みだということは言わないつもり…
「もしかしてこれ編んでくれたの?」
「えっ!」
なんでわかっちゃったの!?
市販の物と遜色ないレベルで編めたと思ってたのに!
「以前、“準備してる”って言ってたからもしかしてそうかなって(笑)」
うわぁ~っ!
手編みなんてすっごく重い女だって思われる!
でも編み物は昔からそれなりに得意だったから
私が編んだ物を使って欲しいと思ってたけど…
「奈生?」
「私のは手編みで…すみません…」
「どうして?手編みを貰ったの初めてで凄く嬉しいよ(笑) ありがとう…」
「…手編みの物なんて重くない?」
「どうして?(笑)奈生が僕のために編んでくれたのが嬉しくないはずないだろう?ずっと大切にするから。」
陽太さんは柔らかい手触りが好きなのを知っていたから実は私もカシミヤの毛糸で編んだものだった
深みのあるエメラルドグリーンのマフラー
きっと陽太さんに似合うと思ってた
「早速着けてみる(笑)」
嬉しそうに首に巻いた
「柔らかいなぁ…(笑)」
嬉しそうに微笑んだ
やっぱり柔らかい肌触りの物、好きなんだ(笑)
「私も早速ストール使わせてもらいます(笑)ふふっ(笑)」
「似合ってる。良かった(笑)」
「陽太さんも(笑) ふふっ♡」
「ははっ(笑)」
なんて幸せなクリスマスイブなんだろう…
――――――――――