beautiful world 11
「… 是非、お願いします… 」
彼女のその柔らかな微笑み
あぁ そっか…
一週間ずっと頭の中で考えてたけど
ふと感覚的に答えは落ちてきた
なんだ… そっか
僕はこの人に惹かれてるんだ
「先生…?」
君には他に好きな男がいるってことは感覚的にわかった
でもそれは僕のこの気持ちとは関係ない
「君に惹かれてるみたいだ(笑)」
彼女は驚きと戸惑いの表情に変わっていく
「…どうして私を」
「君が輝いて見えたから。鎌倉に行った日から気付くと君の事ばかり思い出してた…(笑)」
田中さんの瞳が次第に潤んで
瞬きするたびに涙がポロポロと落ちた
どうして泣いてしまったのかわからず戸惑った
「ご、ごめんね!?驚かせた?」
「いえ、すみません、嬉しくて...(笑)」
ーー“嬉しくて”
それって
僕のこと好意的に思ってくれてたって、都合のいい解釈していいのか?
「経った三度しか会ってないし、君のことほとんど知らないのにこんなに気になるのってなんでだろうって。でもわかったんだ。」
この頬を伝う涙も美しく綺麗だと思うよ…
「君のことが好きだって…」
僕は人生で初めて
好きな女性に“好きだ”と告白した
もしかしたらもう
田中さんは僕と会ってくれなくなるかもしれない
でも
気持ちは伝えたい時に伝えないとダメだと思ったから
田中さんはどう思ってる...?
迷惑...だろうか
ーーほんの少しの沈黙が
凄く長く感じた
「私は… 初めて先生を見た時からずっと好き、でした…」
ーーえっ
君の好きな奴がいると思ってた
それが僕だったってこと?
そうか
腑に落ちた
僕に付き合っている人はいるのかと聞いてきたことも
好きなタイプは僕に似てるとも言ったことも
そうだったのか
頬の涙を拭うと
彼女は照れながら絞り出すように呟いた
「本当に… 大好きなんです…」
―― 胸がキュンとした
胸がバクバク音を立てている
何年ぶりだろう
これは本物の
“恋”だ…
夕日に朱く染まっていた部屋が
次第に薄暗くなっていき
彼女の表情が見えづらくなくなってきた
君を抱きしめたい…
「先生、あ、あの、そろそろ暗くなってきましたし、晩飯作りますね(笑)」
「あっ、僕も、手伝うよ(笑)」
きっと今 君も僕と同じように
ドキドキしているんだろう
僕もきっと君も
凄く不器用で
こういう雰囲気に慣れてなくて
だからなんとなくこの空気が照れくさくて気まずく感じてる
部屋の電気を点けると
彼女は冷蔵庫を開いて食材を取り出した
僕も手伝うからと言っても彼女は座って待っててと微笑んだ
まだ鼻の頭が赤くて
可愛い...(笑)
「でもお客さんにそんなことさせられないよ。」
「私が作りたいんです。ふふふっ(笑)」
彼女に笑顔で促され
料理を任せることになった
女性がキッチンに立つ後ろ姿って良い…
背は165くらいだろうか
少しぽっちゃりしたその後ろ姿
やっぱり
抱きしめたかった…
今 僕は君が好きで
君も同じ想いだとわかったことがわかって
凄く嬉しい…
世の中の大勢の男と女がいる中で
自分が好きな人が同じ想いで好きになってくれている
きっとこれは奇跡が起きたんだと思った
だから今は
この嬉しい気持ちを感じていたい…
「先生、お皿何でも使っていいですか?」
「あっ、えっ?いいよ(笑)」
彼女の料理はもう出来上がっていた
そんなに時間経った...?
時計を見ると7時を回っていた
もう30分も経っていた
「簡単な物ばっかりですけど。」
「どこが(笑)30分でこんなに作れることに驚いたよ(笑)」
ポトフにアスパラの肉巻き、甘辛ひき肉野菜にが玉子の上に乗ってる
「旨そ(笑) では、遠慮なくいただきます(笑)」
日頃から作ってる手早さだったし料理上手くないなんてあれは謙遜だったんだ
「次はもっと勉強してきますから、、」
照れくさいのか
目を合わせてくれない
「充分だよ、ほんとに(笑)」
“次は”
その言葉も嬉しい…
「あ、田中さんビール飲む?」
「いえ、弱いので飲むと帰れなくなります(苦笑)」
“帰れなくなります”
「…僕が帰したくないって言ったら…帰らない?」
みるみる顔が赤くなりフリーズした
「あっ、ごめん(苦笑)変な下心とかじゃなくて、その...写真もまだ全然見てないだろうと思ったからで、ほんと… それ…だけで、、」
思わず言い訳がましく言ったけれど
本音は抱きしめたい
キスもしたい
そしたらきっと
それ以上のことも…
彼女は真っ赤な顔でぎこちなくご飯を口に運んだ
こんなに純粋に素直な反応をする君をちゃんと大切にしないといけないと思った
「そ、そう、ですね、写真、まだ殆ど見せてもらってないから、食後見せてもらいます(笑)」
「ん(笑)」
それから一緒に写真を見ながら撮影した当時のエピソードを話す僕に彼女は笑顔で聞いてくれた
そしてまた一緒に撮影に行こうと約束をした
楽しい分だけ時間が経つのは早くて
時計はもう9時を回っていた
そろそろ家に帰してあげないと…
僕はもっと一緒にいたい気持ちを抑え駅まで送り届けることにした
夜の空気は冷たくて
もう秋を感じさせていた
「寒くない?」
「大丈夫です(笑)」
彼女の口数が少ない
僕らはお互いを意識してる…
ーーここは男のけじめとしてちゃんと言おう
「10分でいい。少し寄り道しても構わない?」
「え?」
途中狭い石段を登ると
小さい展望所があって
そこは昼間は散歩をする年配の人がベンチに座っていたりと見晴らしの良い場所
「こんな場所があるんですね!下の道からは全然見えなかった(笑)」
石段を登ったからか彼女の柔らかそうな頬が赤く染まっていた
まるで子供の頬みたいだ(笑)
「田中さん。」
「はい?」
「僕と、付き合ってもらえませんか?」
彼女からの返事を待つほんの数秒がとても長く感じた
「はい… 嬉しいです…(笑)」
彼女の潤んだ瞳に街灯の光が映りこみ
まるで星が輝いているように見えた
柔らかな彼女の頬に触れると
彼女は何度か瞬きをした
ほんとに君は綺麗だ…
優しく僕の腕の中に入れた
「…嬉しい」
彼女は静かに泣き出した
嬉しくてと微笑んだ
僕への想いが溢れているのを肌で感じる
そんな彼女が堪らなく愛おしくて
彼女の唇にキスをした――
―――
駅までの道
彼女の手を握って歩く
本当はもっと一緒にいたい
照れて口数が少ない彼女が可愛い
「田中さんの料理旨かったなぁ~(笑)今度は僕が作るよ(笑)田中さんほど上手くないけど(笑)」
そんな楽しかった今日の話をしながら…
「またメールします。あの、電話とかしてもいいですか?」
「もちろんだよ!僕もする(笑)」
彼女が改札に入り見えなくなるまで名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら僕に笑顔で手を振った
ーーそして楽しい時間はあっという間に終わってしまった
さっき彼女と一緒に歩いた道を一人歩きながら
今別れたばかりなのにもう寂しい気持ちになっていた
こんなにも僕は田中さんが好きだったんだってことを
身に染みて実感していた
こんな恋しさも嬉しい…
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