気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

たしかなこと 2 (8)

2020-05-17 09:43:00 | ストーリー
たしかなこと 2 (8)






よく見ると髭も剃ってなくて 耳の横や後ろの髪がはねてる


いつも身なりはきちんとしている彼のこんな姿…

初めて見た


それだけ慌てて家を飛び出してきたことがわかった



「僕と弟は子供の頃からとてもよく似ていたんです。年子だから年齢もそう変わらないから双子のようだと言われることもあった。」



紘隆さんの話を話し始めた彼が
何故だか少し小さく見える…


宣隆さんと弟の紘隆さんは幼い頃は仲の良い兄弟だったようだけど

二人が社会人になってお母さんが病で患い

その頃から徐々に不仲になったという


お母さん子だった弟の紘隆さんは毎日お母さんの見舞いに病院に通っていたけれど

宣隆さんはその頃は仕事に追われる毎日でお母さんのお見舞いで顔を出すのも月イチがやっとの程度だったと話してくれた


「でも… 忙しいなんてそんなのただの言い訳だったんですよ。本当はいつだって会いに行けたんです。ただ僕が辛くて… 行けなかったんです。」


子供の頃から兄として厳しく育てられていた宣隆さんは お母さんに甘えることができないまま大人になり

そんな宣隆さんは大人になってもお母さんとのコミュニケーションが上手く取れなくて

会う度に弱っていくお母さんの姿を見るのも辛く でもその気持ちを誰にも伝えることができなくて

宣隆さんは病院へのお見舞いも次第に行けなくなってしまった


そして
お母さんが亡くなって
紘隆さんと音信不通になった…



「僕は自分のことしか考えていなかったんです。母の本心は僕に会いたがっていたようなのに、母は僕が元気にしてるならいいと少し寂しそうに笑っていたそうです。」


「そうなんですか… 」


「もう随分と昔の話なんですけどね。紘隆は母の想いを知っているので僕を許せないのかもしれません。」


「紘隆さんとまた会えるとしたらどうしますか?」


「…どうかな。話ができれば… いいんですけどね。もう連絡が取れなくなってしまってるんです。今は家族とどこでどう過ごしているのか…」




ふとグレンさんと紘隆さんが親しげに話していたことを思い出した

もしかしたらグレンさんなら紘隆さんと連絡が取れるかもしれない


「宣隆さん。今夜、食事に行きましょ。」





ーーー




香さんの店から一端帰宅し

ふと視界に入った鏡越しの自分の姿に驚いて苦笑いした

寝癖を直し髭もきちんと剃ってスポーツジムに向かった


毎日 少しの時間でもジムには通うようにしている
ジムで勧められたプロテインも飲んで

筋力も体力も少しずつついてきた

ランニングで持久力もつけるようにしている

若い彼女と一緒にいて少しでも違和感が無いよう見た目も若々しくなれれば…


帰宅して部屋の掃除をし
夜のデートのために準備をしながら紘隆の事を思い出していた




ーーー




待ち合わせた駅前のコンビニ前に着いたら香さんも走ってきて僕の腕に腕を絡ませた

香さんの方からこんな風に腕を絡ませてくれることが珍しくて僕は内心浮かれていた



「どうしたんですか?珍しいですね(笑)」

「宣隆さん、大好きです(笑)」


…香さん


「唐突ですね(照) 僕もです(笑)」


微笑むと彼女は照れ笑いした

本当に可愛い人だ…



「何のお店に行くんですか?」

「イタリアンのお店です!」


イタリアン…って



「紘隆を見かけた店…ですか?」


「そうです。紘隆さんの情報が少しは得られると思います。」


…… 気にかけてくれていたのか

「ありがとう…」




ーーー



店に入ると外国人オーナーのグレンさんが話しかけてきた

グレンさんは紘隆かと思った!と驚いた


紘隆との関係を説明するとグレンさんは紘隆の情報を教えてくれた


紘隆とグレンさんはカメラの趣味仲間のようでインスタもやっているようだった

グレンさんから聞いた紘隆のハンドルネームで検索をかけると紘隆らしき人物のアカウントが見つかりグレンさんに確認してもらうとそれが紘隆だと教えてくれた




「良かったですね(笑) 紘隆さんと会えると良いですね(笑)」


「ええ(笑) …香さん、ありがとう。もう寒いですね。 そうだ。香さん、ちょっと寄り道しませんか?」



目黒川沿いの紅葉が進んだ紅葉を見ながら歩いた
赤い紅葉の葉が時々 はらはらと落ちている



「美しい景色は貴女と一緒に見たいんです。」


「美味しい物を食べる時も宣隆さんと一緒がいいです。ふふっ(笑)」


僕に微笑みかけた


「さっきの店で紘隆さんと目が合った時、私のことを知らないから当然なんですけど、冷たく感じたんですよね(笑) 私は宣隆さんだと思ったから、その他人を見るその目が… 寂しく感じたんですよ(笑) そもそも紘隆さんと宣隆さんを間違えるなんて私も酷いですよね(笑) ははっ(笑)」


「んー。じゃあ僕も知らない人にはそう思われるという事ですね。気をつけないといけないな(笑)」


「え? “白川部長” は前から近寄りがたい人ですよ?」


「そういう空気を出しているつもりはないのですが(苦笑)」


「なんとなく恐いみたいです(笑)」


「人前で怒ったことなんてないんですけどねぇ(笑)」


「人がいない時は怒ることもあるんですか?」


「イライラすることはありますよ(笑)そういう時は人が離れていきます。あぁ、それはすれ違う見知らぬ人にも自然に避けられるんですよ(笑)

感情は人の意識に自然と伝わるものなんですね。僕の場合は特に伝わりやすいのかもしれない。だから気をつけています。貴女の前では特に(笑)」


「イライラって… 宣隆さんが? え~?想像つかないなぁ(笑)」


「貴女に避けられたら僕の精神的なダメージは相当なものです。だから気をつけてるんです。ふふっ(笑)」


「そうなんですか?」

照れくさそうな表情をした





周囲に人がいないか然り気無く確かめ
香さんを抱き締めると

「温かい… 」と香さんは小さく呟いた


「早く貴女と一緒に暮らしたい。毎朝顔が見たい。毎晩こうして抱き締めたい。」


「宣隆さんはずっと変わらず私に優しくしてくれますね。戸惑うくらい(笑)」


戸惑う?

「香さんだからです(笑) これからも大切にします。」

「あ、甘える宣隆さんもまた見たいです(笑)」


「…甘えて欲しい?」


「はい!是非!可愛いので(笑)」


「可愛い!?」


「はい!可愛いですよ?帰らないでって、ふふっ(笑)」


ほんと、、恥ずかしい、、
顔から火が出そうだ


「…もう、ほんと、、勘弁してください(苦笑)」


「嬉しかったんです。私には素直な気持ちを出してくれたのが(笑)」



自分は甘え下手だと思っていたけれど香さんには素直に甘えられるのかもしれない


「…わがまま言っていいですか?」


「わがまま??」


「結婚前ですけど… 貴女が良ければ一緒に暮らしたい。ずっと思っていました。もちろん、貴女が良ければ… ですけど…」


「それ、わがままじゃないですよ(笑) もちろん良いです!」


えっ…


「本当に?ありがとう(笑) なら貴女のお店の近くで探しましょう!」


「宣隆さんが通勤しやすい場所にしましょ?私の方が仕事に出かける時間が遅いですし(笑)」


「いいえ!もし妊娠した時のことを考えると、」


「え?」


「あ… 香さんは子供… 欲しくないですか?」


「欲しいなんて…言ってもいいんですか?」


戸惑いながらも嬉しそうに瞳を潤ませた

欲しいのに自分からは言えなかった、という事?


「もちろんです(笑) 僕、こんな歳ですけど(笑)」


前から考えていた
経済的なことも含めて

香さんと僕の子供が欲しい


「…ありがとうございます。嬉しいです…(笑)」


嬉しそうな表情でポロポロと涙が溢れ流れた

今までなんでも思ったことを素直に口にする人だと思い込んでいた

僕の年齢を考えて遠慮していたのか...


「もっと僕に甘えてください(笑) 欲しいなら欲しいと言ってください。これは僕からのお願いです。」







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