不衛生入院患者じゃけん

　眼ちうのはカラダの露出した部位でも、とくにデリケートな組織じゃけん。

ほぼほぼ神経がむき出しになっとるような場所で、刺激に弱いけん。

眼圧検査は眼に空気を当てるんじゃが、ダメとわかっていながらまぶたを閉じてしまうけん。

そして、異物侵入の防御が脆弱じゃけん……。

手術の後の禁止事項がいろいろあるんじゃが、フロはおろか洗髪や洗顔も止められとるけん。

水を浴びるコトで、雑菌の侵入するリスクが高まるからじゃ。



手術からふつか間はシャワーも禁止。

みっか目から浴びれるのも、首から下だけじゃけん……。

不衛生ちうより、不快感が大きいのう。

ちなみにフロや洗髪洗顔ができるんは、１週間後。

入院ちうだって新陳代謝するけん、コレはなんとか対策せんとのう。



カラダ拭きシートと水のいらないシャンプーを買うたけん。

コレがわしのフロじゃ。

んまーキモチいいとはいえんのじゃが、コレが精一杯じゃけん。

朝晩、着替える時にひとっプロ浴びますけん〜……。



頼めば看護師さんにシャワーしてもらえるそうじゃが、いらん想像してしまうけん。

ピンぼけステレオカメラじゃけん

　眼の手術を終えた時の、マンガっぽい表現あるじゃろ。

包帯取ったら眩しくて見えんいうの。

アレ、案外当たっとるんじゃね。

もっともわしの場合、検査のために瞳孔を開かせとったワケなんじゃがな。

じゃけん見えるのは、ぼ〜んやりした光と影じゃ。

モノの形や色はかろうじて見えるんじゃが、はっきりとはいかんけん。

じゃがコレで、なんとか視界があるコトはわかって少し安心したけん……。



入院ちうは回復度を観察しようとベッドで自撮りしとったけん。

コレで見ると、アイパッチをとった直後は目もしっかり開けられんかったようじゃ。

その後は充血して真っ赤な眼をしとったんじゃが、少しずつ見えてはきとるけん。

まーそれでも、ぼんやりとじゃな。

なにせ目玉の中にガスが充填されとるけん、像が歪んで見えるのじゃ。

トコロが、コレが凸レンズの効果をもたらして極端にピントのあう距離があるけん。

いまのトコロ目の前の数センチで、マクロレンズで撮影したような視野になっとる。

驚くほどクリアで、見とる自分でもびっくりするけん。

んじゃが、左右の被写界深度が違いすぎてのう……、



エッチな画像見てもカンジンなトコロがよう見えん〜……。

プロテクトするけん

　指抜きの手袋とアイパッチ、中二病の必須アイテムじゃな！。

とくにアイパッチは眼に封印されとる邪悪な力のためにないといかんもんじゃけん。

手術の後にわしも封印されたんじゃが、翌日の検診で外されてしもた。

んじゃが大丈夫。

事前に買うたゴーグルがあるけん！。

いまどきの眼の手術じゃあ、あんまり眼帯とかアイパッチとか使わんのじゃね。

一見、花粉メガネみたいな見た目じゃが、コレは保護用。

頑丈に作ってあるけん。

コレを２４時間、装着せんといかんけん。



じゃけんストラップがついとる。

コレなら寝とる間もずれたり外れたりせんけん。

このまま激しい運動だってできそうじゃが、いまは絶対安静ちう……。

スマホ見るのにメガネをかけるんじゃが、外すのはその時くらいじゃ。

寝る時もつけとるんじゃが、いまはうつぶせで寝んといかん。

マクラに押しつけられると顔にぐいぐい食い込んで痛いけん。

それでも外せんのは、このゴーグルが物理的な衝撃から眼を守るだけじゃないからじゃ。

手術の痕から雑菌が入って感染症を起こすとやっかいじゃけん。

じゃけん、退院してからも外出時に装着せんといかんけん。

そこで、フツーのメガネに見えるツルもついとるけん。



普段使いができますけん。

快適入院ライフじゃけん

　長く生きてきて、これほど睡眠を苦痛に感じたコトはなかったけん。

うつぶせで寝るというだけのハナシなんじゃが、思うた以上にしんどいけん。

専用のクッションも用意してもろとるんじゃが、それでも胸が圧迫されて息苦しいけん。

うつぶせ寝なんてフダンやっとるコトなのに、寝返りできんプレッシャーにストレスたまるんじゃ。

それに長時間やっとると、首や肩の負担が想像以上に大きいのに気づくけん。

ひどい肩コリで頭痛がするけん。

追い打ちをかけるんが、眼の保護じゃ。

後述するんじゃがアイパッチは一晩で外して、その後はゴーグルをつけるけん。

硬いゴーグルが顔に食い込んで、寝るに寝れんけん……。

はっきりいうて、起きとる方がラクじゃあ〜！。



それで、起きて音楽を聴くコトにしたけん……。

一応病室にはテレビもあるんじゃが、どのみち半分しか見えんしのう。

ネットやるにもWi-Fi入っとらけん、最小限メールやLINEやる程度じゃ。

文庫本やマンガ持ってきても、まず長時間メガネがかけられんけん。

コレでスマホに音楽入れとらんかったら、タイクツをしのぐすべがないけん。

サンポでもいければ気も紛れるんじゃがのう。

１週間は絶対安静、ましてコロナ禍で出歩くのもままならんけん……。

そんな環境なのに、フシギと居心地は悪くないのう。

原因は分かっとる、アレじゃ。



看護師さんたちナゼか若くて美人が多いけん！。

いい病棟に入れてもろた〜。

下を向いて歩くけん

　きのうの写真でもわかるとおり、真っ白に燃え尽きたけん……。

んでも、がっくり肩を落としとるのは疲労困憊でもストレスのためでもないけん。

わしの右眼には、網膜を貼りつけるためにガスが注にうされとるのじゃ。

コレが抜けてしまうと、網膜がまた剥がれてしまうけん。

そのために下を向いたまま手術台を降りて、車椅子で病室まで戻らんといかんのじゃ。

まるで犯罪者のようにうつむいとるんじゃが、コレも治療じゃけん。

んで、いつまでうつむくかっちうと……、

網膜がくっつくまでじゃ。

１週間かひとつきか、状況次第じゃけん。

それも２４時間、寝る時もうつ伏せで寝んといかん。

こりゃ手術以上にしんどいけん。



ねんがらねんぢうおじぎしとるワケで、肩が凝るけん。

礼儀正しく見えるかと思うたんじゃが、上目使いになるけんカンジ悪いぞ。

いいコトなしじゃ。

この手術を受けた約1割が再手術をしとるらしいけん。

たぶん、うっかり上を向いてしもたんじゃろ。

なにせ寝返りだってできんのじゃ……。

あんな手術は二度とやりとうないけん。



いや、悪いコトばかりじゃないかも……。

サイケデリックトランスじゃけん

　車椅子で運び込まれたんは、ドラマでよく見る手術室じゃ。

すでに待機しとる執刀医は、若い女医さんじゃけん。

じゃが、いまのわしは極度の緊張状態……。

手術内容は簡単に説明受けとるけど、ほとんどアタマに入っとらんけん。

キチンと説明するとかなりグロいんで、割愛するけん。

まーこんなカンジであっとると思う。



まず目玉を取り出して……、



網膜を貼りつけたら、



また目玉を戻す、それだけじゃ。

たぶんな！。

手術中は強いライトを当てられて、なにが起きとるかわからんけん。

じゃが、なにも見えとらんワケじゃあないけん。

それは、意外なほどよう見えるんじゃ。

黒く小さな粒子が渦を巻いて流れ込んでいく様子とかな。

そして鮮やかなグリーンの光に、毛細血管のシルエットがハッキリ浮かび上がるのじゃ。

そこに突っ込まれた器具の黒い影が、赤いレーザーを放つけん。

CGアニメを見とるような鮮やかさは、むしろサイケデリックじゃ。

じゃが〜……、

猛烈に痛いけん！。

このまま失神してしまえば、どれだけラクじゃろか。

んでも痛みでサイケな光のショーに引き戻されてしまうけん。

「黄斑部の近くまで割けとるのう」

執刀医の声が聞こえて、重症といわれた意味をやっと理解できたけん。

コレをもう何時間も続けとる気がしたんじゃが、実際は１時間もかかっとらんかった……。

手術台を降りる時は、完全にノックアウトされとったけん……。

覚悟を決めるけん

　医療センターで診察した後、一度家に帰るコトになったけん。

手術がたて込んで、翌じつに繰り越されたのじゃ。

入院の準備をする余裕ができたんじゃが、かえってキモチの整理が必要になったけん。

持ち物のリストに、臓器提供意思表示カードがあったけん。

手術で死ぬコトはほぼないんじゃが、可能性はゼロじゃないってコトなんか。

同意書の内容は、大学病院らしうデータを教育や研究に使うちうコト、

それと、失敗しても文句いわんちう誓約じゃ。

万一失敗して、視力を失うてしもうたら……、



盲導犬を飼うコトにするけん！。

そして迎えた手術の朝。

南大沢は雪混じりの雨、高尾山は真っ白じゃけん。

４がつ１にち、きょう網膜剥離の手術をするいうてもダレも信じてくれんけん。

なにしろこのひのブログの記事がコレじゃけん。

とにかく、もう後戻りできんのじゃ。

手術は７にん目、午後２時に決まったんで先に入院して、昼食も済ませたけん。

それから手術着に着替えて待機。

不意に老先生のコトバを思い出したけん。

「ムカシほど痛くない」

裏を返せば、いまでもそれなりに痛いいうコトじゃ……。

コレから受けるんは、眼の手術じゃけん。

局部麻酔で意識があるのに、その施術を文字どおり目の当たりにするワケじゃ。

……、



ワイフさまに預かったレスキューレメディを何度も手に塗り込んだけん。

それでも血圧が１６０を超えるほどに、緊張が高まったけん……。

オッドアイじゃけん

　３がつ３１にちといえば年度末で、どうしてもクルマが混みあうけん。

まして１６号と甲州街道が交差する八王子駅の周りで渋滞は避けられんけん。

それを避けるのにタクシーはずいぶんとマニアックな裏道を疾走しとる。

わしはといえば、まだなにが起きたか理解できんでおったんじゃが……。

高齢の眼科医がいうとったコトバが気にかかっとったけん。

ムカシほど痛くないけん……。

逆に不安を誘うのう。

それと、ランニングやジョギングは絶対ダメ〜。

この先、運動はできんちうコトなんじゃろか？。

とにかく高尾の手前、大きな大学病院で降ろされたけん。

検査のために薬を使うて瞳孔を開くけん。

同行したワイフさまが、それを見て左右の瞳の色が違うというたけん。



オッドアイじゃ、中二病のあこがれのオッドアイじゃけん！。

ただ右眼だけ瞳孔が広がっとるだけじゃが、傍目にはそう見えるんじゃのう。

コレで未来が見えたり、邪悪ななにかを封印しとるんならいいんじゃがのう……。

現実には露出オーバーで、片目だけじゃあようものが見えんのじゃ。



オーバーレイじゃね。

はがれとるけん

　網膜剥離ちうたら、プロボクサーが引退する原因ちうイメージじゃ。

アタマをぼかすか殴られるうちに、剥がれていくもんだと認識しとる。

わしもそそっかしいんで、ときどきアタマをぶつけるコトもあるんじゃが……。

ただ、コレといった衝撃を受けた記憶はないけん。

深夜にやっとるヒーロー稼業で受けた衝撃じゃろか？。

まーとにかく分からんが、網膜剥離じゃけん。

そうと聞かされれば、これまで起きたコトの説明がつくけん。

最初に見えたダークマターは、網膜の裂目から出てきた組織じゃろう。

影のように欠けた部分は剥がれた網膜で、それが光を受けて赤や青に見えたんか。

そして、乱反射でフシギな光が見えたワケじゃな。



網膜いうのは、カメラのCCDに相当する部分。

膜いうくらいじゃけん、ムカシのフィルムカメラの方がイメージしやすいのじゃ。

レンズの仕組みを理解するといいんじゃが、わしらの眼はジツは反転した画像を見とるけん。

コレを脳内で変換しとるそうじゃ。

まるで脳内Photoshopじゃけん。

それで考えると、剥がれとるのは右眼の上の方か……。

コレが重力で垂れ下がってきとるワケで、ほっとけば広がっていくのは間違いないけん。

受像部である黄斑部まで剥がれてしまうと、視力を失うコトになるのじゃ。

治さんといかんいうのは分かるけん。

ただ、突然のコトすぎて、情報がうまく整理できんのう……。

中二病のゲンジツじゃけん

　光や色が見えるのは楽しいけん。

まー視野が欠けとるのはモンダイあると分かっとるんじゃが。

フツーに見えとるし運転にも支障ないし、深夜アニメも観とるけん。

そんな時に受けた健康診断……。

右眼の視力が悪いのは前からじゃが、その落ち方が尋常じゃないけん。

疲れ目くらいじゃあ説明できんけん。

ヘタすると、緑内障なんてコトもあるじゃろか？。

一応、眼科で診てもらうコトにしたけん。



緑内障となれば、完治はできんと聞いとるけん。

とはいえ、トシをとればダレにでもあり得る病気とも聞いとるけん。

コレからは目薬を欠かさんと、悪化させんようにつき合うていかんとな。

そーこー考えとるうちに、先生が検査結果を伝えにきたけん。

「いますぐ手術の手配をしますけん」

はぁ？。

「網膜剥離じゃのう、重症ですけん」

……、

最新機材を入れた評判のいい眼科じゃが、町医者で対応できる手術じゃないそうじゃ。

大学病院の医療センターまでタクシーまで手配してくれたけん。

わしはといえば、いまだになにが起きたかよう理解できんかったけん。